【定期借家の基本(更新なし=期間満了で確実に終了する)】

1 定期借家の基本

定期借家は、平成11年の借地借家法の改正で創設され、12年3月1日から施行されています。それまでの建物賃貸借(普通借家)では期間が満了しても、法定更新となるので、契約が続きます。
オーナーの立場としては簡単に建物が戻ってこないということです。そこで、貸家としての提供にブレーキがかかる状況があります。一方、借りる側としても、更新は要らない、というケースもあります。
そこで、法定更新が適用されない借家のタイプとして定期借家が制度として新設されたのです。従前の(法定更新がある)建物賃貸借は普通借家といいます。

2 定期借家と普通借家の比較

定期借家と普通借家は大きく違うので、最初に、違いを表にまとめておきます。

定期借家と普通借家の比較

借家契約の種類 定期借家契約 普通借家契約
契約方法 書面限定(後記※1 書面・口頭いずれも可能
更新の有無 期間満了により終了。更新されない。 原則として更新される。
期間制限 制限なし(自由に期間を設定できる) 制限なし(後記※2
1年未満の期間設定 可能 期間の定めなしとなる
賃料減額請求の排除 特約で排除できる 特約で排除できない
賃借人からの中途解約 特約に従うが例外あり(後記※3 特約に従う

(※1)「更新がなく、期間の満了により終了する」ことを別途書面として賃借人に交付する必要がある
(※2)平成12年3月1日以前の契約は20年までとなる
(※3)例外=一定の小規模居住用建物は賃借人からの中途解約が可能である

3 契約書に記載する事項

定期借家契約をするには、契約を書面で行う必要があります。公正証書ではなくても構いません。普通借家契約であっても契約書を作るので、契約を書面で行うこと自体は真新しいことではありません。
ただし、記載必須の事項が欠けていると、書面で契約したことにはならず、普通借家(法定更新あり)となってしまいます。
「更新がないので期間満了で契約が終了すること」の記載が必要なのは当たり前ですが、それ以外に、期間、「建物」の賃貸であること、当事者、目的の建物の記載も必要です。
それ以外に決めた事項(特約)については、記載が必須ではないです。逆に、特約を記載しないと(口頭だけで約束すると)無効になると解釈されています。定期借家は契約は書面ですることになっているので、書面上のものだけが合意内容であるという考え方です。

契約書に記載する事項

あ 書面化が必要な事項

ア 期間 確定した始期および終期
イ 賃料 賃料額
ウ 「建物」賃貸借 建物賃貸借である旨の定め
エ 当事者 賃貸借の当事者
オ 目的建物(対象物件) 賃貸借の目的となる建物の表示
カ 更新なし・期間満了による終了 契約の更新がなく、期間の満了により当該建物の賃貸借が終了する旨の定め

い 書面化が不要な事項

ア 一時金 礼金、敷金、権利金、保証金等一時金に関する特約
イ 賃料改定 賃料改定に関する特約
ウ 中途解約(解約権留保特約) 中途解約に関する特約
エ 解除(遡及的) 契約解除に関する特約
オ 賃借権譲渡・転貸 賃借権の譲渡・転貸に関する特約
カ (口頭による特約の効果) (書面化が不要な事項について)
それが契約書に記載されたときに、定期建物賃貸借の内容となり、強行規定に反しない限り、拘束力を有するようになる。
口頭での特約は、定期建物賃貸借の特約としては効力を有しないものと解する。
※藤井俊二稿/稲本洋之助ほか編『コンメンタール 借地借家法 第4版』日本評論社2019年p312、313
※吉田修平稿『新基本法コンメンタール 借地借家法 第2版』日本評論社2019年p238

4 定期借家契約の締結には事前交付書面・事前説明が必要(概要)

定期借家契約をするには、前述のように、一定の事項を記載した契約書を作成(調印)することが必要ですが、それだけだと賃借人が、ノーマルの借家(法定更新がある普通借家)であると誤解するおそれがあります。そこで、契約締結前に書面で説明をすることも必要とされています。説明書面の交付や説明(自体)がない場合には、定期借家としては認められず、普通借家(法定更新あり)ということになってしまいます。
これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|定期借家契約における事前交付書面・事前説明

5 期間満了を知らせる終了通知(概要)

「更新がない・期間満了で終了する」という事前の説明をして、契約書にもそのような記載をして調印を済ませれば、定期借家契約として成立します。ただ、ほかにも借主保護ルールがあります。
契約終了よりも1年前から6か月前の間の時期に、賃借人に「契約が終了しますよ」という通知をしないとならないのです。これがないと、期間が満了しても明渡を請求できないことになります。
終了通知は、賃借人に、退去することを思い出させて、次の転居先を探す期間として6か月以上を確保する、という趣旨の制度です。
なお、最初から契約期間が1年未満である場合は、賃借人が満了時期(退去時期)を忘れることはあまりないので、終了通知は不要となります。
終了通知については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|定期借家における終了通知(遅れた通知の効果・黙示の更新)

6 賃借人からの法定中途解約権(概要)

ところで、一般的な普通借家契約では、期間の途中で賃借人が解約できる条項(解約権留保特約)があります。この点、定期借家の場合は解約権留保特約がないことも多いです。その場合でも、定期借家の場合には法律上の中途解約権があります。
小規模の居住用建物だけが対象ですが、一定の転居する必要性がある場合には、期間の途中で解約できる、というルールです。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|定期借家における賃借人からの法定中途解約権

