【遺言の記載事項の種類・分類(基本)】

1 遺言の記載事項の種類・分類
2 相続の法定原則の修正
3 相続以外の財産処分
4 遺言による財産の承継の種類
5 身分関係に関する事項
6 遺言の執行に関する事項
7 遺言による遺産分割の禁止
8 任意的な記載事項の例

1 遺言の記載事項の種類・分類

遺言に記載した場合に法的な効力を有する事項は,民法上規定されています。
主要なものは,遺産の承継者を指定することや遺贈です。また,財産の承継以外にも,
認知などの身分行為を記載することもできます。『遺言の記載事項』の種類をまとめます。

<遺言の記載事項の種類・分類>

あ 法定遺言事項

ア 相続の法定原則の修正(後記※1イ 相続以外の財産処分(後記※2ウ 身分関係に課する事項(後記※3エ 遺言の執行に関する事項(後記※4 ※内田貴『民法4 親族・相続 補訂版』東京大学出版会p462

い 任意的な事項

法的効果が発生しないが,気持ちを記載したものなど(後記※7
例;相続人に対するメッセージや感謝の気持ちなど

上記のように分類したそれぞれの種類の内容については,以下説明します。

2 相続の法定原則の修正

遺言の記載事項のうち,法定原則の修正として分類される内容にはいろいろなものがあります。これをまとめます。

<相続の法定原則の修正(※1)

あ 相続人の廃除・廃除の取消

※民法893条,894条2項

い 相続分の指定

『財産の承継』の1つである(後記※5
※民法902条

う 遺産分割に関する事項

ア 遺産分割方法の指定 『財産の承継』の1つである(後記※5
イ 遺産分割の禁止(後記※6 ※民法908条

え 特別受益の持戻し免除

※民法903条3項

お 遺産分割における担保責任に関する別段の意思表示

※民法914条

か 遺留分減殺方法の定め

※民法1034条ただし書

3 相続以外の財産処分

遺言の記載事項の種類の1つとして相続以外の財産処分があります。その具体的な内容をまとめます。

<相続以外の財産処分(※2)

あ 遺贈に関する事項

『財産の承継』の1つである(後記※5
※民法964条など

い 財団法人設立意思の表示

※一般社団法人及び一般財団法人に関する法律152条2項

う 財産の拠出

※同法158条2項

え 信託の設定

『財産の承継』の1つである(後記※5
※信託法3条2項

4 遺言による財産の承継の種類

上記の分類の中にいくつか,財産の承継に関するものがありました。財産の承継に関する遺言事項をまとめます。

<遺言による財産の承継の種類(※5)

あ 相続分の指定
い 遺産分割方法の指定
う 遺贈
え 信託(遺言信託)

これらの遺言事項の具体的な内容については別の記事で詳しく説明しています。
詳しくはこちら|遺言による財産の承継の種類=相続分・遺産分割方法の指定・遺贈・信託

5 身分関係に関する事項

遺言の記載事項のうち身分関係に関するものはいくつかあります。具体的な内容をまとめます。

<身分関係に関する事項(※3)

あ 子の認知

事情によっては,生前に認知することを避けることもある
→その代わりに遺言で認知する
※民法781条2項
詳しくはこちら|遺言認知|子の存在を隠す・遺言執行者が遂行・相続→金銭賠償
詳しくはこちら|死後の認知|全体|認知を回避or遅らせる背景事情

い 未成年後見人の指定

※民法839条1項

う 未成年後見監督人の指定

※民法848条

6 遺言の執行に関する事項

遺言の記載事項の1つとして,遺言の執行に関する事項があります。具体的な内容は遺言執行者の選任です。

7 遺言による遺産分割の禁止

遺言の記載事項の種類の1つとして『遺産分割禁止』があります。ただし,分割禁止が無制限だと『遺産分割未了』が永久に続くことになります。好ましくないことなので,分割禁止には5年の期間制限があります。

<遺言による遺産分割の禁止(※6)

あ 分割禁止の期間

上限は『5年』
※民法907条1項,908条

い 遺言以外による分割禁止の指定

遺言以外の指定は無効
例えば,生前に推定相続人に通知する,関係者間で調印する,などは効力がありません。

う 分割禁止をする理由|例

ア (推定)相続人に若年者が含まれる→成熟を待つイ 感情的に対立・紛争が予想される→沈静化を待つ

関連コンテンツ|遺産分割の凍結をすることを目的とする信託|条項例
なお,共有物の共有者全員が合意した場合も分割禁止を設定できます。
詳しくはこちら|共有物分割禁止特約の基本(最長5年・登記の必要性)
遺産分割の禁止も分割を封じるという効果は同じです。しかし,分割禁止の設定を遺言者1人の判断だけで行うことができます。

8 任意的な記載事項の例

遺言には法的には意味のない記載をすることもあります。
紛争予防として現実的な効果を生じることもよくあります。

<任意的な記載事項の例(※7)

あ 遺言者の気持ち

遺産承継内容を決めた気持ち・考えを記載する
→相続人が理解・納得する
→各種請求・主張を控える傾向となる

い 生前の財産の動きの説明

例;相続人の1人への生前贈与の意図・理由を明記しておく
→死後に『無断で取得・移転した』という主張・紛争を防ぐ

う 遺言の撤回・変更の理由

遺言を撤回・変更した場合
→この理由・経緯を書いておくとトラブル予防になる
<→★遺言作成時の注意(のうち撤回・変更の経緯の記載)

<参考情報>

梶村太一ほか『家族法実務講義』有斐閣p498
『月報司法書士2014年9月』日本司法書士会連合会p29

弁護士法人 みずほ中央法律事務所 弁護士・司法書士 三平聡史

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