家庭裁判所の手続では,代理人の弁護士だけが出席すれば良いのですか。
当事者本人は出席しないで済むのではないのですか。

1 家事審判,調停には本人の出席が原則的に必要とされる
2 家事事件の訴訟では,代理人弁護士の出席だけで良い
3 離婚成立など身分関係に変化が生じる場面では本人の出席が原則的に必要
4 離婚成立の場面でも本人の意思確認ができれば出席必須ではない

1 家事審判,調停には本人の出席が原則的に必要とされる

(1)家事審判,調停の本人出席についての条文上の機械的解釈

家事審判,調停については,当事者の出席が原則的に必要です。
弁護士が代理人となっていても同様です。
『やむを得ない事由』がある場合は代理人だけ出席,当事者欠席でも良いとされています(家事事件手続法258条1項,51条2項)。
『やむを得ない事由』については,条文上,特に説明,例示がありません。
ごく一般的な解釈は次のようになります。

<『やむを得ない事由』の一般的解釈>

・本人の病気
・親族・近親者の危篤
・親族・近親者の葬儀
・海外出張

(2)家事調停本人出席の実務上の解釈,運用

以上の一般的解釈では,単純に忙しいは含まれないように思えます。
しかし,代理人(弁護士)が出席している場合は,実務上,例外的な運用がされています。
比較的広く代理人弁護士だけ出席ということは認められています。
代理人弁護士は代理権が授与されています。
そこで,調停においても,代理人として協議をすることが可能です。
本人が出席しないという理由で,出頭の拒否ができるというルールもありません。
結果的に,代理人弁護士によって調停の協議自体は進むということになります。
逆に,個別的に,リアルタイムで本人が対応できることが望ましい,という場合もあります。
このような場合は,調停委員から,本人同席が要請されることもあります。
これも絶対ということではありません。
感情面含めて,参加したくない参加が望ましくない場合は,本人が出席しないまま調停を進めることもあります。

(3)家事審判本人出席の実務上の解釈,運用

審判は,調停よりも,法的理論法的主張の比重が高いです。
この点で,話し合いという性格は薄く,本人の直接のコメントの比重は低いのです。
実質的にも,代理人弁護士の出席で十分,ということが言えましょう。
実際に,調停よりも,本人出席が要請されない方向性で運用されています。

2 家事事件の訴訟では,代理人弁護士の出席だけで良い

家事事件の訴訟では,当事者本人の出席を必要とする規定はありません。
代理人弁護士の出席で足りる,ということです。
現実的にも,代理人弁護士だけが出席する,ということがほとんどです。
実際の訴訟の状況から考えても,当事者本人の直接のコメントが必要な場面というのはほとんどありません。
訴訟の場合は,話し合い,というよりも,法的主張,証拠提出,という審理が中心とされているからです。

なお,最終局面で,当事者尋問が実施される場合だけは,当然ですが,本人の出席が必要になります。
とは言っても,統計上,約半数が,尋問は実施されず,和解で終了しています。
別項目;ご相談者へ;訴訟;尋問施行割合

3 離婚成立など身分関係に変化が生じる場面では本人の出席が原則的に必要

離婚成立の和解(調停)が成立する家事調停や訴訟では,代理人弁護士だけではなく本人の出席が必要,という見解があります。

(1)見解の分布

これについて,条文や判例上,一義的な規定・判断はありません。
ところで,平成16年に施行された人事訴訟法で,訴訟上の和解や調停による離婚の性質が変わりました。
その場で離婚が成立する,という内容に改正されたのです。
別項目;平成16年人事訴訟法改正による離婚成立タイミングの変化

ここで重要なのは,この法改正により,裁判所での調停・和解成立時点で,終局的・最終的・確定的に離婚が成立する,ということです。
そこで,法改正の経緯において,(代理人ではなく)当事者本人自身の出席が必要と明記するかどうかが議論となりました。
しかし,法律には明記しない,ということになりました。
実際にそのような条文はありません。

現時点では,両方の見解があります。

(2)必要,不要それぞれの見解

<本人自身の出席の要否の見解>

あ 必要説

・身分行為は代理に親しまない
 裁判例1
・身分関係に終局的な変更を生じる合意なので,代理人を通した意思表示では不十分。当事者の意思の合致を直接確認すべき。
 東京弁護士会弁護士研修センター運営委員会編『平成17年度専門弁護士養成連続講座家族法』128頁
・改正法に載せなかったのは,当然すぎるからであり,意図的に不要とした趣旨ではない。
 日本加除出版『改訂人事訴訟法概説』34頁

