【遺留分減殺に関する裁判手続(訴訟形態・調停前置)(平成30年改正前)】

1 遺留分減殺に関する裁判手続(訴訟形態・調停前置)(改正前)

令和元年6月30日までに発生した相続については,遺留分侵害があった場合,遺留分減殺請求をすることができます。
詳しくはこちら|遺留分の権利・効果の法的性質(平成30年改正による金銭債権化)
遺留分減殺について,相続人同士の協議・交渉で解決できればよいですが,交渉が決裂して裁判手続を利用せざるをえないケースもよくあります。
本記事では,遺留分減殺請求を行った者(遺留分権利者)が申し立てる裁判手続について説明します。令和元年7月1日以降の相続については制度が変わって,本記事で説明する内容は当てはまりません。

<民法改正による遺留分の規定の変更(注意)>

平成30年改正民法により,遺留分の規定(制度)の内容が大きく変更されました。
令和元年6月30日までに開始した相続については,改正前の規定が適用されます。
令和元年7月1日以降に開始した相続については,改正後の規定が適用されます。

2 遺留分減殺と権利行使の理論的な構造

遺留分減殺によって通常は,所有権などの権利の移転という効果が発生します。遺留分権利者は一定の権利を取得するということです。そこで次に,遺留分権利者が取得した権利を行使する,という2段階の構造になります。
なお,遺留分減殺の内容によっては権利の移転は生じず,具体的相続分が修正されるにとどまることもあります。この場合は,修正された相続分を基準として遺産分割をするという流れ(構造)になります。
詳しくはこちら|遺留分減殺請求(平成30年改正前)の後の共有の性質と分割手続
本記事では以下,基本的に具体的相続分が修正されるパターンではないことを前提として説明します。

遺留分減殺と権利行使の理論的な構造

あ 減殺請求の効果(形成的効果)

遺留分減殺請求により,権利(不動産の所有権など)(の一部)は遺留分権利者に移転する
詳しくはこちら|遺留分の権利・効果の法的性質(平成30年改正による金銭債権化)

い 減殺後の権利行使

遺留分権利者が,遺留分減殺請求権の行使により生じた物権的ないし債権的請求権を行使する
※岡口基一著『要件事実マニュアル 第5版 第5巻』ぎょうせい2017年p680

3 遺留分減殺に関する訴訟の主な訴訟形態

前述のように,訴訟の中で遺留分減殺請求権を行為するわけではなく,遺留分減殺請求権の行使が終わったことを前提として,それにより生じた権利を行使する段階で訴訟になるのです。
具体的には,所有権などの権利の確認を求める訴訟や,明渡や登記を求める訴訟や,金銭の支払を求める訴訟です。共有関係が生じた状況になっていれば,共有物分割訴訟を申し立てることもあります。
なお,「身分関係の形成又は存否の確認」(人事訴訟法2条)ではないので,人事訴訟ではありません。(原則として)地方裁判所に申し立てる一般の訴訟です。

遺留分減殺に関する訴訟の主な訴訟形態

あ 確認訴訟

遺留分減殺の結果として発生した権利関係の確認を求める確認訴訟

い 給付訴訟

遺留分減殺の結果として生じた権利に基づく給付訴訟

う 価額弁償請求訴訟

当該権利の目的物が第三者に譲渡されていたなどの場合において
価額弁償を求める訴訟

え 共有物分割訴訟

ア 物権共有の場合 遺留分減殺の結果として発生した(準)共有状態にある場合において
共有物分割を求める訴訟
イ 遺産共有の場合(参考) 遺留分減殺の結果,遺産共有となることもある
詳しくはこちら|遺留分減殺請求(平成30年改正前)の後の共有の性質と分割手続
この場合は遺産分割を求めることになる
※田村洋三ほか編著『補訂 実務相続関係訴訟』日本加除出版2017年p353

4 遺留分に関する給付訴訟の典型例

遺留分減殺の後の訴訟の形態のうち,給付訴訟には,明渡請求,登記請求,金銭の請求があります。

遺留分に関する給付訴訟の典型例

あ 明渡(引渡)請求

所有権に基づき,不動産を占有している受遺者に対しその明渡しを求める

い 登記請求

遺贈を原因とする所有権移転登記を経由している受遺者に対し,遺留分減殺請求を原因とする所有権(一部)移転登記請求をする

う 不当利得返還請求

払戻済の預金相当額の不当利得返還を求める
※岡口基一著『要件事実マニュアル 第5版 第5巻』ぎょうせい2017年p680
※田村洋三ほか編著『補訂 実務相続関係訴訟』日本加除出版2017年p353

