【共有の専有部分(区分所有権)の共有物分割の実例】

1 共有の専有部分(区分所有権)の共有物分割の実例

区分所有建物の専有部分(分譲マンションの1戸)が共有となっている場合に、これについて共有物分割をすることがあります。
この場合、区分所有法の分離処分禁止や、共有物分割は共有者全員で行うという基本ルールとの関係が問題となります。本記事では、いくつかのパターンの実例(裁判例)を挙げながら説明します。

2 1つの専有部分の共有物分割→換価分割

最初に、最も基本的なパターンです。1戸のマンションを対象とした共有物分割です。典型例のひとつは、離婚の時点でオーバーローンであるため、共有のまま(財産分与をしない)としておき、数年後に共有を解消するようなケースです。
詳しくはこちら|財産分与におけるオーバーローン不動産の扱い(全体で通算か清算対象からの除外)
もちろん、共有物分割はできます。
理論的には、土地の共有持分(敷地利用権)も共有物分割の対象となります。そして土地については1棟全体の専有部分の所有者(区分所有者)が共有者となっています。その多くの共有者のうち、一部だけで共有物分割を行うことになります。この点、共有物分割は共有者全員で行うという基本ルールがあります。
詳しくはこちら|共有物分割(訴訟)の当事者(共同訴訟形態)と持分割合の特定
この基本ルールに反しますが、実質的には専有部分の共有を解消するにとどまり、土地の共有者の間でなにか実害が生じるわけではないので許容されています。
また、区分所有建物の敷地(土地)の共有物分割は分離処分禁止との関係も気になります。しかし禁止されるのは専有部分と敷地で違う処分(分離処分)をすることです。
詳しくはこちら|区分所有建物の敷地の共有物分割の可否(複数見解)
専有部分と敷地(土地の共有持分)を一体として共有物分割をするのであればこれにあたらないといえます。

1つの専有部分の共有物分割→換価分割

あ 要点

共有物分割の対象は、専有部分と土地の共有持分(敷地利用権)であった
原告・被告が有する土地の共有持分は合計で168/10000であった
→土地については、共有者の一部だけの共有物分割となっていた

い 判決文引用(抜粋)

ア 所有関係・共有持分割合の認定 別紙物件目録記載ⅢないしⅤの不動産は、マンションの専有部分及びその敷地である(以下「本件マンション」という。)ところ、原告及び被告Y1の共有であり、共有持分は専有部分につき各2分の1、敷地部分につき各1万分の84である。
イ 分割方法の選択=換価分割 原告は、本件マンションを競売に付した上、その売得金を持分割合に応じて分割することを求め、被告Y1は分割方法について特段の主張をしない。
これら本件マンションについての諸事情を考慮すれば、本件マンションを共有持分に従い現物分割することは不可能であり、また、いわゆる価格賠償の方法による分割は当事者らが希望していない
したがって、同マンションについては競売の方法による共有物分割によることとする。
ウ 主文 別紙物件目録記載ⅢないしⅤの不動産(専有部分と土地の共有持分)は、これを競売に付し、その売得金から競売手続費用を控除した金額を、原告に2分の1、被告Y1に2分の1の割合で分割する。
※東京地判平成24年10月12日

3 1フロアの専有部分と土地の共有物分割→全面的価格賠償

区分所有となっているのは分譲マンションだけに限りません。建築資金の出し合った近親者で、フロア(やエリア)ごとに分ける(所有する)という区分所有の方式もあります。
ここでは、最上階の8階部分(の専有部分)と土地(敷地)が共有となっていて、これについて共有物分割をしたケースを紹介します。共有者A(原告)が、土地・建物ともに95%以上の共有持分を持っていました。さらにAは1〜7階(の専有部分)を単独所有していました。裁判所は、Aが他の共有者(被告)の共有持分を取得する全面的価格賠償を認めました。土地・建物ともにAの単独所有になるという結論なので、合理性があると判断しやすかったのです。

1フロアの専有部分と土地の共有物分割→全面的価格賠償

あ 要点

共有物分割の対象は、1つのビルの8階部分(専有部分)と土地(敷地)であった
いずれも原告・被告の共有であった(原告・被告以外の共有者はいなかった)
対象外の1〜7階(専有部分)は原告の単独所有であった

い 判決文引用(抜粋)

