1 不動産の売買決済|『代金支払』と『登記』は『同時』が要求される
2 司法書士の『売買決済』という商品|代金支払と登記の『同時履行』を実現
3 代金支払と登記の『同時履行』に失敗するケース|司法書士の悪夢
4 『不動産売買の同時履行=司法書士による決済』を実現する法律・解釈
5 『仮差押』付の不動産を売却する|債権者の『取下書』を使う方法
6 『仮差押』付の不動産を売却する|債権者の協力なし→解放金の供託
7 司法書士の売買決済は厳密には『不完全』→理想はエスクロー
8 『担保権を抹消しない状態』での売買という特殊ケースもある(参考)

1 不動産の売買決済|『代金支払』と『登記』は『同時』が要求される

一般的な不動産の売買における『金銭』『登記』の動きをまとめます。

<不動産の売買決済|『同時』が要求される手続>

あ 登記と金銭の授受の同時実行
登記 金銭の授受
既存の担保権(抵当権)の抹消登記 既存の融資の弁済
所有権移転登記 代金の支払
新たな融資の担保権(抵当権)設定登記 新規融資の実行
い 金銭の流れ全体

新規融資の金融機関
↓融資実行
買主
↓売買代金支払
売主
↓借入金返済
既存融資の金融機関

このように,不動産売買では『金銭の動き』と『登記の動き』が複数組み合わさっています。
これらの『すべてが同時に実行』される必要があります。
この『同時履行』を確実に行うシステムが『司法書士による決済』なのです。

2 司法書士の『売買決済』という商品|代金支払と登記の『同時履行』を実現

不動産売買の決済は,司法書士の関与が一般的です。

<司法書士による売買決済という商品内容>

『代金支払』と『登記移転』の同時履行の実現

具体的な『同時履行』のプロセスをまとめます。

<司法書士による売買決済のプロセス>

あ 取引関係者全員が集まる

金融機関の応接室ということが多い

い 『登記』に必要な書類・情報を司法書士が預かる

実際には,事前に司法書士が準備することも多くある

う 『あ』を確認したことを当事者に表明・宣言する

『決済してくださって結構です』という一声

え 『金銭の動き』が実行される;『決済』

融資・代金支払・返済など

3 代金支払と登記の『同時履行』に失敗するケース|司法書士の悪夢

司法書士としては『売買決済』は,緊張感たっぷりのリスキー・エキサイティングな業務です。

<司法書士の緊張感|悪夢>

あ 『登記できない』

万一後から『書類不足→登記できない』

い 『なしすまし』が発覚

本人確認が不十分であった場合

このような場合は青ざめることになります。
事情によっては不正な登記の『助力』として犯罪に問われるリスクもあるのです。
公正証書原本不実記載等罪の共同正犯や幇助犯という犯罪類型です(刑法157条)。
単なる『申請書の作成代行』というところが着目されがちですが実態は違うのです。

4 『不動産売買の同時履行=司法書士による決済』を実現する法律・解釈

(1)司法書士の『ハブ』という立場

司法書士による不動産売買の決済,というシステムについてさらに説明を進めます。
中核となるのは『司法書士がハブになる』という仕組みです。
この仕組みが実現できるような法律・解釈がいくつかあります。
『司法書士の特殊性』とも言えます。

(2)権利証ロック機能

<司法書士業務の特殊性|権利証ロック機能>

あ 原則論

委任者(依頼者)は『委任契約解除』を自由にできる
→預けた書類の返還請求ができる
(→売主に権利証を返却したら登記申請ができなくなってしまう)
※民法651条1項

い 権利証ロック機能

登記手続完了前に『登記手続に必要な書類』を当事者(依頼者)に『返還拒否』できる
→『書類』の具体例=預かっている登記済権利証・印鑑証明書・委任状
※最高裁昭和53年7月10日

