【離婚訴訟の附帯処分等(子の監護・財産分与・親権者)の申立と審理の理論】

1 離婚訴訟の附帯処分等の申立と審理の理論
2 離婚訴訟の附帯処分等の基本
3 附帯処分等の申立
4 附帯処分等の具体的内容
5 附帯処分等の審理
6 附帯処分等の申立と審理の関係(非訟事項の性質)
7 被告からの附帯処分の申立
8 相手方への給付を求める申立の可否(概要)
9 附帯処分の申立の時期
10 附帯処分等における子の意見の聴取(概要)

1 離婚訴訟の附帯処分等の申立と審理の理論

離婚訴訟では,裁判所は離婚を認めるかどうかという判断をすることになります。裁判所が離婚を認める場合に,一緒に離婚に伴う条件を定めることもできます。本来,独立した家事審判として定めるものですが,便宜的に離婚訴訟の中で付随的に判断するという状況から,これを附帯処分等と呼びます。
詳しくはこちら|子の監護・財産分与・親権者を定める基本的な方法(協議・家事審判)
離婚訴訟の附帯処分等は,法的に特殊な性質があり,これが手続に影響しています。
本記事では,離婚訴訟の附帯処分等の申立や審理の理論面について説明します。

2 離婚訴訟の附帯処分等の基本

離婚訴訟の附帯処分等の内容は主に子の監護に関する事項と財産分与(を定めること)(A)と親権者の指定(B)の2つに分けられます。
Aは附帯処分そのものです。
B(親権者の指定)は,離婚訴訟において裁判所が職権で判断するものです。申立は不要です。そこで附帯処分には含まれません。ただ,申立以外,つまり審理の面ではAと共通します。そこで,A・Bを合わせて附帯処分等として呼んでいます。

<離婚訴訟の附帯処分等の基本>

あ 離婚訴訟の附帯処分

離婚訴訟で裁判所が離婚を認める場合には
家裁が訴訟手続の中で子の監護に関する事項・財産分与を定めることができる
附帯処分として当事者の申立(付随申立)をすることが必要である
(旧法では附帯申立と呼んでいた)
※人事訴訟法32条

い 親権者の指定の扱い

離婚訴訟で裁判所が離婚を認める場合には
家裁は職権で親権者を定める
→親権者の指定は『附帯処分』ではない
しかし審理の面では『附帯処分』(あ)と同様の扱いとなる

う 『附帯処分等』という総称

『附帯処分』と親権者の指定をあわせて『附帯処分等』と呼ぶ
※裁判所法61条の2第2項参照

3 附帯処分等の申立

前記のように,Aは附帯処分そのものなので,附帯処分の申立が必要です。
一方,Bは附帯処分そのものではないので,附帯処分の申立は不要です。というより,申立がなくても裁判所が職権で判断しなくてはならない事項なのです。
とはいっても,実務では,B(親権者の指定)についても,当事者は自身を親権者にするという主張(申立)をします。理論的には職権発動を促す(自身を親権者に指定する判断を希望する)という位置づけになります。

<附帯処分等の申立>

あ 附帯処分の申立

附帯処分(子の監護に関する事項・財産分与)について
(離婚訴訟とは別に)当事者の申立(付随申立)が必要である
※松川正毅ほか編『新基本法コンメンタール 人事訴訟法・家事事件手続法』日本評論社2013年p81

い 親権者の指定の申立(不要)

ア 理論 親権者の指定について
裁判所が職権で定める
→当事者の申立は不要である
イ 実務 実務では,(自身への)親権者の指定を求めている
理論的には裁判所の職権発動を促すものである
※松川正毅ほか編『新基本法コンメンタール 人事訴訟法・家事事件手続法』日本評論社2013年p81

4 附帯処分等の具体的内容

附帯処分等の主な内容は,監護に関する事項・財産分与(A)と親権者の指定(B)です(前記)。
正確には,附帯処分等の内容はこれ以外にもあります。含まれる内容をまとめます。

<附帯処分等の具体的内容>

あ 監護者の指定その他の子の監護に関する処分

ア (親権者と別に)監護者を指定すること 離婚前(別居中)に監護権者を指定することも含まれる
詳しくはこちら|親権者・監護権者の指定の手続(手続の種類や法的根拠)
イ 父or母と子の面会その他の交流の具体的内容を定めるウ 子の引渡を認めるエ 監護費用として養育費の支払を命じる ※松川正毅ほか編『新基本法コンメンタール 人事訴訟法・家事事件手続法』日本評論社2013年p80

