【家裁の調停・審判・訴訟における和解成立の際の当事者本人出席の要否】
1 家裁の調停・審判・訴訟における和解成立の際の当事者本人出席の要否
家庭裁判所の調停や審判、訴訟の「期日」では、弁護士に依頼した場合でも当事者本人の出席が必要なることがあります。
詳しくはこちら|家事調停・審判・訴訟における当事者本人の出席の要否
家庭裁判所の「期日」の中でも、和解が成立する期日は特別です。たとえば離婚を成立させる和解の場合は、当事者本人の出席が基本的に必要です。
本記事では、家事調停・審判・訴訟の期日のうち、和解が成立する場合に、当事者本人が出席する必要性や実情について説明します。
2 身分行為を含まない和解への当事者本人出席
家庭裁判所の手続には多くの種類のものがあります。「和解」といっても、身分行為を含むものと身分行為を含まないものがあります。
身分行為を含むものの代表は離婚です。夫婦という身分行為が解消されるという意味です。
一方、身分行為を含まないものは、主に金銭に関するものです。典型例は婚姻費用や養育費を決めるものです。これらの身分行為を含まない和解については、その期日に当事者本人の出席は必要ではありません。一般的な民事訴訟と同じです。
3 身分行為を含む和解への本人自身の出席・必要説
解釈の問題となるのは、身分行為を含む和解です。典型は前述のように離婚を成立させる和解です。
ちなみに、裁判所における和解で離婚(などの身分行為)が成立することになったのは平成16年の改正で実現しました。
詳しくはこちら|離婚の形式の4種類(協議・調停・審判・裁判離婚)と成立時点
平成16年の改正の際に、”離婚が成立するのであるから、改正法に「(代理人ではなく)当事者本人自身の出席が必要」と明記するかどうかが議論となりました。最終的にはこのような規定は作られないで終わりました。実際にそのようなことを定める条文はありません。
解釈としては両方の見解があります。つまり、離婚を成立させるような和解については、その期日に当事者本人の出席が必要、という見解と、必要ではない、という見解の両方があるのです。
当事者本人の出席が必要である、という見解は、要するに、身分行為はもともと代理人によって成立させることが適していない、というような考え方です。
身分行為を含む和解への本人自身の出席・必要説
あ 裁判例
本件は身分行為であつて代理に親しまないものであり、代理人との合意をもつて調停を成立させることはできない。
※長崎家裁佐世保支部昭和47年2月28日
い 専門弁護士養成連続講座 家族法(文献)
身分関係に終局的な変更を生じる合意なので、代理人を通した意思表示では不十分である
当事者の意思の合致を直接確認すべきである
※東京弁護士会弁護士研修センター運営委員会編『平成17年度専門弁護士養成連続講座 家族法』p128
う 人事訴訟法概説(文献)
改正法に載せなかったのは、当然すぎるからであり、意図的に不要とした趣旨ではない。
※『人事訴訟法概説 改訂版』日本加除出版2007年p34
※『東京家庭裁判所における人事訴訟の審理の実情 改訂版』p56参照
え 東京家裁執筆の論文
3 和解期日における当事者の出頭
訴訟上の和解の性質は、訴訟を終了させる訴訟上の合意のほかに、訴訟物に係る私法上の合意という性質を併せ有するものと解されていることから、前記のように離婚する旨の和解によって実体法上離婚の効果が発生するが、これは身分行為そのものであるため、実体法の要請として代理は認められず、そのような和解を行うには本人の出頭が必要である。
※東京家庭裁判所稿『東京家庭裁判所における人事訴訟事件実務の運用について』/『ジュリスト1301号』有斐閣2005年11月p46
4 身分行為を含む和解への本人自身の出席・不要説
一方、離婚を成立させるような和解を代理人が行うことを認める、つまり当事者本人の出席は不要である、という見解もあります。これは、改正法に「本人の出席が必要だ」という規定がないのは、まさに「本人の出席が必要ではない(代理人だけの出席で足りる)」ことを意味している、また、代理人をとおして本人の意思確認をすれば足りる、というような考え方です。
身分行為を含む和解への本人自身の出席・不要説
この場合に和解・調停が不可能、とすると、当事者が真に離婚を望む状態なのに、裁判所がこれを阻害することになり、不合理である。
当事者の意思の確認方法、その程度を含めて、裁判所に委ねたと考えると合理的である。
条文上明記がないのは、例外(不要)を許容する趣旨である。
(明確に不要という見解ではなく、「検討の必要がある」というコメント)
※『人事訴訟法概説 改訂版』日本加除出版2007年p34
※『東京家庭裁判所における人事訴訟の審理の実情 改訂版』p56参照
5 一般的な民事訴訟の和解における当事者本人の出席(参考)
ここで比較として、家庭裁判所の手続(家事事件)ではない、通常の民事訴訟の手続の扱いを説明しておきます。
一般的に民事訴訟では、和解成立含めて、代理人弁護士の出席で足ります。和解については本人の意思確認のために、本人の出席を命じることができるという規定はあります(民事訴訟規則32条1項)。しかし、実務で、本人の意思確認のために本人の出席が要請されることは通常ありません。
詳しくはこちら|訴え提起前の和解の基本(債務名義機能・互譲不要・出席者)
6 出席以外による当事者本人の意思確認
結局、家庭裁判所において身分行為を含む和解をする期日に、当事者本人の出席が必要かということについては、統一的見解(最高裁判例)がなく、両方の見解があるという状態です。
そこで、実際には、具体的な調停・訴訟において、裁判官がどちらの見解をとることもある、ということになっています。
実際に、不要説を採用して、当事者本人の出席なしで身分行為を含む和解をする局面では、いろいろな工夫を取り入れます。
重要な本人の意思確認を、出席してもらう以外の方法でカバーするのです。たとえば、期日の際、裁判官が電話をとおして当事者本人と話す(意思確認をする)というような方法です。
もともと、実務ではこのような工夫を取り入れて、当事者本人の出席を必須とはしない傾向がありました。特に、令和4年(2022年)現在、新型コロナ感染症拡大防止の考え方により、極力出席を避ける手段が採用される傾向が強くなっています。
なお、このような工夫も、必須ではありません。代理人による意思確認だけで和解を成立させるケースもあります。特に訴訟の場合はその傾向があります。
出席以外による当事者本人の意思確認
あ 欠席の必要性
出席困難な事情の資料を提出する
例=病気や怪我により出席困難であるという場合に診断書を提出する
い 意思確認の手段
印鑑証明付委任状の提出
期日において電話を通して裁判官が当事者本人と話す
本記事では、身分行為を含む家庭裁判所の手続(調停・審判・訴訟)の期日における当事者本人の出席の必要性について説明しました。
実際には、個別的な事情によって法的解釈や最適な対応方法は違ってきます。
実際に家庭裁判所の手続を検討されている方、すでに手続が進行していて問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
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