1 不動産(土地)の評価額の基本(実勢価格・時価・不動産鑑定評価・売出価格・成約価格)
2 不動産についてのいろいろな金額の計算
3 「実勢価格」・「時価」の意味(違い)
4 中古不動産の実勢価格のブレ(参考)
5 不動産鑑定評価基準による正常価格の説明
6 鑑定評価の手法
7 土地の公的評価額(概要)
8 土地の評価で参照する公的評価額
9 不動産鑑定士による評価の幅(概要)
10 売買市場における価格の種類(査定価格・売出価格・成約価格)(参考)

1 不動産(土地)の評価額の基本(実勢価格・時価・不動産鑑定評価・売出価格・成約価格)

土地や建物に関する評価額(金額の計算)はとても多くの場面で行われます。そして,当事者の間で意見が熾烈に対立することもよくあります。
本記事では,不動産(主に土地)についての評価額などの金額の計算の基本的事項を説明します。

2 不動産についてのいろいろな金額の計算

不動産に関する金額にはいろいろなものがあります。土地や建物の評価額はその代表的なものです。それ以外に,賃料(地代や家賃),更新料,承諾料といったものの金額も,計算方法が問題となることがあります。最初に整理しておきます。
本記事では以下,これらのうち,不動産の評価額について説明します。

不動産についてのいろいろな金額の計算

あ 評価額

ア 不動産の評価額 土地(更地)の評価額や建物の評価額
イ 借地権価格 更地価格の一部(一定割合)として計算することが多い

い その他の金額(参考)

ア 賃料 土地賃貸借の賃料(地代)の金額,建物賃貸借の賃料(家賃)の金額
イ 更新料 詳しくはこちら|借地の更新料の金額の相場
ウ 承諾料 借地条件変更・借地上の建物の増改築・再築などの対価
詳しくはこちら|借地条件変更の承諾料の相場(財産上の給付の金額)
詳しくはこちら|借地上の建物の増改築許可の承諾料の相場(財産上の給付の金額)
エ 明渡料 賃借人に退去してもらう対価として支払う金銭

3 「実勢価格」・「時価」の意味(違い)

通常,特定の不動産の価値(評価額)を出すという場面では,実勢価格のことを意味します。ただ,厳密には時価(正常な価格)ということになります。このふたつは,個々の取引の個別的な事情を反映しているかいないかという違いがあるのです。
とはいっても,実務ではこれらの用語を厳密に使い分けないことも多いです。

「実勢価格」・「時価」の意味(違い)

あ 「実勢価格」の意味

実勢価格とは,実際に取引がなされる金額である

い 「時価」の意味

時価とは,個々の取引の個別事情を反映しない価値である

う 「時価」と同一の意味の用語

ア 法律上の「正常な価格」イ 公示価格(後述)ウ 基準価格(後述)

え 実勢価格と時価の違い

実勢価格は,時価(正常な価格)と同一ではない
実勢価格は,個別事情の影響を含む
時価(正常な価格)個別事情の影響を含まない

お 個別事情の例
売主・買主の思惑・事情 異常値(ブレ)
『売り急ぎ』 低くなる方向
『買い進み』 高くなる方向

※他の個別事情もあり得る

4 中古不動産の実勢価格のブレ(参考)

中古物件の流通では実勢価格,つまり相場の金額が曖昧な傾向にあります。実際の成約価格が理論的に適正と思われる金額(正常な価格)よりもブレることが多いのです。これは流通業界(不動産仲介業者)の構造的な事情が原因となっています。
これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|不動産流通業界の基礎知識|3つの『価格』|買取業者・下取業者の活用

5 不動産鑑定評価基準による正常価格の説明

不動産の適正な時価(実勢価格)を計算する基準として,不動産鑑定評価基準があります。不動産鑑定士が鑑定評価をする際にこれを使うことになります。
不動産鑑定評価基準の中では特有の用語が出てきます。不動産の原則的な時価,つまり市場価格のことを正常価格と呼んでいます。

不動産鑑定評価基準による正常価格の説明

(Ⅰ 価格)
不動産の鑑定評価によって求める価格は,基本的には正常価格であるが,鑑定評価の依頼目的に対応した条件により限定価格,特定価格又は特殊価格を求める場合があるので,依頼目的に対応した条件を踏まえて価格の種類を適切に判断し,明確にすべきである。なお,評価目的に応じ,特定価格として求めなければならない場合があることに留意しなければならない。
(1.正常価格)
正常価格とは,市場性を有する不動産について,現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格をいう
※『不動産鑑定評価基準(平成26年版)』第5章-第3節-Ⅰ-1

6 鑑定評価の手法

では,時価(市場価格)である正常価格はどのように計算するのでしょうか。不動産鑑定評価基準では,主に3つの評価手法が示されています。
(再調達)原価法は主に建物について用いる手法であり,再度建築するのに要する費用をベースにする計算方法です。
取引事例比較法は,同種の不動産の過去の取引事例(実績)をベースにする評価方法です。
収益還元法は,不動産が生み出す収益,つまり賃料収入をベースにする計算方法です。

鑑定評価の手法

あ 原価法(積算法)

