【固定資産税の賦課期日や建物の新築基準時点と台帳課税主義】

1 固定資産税の賦課期日(基本)
2 新築建物の固定資産税の課税時期(工事完了時)
3 固定資産税の賦課期日・台帳課税主義が問題となる典型例
4 固定資産税・都市計画税の台帳課税主義
5 税法の台帳課税主義と民法の違い
6 台帳課税主義には合理性があり有効である
7 債権者代位による相続登記にも台帳課税主義が適用される
8 登記上の所有者は納税後に真の所有者に請求できる
9 共有物の固定資産税の連帯納付責任(参考)
10 固定資産税の評価や税額算定(参考)

1 固定資産税の賦課期日(基本)

本記事では固定資産税の課税についての問題を説明します。なお,基本的に都市計画税の扱いも同様です。
まずは固定資産税課税の基準時点についての規定をまとめます。

<固定資産税の賦課期日(基本)>

あ 賦課期日

固定資産税の課税に関する基準時点
→1月1日である
『賦課期日』と呼ぶ
※地方税法318条

い 年内同一現象

地目変更や新築の日について
→1月2日でも12月31日でも同じ課税となる

う 節税策|具体例

建物完成予定日が年末付近である場合
→完成を1月2日以降にずらす
=1月1日には建物が未完成である
→この年の固定資産税は発生しない
→1年分の固定資産税が浮くことになる

2 新築建物の固定資産税の課税時期(工事完了時)

建物の新築については固定資産税の基準時点が問題になります。
判例で示された判断を紹介します。

<新築建物の固定資産税の課税時期(工事完了時)>

新築の家屋が固定資産税の課税客体となる時期
→一連の新築工事が完了した時である
※最高裁昭和59年12月7日

3 固定資産税の賦課期日・台帳課税主義が問題となる典型例

賦課期日のルールは『台帳課税主義』との関係も問題となります。
これについてまとめます。

<固定資産税の賦課期日・台帳課税主義が問題となる典型例>

あ 台帳課税主義(概要)

固定資産税の納税義務者
→原則として登記上の所有者である(後記※1

い 賦課期日×台帳課税主義|具体例

年内に売買による所有権移転が生じた
登記を年明けの1月2日以降に行った場合
→1月1日時点の『登記上の所有者』は売主のままである
→新年の固定資産税は『売主』に課税される

4 固定資産税・都市計画税の台帳課税主義

固定資産税の課税(と都市計画税)では台帳課税主義というルールがあります。所有者に課税されることを前提として,その「所有者」は,登記に「所有者」とするというルールです。仮に実体と登記が食い違っていても登記だけで判断する,ということです。
なお,登記上の所有者が存在しない場合は,例外的に,実体上の所有者が課税義務者となります。具体的には,登記上の所有者が既に亡くなっているか,(法人が)消滅している場合です。

<固定資産税・都市計画税の台帳課税主義(※1)

あ 条文

ア 固定資産税 (固定資産税の納税義務者等)
第三百四十三条 固定資産税は,固定資産の所有者(質権又は百年より永い存続期間の定めのある地上権の目的である土地については,その質権者又は地上権者とする。以下固定資産税について同様とする。)に課する
2 前項の所有者とは,土地又は家屋については,登記簿又は土地補充課税台帳若しくは家屋補充課税台帳に所有者(区分所有に係る家屋については,当該家屋に係る建物の区分所有等に関する法律第二条第二項の区分所有者とする。以下固定資産税について同様とする。)として登記又は登録がされている者をいう。この場合において,所有者として登記又は登録がされている個人が賦課期日前に死亡しているとき,若しくは所有者として登記又は登録がされている法人が同日前に消滅しているとき,又は所有者として登記されている第三百四十八条第一項の者が同日前に所有者でなくなつているときは,同日において当該土地又は家屋を現に所有している者をいうものとする。
※地方税法343条1項,2項
イ 都市計画税 (都市計画税の課税客体等)
第七百二条(略)
2 前項の「価格」とは,当該土地又は家屋に係る固定資産税の課税標準となるべき価格(第三百四十九条の三第九項から第十一項まで,第二十一項から第二十三項まで,第二十五項,第二十七項から第三十項まで,第三十二項又は第三十三項の規定の適用を受ける土地又は家屋にあつては,その価格にそれぞれ当該各項に定める率を乗じて得た額)をいい,前項の「所有者」とは,当該土地又は家屋に係る固定資産税について第三百四十三条(第三項,第九項及び第十項を除く。)において所有者とされ,又は所有者とみなされる者をいう。
※地方税法702条2項

