1 定期借家における賃借人からの中途解約権
2 定期借家の中途解約権の条文規定(引用)
3 中途解約権が適用される契約(要件1)
4 中途解約権の行使が可能な状況(要件2)
5 中途解約権の行使の方法(要件3)
6 中途解約権行使の効果
7 中途解約権の強行法規性
8 中途解約が使えないケースの退去の扱い(参考)
9 中途解約権による定期借家の普及抑制効果
10 定期借家における解約権留保特約(概要)

1 定期借家における賃借人からの中途解約権

原則として,期間の定めがある建物賃貸借において,期間の途中で解約することは,解約できる特約(解約権留保特約)がある場合にだけ認められます。
詳しくはこちら|建物賃貸借の中途解約と解約予告期間(解約権留保特約)
この点,定期借家の場合には,決めた期間は契約が継続することが想定されていて,解約権留保特約がないこともよくあります。しかし,定期借家では,特約がなくても賃借人が中途解約をすることができる(法定の)ルールがあります。
本記事では,定期借家における法定の中途解約権について説明します。

2 定期借家の中途解約権の条文規定(引用)

最初に,中途解約権を定める条文を押さえておきます。借地借家法38条は全体が定期借家の規定です。つまり,定期借家契約だけに適用されるルールです。居住用建物で,床面積が200平方メートル未満という前提条件(要件)があり,一定のやむを得ない事情があってその建物に居住することが困難となった場合に,賃借人からの解約を認める,というルールです。
普通借家にはない特殊なルールです。

定期借家の中途解約権の条文規定(引用)

第一項の規定による居住の用に供する建物の賃貸借(床面積(建物の一部分を賃貸借の目的とする場合にあっては,当該一部分の床面積)が二百平方メートル未満の建物に係るものに限る。)において,転勤,療養,親族の介護その他のやむを得ない事情により,建物の賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったときは,建物の賃借人は,建物の賃貸借の解約の申入れをすることができる。この場合においては,建物の賃貸借は,解約の申入れの日から一月を経過することによって終了する。
※借地借家法38条5項

3 中途解約権が適用される契約(要件1)

中途解約権が認められる要件は3つあります。1つ目は,規模と用途に関するものです。
用途は居住用建物です。条文に「もっぱら」(専用)という言葉がないので,兼用も含みます。つまり,営業・事業との兼用でも(一部でも居住用であれば)居住用に該当します。

中途解約権が適用される契約(要件1)

あ 規定

床面積が200平方メートル未満である
「居住の用に供する建物」が目的物である

い 解釈

ア 営業用建物 営業用建物(店舗)には適用がない
イ 店舗権住宅 「居住の用に供する建物」とは,もっぱら事業の用に供する建物以外の建物をいう。
店舗併用住宅も含まれることになる。
面積は賃貸借の対象となっている部分全体(居住用以外の部分を含む)で判断する
※田山輝明ほか編『新基本法コンメンタール 借地借家法』日本評論社2014年p232
※藤井俊二稿/稲本洋之助ほか編『コンメンタール 借地借家法 第4版』日本評論社2019年p324,325

4 中途解約権の行使が可能な状況(要件2)

2つ目の要件は,コア部分です。居住することが困難となる事情の発生というものです。条文には,転勤,療養,親族の介護と記載されています。ただこれは例示であって,それ以外の事情も含みます。仕事の関係で転居が必要である,収入が下がった(なくなった)ので賃料を払えなくなったという事情,さらに,心理的または環境として居住に支障が出た,ということも含むという解釈があります。

中途解約権の行使が可能な状況(要件2)

あ やむを得ない事情

『その他のやむを得ない事情』とは『ア・イ』の両方に該当するものである
ア 予測困難または不可能 契約締結時において,将来のある時期に当該事情が生じることを的確に予測して契約期間を定めることを賃借人に期待することが困難または不可能な事情である
イ 事象発生による使用の障害 当該事情の発生により賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となるようなものである

い 条文の例示

転勤,療養,親族の介護

う 他の具体例(客観的事情)

ア 海外留学 業務命令として長期間の海外留学を命じられた
イ 勤務先の事情による賃料支払困難 勤務先の倒産,解雇等によって賃料を支払うのが困難となった
ウ リストラによる転職 リストラ等に伴う転職によってやむをえず転居せざるをえないことになった

え 他の具体例(主観的事情)

