1 遺言執行者による遺言執行に抵触する相続人の処分は無効となる
2 遺言執行者の執行に抵触する行為の無効
3 遺言執行に抵触する行為が無効となる具体例
4 遺言執行者の就任時期と抵触行為の無効の関係
5 相続人申立による遺言執行者の就任の時期と抵触の判断
6 遺言執行に抵触する譲渡の後の譲渡(転得者)
7 抵触行為の後の転得者の登記による保護(否定)
8 民法177条の第三者に該当しない実質的無権利者の具体例(参考)
9 遺言内容の効力と抵触行為の関係(概要)

1 遺言執行者による遺言執行に抵触する相続人の処分は無効となる

遺言の執行のために遺言執行者が選任されることがあります。必須というわけではありません。遺言執行者が選任されないこともよくあります。
詳しくはこちら|遺言執行者の選任(相続人の申立・家裁の職権による選任・報酬金額)
遺言執行者が選任された場合には,遺言執行者による業務の遂行はとても強く保護されます。遺言の執行に抵触する行為があっても無効とされるのです。
本記事では遺言執行者の執行に抵触する行為の効力(無効)について説明します。

2 遺言執行者の執行に抵触する行為の無効

遺言執行者による遺言の執行は最大限保護されています。
遺言の執行に抵触する行為は無効となるのです。

<遺言執行者の執行に抵触する行為の無効>

あ 条文の規定

『遺言執行者がある場合』
→『遺言の執行を妨げるべき行為』が『できない』
※民法1013条

い 解釈(判例)

遺言内容(執行内容)と抵触する行為
→『無効』となる
対抗関係になるわけではない
=抵触行為により取得した者が登記を得ていても優先されない
※民法177条,1013条
※最高裁昭和62年4月23日(後記※1)
※仙台高裁昭和63年3月22日(後記※2)

3 遺言執行に抵触する行為が無効となる具体例

前記の解釈は少し分かりにくいです。具体的な事案を考えると理解しやすいです。前記の判例・裁判例の内容を簡単にまとめます。

<遺言執行に抵触する行為が無効となる具体例>

あ 相続人の処分行為(※1)

ア 事案
相続人が相続財産に根抵当権を設定した
これは遺言内容(遺贈)と抵触するものであった
根抵当権者は競売を申し立てた
イ 裁判所の判断
根抵当権の設定は無効である
→競売の申し立ても無効である
※最高裁昭和62年4月23日

い 相続人の債権者による差押(※2)

ア 事案
法定相続人の債権者が相続財産を差し押さえた
これは遺言内容(遺贈)と抵触するものであった
イ 裁判所の判断
差押は無効である
※仙台高裁昭和63年3月22日

登記を得ていても遺言内容に反していると無効となるのです。
そもそも登記があると優先されるのは対抗関係が成立している時です。対抗関係ではない場合は,登記があっても守られないのです。

4 遺言執行者の就任時期と抵触行為の無効の関係

遺言執行者の就任と抵触行為のタイミングの影響についてまとめます。
まず,遺言の中に遺言執行者の選任が記載されていれば,結論としては抵触行為のタイミングに関係なく無効となります。

<遺言執行者の就任時期と抵触行為の無効の関係>

あ 条文・規定

『遺言執行者がある場合』に『抵触する処分』が無効となる

い 解釈論

『遺言に遺言執行者選任』が記載されている場合
→『抵触する処分は無効』となる

う 就任/処分のタイミング

『ア・イ』の2つのタイミングの前後関係は効果に影響ない
ア 就任のタイミング
イ 遺産処分のタイミング
※最高裁昭和62年4月23日

5 相続人申立による遺言執行者の就任の時期と抵触の判断

遺言には遺言執行者の選任が記載されていないこともあります。この場合でも,相続人が家裁に遺言執行者の選任を申し立てることができます。
その後,遺言執行者が就任した時点から,抵触行為が無効になる期間がスタートします。
例えば,相続人が遺言と抵触する処分をしてしまうかもしれないというケースでは,他の相続人は急いで遺言執行者の選任の申立をして抵触行為として無効とする機能をオンにすべきです。