5 税法の台帳課税主義と民法の違い

台帳課税主義は特殊なルールです。
つまり,民法の扱いとは違うのです。
この違いについて整理します。

<税法の台帳課税主義と民法の違い>

あ 民法上の意思表示のいち付

一定の意思表示により所有権は移転する
※民法555条;売買契約について

い 民法上の登記の位置づけ

登記は対抗要件である
=対抗関係における優劣の判断に用いられる
※最高裁昭和35年7月19日
登記は財産(権利)移転の条件ではない
(参考)登記制度について説明している記事
詳しくはこちら|対抗要件の制度(対抗関係における登記による優劣)の基本

う 課税台帳主義(税法と民法との違い)

『所有者』を『登記』で判断する(前記※1
→民法上の規定(『あ』)とは異なる

え 課税台帳主義の趣旨

税務の業務について
→簡易・迅速な判断が要請される
→判断コストを削減することを優先している

6 台帳課税主義には合理性があり有効である

台帳課税主義は権利の実質を反映しない点で不合理な面があります。
しかし,徴税では,事務コストの削減も要請されます。
そこで,最高裁は台帳課税主義自体は違法ではない,つまり有効であると判断しています。

<台帳課税主義の合理性と有効性>

あ 税法と私法の食い違い

税法の扱いが私法関係と一致していないことは不合理である
詳しくはこちら|私法の法律関係を前提として課税する(私法関係準拠主義)

い 台帳課税主義の合理性

台帳課税主義は徴税の便宜を図る趣旨の制度(規定)である
→相応の合理性がある
→台帳課税主義は有効である
※最高裁昭和30年3月23日
※最高裁昭和47年1月25日

7 債権者代位による相続登記にも台帳課税主義が適用される

登記上の所有者自身が,真の所有者ではないが移転登記申請を怠っていた,というような事情があれば,登記上の所有者に課税されることは自業自得という面もあります。
この点,別の者による登記で登記上の所有者にされてしまったケースでは自業自得とはいいくにいです。
この場合でも,台帳課税主義を適用して登記上の所有者の納税義務を認めた裁判例があります。

<債権者代位による相続登記と台帳課税主義>

あ 債権者代位による相続登記

相続人Aの債権者Bが債権者代位によって
『被相続人からAへの登記』を行った

い 台帳課税主義の適用

Aは登記上の所有者になっている
→Aは納税義務を負う
※横浜地裁平成12年2月21日

8 登記上の所有者は納税後に真の所有者に請求できる

台帳課税主義は民法との違いがあります。
本来の所有者以外の人に課税されるということが生じます。
このような課税や納税は税法による,つまり法律の根拠があることですが,実質的には不当です。そこで,不当利得として返還を請求できます。

<台帳課税台帳による納税後の不当利得返還請求>

あ 所有者のずれ

登記申請が遅れたため次の状態になった
登記上の所有者=A
真実の所有者=B

い 納税

Aが固定資産税の納税義務者となった
Aが納税をした

う 裁判所の判断

Bは納付税額分の課税を免れた
Bは不当に利益を得た
→AはBに対して不当利得として返還を請求できる
※民法703条
※最高裁昭和47年1月25日

9 共有物の固定資産税の連帯納付責任(参考)

共有不動産の固定資産税は特殊な納税ルールがあります。
すべての共有者に連帯納付責任があるのです。
一方,共有者間では持分割合に応じて分担する規定があります。
詳しくはこちら|共有物に関する負担の基本(具体例・求償・特定承継人への承継)
これらの内容については別に説明しています。
詳しくはこちら|税務上の連帯納付責任の基本(相続税・贈与税・固定資産税)

10 固定資産税の評価や税額算定(参考)

固定資産税に関しては,税額算定や評価が問題となることもよくあります。
これらについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|固定資産税|基本|状況調査・評価替え・登記と税通・評価額の流用

本記事では,固定資産税(都市計画税)の課税の基準となる時点(賦課期日)や台帳課税主義について説明しました。
実際には,個別的な事情によって,法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に不動産などの税金の負担に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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【近親者間の賃貸借・使用貸借における貸主の死亡による混同(契約終了)】
【共有物に関する負担の対外的効果(不可分債務)】

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