原価法は,価格時点における対象不動産の再調達原価を求め,この再調達原価について減価修正を行って対象不動産の試算価格を求める手法である(この手法による試算価格を積算価格という。)。
原価法は,対象不動産が建物又は建物及びその敷地である場合において,再調達原価の把握及び減価修正を適切に行うことができるときに有効であり,対象不動産が土地のみである場合においても,再調達原価を適切に求めることができるときはこの手法を適用することができる。
※『不動産鑑定評価基準(平成26年版)』第7章-第1節-Ⅱ-1

い 取引事例比較法

取引事例比較法は,まず多数の取引事例を収集して適切な事例の選択を行い,これらに係る取引価格に必要に応じて事情補正及び時点修正を行い,かつ,地域要因の比較及び個別的要因の比較を行って求められた価格を比較考量し,これによって対象不動産の試算価格を求める手法である(この手法による試算価格を比準価格という。)。
取引事例比較法は,近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等において対象不動産と類似の不動産の取引が行われている場合又は同一需給圏内の代替競争不動産の取引が行われている場合に有効である。
※『不動産鑑定評価基準(平成26年版)』第7章-第1節-Ⅲ-1

う 収益還元法

収益還元法は,対象不動産が将来生み出すであろうと期待される純収益の現在価値の総和を求めることにより対象不動産の試算価格を求める手法である(この手法による試算価格を収益価格という。)。
収益還元法は,賃貸用不動産又は賃貸以外の事業の用に供する不動産の価格を求める場合に特に有効である。
また,不動産の価格は,一般に当該不動産の収益性を反映して形成されるものであり,収益は,不動産の経済価値の本質を形成するものである。したがって,この手法は,文化財の指定を受けた建造物等の一般的に市場性を有しない不動産以外のものには基本的にすべて適用すべきものであり,自用の不動産といえども賃貸を想定することにより適用されるものである。
なお,市場における不動産の取引価格の上昇が著しいときは,取引価格と収益価格との乖離が増大するものであるので,先走りがちな取引価格に対する有力な験証手段として,この手法が活用されるべきである。
※『不動産鑑定評価基準(平成26年版)』第7章-第1節-Ⅳ-1

7 土地の公的評価額(概要)

ところで,土地について,公的に評価したものがあります。公示価格(と基準地価格),相続税路線価,固定資産評価のことです。公的な評価だけで3つ(数え方によっては4つ)あり,これと実勢価格を合わせると,1つの不動産に4つ(5つ)の価格がついているといえます。そこで「1物4価」(1物5価)といいます。これらについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|土地の公的評価額の種類(1物4価(5価)・実勢価格との比率)

8 土地の評価で参照する公的評価額

前述の評価手法とは別の評価の枠組みもあります。それは,土地の評価の際に参照する公的な評価額としてどのようなものを用いるか,というものです。
基本的に,公示価格か基準地価格を用います。相続税路線価や固定資産評価額は税金の計算で用いるための便宜的なものであって,もともと時価(実勢価格)よりも低くなるように設定されているのです。

土地の評価で参照する公的評価額

あ 原則

(地価公示法2条1項の土地計画区域の場合)
公示価格を規準とする

い 例外

公示価格がない場合
基準地価格を規準とする
※藤田耕三ほか『不動産訴訟の実務 7訂版』新日本法規出版2010年p733

9 不動産鑑定士による評価の幅(概要)

以上のように,不動産鑑定評価基準が定められ,これを使って不動産鑑定士が鑑定評価として正常価格(時価,公正価値)を計算します。では,不動産鑑定士が評価すれば,計算機に数字を入力するように正解(特定の金額)が出るか,というとそうではありません。公正価値には幅があります。10人の不動産鑑定士が評価額を出すと,別の評価額が出てくるのです。このことについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|不動産鑑定士による鑑定の種類と裁判所が採用する傾向(反論の重要性)

10 売買市場における価格の種類(査定価格・売出価格・成約価格)(参考)

不動産の売買(取引)の中ではプロセスによって3つの「価格」が登場します。評価の方法とは違います。
不動産を売却しようと思い立った時に,最初に仲介業者(宅建業者)が売却できるであろう金額を出します。これを査定(価格)といいます。仲介の受注のために(セールスとして)高めに計算される傾向があります。
実際に,広告(売却物件の情報)として公表する価格が売出価格です。その後の交渉でディスカウントすることを想定して,高めに設定するのが通常です。
最後に,実際に取引(売買)が行われた金額が成約価格です。交渉でディスカウントされることもあります。この成約価格が実勢価格で参照される金額ということになります。

不動産売買のプロセスにおける「価格」の種類(概要)

あ 査定価格

宅建業者が計算する評価額
不動産鑑定士による鑑定評価よりも大幅に簡略化した計算である
詳しくはこちら|宅建業者の不動産評価額(評価根拠)の調査・説明義務

い 売出価格(募集価格)

売り手が言っているだけの売却希望価格
いくらで設定しても自由なので,説得力はない
※冨田建著『ビジネス図解 不動産評価のしくみがわかる本』同文館出版2021年p23

う 成約価格

実際に取引が成立した金額
実勢価格の評価で直接使う金額となる
詳しくはこちら|不動産流通業界の基礎知識|3つの『価格』|干す→値こなし→囲い込み→両手実現

本記事では,土地を中心として,不動産の評価(額)の基本的事項を説明しました。
実際には,具体的な状況によって,土地の評価方法(評価額の計算方法)は違ってきます。
土地の評価額に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。