<相続人申立による遺言執行者の就任の時期と抵触の判断>

あ 相続人の申立による遺言執行者の就任

遺言に『遺言執行者選任』が記載されていない
相続人が家庭裁判所に遺言執行者選任を申し立てた
家庭裁判所が遺言執行者を選任した
遺言執行者が就任した

い 抵触する行為・有効性

遺言執行者が就任される『前』に相続人が遺産を処分した
→この処分は有効である

6 遺言執行に抵触する譲渡の後の譲渡(転得者)

抵触行為の後にさらに別人に譲渡されることもあります。
このように譲渡が繰り返された場合の有効性についてまとめます。

<遺言執行に抵触する譲渡の後の譲渡(転得者)>

あ 第1取引(抵触する行為)

相続人Aが遺産の不動産甲を第三者Bに譲渡(売却)した
遺言執行に抵触するものであった
→譲渡は無効であるためBは所有権を承継しない

い 第2取引(譲渡)

BはC(転得者)に不動産甲を譲渡(売却)した
転得者Cは権利を承継しない

う 復元のための請求

遺言執行者は『ア・イ』の請求をすることができる
ア 登記抹消請求
イ 不動産そのものの返還請求
※民法1013条

遺言執行者の執行の保護は非常に強力なのです。

7 抵触行為の後の転得者の登記による保護(否定)

遺言執行に抵触する譲渡の後にさらに譲渡を受けた者は権利(所有権)を得られない結果となりました(前記)。
この点,転得者が登記を獲得していることで保護されるべきではないか,という疑問もあります。
結論としては,登記を得ていても保護されません。これは,遺言執行者の執行を最大限保護するために犠牲とされているといえます。

<抵触行為の後の転得者の登記による保護(否定)>

あ 公信力の否定

(前記のケースにおいて)
転得者Cが所有権移転登記を得ていても
登記に公信力はないので権利を獲得するわけではない
→転得者Cは実質的無権利に変わりはない

い 対抗関係の否定

転得者Cは民法177条の第三者に該当しない
=対抗関係は生じない
=登記の獲得によって保護されるわけではない
※大判昭和5年6月16日

8 民法177条の第三者に該当しない実質的無権利者の具体例(参考)

以上で説明したように,抵触行為が無効となった結果,抵触行為によって取得した(はずの)者(B)は権利(所有権)を得られないことになります。Bからさらに譲り受けた転得者(C)も同じです。
仮に登記を得ても,実質的無権利者であるため,対抗関係ではないという理論です。別の記事で,このような状況の具体例を説明しています。
詳しくはこちら|民法177条の第三者に該当しない実質的無権利者の具体例

9 遺言内容の効力と抵触行為の関係(概要)

以上のように,遺言執行者が選任されている場合には,遺言の内容が強力に実現されるといえます。
ただし,これは遺言内容が実体上実現できることが前提です。
具体的にいうと,もともと遺言内容である遺贈が,生前処分と対抗関係に立っていて,生前処分の登記が既になされている場合は,生前処分が優先となります。つまり生前処分によって取得した者が確定的に権利(所有権)を得て,受遺者は権利を取得しません。
ここで遺言執行者が選任されても,この実体上の権利関係を否定することはできないのです。
詳しくはこちら|生前処分と遺言が抵触するケースの権利の帰属の判断(対抗要件or遺言の撤回)

本記事では,遺言執行者の執行に抵触する行為の効力(無効)について説明しました。
実際には,細かい事情によって違うこともありますし,遺言執行者の選任申立をするなどの適切なアクションによって結論が変わってくることもあります。
実際に遺言どおりの内容が実現しないような状況に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。