【結婚制度の不合理性(婚費地獄・結婚債権・貞操義務の不公平・夫婦同姓など)】
1 結婚制度(法律婚)の不合理性
日本には古くから結婚(法律婚・婚姻)によって家族をつくるという文化がありました。
時代の変化とともに、社会の実情と整合しない、つまり不合理が目立つようになってきました。
本記事では、結婚(法律婚)の制度全体の不合理な点に関して説明します。
2 結婚に適用されるルールの全体像
昔は『結婚』は『夫婦』、『婚姻』は『夫婦+それぞれの家族』の結合というようにニュアンスが違っていました。
現在では俗称と法律用語(正式用語)というくらいの違いしかありません。
まずは法的な『婚姻』について適用される規定や制度をまとめます。
婚姻(法律婚)に適用されるルールの全体像
あ 『婚姻』に適用される民法上の規定
・夫婦同姓;民法750条
・同居義務;民法752条
・夫婦間の契約取消権;民法754条
・貞操義務;民法770条1項1号
・相互扶助義務(扶養義務・婚姻費用分担義務);民法752条、760条
・日常家事債務の連帯責任;民法761条
・離婚時の財産分与(共有財産制);民法762条、768条
・子供の共同親権;民法818条3項
・相続権;民法900条1号
い 『婚姻』を保護する公的制度の規定
・厚生年金
・国民年金
・健康保険(医療保険)
それぞれの内容は順に説明します。
3 夫婦の扶養義務・婚姻費用分担金|収入差が大きいと送金月額も大きい
婚姻、つまり夫婦に適用される『法的義務』のうち『経済的』なものを説明します。
(1)相互扶助義務(扶養義務・婚姻費用分担義務)
簡単に言うと、夫婦は相互に『扶養義務』があります。
この点、『扶養義務』は親子間にもあります。
『親子の扶養義務』は、婚姻の有無とは関係なく存在します。
ここでは『親子の扶養義務』は除外し、夫婦についてだけ説明します。
(2)別居すると扶養義務が表面化する|婚姻費用分担金
『夫婦の扶養義務』は、平常時には意識しません。
表面化するのは、『別居』など、夫婦の仲が破綻した時くらいです。
生活が別になると『生活費の送金』として金額を設定することになります。
これを『婚姻費用分担金』、略して『婚費(こんぴ)』と言います。
(3)収入が大きいと婚姻費用も高額になる
婚費の金額は、主に経済力、具体的には収入によって算定されます。
収入の差が大きいと婚費月額も大きくなります。
婚費算定の例
| 夫の収入 | 5000万円 |
| 妻の収入 | ゼロ(専業主婦) |
| 婚姻費用月額 | 約27万円 |
これはあくまでも『子供がいない場合』、つまり『妻の生活費だけ』というものです。
婚費が高い場合、次の『離婚までが長期化』と組み合わさり『異常現象』が生じます。
4 結婚は解消が難しい|3大離婚原因は暴力・不貞・別居の長期化
婚姻は2人と役所に届出をすれば完了しますが、『解消』はちょっと違います。
もちろん、2人で『離婚届』に調印して届け出れば『協議離婚』が成立します。
逆に一方でも『拒否』した場合は『協議離婚』は成立しません。
この場合、離婚を求める側は、離婚訴訟を提起します。
裁判所は『離婚原因』の判断をします。
『性格の不一致』程度のヤワなことでは裁判所は離婚を認めません。
離婚原因として認められないことが多いもの
ア 嫁姑の不仲・『妻が姑の介護をしてくれない』イ 相手が精神病・認知症・重度障害になったウ モラルハラスメントエ 『無計画な借金』・破産オ セックスレス(程度による)
嫁姑問題・浪費・行方不明などは程度によっては離婚原因となる
詳しくはこちら|セックスレス(性交渉拒否)は程度によっては離婚原因となる
5 婚姻費用×離婚までが長期化→支払総額が異様に大きくなる;結婚債権
(1)毎月の婚費支払が延々と続く|婚費地獄
婚姻費用、つまり別居中の毎月の生活費送金が大きい場合、『異常な事態』に至ることがあります。
『妻が離婚に応じてくれない』というものです。
一方が離婚を拒否する限り、『協議離婚』は成立しません。
夫は離婚訴訟を提起することになります。
裁判所が離婚を認めてくれれば妻がどんなに反対しても離婚は成立します。
しかし『離婚原因』が認められるハードルは非常に高いです。
妻に暴力・不貞(不倫)がない限りは10年以上の別居期間が必要となることもあります。
詳しくはこちら|有責配偶者からの離婚請求を認める判断基準(3つの要件)
そうすると『異常な事態』となります。
婚費地獄
