1 遺産分割が当初より無効とはならないケース
2 遺産分割の合意解除についての課税
3 遺産分割の不備による瑕疵担保責任
4 遺産分割の対象財産の欠落の扱い
5 代償分割の代償金支払の不履行

1 遺産分割が当初より無効とはならないケース

遺産分割が特に不備(瑕疵)はなく,有効に成立した場合でも,その後に有効性以外の問題が発生することがあります。
相続人全員で遺産分割をやり直すこと自体は可能です。
しかし,2回の遺産分割について,両方とも課税されることになります。
詳しくはこちら|遺産分割のやり直しで2重の課税となることがある
本記事では,遺産分割が当初より無効ではないと判断されるケースについて説明します。

2 遺産分割の合意解除についての課税

まず,遺産分割の合意解除は判例で認められています。
しかしこの判例の判断は税務的な扱いに関するものではありません。
要するに,いったん完全に有効に成立した遺産分割の内容は,相続人全員の合意で別の内容に変更できるというものです。
実質的には新たな権利の移転であることを否定するものではないと思います。
逆に,遺産分割が当初より無効とはいえないから(錯誤無効ではなく)合意解除と呼んでいるのです。
いずれにしても,税務上は,このような実質面を前提にして,新たな権利の移転としての課税関係が生じます。

<遺産分割の合意解除についての課税>

あ 合意解除(前提事情)

いったん有効に遺産分割が成立した
その後相続人全員で合意解除した

い 民事的な扱い

民法上は遡及的に遺産分割(合意)が解消される
※最高裁平成2年9月27日

う 登記上の扱い(参考)

前回の遺産分割の登記抹消+新たな遺産分割の登記ができる
詳しくはこちら|無効を理由とする抹消登記の可否と登記原因(無効や錯誤)

え 税務上の扱い

税務上は遡及的な解消としては扱わない
新たな権利の移転として課税する
例=売買・交換・贈与
※相続税法基本通達19の2−8
※小池正明『民法・税法による 遺産分割の手続と相続税実務 7訂版』税務研究会出版局2015年p679

3 遺産分割の不備による瑕疵担保責任

遺産分割をやり直す(合意解除する)ケースでは,通常,元の遺産分割に不備があったはずです。
不備(不完全)であった内容が相続財産の過不足というケースはよくあります。
まず,相続財産だと思っていたものが実は違ったという場合は,遺産分割自体は無効になりません。
瑕疵担保責任が発生するにとどまります。

<遺産分割の不備による瑕疵担保責任>

あ 瑕疵担保責任の適用

遺産に瑕疵があった場合
→瑕疵担保責任が適用される
※民法911条,560〜572条
詳しくはこちら|売買・請負の瑕疵担保責任の基本

い 瑕疵の典型例

遺産分割の対象財産に相続財産以外が含まれていた
→瑕疵担保責任が生じる
※通説
※小池正明『民法・税法による 遺産分割の手続と相続税実務 7訂版』税務研究会出版局2015年p679

4 遺産分割の対象財産の欠落の扱い

遺産分割の対象財産に漏れがあったことが発覚することもよくあります。
この場合は,漏れいていた財産は未分割なので,これだけを対象として改めて遺産分割をすることになります。

<遺産分割の対象財産の欠落の扱い>

あ 遺産分割の有効性

既に行った遺産分割の内容以外に相続財産があった場合
→原則として遺産分割は有効である
例外的に無効となることもある

い 2次分割の必要性

新たに発覚した財産が未分割となる
→これから遺産分割が必要な状態となる
詳しくはこちら|遺産分割×遺産の一部|遺産の欠落|第n次分割・余りを残さない工夫

5 代償分割の代償金支払の不履行

遺産分割の方法(類型)の1つとして代償分割があります。
詳しくはこちら|相続手続全体の流れ|遺言の有無・内容→遺産分割の要否・分割類型・遡及効
その後,この代償金が支払われないという状況になってしまうケースもあります。
感覚としては,改めて公平となるように,遺産分割をやり直そうという発想があります。
しかし,理論的には代償金の不履行で遺産分割を解除はできず,無効とはなりません。
遺産分割をやり直すと,新たな権利の移転として2重の課税が発生してしまいます。

<代償分割の代償金支払の不履行>

あ 前提事情

代償分割による遺産分割が成立した
→代償金の支払が履行されない

い 遺産分割の債務不履行解除

遺産分割を債務不履行によって解除することについて
→認められない

う 民事的な扱い

遺産分割は有効である
=債権・債務の状態が残るだけである
※最高裁平成元年2月9日

え 税務上の扱い

遺産分割をやり直した場合
→新たな権利移転として課税する
更正の請求はできない
※小池正明『民法・税法による 遺産分割の手続と相続税実務 7訂版』税務研究会出版局2015年p679