1 自己借地権の基本(混同回避の趣旨・種類・認める範囲)
2 自己借地権への混同の規定の適用
3 自己借地権を認める条文
4 自己借地権創設による混同の適用回避(効果)
5 自己借地権の種類(基本的な要件)
6 自己借地権を認める範囲(要件)
7 自己借地権の要件と具体的ケースへの適用の有無(概要)
8 自己借地権の対象となる『借地権』の内容
9 自己借地権の対抗要件を建物登記で代用する不都合(概要)

1 自己借地権の基本(混同回避の趣旨・種類・認める範囲)

借地借家法は自己借地権を認めています。
実務では,土地や建物(の所有権や共有持分権)の売買または競売が行われたケースで,自己借地権が存在するかしないかによって大きな違いが生じるため,意見の対立が生じるということがよくあります。
本記事では,自己借地権の基本的事項を説明します。

2 自己借地権への混同の規定の適用

自己借地権は政策的に認められた特殊な権利です。逆にいえば,原則論からすると認められない借地権なのです。その原則論とは民法の混同のことです。混同とは,借地権設定者(地主)と借地権者(借地人)が同一の者である場合には借地契約(借地権)を認めないというルールです。

<自己借地権への混同の規定の適用>

あ 物権と債権の混同を適用する見解

土地所有者自らが借地権者となることは,混同の法理により原始的に不可能とされている
※民法179条1項本文(地上権につき)
※民法520条本文(賃借権につき)
※稲本洋之助ほか編『コンメンタール 借地借家法 第4版』日本評論社2019年p115

い 物権の混同を適用する見解

本法(借地借家法)によって強化された土地利用権を物権あるいは物権的権利として捉えると,民法179条1項の対象となるものと解される
※田山輝明ほか編『新基本法コンメンタール 借地借家法』日本評論社2014年p90

3 自己借地権を認める条文

原則論どおりに自己借地権を認めない場合には,建物が共有である場合に不都合が生じます。典型例は区分所有建物(分譲マンション)ですが,これに限りません。
いずれにしても,借地借家法は,民法の混同の例外として一定の範囲で自己借地権を認めました。

<自己借地権を認める条文>

(自己借地権)
第十五条 借地権を設定する場合においては、他の者と共に有することとなるときに限り、借地権設定者が自らその借地権を有することを妨げない。
2 借地権が借地権設定者に帰した場合であっても、他の者と共にその借地権を有するときは、その借地権は、消滅しない。
※借地借家法15条

4 自己借地権創設による混同の適用回避(効果)

借地借家法15条の自己借地権に該当する場合には,借地権を認める,つまり,民法の混同の規定が適用されないという構造になっています。

<自己借地権創設による混同の適用回避(効果)>

自己借地権の規定(借地借家法15条)は借地権の準共有を理由に混同の規定の適用を回避したのである
※田山輝明ほか編『新基本法コンメンタール 借地借家法』日本評論社2014年p90,91

5 自己借地権の種類(基本的な要件)

自己借地権として認められているものは2種類です。

<自己借地権の種類(基本的な要件)>

あ 原始的(設定的)自己借地権(1項)

典型例は次のようなケースである
借地権者=AB
借地権設定者=A

い 後発的自己借地権(2項)

ア 規定の内容 借地権の準共有持分が土地所有者に帰属した場合
※田山輝明ほか編『新基本法コンメンタール 借地借家法』日本評論社2014年p89
イ 法改正前の裁判例(参考) 土地の賃借権をABが準共有していた
Aが土地(所有権)を取得した
→民法179条但書,民法520条但書(混同例外)等の規定の精神に照らし,賃借権は消滅しない
※東京高裁昭和30年12月24日

6 自己借地権を認める範囲(要件)

自己借地権として認められる範囲(条件)は,借地権者が複数人存在し,その一部が借地権設定者である,という状況です。

<自己借地権を認める範囲(要件)>

自己借地権を無限定に認めたのではなく,借地権借地権設定者と借地権設定者以外の者が準共有する場合にのみ認めた
換言すれば,土地所有者が他人とともに借地人となる場合に限り,借地権は消滅しないことを明らかにしたものである
※田山輝明ほか編『新基本法コンメンタール 借地借家法』日本評論社2014年p89

7 自己借地権の要件と具体的ケースへの適用の有無(概要)

実務では,自己借地権にあたるかどうかで結論が大きく違うため,意見が対立することがよくあります。というのは,自己借地権にあたるかどうかについて,判定が難しいこともあるのです。自己借地権の要件や具体的ケースについて適用されるかどうか,については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|自己借地権の要件と具体的ケースにおける自己借地権の成否

8 自己借地権の対象となる『借地権』の内容

ところで,借地権であれば広く自己借地権の規定が適用されます(混同が適用が回避されます)。建物所有を目的とする土地の使用貸借については否定する見解が一般的です。

<自己借地権の対象となる『借地権』の内容>

あ 自己借地権の対象となる借地権

ア 普通借地権 地上権の場合は無償であってもよい
イ 定期借地権(借地借家法22条)ウ 建物譲渡特約付借地権(借地借家法24条)エ 事業用借地権(借地借家法23条)オ 一時使用目的の借地権(借地借家法25条) ※ 田山輝明ほか編『新基本法コンメンタール 借地借家法』日本評論社2014年p91

い 使用貸借への適用

建物所有を目的とする使用借権について
使用借権に特にこれ(混同の例外)を認めるべき必要性がない
使用借権は第三者への対抗力がない
→否定的に解されている
※寺田逸郎『新借地借家法の解説(4)』/『NBL494号』1992年p29
※生熊長幸稿『注釈借地借家法』p881
使用貸借に類推適用を認める見解もある
※ 田山輝明ほか編『新基本法コンメンタール 借地借家法』日本評論社2014年p91

9 自己借地権の対抗要件を建物登記で代用する不都合(概要)

一般的に借地権の対抗要件は賃借権(や地上権)の登記ですが,これを建物の登記で代用することがほとんどです。しかし,自己借地権については(一般の借地権よりも)この建物登記による代用の不都合が多いです。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|自己借地権の対抗要件(建物登記で代用することの不都合)

本記事では自己借地権の基本的事項を説明しました。
実際には個別的な事情によって判断が違ってくることがあります。
実際に借地・貸地に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。