【各種管理人の選任の管理人報酬(予納金)の要否や相場(相続財産清算人・不在者財産管理人)】

1 各種管理人の選任の管理人報酬(予納金)の要否や相場(相続財産清算人・不在者財産管理人)

いろいろな場面で財産を管理する者を選任する制度を活用します。具体的には亡くなった人の相続人がみあたらない場合の相続財産清算人や、不在者の財産が放置されている場合の不在者財産管理人です。
詳しくはこちら|相続債権者による相続財産清算人の選任手続と換価・配当の流れ
詳しくはこちら|不在者財産管理人の制度の全体像(選任要件・手続・業務終了)
これらの管理人の選任の手続では(弁護士費用とは別の)一定の手数料がかかりますが、高額なものではありません。
詳しくはこちら|相続財産清算人選任の申立に要する費用(手数料・官報公告費用の予納など)
しかし、管理人報酬の相当額を予納金として申立人が支払う必要があることも多いです。
本記事では、管理人報酬に相当する予納金が必要となるかどうか、必要となった場合の金額の相場を説明します。

2 管理人の報酬の規定

管理人(や清算人)の報酬に関する条文を確認しておきます。相続財産清算人の報酬については、不在者財産管理人の報酬の規定を準用しています。結局、どちらも管理する財産(相続財産または不在者の財産)から支出する、というルールになっているのです。
なお、管理人の報酬だけではなく、管理業務の遂行で必要になった費用についてももちろん、管理する財産から支出します。

管理人の報酬の規定

あ 相続財産清算人の報酬

第九百五十三条 第二十七条から第二十九条までの規定は、前条第一項の相続財産の清算人(以下この章において単に「相続財産の清算人」という。)について準用する。
※民法953条

い 不在者財産管理人の報酬

家庭裁判所は、管理人と不在者との関係その他の事情により、不在者の財産の中から、相当な報酬を管理人に与えることができる。
※民法29条2項

3 管理費用の予納金の要否の判断基準と具体例

前述のように、管理業務に必要な費用(経費)も、管理人の報酬も、管理する財産から支出するルールなのですが、たとえばその管理する財産が売却できないような不動産だけ、という場合には、ルールどおりに支出することはできません。そこで、流動資産から経費や管理人報酬を支出できないと見込まれる場合には、申立人が予納金としていったん支払う必要があるのです。

管理費用の予納金の要否の判断基準と具体例

あ 予納金の要否の判断

(注・不在者財産管理人について)
(3)予納金
予納金は、不在者の金銭的財産が少なく、不在者財産管理人の報酬及び管理費用が足りないと思われる場合に、事前に申立人に納付させる金額である。
※正影秀明著『相続財産管理人、不在者財産管理人に関する実務』日本加除出版2018年p494

い 管理費用の予納金が必要な状況

(注・相続財産清算人について)
(3)実際に管理費用の予納金が必要な場合
被相続人の相続財産から管理費用が支払えないと予想される場合が、前もって予納金が必要になる場合であるが、具体的には次のような場合である。
①相続財産のなかに、現金・預貯金等の流動資金がなく、その他の財産が担保権の設定された不動産のみの場合。
担保権の実行のために相続財産管理人選任する場合がこれに当てはまる。
②相続財産のなかに、現金・預貯金はあるが、金融機関に対する債務があるため相殺されることが予想される場合において、現金・預貯金以外の相続財産が存在しない場合。
預貯金以外の財産が担保権の設定されている不動産のみの場合も該当する。
③相続財産が不動産のみであり、第三者が時効取得を原因としてその不動産の所有権を取得することが予想される場合。
相続財産が、不動産の共有持分のみの場合。
⑤相続財産のなかに、少額の現金・預貯金の流動資産はあるが、管理費用を支弁することが見込めない場合。
相続財産より債務のほうが多く、債務を支払うことにより相続財産がなくなると予想される場合。
※正影秀明著『相続財産管理人、不在者財産管理人に関する実務』日本加除出版2018年p70、71

4 管理費用の予納金ゼロとなる具体例

たとえば、不在者財産管理人の選任で、不在者の流動資産がほぼゼロで、不動産の共有持分だけ、という場合には、一般的には持分をすぐには売却できないので、予納金が必要になる傾向があります(前記)。ただし、状況によっては、持分が換価される(金銭に変わる)ことが確実といえるケースもあります。たとえば、申立人が不在者(管理人)から持分を買う前提で申立をした、というようなケースです。このようなケースでは予納金ゼロとなることも実際にあります。リアルな売買でなくて、遺産分割や共有物分割として実質的に買う、というものも含みます。

管理費用の予納金ゼロとなる具体例

(注・不在者財産管理人について)
そこで、以上を報告書にまとめ、Bを申立人として不在者財産管理人選任の申立てをしました。
倉田
管理人には中里さんが就任したのですか。
中里
私が代表を務める司法書士法人を選任してもらっています。
内納
裁判所は、不在者財産管理人の報酬相当額を申立人に予納させることになると思いますが、Bはこの点について承知したのでしょうか。
中里
本件では裁判所からの予納の指示を受けていません。
というのは、不在者財産管理人として遺産分割協議をするとなると、Eの法定相続分相当額を確保しなければならないですよね。
このケースでEの取り分は約50万円でしたので、Bから遺産取得の代償金として50万円を支払ってもらい、これを不在者財産管理人のための報酬原資としています。
内納
不在者がいる遺産分割協議では「不在者が帰来したときはいくら支払う」という条項で権限外許可を求めることが多いと思うのですが、今回は実際に支払ったのですね。
中里
そうです。
なお、いわゆる「帰来型」は常に認められるわけではない点に注意が必要です。
裁判所は、不在者の年齢や所在不明の期間、所在不明となる前の不在者の生活状況等を考慮し、帰来の可能性が高い場合には現実の支払いを求める傾向にあるようです。
※中里功ほか著『所有者不明土地解消・活用のレシピ』民事法研究会2023年p5