ア 権利関係 原告と被告は、原告持分48分の47及び被告持分48分の1の割合で別紙物件目録1ないし3記載の各土地(以下「本件土地」という。)を、原告持分24分の23及び被告持分24分の1の割合で同目録4記載の建物(以下「本件建物」という。)をそれぞれ共有している。
本件土地は、本件建物の属する一棟の建物(名称「aビル」。以下「本件ビル」という。なお、本件建物は、その8階部分に当たる。)の敷地となっており、本件土地及び本件ビルの位置関係は、概ね別紙図面のとおりである。
本件土地及び本件建物(以下、併せて「本件土地・建物」という。)は、被告とその親族らが相続により取得した物件として共有していたものであり、本件建物を除く本件ビルの各区分所有建物(同ビル1ないし7階部分)は、被告の親族個人又は同族経営の会社が所有していたものであるが、原告は・・・本件建物を除く本件ビルの各区分所有建物も、全て買い受けた
ウ 全面的価格賠償の相当性 これを本件についてみると、前記のとおり、本件土地について、被告の持分48分の1に相当する土地の面積は、約9.33平方メートルにすぎず、もともと土地としての社会的、経済的効用は乏しい上、別紙図面のとおり本件土地はほぼ全面が本件ビルの敷地として利用されていることから、いかなる現物分割をしても敷地の利用関係上の問題が残ることになる。また、本件建物についても、被告の持分24分の1に相当する床面積は、約6.43平方メートルにすぎず、区分所有方式等による現物分割は事実上不可能である。
しかも、本件建物は、現在空き家になっており、被告が自らこれを利用する必要性があるとはいえない上、これを失うことによる経済的な損失は、持分の適正な価格の賠償により評価されるものである。
原告は、自らこれを単独で取得する全面的価格賠償の方法により分割を希望しているところ、本件土地・建物の持分のほとんどが原告に帰属していることや、本件建物を除く本件ビルの各区分所有権も全て原告に帰属していることなども考慮すると、原告の単独取得とする合理性はあると認められる。
他方、被告も、分割方法として、現物分割や競売による換価は望んでおらず、被告の単独取得とする全面的価格賠償の方法も排除しないというが、被告の持分割合や被告個人の支払能力等を考慮すると、かかる分割案は合理的なものとはいえない。
原告が持分取得に当たり悪質な地上げ行為に関わったとまでは認められないことは、前記説示のとおりである。
これらの事情を考慮すると、本件土地・建物を原告に単独取得させるのが相当であると認められる。
エ 全面的価格賠償の実質的公平性 以上のとおり、本件土地・建物について、適正な価格評価をしたものと認められる本件鑑定の結果によれば、被告の持分の価格は、本件土地につき、4400万円、本件建物につき、80万円となるところ、原告は、単独取得の代償として、これを被告に賠償する意向を示しており、原告の会社としての規模等(甲1)に照らし、その支払能力に問題があるともいえないから、価格賠償の方法によっても共有者間の実質的公平が害されるおそれはないものと認められる。
オ 結論=全面的価格賠償 以上によれば、本件土地・建物の分割方法として、これを原告に単独取得させて被告の持分価格を賠償させるという全面的価格賠償の方法によるのが相当である
※東京地判平成23年2月22日

4 1棟内の専有部分の全部の共有物分割→現物分割

次は、近親者が、1棟の建物をいくつかのエリアに分けて、それぞれを共有していたというケースです。複数回の相続(遺産分割)によって、権利関係が複雑になっていました。1棟の建物に含まれる専有部分のすべてが共有となっていたのです。
裁判所は、一定のエリア(専有部分・部屋)は原告の単独所有として、残りのエリアは複数の被告の共有としました(現物分割)。もともと複数の被告の間では対立がなく、原告さえ除外されれば共有のままでよいという意向だったのです。

1棟内の専有部分の全部の共有物分割→現物分割

あ 要点

共有物分割の対象は、1棟の建物に含まれるすべての専有部分であった
土地(敷地)は対象に含まれていない
分割請求の前に区分所有登記がされていた
裁判所は、専有部分ごとに所有者を定める現物分割を選択した
土地は対象外なので、共有の状態が維持された

い 判決文引用(抜粋)