う 司法書士業務の特殊性

『双方代理が原則』

(3)預り金銭ロック機能

この,従来の『同時履行』機能=『ロック機能』を『代金』に拡張する発想もあります。
『倒産隔離』機能についての明文規定です。

<司法書士倫理32条1項>

業務上『預り金』を一般財産(『自己の金員』)と隔離する

ただし,司法書士が『代金』自体を預かる,というのは一般的ではありません。
逆に一定のイレギュラーなケースでは『預かる』という方法を取ることもあります(一例を後述)。

(4)保険による補強

さらに保険加入をすれば『ロック機能+倒産隔離機能』が完備となります。
しかし,このスキーム全体が『信託業』に該当すると認定されるリスクが高いです。
マーケット的には『司法書士業務の特殊性→紹介料依存現象』がよく観察されています。
関連コンテンツ|紹介依存現象|サービス均質性+需要寡占+負担者と決定権者の分離

5 『仮差押』付の不動産を売却する|債権者の『取下書』を使う方法

(1)担保権の抹消は『解除証書』でできる

担保権は実体法上『消滅』したことが分かる一定の書面があれば『登記抹消』が可能です。
登記実務では『解除証書+(担保権者の)委任状』で登記ができる,というシステムになっています。
そこで『登記抹消ができる書面』が揃ったことが確認できれば『売買代金の決済』ができるのです。

(2)仮差押・仮処分は『取下書』でできる

この方法を『仮差押・仮処分』でも応用することができます。

<仮差押・仮処分の登記がある不動産の売買決済|原則>

債権者による『保全手続の取下』の書面を司法書士が預かる
これを確認した時点で決済(代金支払)を行う

当然ですが,これは『債権者の協力』が得られた場合だけで使える方法です。

6 『仮差押』付の不動産を売却する|債権者の協力なし→解放金の供託

(1)仮差押・仮処分解放金の供託→保全執行が取り消される

仮差押・仮処分の登記がある不動産の売買で『債権者が協力してくれない』場合について説明します。
この場合は売却できないかというと,そうでもありません。
『仮処分・仮差押』を解消する方法として『解放金の供託』があります。

<仮差押・仮処分の登記がある不動産の売買決済|債権者の協力なし>

『仮差押(仮処分)解放金』の金銭を司法書士が預かる
これを確認した時点で決済(代金支払)を行う

(2)解放金→保全登記抹消の『確実性』

この点『解放金の供託で仮差押登記が抹消される』ことが『確実・例外なし』かどうかが重要になります。

<仮差押解放金の供託→不動産仮差押執行取消申立|条件>

あ 執行取消申立をした際に,裁判所に裁量権がない

必ず取消が決定される
※民事保全法51条;『即時に効力を生じる』(2項)

い 裁判所の取消決定に対する異議申出で妨害されない

執行抗告の理由は『法令違反・事実の誤認』だけである
※民事保全法46条,民事執行法10条,民事執行規則6条2項

う 結論

解放金の供託により保全の登記抹消は『確実』と言える

(3)解放金による保全解消+売買→司法書士が駆け巡る

<実際の司法書士による手続内容>

あ 登記申請本体

登記所(法務局)へ登記申請書を提出する

い 裁判所による保全の解消

供託所(法務局)で供託を行う
→裁判所に執行取消申立書を提出する
(→裁判所から法務局に保全登記の抹消が嘱託される)
※月報司法書士12年2月p57〜

7 司法書士の売買決済は厳密には『不完全』→理想はエスクロー

このように,不動産売買の決済では『同時履行』を最大点徹底する必要があるのです。
とは言っても『数時間差の仮差押』があると『同時履行』がダメになります。
厳密には司法書士による決済,はパーフェクトではないのです。
これを『パーフェクト』にする手法については別記事で詳しく説明しています。

詳しくはこちら|エスクローの仕組み|出資法・資金決済法・信託業法との抵触

8 『担保権を抹消しない状態』での売買という特殊ケースもある(参考)

このように不動産売買では『存在する担保権その他の負担』をすべて解消することが前提となります。
正確には『所有権移転』と『担保権や保全の登記の抹消』を同時に遂行する,ということです。
他方『負担付きのままで購入する』という珍しいケースもあります。
詳しくはこちら|抵当権負担のある不動産売買;抵当権消滅請求など