1 定期借家における終了通知(遅れた通知の効果・黙示の更新)
2 定期借家における終了通知の条文(借地借家法38条4項)
3 終了通知の方法
4 契約期間が1年未満の場合の通知義務(なし)
5 終了通知がない場合の法的理論(基本)
6 通知期間経過後の終了通知の効果
7 終了通知がなく期間満了に至った場合の法的扱い
8 定期借家への民法619条の適用の有無(両方の見解)
9 再契約を行う場合の終了通知

1 定期借家における終了通知(遅れた通知の効果・黙示の更新)

定期借家は、(法定)更新がない契約で、期間が満了すれば確実に契約が終了することになります。普通借家とは大きく違います。
詳しくはこちら|定期借家の基本(更新なし=期間満了で確実に終了する)
ただ、定期借家契約を締結しても、契約の終了を知らせる通知がないと、契約が終了しないのと同じようなことになってしまいます。本記事では、このような定期借家契約の終了通知について説明します。

2 定期借家における終了通知の条文(借地借家法38条4項)

定期借家のケースの終了通知についてのルールは、借地借家法38条4項が定めています。最初に条文を押さえておきます。この通知が必要になるのは期間が1年以上の場合だけで、通知をする時期は、契約満了の1年前から6か月前の間と決まっています。

定期借家における終了通知の条文(借地借家法38条4項)

第一項の規定による建物の賃貸借において、期間が一年以上である場合には、建物の賃貸人は、期間の満了の一年前から六月前までの間(以下この項において「通知期間」という。)に建物の賃借人に対し期間の満了により建物の賃貸借が終了する旨の通知をしなければ、その終了を建物の賃借人に対抗することができない。ただし、建物の賃貸人が通知期間の経過後建物の賃借人に対しその旨の通知をした場合においては、その通知の日から六月を経過した後は、この限りでない。
※借地借家法38条4項

3 終了通知の方法

前述のように、終了通知は、借地借家法で期間が決まっています。一方で、通知する方法(手段)については何も定められていません。法律的には口頭で通知すれば足ります。ただし、実際に口頭で通知すると、後で、通知をしたかしていないかが分からなくなります。そこで、通知する書面を賃借人に渡して受領したことを示すサイン・押印をもらう方法が望ましいです。内容証明郵便で通知書を送付する方法でも、通知したことの記録化ができます。

終了通知の方法

終了通知は、通知期間内に当該通知が賃借人に到達することを要する。
通知の手段については条文上限定がなく、口頭で行うことも可能である。
しかし、将来の紛争の防止のために、配達証明付きの内容証明郵便によるか、または口頭もしくは書面による通知を行った事実について賃借人から確認の署名・押印を得ておくのがよい。
※吉田修平稿『新基本法コンメンタール 借地借家法 第2版』日本評論社2019年p241

4 契約期間が1年未満の場合の通知義務(なし)

前述のように、条文で、終了通知が必要なのは、期間が1年以上の場合だけと定められています。期間が1年未満であれば、賃借人がうっかり忘れていることを防止する(思い出させる)おそれは少ないので終了通知は不要となっています。
収益物件のオーナーの立場では、逆に終了通知を出し忘れるリスク、管理コストを負っています。終了通知を避けるために1年未満に期間を設定するケースもあります。

契約期間が1年未満の場合の通知義務(なし)

あ 趣旨

期間が1年未満の場合に、通知義務を免除しているのは、期間満了が近い将来のことであり、あらためて注意を喚起しなければ借家人が期間満了を失念するというおそれは小さく、通知義務の必要性は乏しいと考えられたからである。

い 通知義務の有無(なし)

1年未満の期間の場合には、通知をしなくても、賃貸人は期間満了による終了を賃借人に対抗することができる
※藤井俊二稿/稲本洋之助ほか編『コンメンタール 借地借家法 第4版』日本評論社2019年p320

5 終了通知がない場合の法的理論(基本)

実際に、定期借家の契約を締結しても、通知期間内に終了通知を出すことができなかった、というケースはよくあります。その場合にどうなるか、ということが条文に定められています。賃貸人は契約終了を賃借人に対抗できない結果となります。
期間の満了で契約は終了するのですが、(終了を前提とした)明渡請求ができない、という意味になります。契約期間が満了した後でも賃借人は退去しなくてよい状態だともいえます。ただし、無償で使用(占有)してよいことにはなりません。賃借人は、不当利得や不法行為として使用対価相当の金銭を支払うことになります。

終了通知がない場合の法的理論(基本)

あ 終了通知がない場合の効果

「対抗することができない」とは、実体法上の効力が生じているが、当該権利を主張する手続的要件に欠けている状態をいう。
すなわち、定期建物賃貸借は期間満了によって実体的には終了しているのであるが、賃貸人は、本項の賃貸借終了の通知をしなければ、期間満了により賃貸借が終了したことを賃借人に主張することができなくなり、賃借人に対して明渡しを請求することができなくなる

い 通知の法的位置づけ

したがって、この「終了の通知」は、賃貸人が賃借人に対して契約終了に基づいて建物明渡請求等権利を行使するための要件(権利行使要件)と解される。
※藤井俊二稿/稲本洋之助ほか編『コンメンタール 借地借家法 第4版』日本評論社2019年p321