ア 心理的瑕疵関連 賃借建物の他の部屋で殺人や自殺があった
イ 環境的瑕疵関連 暴力団が入室して安心して居住できない
※田山輝明ほか編『新基本法コンメンタール 借地借家法』日本評論社2014年p232
※藤井俊二稿/稲本洋之助ほか編『コンメンタール 借地借家法 第4版』日本評論社2019年p326

5 中途解約権の行使の方法(要件3)

要件の最後は,中途解約権の行使です。要するに賃借人が解約するということを賃貸人に通知することです。通知の方法について,条文には何も規定されていませんが,実際には記録にするために内容証明郵便を使うことが望ましいです。

中途解約権の行使の方法(要件3)

あ 規定

賃借人が解約の申入をする

い 申入の方法

解約申入の方法に制限はない
実務では内容証明郵便が一般的である

6 中途解約権行使の効果

以上の3つの要件をクリアした場合,解約申入の日から1か月後に契約は終了します。

中途解約権行使の効果

(すべての要件を満たす場合)
解約の申入の日から1か月を経過すると定期借家契約は終了する
※借地借家法38条5項

7 中途解約権の強行法規性

中途解約権は定期借家の賃借人に与えられた保護です。特約によって中途解約権を排除するとか,弱めることはできません。たとえば,違約金を支払わないと解約できないという特約は,以上で説明した(法定の)中途解約ができる状態にも適用されるという部分では無効になります。

中途解約権の強行法規性

あ 強行法規性

中途解約権に関する特約について
賃借人に不利なものだけ無効となる
片面的強行法規である
※借地借家法38条6項

い 賃借人に不利な例

ア 解約申入期間の延長 解約申入期間を1か月よりも長くする
違約金の支払を解約の条件とする
イ 違約金中途解約の場合,契約期間の残金を支払った場合に限り,解約できる。契約期間残金を支払わない場合の中途解約は事由の如何を問わず一切主張できない
このような特約は賃借人に不利な特約を定めたものとして無効である
※東京地裁平成20年9月25日
※田山輝明ほか編『新基本法コンメンタール 借地借家法』日本評論社2014年p232,233
※吉田修平稿『新基本法コンメンタール 借地借家法 第2版』日本評論社2019年p243

8 中途解約が使えないケースの退去の扱い(参考)

以上のように,中途解約権が使える状況は限定されています。これに該当しない,つまり中途解約権を使えないケースで,賃借人が退去するとどうなるのでしょうか。契約は終了していないので,(居住していてもしていなくても)賃料発生が継続することになります。ただし,賃貸人が別の人にその物件を賃貸した場合は,その時点から(従前の賃借人の)賃料は発生しなくなります。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|建物賃貸借の中途解約の可否・中途解約違約金の有効性(賃料1年分基準)

9 中途解約権による定期借家の普及抑制効果

中途解約のリスクを考えていくと,ごく一般論としては,また別の借り手を探せば良いということが言えます。一定の空室リスクはありますが,余程急激に社会情勢が変わらない限りは,再度入居者が見つかることになりましょう。
しかし,現実的には,ローンを利用して収益物件を購入している場合など,一時的な収入減少でも,想定外の出費となることもあります。さらに,ファンドの資金運用の一環としての建物賃貸の場合は,もっとシビアです。ファンドの運用者(マネージャ)としては,人様(投資家)から預かった大切な資金です。収益を獲得して当然,より大きい収益を目的として資金を預かっています。潜在的・不確定なリスクでも,これを負う,という判断をすることには大きな責任を伴います。
そこで,ファンドの運用においては,定期借家のメリットは非常に魅力的ですが,中途解約権がそのメリットを弱めていることになります。
国土交通省の調査定期借家制度実態調査(不動産業者)2007年においても,(長期の)定期借家契約が普及しない理由として指摘されています。中途解約の制度が改正されれば,ファンドの運用・不動産流通市場も良い効果が生じる,という予測もあります。

10 定期借家における解約権留保特約(概要)

以上で説明したのは,法律上定められている(=法定の)中途解約の制度でした。これとは別に,特約で中途解約を認める方法もあります。つまり,解約権留保特約(条項)を設定しておけば,特約による解約もできることになります。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|定期借家における解約権留保特約(普通借家との比較)

本記事では,定期借家における中途解約権について説明しました。
実際には,細かい事情や主張・立証によって結論が違ってくることがあります。
実際に定期借家の解約についての問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。