7 定期借家は賃料が低いという点で、借りる側のメリットにもなる

定期借家契約は契約期間の満了で確実に契約の終了が出来るため、期間を区切って建物を賃貸するなど不動産の有効活用が可能になっております。
オーナーが負うリスクが限定的なので、普通借家よりも賃料を低く設定するのが一般的です。
この点を経済的に考えると、入居者としては、入居・退去のコスト負担(のリスク)を負っている、ということになります。
そこで、一般的な相場として、普通借家は普通借家と比べて、契約に伴う経済的な賃借人の負担が軽く設定されています。賃料・敷金・礼金などです。それぞれ、低め、または、ゼロ、と設定される傾向にあります。
つまり、賃借人にとっては、期間は限定されたり、中途解約に制限があったりしますが、相場より割安な賃料での入居が可能となるのです。
貸し手と借り手のニーズがマッチした時には双方にとって有意義な制度といえるでしょう。

8 再契約の可否や手続

前述のように、定期借家の場合は、法定更新がないので、期間満了で契約は終了し、賃借人は退去することになります。ただ、実際には、期間満了時に、賃貸人と賃借人が、再度契約を調印し直す、ことにより、結果的に延長するということはよくあります。
これは、あくまでも同一の契約ではなく、まったく別個の新たな契約という意味合いになります。そこで、更新ではなく再契約と呼んでいます。
逆に言えば、オーナーが再契約に応じない以上は、原則に戻って、契約は終了する(賃借人は退去する)ということになります。
別個の新たな契約であるため、当初の契約と同じように、事前交付書面、事前説明、書面での契約などを再度行う必要があります。

再契約の可否や手続

あ 再契約の可否

定期借家契約が更新されることはないが、再契約をすることは可能である。

い 再契約の意味

再契約とは、同一当事者間において、同一目的物に対し、当初の契約期間が満了した後、再度定期借家契約を締結することである。

う 再契約の手続

再契約は、従前の契約と別個独立の契約であるから、再契約によって定期借家契約を締結しようとする場合には、法の定める手続をすべて新たに履践する必要がある。
すなわち、書面により契約を締結することや、契約書と別に事前説明文書を作成し、説明し、交付すること等が求められる。
※吉田修平稿『新基本法コンメンタール 借地借家法 第2版』日本評論社2019年p244

9 再契約に関する工夫の一例(敷引契約)

定期借家では、再契約を賃貸人に強制することはできません。これは定期借家という制度の根本的なルールです。しかし、たとえば敷引の条項を契約書に盛り込んでおき、賃貸人が再契約をするインセンティブとしておく、というような工夫はできます。

再契約に関する工夫の一例(敷引契約)

あ 再契約の際の敷引契約の例

初回契約時に、賃借人が賃貸人に敷金を預託する
再契約を1回行うごとに、一定額の敷金控除(敷引)を行う

い インセンティブ構造

ア 賃貸人(オーナー) 再契約すると一定額を獲得できる
イ 賃借人 再契約されない(退去する)場合、一定額が控除されないまま戻ってくる
戻る金額を転居コストに充てられる

10 定期借家契約における再契約予約方式(概要)

もっと直接的に、一定の条件で再契約を約束するという方法もあります。再契約予約方式、や、再契約保証型と呼ばれる手法です。この方法で、賃借人の不安を解消し、定期借家を活用しやすくすることができます。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|定期借家契約における再契約予約方式(再契約保証型)

11 定期借家のオーナー側のマイナス面(概要)

定期借家については法定更新の適用がされません。つまり、期間満了時に空家にできることが保障されている、ということです。これは定期借家の制度趣旨であり、オーナーが貸しやすくなるための根本的な構造です。
一方、居住する人としては期間満了で退去する必要がある(賃貸人が再契約してくれるとは限らない)ので、長期間入居して居住や営業をしたい人(会社)は、定期借家の物件を避けることになります。仲介業者の立場で言えば、客付けがしにくい、ということです。
また、前述の賃借人による中途解約権があるので、オーナーの立場では期間満了までの賃料収入が確保できないということになります。これも収支予測に影響を与える事情になっています。

定期借家のオーナー側のマイナス面

あ 入居者獲得ハードル

入居候補者にとってのブレーキとなる
賃借人の獲得が難しい→空室リスクが高まる

い 中途解約リスク

賃借人に一定の事情が生じた場合に中途解約をされる
(この中途解約は排除(回避)できない)
→収益(賃料収入)が確保できないことにつながる
=空室リスクが高まる

12 定期自己借地を活用した実質定期借家方式(概要)

以上のように、定期借家は、更新がないということが実現しますが、事前説明(文書交付)や終了通知などの手続が必要ですし、また、賃借人からの中途解約も可能、というように、オーナーにとって一定の負担(リスク)があります。このような負担を回避しつつ更新がない建物賃貸借を実現する方法として、定期自己借地を活用する、というアイデアが提唱されています。
詳しくはこちら|自己借地権の基本(混同回避の趣旨・種類・認める範囲)

本記事では、定期借家契約の基本的なことを広く説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に建物賃貸借(収益物件の運用)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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【事業用定期借地は10〜30年・30〜50年の2タイプがある】
【平成12年3月1日以前の居住用建物の普通借家は定期借家への切替ができない】

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