5 管理費用の予納金の相場

申立の段階で予納金が必要となった場合には、その金額はどのくらいが要求されるのでしょうか。この予納金は、管理業務に要する費用と管理人報酬にあてるためのものです。そこで、これらの支出として想定される金額が予納金として設定される、ということになります。
東京家裁では100万円が1つの相場となっていて、ローカルの裁判所ではそれよりは低めになる傾向があります。

管理費用の予納金の相場

あ 相続財産清算人選任

ア 相続財産管理人、不在者財産管理人に関する実務 (4)実際に支払う額
東京家庭裁判所は金100万円といわれ(『家裁財産管理』332頁参照)、
その他の家庭裁判所では20万円から60万円ともいわれている。
※正影秀明著『相続財産管理人、不在者財産管理人に関する実務』日本加除出版2018年p71
イ 相続人不存在の実務と書式ほか 東京家裁の運用では、原則として100万円としている
※水野賢一著『相続人不存在の実務と書式 第2版』民事法研究会2013年p56
※野々山哲郎ほか編『相続人不存在・不在者財産管理事件処理マニュアル』新日本法規出版2012年p26
※財産管理実務研究会編『不在者・相続人不存在財産管理の実務 新訂版』新日本法規出版2005年p127、128
ウ 実務より 相続財産がほとんどない場合には20〜30万円程度ということもある
※実務

い 不在者財産管理人選任→やや低め

事案によるが、通常は30万円から100万円を予納させる場合が多い。
基本的に、相続財産管理人の申立てのときの予納金と同じ制度であり、・・・
なお、一般的には、相続財産管理人より不在者財産管理人のほうが、予納金の金額が低いことが多いといわれている。
※正影秀明著『相続財産管理人、不在者財産管理人に関する実務』日本加除出版2018年p494

6 予納金の返還

ところで、予納金の性質は、暫定的に預けるというものです。たとえば、管理人が財産を売却して大きな額の金銭ができた場合、この金銭から管理業務の費用(経費)や管理人報酬を支払います。この場合、結果的に預けられていた予納金は支出しなくて済むので、申立人に返還されます。
逆に、財産の売却などで金銭がつくれなかった場合には、予納金を支出にあててしまうので、残額はゼロ(かそれに近い)、つまり戻ってこないことになります。

予納金の返還

(注・相続財産清算人について)
(6)予納金は、事案完了後、返還されるか
予納金は、事案完了時、予納した申立人にある程度返還される場合もあるし、返還されない場合もあるといえる。
相続財産が、売却等で金銭に変換され、最終的に、予納金以外の売却代金等で、相続財産管理費用及び相続財産管理人の報酬分を支払うことが可能になれば、予納金が返還される場合もありえる。
※正影秀明著『相続財産管理人、不在者財産管理人に関する実務』日本加除出版2018年p71

7 不在者財産管理人の任務が長引くリスク(コスト)

不在者財産管理人の場合には、たとえば不動産の管理が延々と続く、ということがあります。この場合、管理人報酬の累計額は上がっていきます。追加の予納金が必要になることもあります。
この点、相続財産清算人は相続財産を売却してでも換価、清算を終えることになります。物理的な管理が延々と続く、ということはありません。

不在者財産管理人の任務が長引くリスク(コスト)

(注・不在者財産管理人について)
実務上のポイント
遺産分割協議の事案で親族が候補者なら
予納金の大半は、資格者が不在者財産管理人である場合の報酬を考慮してのものともいえる。
そのため、親族が候補者に選任されやすいうえ、報酬を放棄している場合は、予納金自体が低額になる可能性はある。
ただ、遺産分割協議が終了するともに不在者財産管理人の業務が終了するとは限らないことは、候補者を考慮するうえでも重要な点になるだろう。
※正影秀明著『相続財産管理人、不在者財産管理人に関する実務』日本加除出版2018年p495

8 予納金の負担により管理人制度の利用を断念する実情

以上のように、管理人(清算人)の選任の制度を利用する実際の局面では、予納金が高額になることがあり、これが制度利用のブレーキになっている、という構造があります。ただ、必ず予納金が必要になるという誤解もとても多いです。前述のように、予納金がゼロとなる実例も普通にあります。

予納金の負担により管理人制度の利用を断念する実情

(注・相続財産清算人について)
(7)予納金が、管理人選任申立てにどう影響するか
被相続人の相続財産に金銭的なものが多くない場合、事案を申し立てるか否かに直接関係しているといえる。
相続財産管理人申立時に数十万円以上用意する必要があるし、事案完了後に返還される可能性もない場合がある。
つまり、相続財産から申立人が回収できる金銭が予納金より少ないとなると、申立てにより損をすることもある。
この点について、世間的にあまり説明されていないため、裁判所に申立ての相談に行った際に初めて知る方も多く、相続財産管理人選任を戸惑うことも多いようである。
※正影秀明著『相続財産管理人、不在者財産管理人に関する実務』日本加除出版2018年p71、72

本記事では、管理人や清算人の選任の際の予納金の要否やその金額の相場について説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に相続人がみあたらない、または不在者の財産が放置されているという問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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