別居後、毎月高額の婚費を支払い続ける状態が延々と続く
(2)将来の婚費蓄積額の『譲渡』|金融取引類似
この時点で『離婚条件の交渉』という名の『金融商品取引』が行われます。
離婚条件交渉=将来債権の買取
あ 婚費の将来債権の買取
将来の離婚成立時までの期間の『婚姻費用蓄積額』の支払を引き換えに妻が協議離婚に応じる
い 具体例
例;夫の収入=5000万円(前述)
離婚の条件=婚費月額27万円×120か月=3240万円
↑『別居期間10年で裁判所が離婚を認める』という設定
離婚訴訟の実質的な争いは『条件』,離婚請求棄却判決後は『別居+婚費地獄』
金融取引では『将来債権(債券)の買取』としてよく行われるものです。
交渉だけではなく、裁判で裁判官が将来債権の買取を命じることもあります。
『扶養的財産分与』と言います。
離婚後の生活費の支払(保障)が認められることもある(扶養的財産分与)
(3)結婚の時点で既に『結婚債権(債券)』を獲得している
このことから、実は、結婚の時点で『妻は潜在的な経済的価値を獲得した』と言えます。
金融取引として見ると『結婚債権』を入手した、と言えます。
その対価は、裁判所も認める『美貌の価値』という見解もあります。
詳しくはこちら|『女性の美貌』の経済的価値|判例における逸失利益の算定
しかしこれは『収入を失った』ことによる逸失利益の算定ですので、結婚には当てはまらないでしょう。
なお、この点、結婚紹介所は『金融商品取引業』という見方もできます。
現実に『成婚料』として『男性の収入のn%』という設定が多いようです。
詳しくはこちら|紹介料相場・広告規制|保険サイト・結婚相談所・不動産仲介
6 結婚のその他の法的義務・制度|財産分与・相続権・苗字・同居義務
扶養義務以外の結婚の経済的義務を説明します。
『婚費地獄』『結婚債権』と比べたら、まだ常識的なものです。
(1)離婚時の財産分与
離婚時に、それまでの財産の蓄積を清算するものです。
財産分与の基本的算定
婚姻時以降の収入 × 2分の1
分与対象は『婚姻時以降の収入』ですが、具体的には『破綻時(別居時)の残高』を通常使います。
分与割合は例外もあるが、現在では男女平等で『2分の1』が使われるのが原則です。
詳しくはこちら|財産分与割合は原則として2分の1だが貢献度に偏りがあると割合は異なる
(2)相続権
夫婦の状態で一方が亡くなると、他方は『配偶者』として法定相続人になります。
法定相続分(割合)や遺留分割合は、親・子供・兄弟を押さえてトップ(or同順位)とされています。
配偶者の相続権
| 法定相続分 | 2分の1以上 |
| 遺留分 | 4分の1以上 |
仮に『相続を期待』していたとしても、亡くなる前に『離婚』すれば相続権はなし、となります。
この点例外的に『将来の相続への期待』として財産分与を上乗せした判例もあります。
『結婚制度』の過剰な保護の発現の1つです。
離婚後の生活費の支払(保障)が認められることもある(扶養的財産分与)
(3)夫婦同姓=苗字の問題(選択式別姓)
夫婦は『いずれかの苗字(姓)』を用いることとされています(民法750条)。
以前の『専業主婦全盛』の時代にはマッチしていました。
『主人』という語法から分かるように、かつては『支配・従属』という文化・観念が強かったのです。
しかし現在では『苗字を変える』ことは仕事を中心に支障がある・好ましくない、ということも多いです。
別姓・同姓を自由に選べる『選択式別姓』の提唱も合理性がありましょう。
しかし法改正がなされないまま条文は放置されています。
最高裁も今のところ合憲と判断しています。
詳しくはこちら|夫婦同姓の制度の問題点(全体)と不都合を避ける方法
(4)同居義務
民法上、夫婦は同居義務があります(民法752条)。
しかし、破綻している場合は免除されます。
そもそも強制執行は認められません。
当然ではありますが、現実的な意味は薄いです。
詳しくはこちら|夫婦の同居義務(強制執行不可・同居義務違反と離婚原因・有責性)
(5)再婚禁止期間(結婚前の不合理な拘束)
『結婚による義務・拘束』とはズレますが『結婚前』に不合理なルールがあります。
女性だけ『以前の離婚から6か月』は結婚できないのです。
『再婚禁止期間(待婚期間)』と呼んでいます。
不合理・不平等なので、訴訟が提起され、最高裁の判断が待たれている状態です。
最高裁の審理
次回弁論期日=平成27年11月4日
7 貞操義務|一夫一妻制|『正妻』の過剰保護