ア 複数居室をグループ化した区分所有登記 本件建物につき、昭和63年6月18日受付で区分所有登記がされ、そのうち1階部分の32.10m2(1階の114号室と115号室の2部屋分。以下、これらを合わせて「本件建物2」という。)については被告Y3を、その他の部分本件建物1)については被告Y1をそれぞれ所有者とする所有権保存登記がされた。
イ 権利関係 原告、被告ら及びEは、以下の内容を含む平成元年10月30日付けの遺産分割協議書(以下「第2次分割協議書」という。)に署名押印し、同協議書の記載どおりの遺産分割の合意をした(以下「第2次分割協議」という。)。
(ア)本件調布土地 被告Y2の持分を72401分の16500、被告Y3の持分を72401分の39401、原告の持分を72401分の16500とする。
(イ)本件建物 本件建物1につき、被告Y1の持分を7452分の1656、被告Y2の持分を7452分の1656、被告Y3の持分を7452分の2898とし、原告持分を7452分の1656とする。
本件建物2はすべて被告Y3の所有とする。
ウ 分割方法の選択=現物分割+部分的価格賠償 本件建物は1棟の共同住宅であり、1階は14部屋と管理人室、2階は11部屋、3階は9部屋に分かれており、このうち本件建物1は合計33部屋から成る。
各部屋は分離独立した構造になっているから、構造上、部屋ごとに区分所有権の対象となり、現物分割をすることが可能である。
したがって、本件建物1の各部屋については部屋ごとに現物分割する
これに対し、本件建物のうち各部屋以外の部分は、構造上分離独立していないから現物分割はできず、その用途、性質から共有とするのが相当であり、共有者である原告、被告Y2及び被告Y3の各共有持分に応じた共有とする。
各当事者の持分割合に基づく現物分割の結果生ずる各当事者の共有持分割合との過不足は、持分を超過して各部屋を分割取得すべき者に対し価格賠償を命ずることにより調整するのが相当である。
エ 主文 別紙1物件目録1記載の建物のうち1階114号室及び115号室を除く部分を次のとおり分割する。
(1)上記建物のうち、1階の101号室、106号室、108号室、2階の201号室、203号室、206号室、208号室の各部屋の区分所有権について、原告の所有とする。
(2)上記建物のその余の各部屋の区分所有権について、被告Y2(持分6210分の1656)及び被告Y3(持分6210分の4554)の共有とする。
(3)上記建物のその余の部分を、原告(持分7866分の1656)、被告Y2(持分7866分の1656)、被告Y3(持分7866分の4554)の共有とする。
(4)原告に対し、被告Y2は金5万8793円を、被告Y3は金16万1682円をそれぞれ支払え。
※東京地判平成20年11月12日

5 分有の区分建物1エリア内の全部の専有部分の共有物分割→現物分割

次に紹介する事案は(以上のものよりも)複雑です。2つの土地にまたがって、1棟の建物が建っていました。XY所有の土地の上の部分にはXYが所有する専有部分、Aが所有する土地の上には、Aが所有する専有部分があったのです。このように、縦に割ると土地・建物の所有者が一致するという形状なので、縦割の区分所有建物ということもあります。
本件では、XYの間で共有を解消することになりました。専有部分は複数あったので、それぞれを原告と被告に振り分けました(実際には被告は複数人なので被告グループです)。
分け方自体はありふれていますが、1棟の建物としてはAの土地を使用しています。そこで土地の利用権原をどのように扱うか、ということが問題となります。結論としては、判決の中で敷地権の設定をするという措置でクリアしました。もっと詳しくいうと、本来、分離処分禁止の適用なし、となるところを、例外的に、適用あり、という解釈を採用する、という特殊な処理がなされているのです。

分有の区分建物1エリア内の全部の専有部分の共有物分割→現物分割

あ 要点

ア 事案の特徴 分有タイプの区分建物があった
共有物分割の対象は、1つのエリアに含まれる全部の専有部分であった
そのエリア内の専有部分とその敷地(土地)の共有者全員が当事者となっていた
判決の中で敷地権の設定を行った
土地(敷地)は共有物分割の対象ではなかった
分離処分禁止の規定について、本来は適用がなかったが例外的に適用することとした
イ 権利関係の整理 建物 1棟の建物のうち本件建物(専有部分) 1棟の建物のうち本件建物以外 土地 本件建物の敷地部分 本件建物以外の敷地部分 所有 (土地・建物ともに)XY (土地建物ともに)A信組

い 判決文引用(抜粋)

