1 夫婦の同居義務
2 夫婦の同居義務の条文
3 同居義務の審判の可否(判断基準)
4 同居義務の履行の強制執行の可否(否定)
5 同居義務違反と有責性の関係
6 同居義務違反による不利益(概要)
7 長期間の別居による離婚原因の成立(概要)

1 夫婦の同居義務

夫婦には同居義務があります。これ自体は当たり前といえます。
しかし,実際に同居を要求する,あるいは強制する法的手続があるかという問題や,同居しないことによってどのような不利益が生じるか,という問題があります。
本記事では,このような問題について説明します。

2 夫婦の同居義務の条文

最初に,夫婦の同居義務を定める民法の規定を押さえておきます。この条文には夫婦の相互扶助義務も記載されていますが,本記事では同居義務だけを説明します。

<夫婦の同居義務の条文>

(同居、協力及び扶助の義務)
第七百五十二条 夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。

3 同居義務の審判の可否(判断基準)

夫婦の一方が同居義務を果たさないケースを考えます。つまり,家を出て戻らない状況であり,いわゆる別居のことです。
まず,裁判所が審判として同居を命じるということは可能でしょうか。無駄なことのようにも思えますが,裁判所の審判がきっかけとなり,同居が再開する可能性もゼロとはいいきれません。
そこで,家を出た者が家に戻る可能性が僅かでもあるというケースでは,同居の審判(調停)の申立をすることが可能です。

<同居義務の審判の可否(判断基準)>

同居を拒んでいる夫婦の一方に対し,同居を命ずる審判をすることについて
同居を命じることにより,同居が実現し,円満な夫婦関係が再構築される可能性が僅かでも存在すると認められることが必要である
=同居を拒んでいる者が翻意して同居に応じる可能性が僅かでもあること
※札幌家裁平成10年11月18日

4 同居義務の履行の強制執行の可否(否定)

裁判所が同居を命じる審判をして,これが確定したケースを考えます。家を出た者がこれに応じて家に戻れば良いですが,同居を拒否したままであったらどうでしょう。
同居が義務であるということは,確定審判によって強制的に家に戻すことができるという発想もあります。
しかし,夫婦の同居義務は,仲良く暮らすという趣旨のものです。仮に強制執行で同居を実現したとしても,これで夫婦の仲が良くなるわけではありません。このような特殊な性質があるので,強制執行はできないことになっています。

<同居義務の履行の強制執行の可否(否定)>

同居義務は,その性質上任意に履行されなければその目的を達成できないものである
いかなる方法によってもその履行を強制することは許されない
※大判昭和5年9月30日
※札幌家裁平成10年11月18日

5 同居義務違反と有責性の関係

結局,同居義務の履行の強制執行はできないので,家を出て戻らないことは法的に問題はないのでしょうか。
まず,同居義務違反は,(広い意味で)責任があることになります。有責性ともいいます。ただし,必ず有責となるわけではありません。すでに夫婦関係が破綻しているとか,関係が悪化するような事情を相手が作ったような場合には家を出ても有責とはなりません。

<同居義務違反と有責性の関係>

あ 基本的部分

正当な理由なく別居すれば同居義務違反となる
有責といえる

い 正当な理由の典型例

ア 婚姻関係が破綻している
イ 別居の原因を他方配偶者が作っている
※松本哲泓著『婚姻費用・養育費の算定−裁判官の視点にみる算定の実務−』新日本法規出版2018年p27,28

6 同居義務違反による不利益(概要)

前記のように同居義務違反として有責となった場合には,いろいろな面で不利益を受けることになります。
典型例は,婚姻費用分担金の請求ができなくなる,あるいは,減額されるという扱いです。
詳しくはこちら|婚姻費用と有責性との関係(減額される傾向や減額の程度)
なお,養育費については有責性は原則として影響しません。
詳しくはこちら|養育費と有責性との関係(原則(影響なし)と特殊事情による例外)

また,同居義務違反として慰謝料(債務不履行の損害賠償)が生じるという発想もあります。
しかし,前記のように,国家が同居を強制することはできません。慰謝料を認めると,同じように同居を強制することと同じようなことなります。そこで同居義務違反自体を理由とする慰謝料請求は認められません。

7 長期間の別居による離婚原因の成立(概要)

別居期間が長期間続くと,離婚原因として認められることがあります。夫婦の仲が悪化して回復する可能性がないと考えられるので離婚が認められることになるのです。
詳しくはこちら|長期間の別居期間は離婚原因になる(離婚が成立する期間の相場)
なお,収入の中心を担う者(一般的には夫)が,家を出て,かつ生活費も渡さない,ということもあります。このような状態は悪意の遺棄という(法定)離婚原因に該当することもあります(民法770条1項2号)。
詳しくはこちら|離婚原因の意味・法的位置付け

本記事では,夫婦の同居義務について説明しました。
実際には個別的事情によって結論は違ってきますし,また,主張の中での同居義務(不履行)”の使い方によっても結論が違ってきます。
実際に同居義務(の不履行である別居)に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。