(1)貞操義務=一夫一妻制
『不貞』つまり、配偶者以外との性交渉は『不貞行為』として離婚原因となります。
条文には『貞操義務』とは書いてありませんが、『不貞→離婚』の裏返しとして夫婦の根本的な義務とされています。
つまり性的に配偶者を『独占』するというシステムなのです。
『一夫一妻制』です。
明治31年(1898年)、民法のうち『親族・相続』のセクションの施行時から導入された制度です。
(2)恋愛禁止→不貞は慰謝料+結婚債権大幅増額
貞操義務に違反すると、相手(配偶者)に対する『慰謝料』支払義務が生じます。
なお、同時に『不貞相手』も慰謝料支払義務を負います(後述)。
不倫の慰謝料の理論(破綻後・既婚と知らないと責任なし・責任を制限する見解)
不貞(不倫)は、『慰謝料』以外の不利益が発生します。
離婚が認められるまでの『別居期間』が長期化するのです。
『不貞をした者』からの離婚請求は一気にハードルが高くなるのです。
詳しくはこちら|有責配偶者からの離婚請求を認める判断基準(3つの要件)
別居期間が20年でようやく離婚が認められる、という事例もあります。
『想定される別居期間』が一気に延びるのです。
これを前提に『将来の婚費総額』を計算するととんでもない金額になります。
離婚条件交渉=将来債権の買取|有責バージョン
例;夫の収入=5000万円(前述)
離婚の条件=婚費月額27万円×240か月=6480万円
↑『別居期間20年で裁判所が離婚を認める』という設定
協議離婚の条件交渉はこの金額が1つの目安とされます。
不貞のペナルティは慰謝料ではなく『婚費の蓄積額増額』なのです。
(3)セックスレス×不貞
一般的に結婚後『セックスレス』になることはよくあります。
仮に『一方の意欲は強い』という場合に問題が生じます。
『性交渉拒否』という状態です。
理論的には、長期化した場合は『離婚原因』として認められます。
しかし、拒否の理由や程度・期間によっては離婚原因にはなりません。
また『拒否』ということの立証のハードルも高いです。
『八方ふさがり・生殺し状態』が完成します。
妻の性交渉拒否×結婚制度の拘束→生殺し
あ 離婚を求める作戦
妻が協議離婚に応じない限り裁判にしても離婚できないことも多い
い 外部調達=不貞行為した場合
慰謝料+婚費支払期間の長期化(協議離婚の条件が一気に高額化)
詳しくはこちら|セックスレス(性交渉拒否)は程度によっては離婚原因となる
(4)『貞操義務』の拡がり→『正妻』の過剰保護
『貞操義務』は非常に強く保護されています。
この『過剰な保護』が『夫婦以外の領域』にあふれ出してきているのです。
貞操義務の反射=正妻の保護あれこれ
あ 『不貞相手』の不法行為責任
一般論では『債権侵害』として『夫婦間』の責任にとどまる
しかし『貞操』の保護強化のため『不貞相手』まで責任が拡張されている
不倫の慰謝料の理論(破綻後・既婚と知らないと責任なし・責任を制限する見解)
い 婚外恋愛に関する財産の動きが否定される
『婚外恋人』との間の金銭などの請求・返還が否定される
『貞操に反する交際』ということが理由である
『既婚男性』が『婚外女性』から『小悪魔戦術』を受けることもある
既婚者の男女交際の民事的な違法性を悪用した小悪魔戦術・不倫ビジネス
う 婚外恋人から慰謝料請求を受ける
『独身だと思わせて交際した』場合は、相手(恋人)に対する不法行為になる
詳しくはこちら|既婚を隠した交際・恋愛は慰謝料が認められやすい|恋愛市場の公正取引
え マスコミ・インターネッツでの暴露が許される
社会的地位などの状況によっては『不貞』の公表が許される
つまり『貞操義務違反を暴く』ことは『名誉毀損』『プライバシー侵害』を否定する『公益目的』の1つとなる
詳しくはこちら|プライバシー権のまとめ|判例の基準|定義の発展
『正妻の保護』は非常に強いのです。
これを利用した『既婚男性の遊びの交際の後始末を正妻が行う』という類型があるくらいです。
不倫の慰謝料請求における実務的攻防(関係回復誘引・権利濫用・訴訟告知・冤罪リスク)
(5)『貞操義務』の延長→『結婚しないと犯罪』現象=強制結婚
『貞操義務』を強化する延長線上に、ちょっとおかしな現象が生じています。
『結婚しないと犯罪』という状況が発現することがあるのです。
詳しくはこちら|青少年育成条例の『みだらな性交』の解釈と明確性の原則違反
(6)経済力がない『正妻』は実質的貞操義務なし
貞操義務は物理的に強制できません。
