【土地の公的評価額の種類(1物4価(5価)・実勢価格との比率)】

1 土地の公的評価額の種類(1物4価(5価)・実勢価格との比率)

土地の評価方法にはいろいろなものがあります。
詳しくはこちら|不動産(土地)の評価額の基本(実勢価格・時価・不動産鑑定評価・売出価格・成約価格)
土地はもともと価値が大きく、評価方法が少し違っただけで、大きな金額の違いとなります。そこで、いろいろな場面で、土地の評価の方法について熾烈な対立に発展します。
この点、土地については公的な評価額が3つ(4つ)あります。実際に土地の評価額を出す時に公的評価額も使います。
本記事では、これについて説明します。

2 土地についての「1物4価(5価)」の名称

土地についての「価格」(評価額)として、公的なものが3つ(数え方によっては4つ)あります。これと実勢価格(時価)を合わせると4つ(5つ)になります。つまり、同じ不動産でも、4つ(5つ)の価格がついている、ということができます。そこで「1物4価」(5価)と呼んでいます。

土地についての「1物4価(5価)」の名称

土地について4種類の価格がある
「1つの不動産に対して4つの価格がある」との意味で、「一物四価」と俗称されている
※冨田建著『ビジネス図解 不動産評価のしくみがわかる本』同文館出版2021年p22

3 土地についての「1物4価」の内容(全体)

最初に、4つの価格をまとめておきます。
まずは実勢価格です。実際に売買される金額という意味で、市場価格ともいえます。
残る3つは公的な価格です。基礎的なものが公示価格です。公示価格は国が作ったものですが、これの都道府県版が基準地価格です。このふたつをまとめて公示価格等と呼んでいます。この2つをまとめずにバラバラにカウントすると5価になるのです。
公示価格(等)以外に、税金の計算のためのものとして、相続税路線価、固定資産評価があります。
結局、公的なものだけで3つ(4つ)あります。公的なものは1つにまとめてもらうと国民としては便利なのですが、歴史的な経緯や実際の運用の便宜などにより、このような分裂状態になってしまっています。縦割り行政という批判をしたくなるところです。
1物4価(5価)という業界用語の普及により、違和感が抑制されているような気もします。

土地についての「1物4価」の内容(全体)

あ 実勢価格(概要)

実際の不動産市場での取引価格水準
実際に取り引き(売買)される価格という意味である
時価とは少し異なるが、同じ意味で使われることもある
詳しくはこちら|不動産(土地)の評価額の基本(実勢価格・時価・不動産鑑定評価・売出価格・成約価格)

い 公示価格等を規準とした価格

公示価格等とは、「ア・イ」のことである。これを2つとカウントすると「1物5価」となる
ア 公示価格(公示地価)イ 都道府県地価調査基準地価格

う 相続税路線価による財産評価額(相続税評価)

相続税財産評価基準に基づく相続税路線価による財産評価額

え 固定資産評価額

※冨田建著『ビジネス図解 不動産評価のしくみがわかる本』同文館出版2021年p22

4 土地に関する公的評価額のまとめ

土地の評価額のうち、公的な評価額(実勢価格以外)を整理します。評価を実施する機関や、いつの時点の評価なのか、ということが違っています。また、実勢価格よりもどの程度低く評価されるか、ということについても一定の傾向があります。

土地に関する公的評価額のまとめ

種類 公示地価 基準地価 路線価(相続税評価) 固定資産評価
根拠(法律) 地価公示法 国土利用計画法 相続税法 地方税法(固定資産評価基準)
実施機関 国土交通省 都道府県 国税庁 市町村
実勢価格との比率 90%(後記※1 90%(後記※1 70〜80%(後記※2 60〜70%(後記※3
評価時期 毎年1月1日 毎年7月1日 毎年1月1日 (毎年)1月1日
公表時期 毎年3月下旬頃 毎年10月上旬頃 毎年8月上旬 3年ごとの4月上旬
方式 特定の標準地・㎡単価・2人の不動産鑑定士による 特定の基準地・㎡単価・1人の不動産鑑定士による 路線価方式・倍率方式 不動産ごとに算定

※冨田建著『ビジネス図解 不動産評価のしくみがわかる本』同文館出版2021年p29参照

5 公示価格の意味や趣旨

土地の公的な評価額の中で、最も代表的・ベーシックなものが公示価格です。国(国土交通省)が評価して公表するものです。他の多くの場面でこの評価額が使われます。

公示価格の意味や趣旨

あ 定義

地価公示法に基づいて、国土交通省(土地鑑定委員会)が毎年公表する価格

い 性質

法律上の『正常な価格』=『時価』と同じ

う 根本的目的

適正な地価の形成に寄与する

え 具体的目的の例示

土地取引一般の価格の指標を提供する
公共事業用地についての適正な補償金算定資料を提供する
※地価公示法1条

お 実際の利用状況

他の公的な土地の評価の中で用いる

6 公示価格等と実勢価格の乖離の実情

公示価格という名称なので、中立・公正な評価であり実勢価格と同じように思ってしまいますがそうではありません。
通常、公示価格は実勢価格よりも少し低くなっています。平均的には10%程度低いといえますが、エリアによって、実勢価格との乖離の程度(どの程度低いのか)の傾向は違います。中には公示価格が実勢価格の半額になっているエリアもあります。