ア 権利関係・物理的位置関係 本件建物を構成する一棟の建物は、本件土地及びA信用組合が所有する千代田区外神田〈番地略〉所在の土地上に昭和五五年八月三〇日に新築された一棟の建物で、本件建物は本件土地上に、A信用組合の専有部分は同信用組合の所有土地上にそれぞれ位置している縦割りの区分所有建物である。
イ 分離処分禁止の適用の有無 ところで、本件建物を構成する一棟の建物は右1(一)のとおり縦割りの区分所有建物で、その敷地利用関係はいわゆる分有形式のものであるから、A信用組合の専有部分と本件建物とについては建物の区分所有等に関する法律二二条に定める一体性の原則の適用がない場合と認められ、したがって同法附則八条の適用は考慮する必要はないものと解すべきである。
しかしながら、前認定のような本件土地・建物の位置関係及び本件土地・建物につき共有物分割の請求がなされ本件建物の三〇一号室及び三〇二号室を分割するのが最も現実的である現状を考慮すると、現時点においては本件建物を各室に区分するのが相当であり、同法二二条三項を類推適用し、本件土地を本件建物の敷地となし、種類を所有権をする敷地権を設定し、これと各室とを一体のものとして扱い
ウ 分割方法の選択=現物分割 その上で、三〇一号室及び三〇二号室並びに右各室に付随する敷地利用権を一体とした区分所有権を原告に分割するのが相当である。
エ 部分的価格賠償(金銭による調整) 更に、右各室を原告に分割したとしても他の共有者との関係において原告の取得部分が価格にして七六九万九〇〇〇円不足すると認められるところ、鑑定に際し比準のための資料とした取引事例の取引時点から以後土地価格が下落傾向にあることは被告ら主張のとおりであるが、鑑定においても地価が弱含みであることを考慮して時点修正を一応施していることなど本件記録上認められる諸事情を総合考慮すれば、被告らにおいて原告に対し、七六九万九〇〇〇円の価格賠償をするのが相当である。
オ 主文 一 別紙物件目録記載の土地は、原告の持分一〇〇分の一三、被告清田武及び被告清田富子の持分各一〇〇分の四〇、被告清田伍郎の持分一〇〇分の七ずつの共有であることを確認する。
二 別紙物件目録記載の土地を同記載の建物の敷地となし、種類を所有権とする敷地権を設定し、かつ、別紙物件目録記載の建物を各独立した部屋ごとに分割し、同建物三〇一号室(床面積30.69平方メートル)及び三〇二号室(床面積32.06平方メートル)並びに右各室に付随する敷地利用権を一体とした区分所有権原告に、その余の専有部分にかかる区分所有権被告らに分割する。
三 被告らは、前項の分割による登記手続きをしたうえ、原告に対し、前項の原告の所有となった区分所有建物について共有物分割を原因とする移転登記手続きをせよ。
四 被告らは、原告に対し、各自金七六九万九〇〇〇円を支払え。
※東京地判平成4年5月6日

6 共有物分割の当事者は共有者全員ルールの例外(参考)

区分所有建物の専有部分の共有物分割では、当事者のルールの例外となっています。
たとえばA1・A2が専有部分を共有している場合、共有物分割の対象は専有部分の所有権(A1持分とA2持分)だけではなく、敷地利用権である土地の所有権のうち、A1持分とA2持分も含めます。専有部分(建物)と土地の共有持分の一括分割ということになります。
土地の共有者はA1〜A100の100人であっても、共有物分割の当事者は100人全員ではなくA1・A2の2人だけということになります。当たり前のように思えますが、「共有物分割の当事者は共有者全員」というルールの例外ということになります。
詳しくはこちら|共有物分割(訴訟)の当事者(共同訴訟形態)と持分割合の特定

7 区分所有とすることを伴う現物分割(参考)

以上で説明したのは、最初から区分所有建物となっていることが前提でした。これとは別に、区分所有建物ではない建物を対象とした共有物分割を行い、その手続の中で(新たに)区分所有とするという手法もあります。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|区分所有とすることを伴う現物分割

本記事では、区分所有建物の専有部分についての共有物分割の実例を紹介しました。
実際には、個別的な事情によって、法的解釈や最適な対応方法が違ってきます。
実際に区分所有建物(分譲マンションや1棟の収益建物)の共有に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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