『不貞』があった場合に、慰謝料請求ができる、ということです(金銭賠償の原則;民法417条)。
例えば専業主婦である『正妻』が不貞をした場合は、『無力』です。
慰謝料を請求しても、独自の財産(特有財産)がない、ということもあるのです。
差し押える財産がなければ『債権』があっても実質無意味です。
経済力ある男性(夫)の立場としては、同じ不貞でも『自分は法外な責任・相手(妻)は実質責任ゼロ』ということになります。
もともと、両方とも『契約や金銭で縛る』というのは不合理です。
相手の行為・愛情を縛れるのは『自分の魅力』だけなのです。
実際に『妻が複数男性と不倫』という事例で『妻の有責』を『保護』した判例もあります。
『夫の抗議・高収入(年収約960万円)』を理由に『妻からの離婚請求』を例外的に認めた、というものです。
詳しくはこちら|フランス人の有責配偶者からの離婚請求を認めた裁判例
8 子供|親子関係の『推定』の誤作動・『結婚or中絶』→少子化現象
(1)結婚中の出産は戸籍の届出が簡略化されている
結婚していると『子供を戸籍に載せる』ことがスムーズです。
出生届を役所に提出すれば『夫・母』の『嫡出子』として記録されます。
『嫡出推定』というルールです。
詳しくはこちら|嫡出子・嫡出推定|基本|差別的ニュアンス・再婚禁止期間・準正
(2)嫡出推定の『誤作動』があると修正の『時間制限』が厳しい|平成26年最高裁
この便利さが『誤作動』として発現することもあります。
要するに『別の父親の子なのに戸籍上の『夫』の子供になってしまう』ということです。
もちろん、誤った戸籍にしない・修正する手続は用意されています。
『嫡出否認の訴え(調停・審判)』という手続です。
しかしこの手続は『子供の出生後1年』という時間制限があるのです。
『時間オーバー』の後に、DNA鑑定で明らかに『父子ではない』と判明しても戸籍を修正することはできません(平成26年最高裁)。
『妻の不倫相手の子供が自分(夫)の嫡出子』という戸籍の状態を解消できないのです。
詳しくはこちら|嫡出否認・申立期間制限|DNA鑑定との関係・見解の対立・最高裁判例
これを踏まえて、次のようなキャンペーンが展開されているとか。
DNA鑑定業者のキャンペーン
『1歳の誕生日までにDNA鑑定で安心しよう』
9 結婚制度が晩婚化・未婚化・少子化につながっている
以上は、結婚制度の『過保護』なルール、つまり不合理性の説明でした。
この『過剰な負担』のために『結婚すること自体を避ける』という現象が生じています。
結局『不合理な法律の存在』が『自由な意思で結婚できる』ことを妨害しているといえます。
『出産にブレーキをかける』という影響も及ぼしています。
『両性の合意のみ』で結婚できる、という憲法のルールに反している、と言えます。
現在の結婚の制度=法律は、違憲であり無効だ、と主張して訴訟をしている人もいるのです。
結婚制度が恋愛市場に及ぼす影響
あ 結婚制度が恋愛に及ぼす影響
結婚制度の不合理性を避けるために
交際している男女が別れる(交際を解消する)
い 代表的な具体例
ア 経済力のある男性過剰な負担があるため、結婚を避ける
イ 一般的な女性『結婚』できないなら、子供を作らない(別れる)
う 社会的現象
晩婚化・未婚化・少子化として現れる
このように『結婚に執着する方』のシェアが高いのです。
これは別の記事で詳しく説明しています。
詳しくはこちら|結婚宗教説|『結婚』という2文字に固執して幸せ獲得機会を喪失する信仰
本記事では、結婚制度自体についての不合理なところを説明しました。
当然ですが、現在の制度・法律は、不合理であっても実際のトラブルに適用されてしまいます。
とはいっても、具体的なトラブルの解決の中で、結婚制度の不合理性の主張・立証のやり方によっては、解釈や適用に影響が出てきます。つまり、結論が大きく変わってくることがあるのです。
本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
多額の資金をめぐる離婚の実務ケーススタディ
財産分与・婚姻費用・養育費の高額算定表
2021年10月発売 / 収録時間:各巻60分
相続や離婚でもめる原因となる隠し財産の調査手法を紹介。調査する財産と入手経路を一覧表にまとめ、網羅解説。「ここに財産があるはず」という閃き、調査嘱託採用までのハードルの乗り越え方は、経験豊富な講師だから話せるノウハウです。