公示価格等と実勢価格の乖離の実情(※1)

あ 平均的な比率の目安

公示価格=実勢価格の90%程度

い 地域ごとの比率の目安

ア 主要都市の市街地 実際には、東京や京阪神・名古屋等の主要都市の市街地等では実勢価格=公示価格等×1.0~1.5程度の場合が多いが、一部の高度商業地・高級住宅地等では2.0倍以上のこともある。
イ 過疎地 逆に過疎地では、実勢価格が公示価格等を下回っている地域も存する。
※冨田建著『ビジネス図解 不動産評価のしくみがわかる本』同文館出版2021年p37

7 公示価格の由来

公示価格についてはその由来を考えると位置付けがよく分かります。もともと、国が公共事業のために土地を取得する(民間から買い取る)時の代金を計算する時に使う基準として作られたのです。その後、公的な評価額として、他の多くの場面でも流用することが増えてきたのです。結局、公的な評価額の基本的・基礎的なもの、という位置づけになりました。

公示価格の由来

あ 発祥

もともと公共事業用地の取得価格算定の規準として誕生した

い 民間への転用

一般の土地の取引価格の検討において参考にされるようになった
→『取引の指標』としての客観的・公的な『基準値』という性格を持ってきた

う 官官転用

相続税評価・固定資産評価などの『公的評価』一般で参照される

え 現在の公示価格の性格

公的な基準のうち『最もベーシック』なものという位置付け

8 公示価格と実勢価格の過去の乖離(変遷)

前述のように、もともと公示価格は土地の売買の代金の計算で使われるものであり、実勢価格に連動することが想定されています。
しかし、実際には、公示価格制度が始まった後、想定外の経済状況の変化が生じます。いわゆる不動産バブル経済です。
これにより、実勢価格に連動するという前提に歪みが現れます。
公示価格は、直近の実勢価格(市場の取引の実情)をみて算定・評価されるので、構造上、実勢価格の変動の後を追うことになります。不動産バブルで、実勢価格が急激に下がった時には、公示価格が下がるのが追いつかない状態になり、公示価格の方が実勢価格よりも高いということもありました。

公示価格と実勢価格の過去の乖離(変遷)

あ 昭和49年|国会答弁より

ア 議員 『市場相場(実勢価格)の7〜8割程度を政策的な目標とすることの要望』
イ 内田経済企画庁長官 『ご趣旨に沿って検討したい』
※河野正三『国土利用計画法』p32

い 平成3年頃

異常事態が発生した
『公示価格・基準地価格』は『過去の相場の影響』を受けていた
しかし、相場は下落していた
その結果、公示価格がいわゆる正常価格を上回る状態となっていた
※浅生『地価下落時における最低売却価額』金法1311号p6

9 基準地価(都道府県基準地価標準価格)の内容

前述のように、公示価格は国の評価額ですが、この都道府県版というべきものが、基準地価格です。
本質・性質は公示地価と変わりはありません。そこで、公示価格と基準地価格とまとめて公示価格等と呼ぶのです。

基準地価(都道府県基準地価標準価格)の内容

あ 定義

国土利用計画法に基づいて、都道府県知事が毎年公表する価格
※国土利用計画法施行令9条

い 性質

法律上の『正常な価格』=『時価』と同じ
『公示地価』と同質である
→大雑把な位置付け=『評価実施機関・時期だけが違う』

う 名称

法律上の正式名称 都道府県地価調査(価格) 実務上の俗称 基準地価

え 基準地価と実勢価格の乖離の実情(概要)

平均的な比率の目安は、公示価格=実勢価格の90%程度であるが、地域による違いがある(前記※1

10 相続税路線価(相続税評価額)の内容

土地の評価額でよく登場するのが(相続税)路線価です。相続税・贈与税の計算の前提としての評価額を出す時に使う指標です。

相続税路線価(相続税評価額)の内容

あ 定義

国税庁が毎年発表する、相続税・贈与税算定専用の基準額
具体的な内容は『2つの方式』による

い 路線価方式

主要な市街地の路線
→路線に『単価』を設定する

う 倍率方式

『路線価』の設定されていない地域
→『固定資産評価額』に『一定倍率』をかける
この『一定倍率』を地域ごとに設定する

え 位置づけ

税務手続における便宜的なものであり、公正価値とは異なる
※冨田建著『ビジネス図解 不動産評価のしくみがわかる本』同文館出版2021年p22

11 相続税路線価と実勢価格の乖離の実情

相続税路線価(相続税評価)は、税金の計算で使うための便宜的なものにすぎません。実勢価格よりも20%程度低くなるように設定されています。実際には、エリアによって、実勢価格との開き(減額率)は違います。

