1 遺言に『遺言執行者選任』が記載されていなくても,選任できることもある
2 遺言執行者が行うべき業務がある場合に,家庭裁判所は選任を行う
3 遺言執行者が選任されると,抵触する処分が無効となる
4 遺言を作成する時に『遺言執行者の指定』をしておくと実現が強化される
5 『指定されている遺言執行者』が既に亡くなっている場合は,別の人を選任できる
6 遺言執行者の報酬は,遺言で指定相続人と協議家庭裁判所が決定,のどれかで決まる
7 遺言執行者の報酬額相場は30万円程度or遺産評価額の3%程度

1 遺言に『遺言執行者選任』が記載されていなくても,選任できることもある

遺言で遺言執行者が指定されていない場合でも,遺言執行者は選任されないとは限りません。
家庭裁判所が選任することができるとされています(民法1010条)。
あくまでも,『できる』とされており,家庭裁判所が選任するか否かを判断する形になっています。

2 遺言執行者が行うべき業務がある場合に,家庭裁判所は選任を行う

(1)法律上遺言執行者による執行が必要な場合

まず,法律上,遺言執行者が執行するとされているものがあります。
遺言にこの内容が記載されている場合は,必然的に,遺言執行者の選任は認められます。

<遺言執行者による執行が規定されている事項>

・(死後)認知;民法781条2号
・相続人廃除,取消;民法893条,894条2号

(2)遺言執行者の業務が望まれる場合

法律上必須ではなくても遺言執行者による業務,執行が望まれる,ということがあります。
次のような遺言執行者の任務が必要,という場合です。

<遺言執行者の任務(主なもの)>

・遺産目録作成
・遺産の管理・引渡し

典型的なケースを説明します。

<遺言執行の必要性が少ない→遺言執行者の選任を否定する方向>

・包括遺贈
・遺産すべてについて,遺産分割方法の指定がなされている

これらに該当する場合,相続開始とともに,権利移転が生じ,確定します。

<遺言執行の必要性が高い→遺言執行者の選任を肯定する方向>

・遺産内容が多い
・遺産のうち,管理や引渡を要するものが多い

これらは,遺言執行者の任務によりスムーズになります。

3 遺言執行者が選任されると,抵触する処分が無効となる

(1)原則として,遺言執行者の執行に抵触する処分は無効となる

遺言執行者の執行は,法律上,とても強く保護されています。
これに反する処分が無効とされるのです(民法1013条)。

(2)遺言に遺言執行者の指定がない場合,就任前は無効とならない

遺言に『遺言執行者の指定』がある場合,実際の就任前後に関わらず,抵触する処分は無効となります。
詳しくはこちら|遺言執行者選任がある場合は『遺言内容優先』となる|対抗関係ではない

一方,遺言に『遺言執行者の指定』がない場合は,このとおりではありません。
相続人の処分の相手方の立場からすれば,さすがに想定外過ぎます。
逆に言えば,処分の相手方は,後から遺言が発見されて覆されるというリスクまでを負っているということです。

4 遺言を作成する時に『遺言執行者の指定』をしておくと実現が強化される

以上の説明のとおり,遺言執行者の執行は強く保護されています。
逆に言えば,次のようになります。

<遺言作成時の実現強化策>

遺言で『遺言執行者の指定』をしておけば,遺言内容と異なる処分を無効にできる

もちろん,遺言執行者の選任は一定のコストがかかります(後記『6』;遺言執行者の報酬)。
無条件に遺言執行者の指定(選任)が良い,ということではありません。
選任する場合は,遺言執行者の指定とともに,報酬額を規定しておくとベターでしょう。

5 『指定されている遺言執行者』が既に亡くなっている場合は,別の人を選任できる

遺言者が亡くなった時点で,遺言の内容が現実化します。
当然,遺言作成から一定の時間が経過しています。
『遺言執行者として指定されている者が既に亡くなっている』ということは珍しくありません。
このような場合は,相続人等が家庭裁判所に申し立てることにより,代わりの遺言執行者を選任してくれます。

このようにして遺言執行者が就任した場合,遺言に抵触する行為は無効となります。
『遺言上で遺言執行者が指定されている』ので,実際の就任前の処分についても適用されると考えられます。

6 遺言執行者の報酬は,遺言で指定相続人と協議家庭裁判所が決定,のどれかで決まる

<遺言執行者の報酬の決定方法>

ア 遺言で報酬額を規定しておく
イ 相続人と遺言執行者が協議によって定める
ウ 家庭裁判所が報酬額を定める

遺言執行者の報酬は,遺言において規定しておくことができます(民法1018条1項ただし書)。
規定されていない場合,遺言者の地位を承継する相続人と,遺言執行者の協議で定めることになります。
ケースによっては,遺言執行者と相続人(の一部)が対立することがあります。
そのような場合は,協議で決める,ということは事実上不可能となりましょう。
そこで,家庭裁判所が諸事情を考慮して報酬額を算定する,という制度があります(民法1018条1項本文)。

7 遺言執行者の報酬額相場は30万円程度or遺産評価額の3%程度

遺言執行者の報酬として妥当な金額を算定する要素は↓のようなものです。

<遺言執行者の報酬額の算定要素>

ア 業務量
 複雑さ=法的な解釈が曖昧な内容の量,も業務量に関わります。
イ 責任の大きさ(遺産規模)

実際に,家庭裁判所が遺言執行者の報酬額を算定する場合は,このような要素を判断材料にします。
家庭裁判所が算定する場合の標準的な金額,目安をまとめておきます。

<家庭裁判所が定める遺言執行者の報酬相場>

ア 小規模,単純
 →30万円程度~
イ ある程度の規模以上
 →遺産の評価額の3%程度

遺言作成時に遺言者と遺言執行者(候補)で決める場合や,相続人と遺言執行者で決める場合にも,この基準(目安)が参考にされることが多いです。
その一方で,親族が遺言執行者となる場合,元々対価性を考えず,無償,とすることも多いです。

条文

[民法]
(認知の方式)
第七百八十一条  認知は、戸籍法 の定めるところにより届け出ることによってする。
2  認知は、遺言によっても、することができる。

(遺言による推定相続人の廃除)
第八百九十三条  被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは、遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならない。この場合において、その推定相続人の廃除は、被相続人の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。

(推定相続人の廃除の取消し)
第八百九十四条  被相続人は、いつでも、推定相続人の廃除の取消しを家庭裁判所に請求することができる。
2  前条の規定は、推定相続人の廃除の取消しについて準用する。
(遺言執行者の選任)
第千十条  遺言執行者がないとき、又はなくなったときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求によって、これを選任することができる。

(遺言の執行の妨害行為の禁止)
第千十三条  遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。

(遺言執行者の報酬)
第千十八条  家庭裁判所は、相続財産の状況その他の事情によって遺言執行者の報酬を定めることができる。ただし、遺言者がその遺言に報酬を定めたときは、この限りでない。
2  第六百四十八条第二項及び第三項の規定は、遺言執行者が報酬を受けるべき場合について準用する。

判例・参考情報

[最高裁判所第2小法廷昭和36年(オ)第338号第三者異議事件昭和39年3月6日]
(判例1)
受遺者は登記がなければ自己の所有権取得をもつて被上告人に対抗できないものと解すべきであり、原判決認定のように競売申立開始決定登記後に遺言執行者が選任せられても、それは被上告人の前記第三者たる地位に影響を及ぼすものでないと解するのが相当である。