【遺留分と税務(小規模宅地特例の対象変更・更正請求の期限・連帯納付義務)】

1 遺留分減殺×税務|小規模宅地特例の対象変更は可能

事例

遺言に従って遺産を承継して、相続税の申告と納税を済ませた
相続税申告では、小規模宅地の特例を使った
しかしその後、遺留分減殺請求を受けた
最終的に、別の相続人がこの特例の対象不動産を承継することになった

原則としては、小規模宅地の特例(評価減)は、一旦申告上、選択するとその後変更はできません(租税特別措置法69条の4第7項)。
しかし、遺留分減殺請求の行使によって、結果的に『当初の承継内容に変更が生じた』という場合は例外です。
この場合は、事後的な修正申告や更正の請求において『選択の変更』が認められています。
※租税特別措置法69条の4第5項、7項、後掲タックスアンサー

2 遺留分減殺請求→納税額の変動;更正請求の期限

事例

当初の遺産の承継で相続税の申告を済ませた
その後、遺留分減殺請求を受けた
結果的に、承継する遺産が減った

(1)納税額の変動→更正請求

相続税の申告を行った後、遺留分減殺請求により、納税額が減少します。
そのため、税務署が『更正決定』をして、納税者は返還を受ける状態になります。
期限は次のように決まっています。

『更正の請求』の期限

返還すべき額を知った時から4か月
※相続税法32条1項3号

(2)『返還すべき額を知った』のタイミング

次に『返還すべき額を知った』というタイミングが問題になります。
ところが、通常は、遺留分減殺請求がなされた直後には、遺留分の額は確定しません。
次のような不確定要素によって遺留分侵害額が変わってくるからです。

遺留分侵害額に影響を及ぼす不確定要素の典型例

ア 不動産その他の財産の評価額イ 遺産の範囲ウ 遺言の有効性

一般的には、遺留分減殺請求がなされた後、相続人や遺贈を受けた者の間で協議や調停、訴訟が行われます。
そこで『起算点』=カウントスタートの時点、は、次のようになります。

更正請求の期限の『起算点』|典型例

ア 遺留分減殺請求に関する合意イ 遺留分減殺請求訴訟の判決確定

これらのイベントの時点から4か月経過後の時点が『更正請求の期限』ということになります。

3 遺留分減殺請求→納税額の変動;更正請求期限経過後

(1)サイエンス的考察|納税額保存の法則

更正請求の期限が切れた場合は、当然、更正請求ができなくなります。
そうなると『納付済の相続税は返還されない』ことになります。
税務署の視点では『既に納付済の金額が維持される』→『追加徴収の必要はない』ということになります。
サイエンスの法則でなぞらえると『納税額保存の法則』とでも言えるものです。

(2)法的考察|『修正申告不要』

次に、法的な扱いを説明します。
ちょっと細かい理論が前提となっているのでまとめます。

相続税の発生時期と具体的納税額確定のタイムラグ

あ 相続税(自体)の発生タイミング

相続発生(=被相続人の死亡)の時点
※国税通則法15条

い 『納税額』の確定タイミング

相続税申告(修正申告含む)の時点
※相続税法17条、35条

ポイントは『修正申告をしなければ納税額は変わらない』というところです。
次に『修正申告をする必要があるかどうか』で決まることになります。

納税額が増加した場合の修正申告の義務

相続人のうち納税額が減少した者が更正請求をしない
→納税額が増加した者は『修正申告の義務』はない
※相続税法35条3項の反対解釈

条文解釈で『修正申告義務なし』なので、結果的に『納税額の変更』も生じません。
『追加分の納税をしなくて済んだ』という結果になります。

4 遺留分減殺請求→納税額の変動;相続人間で不当利得返還請求

相続税の更正請求の期限が切れると、国税庁から過納付額の返還を受けられません。
一方、遺留分請求により、事後的に遺産を承継した者は相続税を納税しなくて良い状態となっています。
全体で見ると、遺留分減殺請求者が納めるべき相続税を請求を受けた相続人が『代わりに納税した状態』と同じことです。
このアンバランスを、当事者間で調整することが望まれます。

遺留分減殺請求→更正請求期限切れ→相続人間の処理|判例

不当利得返還として請求が認められる
※民法703条
※横浜地裁平成13年5月16日

5 遺留分減殺請求→相続税連帯納付責任上限額の変動

相続税については、相続人間での連帯納付責任があります(相続税法34条)。
限度額を整理します。

連帯納付責任の限度額

連帯納付責任の限度額=承継した財産の評価額(受けた利益の価額)

遺留分減殺請求が行われたケースでは、遺留分減殺請求を行う前と後で、承継する財産(の評価額)は変わってきます。
ところで、遺留分減殺請求の性質として、意思表示を行った時点で効果が生じる、と解釈されています(形成効)。
そこで税務的な扱いは次のようになります。

遺留分減殺請求×相続税評価

『遺留分減殺請求の意思表示を行った時点』以降
→遺留分を反映した財産の評価額を用いる
※国税不服審判所平成18年6月26日裁決;裁決事例集No.71p626

6 参考情報=国税庁タックスアンサー

以上の説明において参考とした国税庁の情報をまとめておきます。

参考情報=国税庁タックスアンサー

あ 説明内容(引用)

(回答要旨)
当初申告におけるその宅地に係る小規模宅地等の特例の適用について何らかの瑕疵がない場合には、その後、その適用対象宅地の選択換えをすることは許されないこととされていますが、照会の場合は遺留分減殺請求という相続固有の後発的事由に基づいて、当初申告に係る土地を遺贈により取得できなかったものですから、更正の請求においてA宅地について同条を適用することを、いわゆる選択換えというのは相当ではありません。
 したがって、乙の小規模宅地等の対象地をA宅地とする変更は、更正の請求において添付書類等の要件を満たす限り認められると考えられます。また、当初申告において小規模宅地等の対象地を選択しなかった丙についても同様に取り扱って差し支えないと考えられます。

い 情報のソース

国税庁タックスアンサー
遺留分減殺に伴う修正申告及び更正の請求における小規模宅地等の選択替えの可否
外部サイト|国税庁・タックスアンサー|遺留分減殺

本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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【税務上の連帯納付責任の基本(相続税・贈与税・固定資産税)】
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