い 不要説

(日本加除出版『改訂人事訴訟法概説』;明確に不要という見解ではなく,『検討の必要がある』というコメント)
・現実に,病気・怪我により本人の出席が困難な場合も生じる。
 この場合に和解・調停が不可能,とすると,当事者が真に離婚を望む状態なのに,裁判所がこれを阻害することになり,不合理である。
・当事者の意思の確認方法,その程度を含めて,裁判所に委ねたと考えると合理的である。
・条文上明記がないのは,例外(不要)を許容する趣旨である。

要はどちらにも解釈できるという状態です。
そもそもこのような論点を把握していない弁護士も多いと指摘されています。
そこで,具体的な調停・訴訟において,裁判官が判断し,どちらの結論になることもある,ということです。

<参考情報>

東京家庭裁判所における人事訴訟の審理の実情改訂版56頁など

(3)参考として,一般的な民事訴訟における和解の扱い

一般的に民事訴訟では,和解成立含めて,代理人弁護士の出席で足ります。
条文上は,和解については本人の意思確認のために,本人の出席を命じることが『できる』とされています(民事訴訟規則32条1項)。
しかし,実務上,本人の意思確認のために本人の出席が要請されることは通常ありません。
詳しくはこちら|訴え提起前の和解の基本(債務名義機能・互譲不要・出席者)

4 離婚成立の場面でも本人の意思確認ができれば出席必須ではない

実務上,離婚成立などの身分関係に変化が生じる場合でも本人の出席が不要とされることはあります。
一定の出席困難な事情がある場合に本人の欠席が認められています。
なお,これは代理人弁護士が出席している前提です。

訴訟上の和解・調停による離婚成立について,当事者本人の出席が絶対に必要,という考え方では不合理が生じます。
現実の実務上,当事者が真意から離婚を望んでいるけれども,裁判所に赴くことが非常に大きな負担となる,ということは生じます。
本人の意思確認が重要なことは当然ですが,これは他の手段で代替できます。
裁判所でも,このような考え方を採るケースが多いです。

実際に多くの裁判所(裁判官)が絶対にダメ(本人出席必要説)という見解を取らず,本人欠席のまま和解・調停の成立を認めています。
その場合は,本人確認・意思確認を補充するため,次のような措置が取られることがあります。

<本人確認・意思確認の補充的手段>

・診断書等,出席困難な事情の資料提出
 病気や怪我により出席困難であるという場合です。
・印鑑証明付委任状,携帯電話等,出席以外の方法による(直接の本人の)意思確認

さらに言えば,現実的には,補充的手段は一切取らないで,和解成立を認めるケースも多いです。
特に(調停よりは)訴訟の方が,本人欠席での和解成立を緩く認める傾向を感じます。
元々,調停とは違い,訴訟の場合,本人出席の要請自体が低い,ということも関係しているのでしょう。

条文

[家事事件手続法]
(事件の関係人の呼出し)
第五十一条  家庭裁判所は、家事審判の手続の期日に事件の関係人を呼び出すことができる。
2  呼出しを受けた事件の関係人は、家事審判の手続の期日に出頭しなければならない。ただし、やむを得ない事由があるときは、代理人を出頭させることができる。
3  前項の事件の関係人が正当な理由なく出頭しないときは、家庭裁判所は、五万円以下の過料に処する。

(家事審判の手続の規定の準用等)
第二百五十八条  第四十一条から第四十三条までの規定は家事調停の手続における参加及び排除について、第四十四条の規定は家事調停の手続における受継について、第五十一条から第五十五条までの規定は家事調停の手続の期日について、第五十六条から第六十二条まで及び第六十四条の規定は家事調停の手続における事実の調査及び証拠調べについて、第六十五条の規定は家事調停の手続における子の意思の把握等について、第七十三条、第七十四条、第七十六条(第一項ただし書を除く。)、第七十七条及び第七十九条の規定は家事調停に関する審判について、第八十一条の規定は家事調停に関する審判以外の裁判について準用する。
2(略)

[民事訴訟規則]
(和解のための処置・法第八十九条)
第三十二条 裁判所又は受命裁判官若しくは受託裁判官は、和解のため、当事者本人又はその法定代理人の出頭を命ずることができる。
2 裁判所又は受命裁判官若しくは受託裁判官は、相当と認めるときは、裁判所外において和解をすることができる。

判例・参考情報

(判例1)
[長崎家庭裁判所佐世保支部昭和47年(家イ)第27号離婚調停事件昭和47年2月28日]
本件は身分行為であつて代理に親しまないものであり、代理人との合意をもつて調停を成立させることはできない。