1 遺留分減殺請求における課税
2 遺留分は相続後の財産移転だが相続として課税する
3 遺留分減殺請求を受けた者の税務手続
4 減殺請求をした未申告の相続人の税務手続
5 減殺請求をした申告済の相続人の税務手続
6 遺留分減殺における当事者間の税負担の調整
7 遺留分減殺における税務署の対応
8 更正の請求の期限切れによる不公平(概要)

1 遺留分減殺請求における課税

遺留分の侵害を受けている相続人は遺留分減殺請求ができます。
これによって,遺産の一部の返還を受けるかこれに代わる金銭を得ることになります。
詳しくはこちら|遺留分|基本|趣旨・典型例・遺留分権利者・抵触する遺言の有効性
結局,遺留分減殺請求によって,当初の遺言による遺産承継とは違う内容の承継となります。
本記事では,遺留分減殺請求があった場合の課税関係について説明します。

2 遺留分は相続後の財産移転だが相続として課税する

遺留分減殺請求をした場合,通知をした時点で財産が移転します。
相続開始の時点にさかのぼる(遡及効)というわけではありません。
詳しくはこちら|遺留分減殺請求権は形成権であり意思表示の時点で効力が発生する
単純に考えると,相続とは別の財産の移転として贈与税や譲渡所得税が課税されるように思えます。
しかし,実質的には,遺留分は相続の修正といえます。
そこで,課税としても,相続の一環として扱われます。
税務手続としては,既に行った相続税申告について更正の請求や修正申告をすることができるのです。

3 遺留分減殺請求を受けた者の税務手続

当事者の立場ごとに,理論的に必要となる税務手続を説明します。
まず,遺留分減殺請求を受けた相続人は,結果的に相続税を払い過ぎていたことになります。
そこで更正の請求によって還付を受けることになります。

<遺留分減殺請求を受けた者の税務手続>

あ 前提事情

相続人Aは遺言により財産を承継した
相続税申告を行い,納税した
相続人BがAに対して遺留分減殺請求をした
Aは遺産の返還or金額での弁償をすることとなった

い 税務手続

Aは既に確定した相続税額が過大となる
→更正の請求をすることができる
※相続税法32条1項3号

う 更正の請求の期限

返還or弁償すべき額が確定したことを知った日の翌日から4か月以内
起算点の具体例=合意・調停成立・判決確定の日
※相続税法32条1項3号

更正の請求の期限を過ぎてしまうと,また新たな問題の発生となってしまいます(後記)。

4 減殺請求をした未申告の相続人の税務手続

遺留分減殺請求をした相続人は,それ以前に相続税申告をしていた場合としていなかった場合に分けられます。
まず,遺言を前提にすると申告義務がなかったケースについて説明します。
遺留分減殺請求によって,申告が必要な状況になったら,新たに申告することになります。
通常は既に申告期限を過ぎているでしょうけど,期限後申告が認められています。

<減殺請求をした未申告の相続人の税務手続>

あ 前提事情

遺言を前提にすると相続人Bには相続税の申告義務がなかった
Bは相続人Aに対して遺留分減殺請求をした
Bは遺産の返還or金額での弁償を受けることとなった
Bは新たに相続税の申告義務が生じた

い 税務手続

Bは期限後申告をすることができる
※相続税法30条1項

う 申告期限

規定はない
税務署による更正処分(決定)があるまでは申告できる
※小池正明『民法・税法による 遺産分割の手続と相続税実務 7訂版』税務研究会出版局2015年p671

5 減殺請求をした申告済の相続人の税務手続

遺留分減殺請求をした相続人が,遺言を前提に相続税申告を済ませていたケースもあります。
この場合,当初の申告よりも得る遺産が増えるので,相続税も増えます。
そこで,修正申告が必要となります。

<減殺請求をした申告済の相続人の税務手続>

あ 前提事情

相続人Bは遺言を前提にして相続税の申告と納税を行った
Bは相続人Aに対して遺留分減殺請求をした
Bは遺産の返還or金額での弁償を受けることとなった

い 税務手続

Bは既に確定した相続税額に不足が生じる
→修正申告をすることができる
※相続税法31条1項

う 申告期限

規定はない
税務署による更正処分(決定)があるまでは申告できる
※小池正明『民法・税法による 遺産分割の手続と相続税実務 7訂版』税務研究会出版局2015年p671

6 遺留分減殺における当事者間の税負担の調整

以上の説明は税法に基づいた理論的な税務手続についてのものでした。
この点,実務では必ずしもこれらの税務手続が必要というわけではありません。
相続人の間で納税の負担の調整をすることで,税務手続を避けることができます。

<遺留分減殺における当事者間の税負担の調整>

あ 当事者間の調整

すべての相続人の納税額の総額は変わらない
当事者間で税負担を調整する
税務手続を行わない
→問題はない
※小池正明『民法・税法による 遺産分割の手続と相続税実務 7訂版』税務研究会出版局2015年p671
※東京弁護士会弁護士研修センター運営委員会『弁護士専門研修講座 相続関係事件の実務』ぎょうせい2015年p130
詳しくはこちら|遺産分割未了時点で暫定的な相続税申告をする方法と事後的処理

7 遺留分減殺における税務署の対応

遺留分減殺請求について,相続人の間で和解に至った場合,その中で納税の負担の調整を終えることが多いです(前記)。
しかし,判決に至った場合は,通常,当事者間で納税の負担の調整ができません。
原則に戻って,各自が税務手続をするということになります。
ここで,遺留分減殺請求を受けた相続人が更正の請求をすると,これをきっかけにして税務署が,減殺請求をした相続人について更正処分をすることがあります。

<遺留分減殺における税務署の対応>

相続人間で税負担の調整をしていない
一部の相続人が更正の請求をした場合
→税務署が他の相続人について更正処分をすることがある
※福岡高裁平成元年7月20日

8 更正の請求の期限切れによる不公平(概要)

当事者間で負担の調整ができない場合には,原則的な税務手続が必要です(前記)。
ここで,更正の請求をしないまま,期限を過ぎてしまうと,大きな問題となります。
相続人の間での過不足の額の請求をする解決法があり得ます。
詳しくはこちら|遺留分と税務(小規模宅地特例の対象変更・更正請求の期限・連帯納付義務)