【私法の法律関係を前提として課税する(私法関係準拠主義)】
1 私法関係準拠主義(総論)
2 私法関係準拠主義の内容
3 事実認定による否認
4 民事訴訟の結果と課税における認定の関係
5 不動産登記と課税における認定の関係(概要)
6 想定外の課税による私法上の錯誤無効(概要)
7 想定外の課税による取消・解除と税務上の扱い
1 私法関係準拠主義(総論)
売買・贈与といった契約や,相続という法律関係にはいろいろな課税が生じます。
実際には,売買なのか相続なのかがハッキリしないケースもあります。
当事者と税務署の見解が食い違ってトラブルとなることもよくあります。
税務上の法律関係の判断(認定)においては,私法関係準拠主義がとられています。
本記事では,私法関係準拠主義について説明します。
2 私法関係準拠主義の内容
課税上の扱いは,私法(民事)での扱いと同じであるべきです。
私法関係準拠主義は,このように非常に素朴で簡単な内容です。
<私法関係準拠主義の内容>
租税法律主義の目的は法的安定性の確保である
→課税は原則として私法上の法律関係に準拠して行われる
※東京地裁平成20年11月27日,東京高裁平成22年5月27日;ファイナイト再保険契約事件
※金子宏『租税法 第22版』弘文堂2017年p122
※大石篤史ほか『企業訴訟実務問題シリーズ 税務訴訟』中央経済社2017年p100
なお,税法上,一般的な民法での扱いと異なる扱いが規定されているものもあります。
これは私法関係準拠主義に反するわけではありません。
詳しくはこちら|固定資産税の賦課期日や建物の新築基準時点と台帳課税主義
詳しくはこちら|債権回収不能や債務免除→みなし贈与・貸倒処理・連帯納付義務
3 事実認定による否認
実際の課税関係において,当事者が申告した内容について,税務署が別の見解を持つことがあります。
要するに当事者の主張する方形式は課税を逃れるためのダミーであるというようなケースです。
このような場合の税務署の判断(認定)は,私法上の法律関係が前提となります。つまり,民事訴訟での裁判所の判断(認定)と同じであるべきです。
<事実認定による否認>
あ 事実認定による否認
納税者が申告(主張)する法形式について
税務署が別の私法上の法形式を認定して否認することがある
『事実認定による否認』と呼ぶ
い 事実認定の方法
民事訴訟における事実認定と同じである
詳しくはこちら|私法上の法形式の認定(実体・実質の重視と処分証書の法理)
4 民事訴訟の結果と課税における認定の関係
前記のように,私法上の法律関係の判断は,課税の前提としてそのまま適用されます。
具体的には,民事訴訟の結果として示された法律関係を前提として課税するということになります。
この点,常識的に,裁判所の判決であれば,公平・中立で,最終的な判断結果といえるでしょう。
しかし,例外的に当事者同士でしっかりと対立する意見を主張していない,つまり馴れ合い・出来レース,ということもあり得ます。
また,裁判上の和解であれば,当事者の判断(合意)です。裁判所の関与(影響)もありますが少しだけです。
判決や裁判上の和解であればその内容が必ずそのまま課税でも前提とされるとは限らないのです。
<民事訴訟の結果と課税における認定の関係>
あ 判決の信頼性
判決であれば原則的に判断内容を元にする
状況によっては馴れ合い訴訟として否定されることもあり得る
※東京弁護士会弁護士研修センター運営委員会『弁護士専門研修講座 相続関係事件の実務』ぎょうせい2015年p132
い 訴訟の内容による信用性への影響の例
状況 | 信用性 |
錯誤により無効と判決の判断の中に記載されている | 信用できる |
錯誤により無効と訴訟上の和解の条項に記載されている | やや信用できる |
証人尋問を行った上での判決(裁判所の判断)である | 信用できる |
5 不動産登記と課税における認定の関係(概要)
課税の前提となる法形式の判断では不動産登記が決め手となることもあります。
例えば,登記原因や登記原因証明情報などの資料の中に錯誤とか無効とかが記録(記述)されてる場合があります。
詳しくはこちら|無効を理由とする抹消登記の可否と登記原因(無効や錯誤)
錯誤や無効という公式な記録は,私法(民法)上の取引が無効であるという認定につながります。
ただし,登記に関する記録だけで判断が決まるというわけではありません。
6 想定外の課税による私法上の錯誤無効(概要)
課税において前提となる法律関係は私法としての判断が前提となります(前記)。
ところで,当事者が想定外の課税となることに気づき,契約などの取引を解消したいと思うケースもあります。
この場合,民法(私法)における錯誤として契約が無効とすることが認められています。
税法の扱いが私法の判断の前提となっているといえます。
私法関係準拠主義に沿うものですが,理論的にはちょっと複雑です。
<想定外の課税による私法上の錯誤無効(概要)>
あ 前提事情
税の負担の発生についての思い違いがあった
更正・決定により想定外に重い税負担が生じた(発覚した)
い 錯誤無効
錯誤を理由として無効となることがある
※最高裁平成元年9月14日
詳しくはこちら|遺産分割が当初より無効となりうるケース(2重課税なし)
7 想定外の課税による取消・解除と税務上の扱い
想定外の課税により,取引(契約)が錯誤により無効となることがあります(前記)。
これとは別に取消や合意解除によって契約を解消する方法もあります。
この場合は,元の取引(契約)が当初から無効となるべきものだったとはいいきれません。
そこで課税の扱いとしては,法定申告期限前に取消や解除をした場合に限って契約の解消が認められます。
この扱いは,私法関係準拠主義とマッチしないともいえます。
<想定外の課税による取消・解除と税務上の扱い>
あ 前提事情
想定外に重い納税義務の発生に気づいた
取消・(合意)解除により解消した
い 税務上の扱い
法定申告期限経過前に限り
→税務上も(解消されたという)効果を主張できる
※東京高裁昭和61年7月3日;合意解除について
※大阪高裁平成8年7月25日;合意解除について
※高松高裁平成18年2月23日;合意解除について
※高松高裁平成23年3月4日参照
※金子宏『租税法 第22版』弘文堂2017年p124

2021年10月発売 / 収録時間:各巻60分
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