5 併合請求

以上のように,遺留分減殺の後の訴訟の形態(種類)にはいろいろなものがありますが,複数の形態(請求)をセットにすることもできます。典型例は所有権(共有持分権)の確認請求と共有物分割請求の組み合わせです。

併合請求

遺留分減殺により物権共有になった場合
共有持分権確認訴訟共有物分割訴訟とを併合提起することもできる
※東京高判平成22年3月10日

6 共同訴訟形態

遺留分に関する対立は1対1とは限りません。たとえば遺留分侵害を受けている者(相続人)が複数人いるというケースもあります。この場合でも,1対1の対立構造が複数存在するものとして扱います。つまり,訴訟は相続人全員が当事者となる必要はないということです。

共同訴訟形態

あ 当事者

原告は,遺留分減殺を請求する遺留分権利者である
被告とするのは,減殺の相手方である

い 共同訴訟形態

相対的関係で決すればよく,全相続人が関与する必要はない
必要的共同訴訟ではない=通常共同訴訟である
※田村洋三ほか編著『補訂 実務相続関係訴訟』日本加除出版2017年p354

7 調停前置

前述のように,遺留分減殺の後の訴訟は,一般の訴訟(財産法の権利の行使)ですから,家庭裁判所は関係ないような印象を受けます。しかし,相続に関係しています。一定の身分関係がある者同士の対立です。
そこで,「家庭に関する事件」といえるので,調停前置が適用されます。原則として調停が決裂してからでないと訴訟は利用できないというルールです。
しかし,遺留分に関する紛争では,調停なしで最初から訴訟を行う,という例外が適用されることも比較的多いです。

調停前置

あ 調停前置の適用

遺留分減殺請求訴訟は「家庭に関する事件」に含まれる
→調停前置が原則である
※家事事件手続法244条,257条1項
※田村洋三ほか編著『補訂 実務相続関係訴訟』日本加除出版2017年p354

い 訴訟提起における添付書類

遺留分に関する訴訟を申し立てる場合,調停不成立調書の提出が必要である

う 調停なしの訴訟の扱い

ア 基本(規定) 調停を経ずに本訴訟を提起した場合,家庭裁判所の調停に付されるのが原則である
事件を調停に付することが相当でない場合は例外的に訴訟の審理を進める
※家事事件手続法257条2項
イ 実務の傾向 実務では,調停に付されないことも多い
※岡口基一著『要件事実マニュアル 第5版 第5巻』ぎょうせい2017年p681

8 家事調停と民事調停の関係

前述のように,遺留分減殺に関する紛争は遺留分減殺の結果として生じた(財産法の)権利を行使するという段階で生じます。財産法上の権利であるというところに着目すると,「民事に関する紛争」そのものといえます。そこで,簡易裁判所の民事調停の対象にもなります。
調停を申し立てる者としては,家事調停と民事調停のどちらを申し立ててもよいということです。家事調停として申し立てられた家庭裁判所が(簡易裁判所の)民事調停に付するということも理論的にはありえます。

家事調停と民事調停の関係

あ 民事調停との競合的管轄

遺留分減殺に係る調停は,「民事に関する紛争」(民事調停法1条,2条)として民事調停の対象ともなり得る
家事調停と民事調停が競合的管轄を生ずる
※田村洋三ほか編著『補訂 実務相続関係訴訟』日本加除出版2017年p355

い 民事調停に付する扱い

遺留分に関する家事調停について,家庭裁判所が民事調停に付すことができる
※梶村太市稿『遺産分割関係調停』/『判例タイムズ932号』p169

9 遺留分減殺に関する手続の選択(まとめ)

以上のように,遺留分減殺の後の裁判手続にはいろいろな種類のものがあり,具体的事案について,とりうる手続として複数の選択肢や組み合わせがある,ということが多いです。
個別的事案に応じて,最適なタイミングで最適な手続を選択することが,有利な結果の獲得につながります。

本記事では,遺留分減殺に関する裁判手続について説明しました。
実際には,個別的な事情によって,法的扱いや最適な対応方法は違ってきます。
実際に遺留分に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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【共有であるかどうか・持分割合の認定(民法250条の推定・裁判例)】
【家裁の調停・審判・訴訟における和解成立の際の当事者本人出席の要否】

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