う 契約終了後の法的扱い

ア 占有権原を否定する見解(裁判例) (終了通知がない場合の期間満了後の賃借人の占有について)
賃貸借契約は終了しており、賃借人は建物を権原なく占有することになる
※東京地判25年1月22日
イ 認められる請求権 (「ア」の見解を前提とすると)
契約期間満了時を始点として、通知から6カ月が経過するまでの期間は、一種の不法占拠状態となる。
賃貸人は賃借人に対して、不法行為による損害賠償または不当利得の返還を請求できる
賃借人は賃貸人に修繕請求をすることができず、必要費有益費の償還請求は民法196条によることとなる。
※藤井俊二稿/稲本洋之助ほか編『コンメンタール 借地借家法 第4版』日本評論社2019年p322
※吉田修平稿『新基本法コンメンタール 借地借家法 第2版』日本評論社2019年p241

6 通知期間経過後の終了通知の効果

通知期間が経過した後に、賃貸人が思い出して、遅れつつも終了通知をした場合にはどうなるでしょうか。借地借家法38条4項ただし書には、通知から6か月後には「この限りではない」と定められています。要するに、通知から6か月後に「契約終了を対抗できる」、つまり明渡請求が認められる、という意味です。
ここで、遅れた終了通知の時期が、まだ契約期間中であれば(通知遅れが6か月以内)であれば特に問題はありません。
しかし、契約期間満了後に終了通知をした場合は、解釈が分かれます。統一的見解はありません。
1つは、(契約期間中の終了通知と同じように)通知から6か月で明渡請求ができるようになるという見解です。
他の見解は、新たな賃貸借契約が始まるので、終了通知をしても意味がない(明渡請求はできない)という解釈です。

通知期間経過後の終了通知の効果

あ 通知期間経過後〜契約期間満了前

ア 規定 通知期間経過後に賃貸人が終了通知をした場合
通知から6か月後に賃貸人は賃借人に契約終了を対抗できることになる
※借地借家法38条4項ただし書
イ 趣旨 期間満了6か月前に通知をしなかったとしても、賃貸人がその後に通知をすれば、注意は喚起され、その後6か月の猶予期間を付与すれば賃借人保護に十分である
※藤井俊二稿/稲本洋之助ほか編『コンメンタール 借地借家法 第4版』日本評論社2019年p323

い 契約期間満了後

ア ただし書適用説 契約期間が満了した後に終了通知をした場合にも、借地借家法38条4項ただし書が適用される
”期間満了後も、いつでも、終了の通知をすることができ、通知の日から6か月経過すると契約の終了を賃借人に対抗することができる
※東京地判平成21年3月19日
※東京地判平成26年1月31日
※吉田修平稿『新基本法コンメンタール 借地借家法 第2版』日本評論社2019年p241
イ 新たな賃貸借発生説(概要) 終了通知がなく期間が満了した場合、新たな賃貸借関係が発生したことになる(後記※1

7 終了通知がなく期間満了に至った場合の法的扱い

前述のように、期間満了後に終了通知をすることを認める見解と否定する見解があります。終了通知を否定する見解は、期間満了後(すぐ)に普通借家が始まるという解釈です。この点、終了通知を認める立場も、期間満了から長期間が経過した場合には、一般条項により普通借家を認めることになります。結局、期間満了後すぐに普通借家に切り替わるのか、ある程度長期間放置されて初めて切り替わるか、という解釈の違いなのです。
裁判例では、契約満了から「長期間が経過」したことにより、普通借家への切り替えを認めたというものがあります。

終了通知がなく期間満了に至った場合の法的扱い(※1)

あ 短期間でも普通借家を認める学説

期間満了後も賃借人が使用を継続し、賃貸人も異議なく賃料を受領していた場合には、新たな賃貸借関係が発生したと解すべきである(民法619条の適用を肯定する見解)
(「長期間にわたって」まで至らなくても)
事情によっては、短期の使用継続、さらには1回だけの賃料授受を伴う使用があれば、普通借家契約の締結を認めることができよう
※藤井俊二稿/稲本洋之助ほか編『コンメンタール 借地借家法 第4版』日本評論社2019年p322、323