相続税路線価と実勢価格の乖離の実情(※2)

あ 平均的な比率の目安

相続税路線価=実勢価格の(70〜)80%程度

い 地域ごとの比率の目安

実際には公示価格等自体が実勢価格より低い場合があるため、東京や京阪神、名古屋等では「実勢価格と相続税路線価」はもっと開差があることも多い。
逆に過疎地では、開差がもっと少ない場合等もある。
※冨田建著『ビジネス図解 不動産評価のしくみがわかる本』同文館出版2021年p37

12 実勢価格と相続税評価の乖離に起因する相続税対策

前述のように、相続税評価額はもともと、実勢価格よりも低くなるように意図的に設定されています。そこで、現金を不動産に換える(要するに購入する)と、相続税表額額は下がることになります。この構造を利用して相続税を下げる(節税する)という対策が普及しています。

実勢価格と相続税評価の乖離に起因する相続税対策

あ 国民の視点

金銭を不動産に換えることによる『相続税節税効果』
=相続税評価額として20〜30%の減額(圧縮)効果

い ビジネス・社会経済の視点

税理士+不動産仲介業者によるセールスの一環となる
→弁護士も加わることもある
※『セールス』は『見かけ上の現象』である
→本来は 『顧客への価値提供(の提案)』である

13 固定資産評価額の内容

税金の計算の評価額は相続税路線価とは別に、固定資産評価額もあります。文字どおり、固定資産税の計算で使うための評価額です。
実際には、固定資産税の計算以外の公的な手続で、固定資産評価額が流用されています。訴訟提起や登記申請の時の手数料(貼用印紙額や登録免許税額)の計算が典型です。

固定資産評価額の内容

あ 定義

固定資産税算定専用の基準額
※地方税法388条1項

い 位置づけ

税務手続における便宜的なものであり、公正価値とは異なる
※冨田建著『ビジネス図解 不動産評価のしくみがわかる本』同文館出版2021年p22

う 固定資産評価の実施時期や具体的方法(概要)

固定資産評価を実施する時期や具体的方法については別の記事で説明している
詳しくはこちら|固定資産評価は1月1日時点で算定され、3年に1回評価替えがある

え ネーミング

ア 法律上の記載 『固定資産の評価』
イ 一般的呼称 呼称 流派 『固定資産評価(額)』 格式的 『固定資産評価(額)』 実務的

お 固定資産評価額が流用される主な場面

ア 不動産取得税の算定イ 提訴時の手数料(貼付印紙額)の算定ウ 登記申請時の登録免許税額算定

か 固定資産評価額を調べるサイト

外部サイト|総務省|固定資産評価基準

14 固定資産税路線価と実勢価格の乖離の実情

もともと、固定資産評価額は実勢価格よりも30%程度低くなるように設定されています。とはいっても、エリアによって減額率(乖離の程度)は違います。

固定資産税路線価と実勢価格の乖離の実情(※3)

あ 平均的な比率の目安

固定資産税路線価=実勢価格の(60〜)70%程度

い 地域ごとの比率の目安

実際には公示価格等自体が実勢価格より低い場合があるため、東京や京阪神、名古屋等では「実勢価格と固定資産税路線価」はもっと開差があることも多い。
逆に過疎地では、開差がもっと少ない場合等もある。
※冨田建著『ビジネス図解 不動産評価のしくみがわかる本』同文館出版2021年p37

15 固定資産税の課税標準額と評価額の違い

不動産を所有していると毎年、固定資産税の納付書が送付されてきます。そこに課税標準額が記載されているので、これを固定資産評価額だと思ってしまう人も多いです。しかし課税標準額は、(固定資産)評価額をもとにして、いろいろな計算をした結果です。評価額そのものではないので注意を要します。

固定資産税の課税標準額と評価額の違い

不動産の所有者には、毎年春頃、固定資産税の納付通知書が送付されてくる
納付通知書には、課税標準額が記載されている
課税標準額(固定資産)評価額とは異なる
このふたつを混同(誤解)することが多いので注意を要する

16 公的評価額の調査で使うサイト

実務上、公示地価相続税評価額(路線価)を調べることは多いです。
調査の際によく使うサイトを紹介しておきます。
外部サイト|国土交通省|土地総合情報ライブラリー|土地の価格
外部サイト|国税庁|路線価図・評価倍率表

本記事では、土地の評価額のうち、主な4つ(5つ)について説明しました。
実際には、具体的な状況によって、土地の評価方法(評価額の計算方法)は違ってきます。
土地の評価額に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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