い 短期間では普通借家を認めない学説

ア 普通借家扱いへの批判 賃貸人が通知を行わないまま期間満了を迎えた場合は、定期借家契約が法定更新されるとの見解や黙示の更新を認める見解があるが、いずれも妥当ではない。
前者の法定更新するとの解釈は定期借家契約の制度目的に反するし、そもそも、定期借家契約が法定更新されるとすれば、更新後の契約の法的性質が明らかでない
普通借家契約においては、法定更新すると「期間の定めのない」契約となるが、仮に定期借家契約においても同様とすると、「期間の定めのない定期借家契約」というものがあり得るのかという問題が生ずることになる。
後者の見解については、・・・定期借家契約では黙示の更新を認めることはできないから妥当ではない。(注・定期借家では更新を排除することが本質である)
※吉田修平稿『新基本法コンメンタール 借地借家法 第2版』日本評論社2019年p241、242
イ 長期間の経過による普通借家扱い ごく例外的に、黙示的に新たな賃貸借契約が締結されたと認められる場合には、当事者間で黙示の賃貸借契約が成立することが考えられる
(定期借家契約の手続を履践していない以上、普通借家契約となる)。
賃貸人が、期間の満了により定期借家契約の終了を知りながら、あえて従前通り賃料を長期間受領し続けているような場合には、普通借家契約の黙示の締結が認められる場合が多いであろう(特に、その後、賃料の増額改定をしているような場合には、原則として認定されることになろう)。
また、賃貸人が、契約期間の満了を知りながら、あえて終了通知をせずに従前通り賃料を受領し続け利益を享受しておきながら、自分にとって都合のよい時点で突然終了通知をすることにより、賃借人に明渡しを迫るような場合には、権利濫用(民1③)などの一般条項によって制限が加えられることになると解される。
このように解することにより、賃貸人が故意に終了通知をしないことにより、定期の期間の定めを恣意的に伸長できることになりかねない、との弊害に対処することができ、また、終了通知が要求されない1年未満の定期借家契約において期間満了後に賃借人により使用継続された場合についても普通借家契約の黙示の締結を認めるとの統一的な対処が可能となる。
※吉田修平稿『新基本法コンメンタール 借地借家法 第2版』日本評論社2019年p242

う 裁判例

期間満了後、賃貸人から何らの通知ないし異議もないまま、賃借人が建物を長期にわたって使用継続しているような場合には、黙示的に新たな普通建物賃貸借契約が締結されたものと解する
※東京地判平成21年3月19日

8 定期借家への民法619条の適用の有無(両方の見解)

ところで、定期借家に民法619条が適用されるかどうかという解釈について、見解が分かれています。適用を認めた場合、終了通知がないまま期間満了に至った場合に新たな契約を認めるという前述の解釈につながります。この解釈も分かれていて統一的見解はありません。

定期借家への民法619条の適用の有無(両方の見解)

あ 民法619条適用否定説

ア 学説 定期借家は、・・・正当事由の規制による弊害を解消し、期間の満了により、契約が更新されることなく終了するものとして創設されたものである。
すなわち、正当事由制度の適用を排除するために契約の更新がないものとされ、期間の満了により終了するものとして制定された契約類型である。
したがって、その性質上、契約の更新ということは考えられないし、条文上も「契約の更新がない」ことを定めることができるものとされている。
定期借家契約においては、更新しない旨の明示かつ有効な合意が存在する以上、民法619条により黙示の更新がなされたものと推定される余地はない
また、民法619条は、契約の「更新」に関する規定である(注釈民法(15)312頁~〔石外克喜〕)。
以上より、定期借家においては、民法619条の黙示の更新の規定も排除される
※吉田修平稿『新基本法コンメンタール 借地借家法 第2版』日本評論社2019年p237
イ 裁判例 定期借家契約は、性質上、黙示の更新は認められない
※東京地判平成22年10月7日
※東京地判平成21年3月19日(同趣旨)

い 民法619条適用肯定説

民法619条は、更新に関する規定ではなく、「再賃貸借」に関する規定である
「更新」排除の特約(借地借家法38条)をしても、再賃貸借は排除されない
定期借家でも、民法619条による再契約(黙示の更新)は排除されない(適用される)
(借地借家法26条による更新だけが排除される)
※藤井俊二稿/稲本洋之助ほか編『コンメンタール 借地借家法 第4版』日本評論社2019年p313、314

う 民法619条の条文(参考)

(賃貸借の更新の推定等)
第六百十九条 賃貸借の期間が満了した後賃借人が賃借物の使用又は収益を継続する場合において、賃貸人がこれを知りながら異議を述べないときは、従前の賃貸借と同一の条件で更に賃貸借をしたものと推定する。この場合において、各当事者は、第六百十七条の規定により解約の申入れをすることができる。
2(略)
※民法619条

9 再契約を行う場合の終了通知

実際に定期借家契約が使われるケースでは、(更新ではなく)再契約が繰り返されることがとても多いです。再契約を行う場合は、退去しないのだから、終了通知は意味ないのではないか、という発想もあります。しかし、再契約は当初の契約が終了したことが前提となって、新たな別個の契約を締結するというものです。契約終了する以上は、終了通知も必要です。

再契約を行う場合の終了通知

あ 終了通知の要否

再契約を前提とする場合であっても、終了通知は行わなければならない
条件如何によっては再契約の合意に至らないこともあり得るからである。

い 再契約の意向表明の推奨

再契約の締結にあたっての注意事項として、再契約を希望する賃貸人は、期間満了についての終了通知を行うに際し、賃借人に対して再契約を行いたい旨をもあわせて通知するべきである。
※吉田修平稿『新基本法コンメンタール 借地借家法 第2版』日本評論社2019年p244

本記事では、定期借家契約における終了通知の制度や、終了通知がないまま期間が満了した場合の法的扱いについて説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的扱いや最適な対応方法は違ってきます。
実際に、定期借家契約の期間満了や明渡に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。