い 財産分与に関する処分
う 年金分割に関する処分

年金分割において
厚生年金保険などの報酬比例部分の年金額の算定の基礎となる標準報酬の按分割合を定める

え 親権者の指定

附帯処分そのものではない
実際には附帯処分に準じて扱われている
附帯処分等に含まれる

5 附帯処分等の審理

附帯処分等は,文字どおり,メインである離婚請求(訴訟)のサブとして一緒に審理されます。一緒とはいっても,審理の内容(種類)は質的に違います。
離婚請求訴訟事項であり,附帯処分等審判事項(非訟事項)なのです。異質な事項が便宜的に1つの訴訟手続で審理される,という理論的には特殊な状態なのです。

<附帯処分等の審理>

あ 審理の性質

附帯処分等について
本来は非訟事件である(審判事項である)

い 訴訟手続による審理

人事訴訟法32条により,離婚訴訟の訴訟手続内で審理される
離婚訴訟と附帯処分等について請求の併合が生じるわけではない(文字どおり附帯という扱いである)

6 附帯処分等の申立と審理の関係(非訟事項の性質)

附帯処分等非訟事項なので,訴訟事項とは違う扱いを受けます。
まず,一般論としては,非訟事項は,申立の段階では申立人が主張する内容を特定することは不要です。そして当事者が内容を特定(主張)したとしても,それは希望に過ぎず,裁判所の判断を拘束しません。最高裁判例もこの考え方を示しています。
しかし,附帯処分等については,このような非訟事項の一般論をそのまま当てはめるべきではないという見解もあります。

<附帯処分等の申立と審理の関係(非訟事項の性質)>

あ 内容を特定しない申立(可能)

附帯処分等は非訟事項である
→理論的には当事者は内容を特定せずに申立をすることも可能である

い 内容を特定しない申立の例

金額を明示せずに養育費の支払を求める
財産分与の分与の内容を示さない

う 裁判所の判断の拘束(判例=なし)

裁判所は当事者の主張(申立)内容に拘束されない
※最高裁昭和41年7月15日

え 裁判所の判断の拘束(有力説=あり)

当事者の主張以上の給付(財産分与や養育費)を認めるべきではないという見解もある(有力説)
※松川正毅ほか編『新基本法コンメンタール 人事訴訟法・家事事件手続法』日本評論社2013年p82参照

7 被告からの附帯処分の申立

附帯処分について,裁判所が判断するのは,離婚請求を認める場合だけです。
被告が離婚請求について棄却を求めているケースで,被告が,離婚請求を認めることを前提とする附帯処分を申し立てることは違和感があります。
しかし,仮に敗訴した(離婚請求が認められてしまった)場合という前提(仮定)で念の為附帯処分を申し立てることは認められています。

<被告からの附帯処分の申立>

あ 被告からの附帯処分の申立

離婚訴訟の被告が反訴提起をせずに,原告の請求について棄却を求めている
この状況で被告が,仮に請求が認容された場合に備えて財産分与の請求をすること
→許される

い 実務の傾向(参考)

実際には被告が離婚請求の反訴を行い,その中で附帯処分の申立をすることが多い
この場合理論的な問題は生じない
※松川正毅ほか編『新基本法コンメンタール 人事訴訟法・家事事件手続法』日本評論社2013年p83

8 相手方への給付を求める申立の可否(概要)

訴訟事項である給付請求についての一般論として,給付する者(義務者)が請求することはできません。要するに支払わせて欲しいという要求は法的請求としてはできないということです。
この点,附帯請求は訴訟事項ではなく非訟事項です。
そこで,給付義務者からの附帯処分の申立を認める見解もあります。一方,訴訟事項に準じてこのような申立を認めない見解もあります。
詳しくはこちら|相手方への財産分与の給付を求める附帯処分の申立の可否(裁判例や学説)

9 附帯処分の申立の時期

前記のように,裁判所に附帯処分(の判断)をしてもらうには,当事者が申し立てる必要があります。
この申立をする時期については柔軟に扱われています。口頭弁論の終結時までであれば申立ができます。時機後れとして却下されることはありません。

<附帯処分の申立の時期>

あ 申立の期限

附帯処分の申立は口頭弁論の終結時までは行うことができる
例=訴訟係属中に申し立てる,申立の追加をする

い 時機後れの適用(なし)

時機に後れた攻撃防御方法として却下されることはない
※松川正毅ほか編『新基本法コンメンタール 人事訴訟法・家事事件手続法』日本評論社2013年p83

10 附帯処分等における子の意見の聴取(概要)

附帯処分等のうち,監護に関する事項と親権者の指定については,子供自身に大きな影響を与えます。
そこで,法律上,15歳以上の子については子供自身の意見の聴取が必要とされています。実務では約10歳以上の子であれば裁判所の裁量(判断)として子の意見の聴取をしています。
詳しくはこちら|監護に関する事項・親権者の裁判(審判・附帯処分等)における子の意見の聴取

本記事では,離婚訴訟の附帯処分等の申立と審理の理論面を説明しました。
実際には個別的な事情や主張・立証のやり方次第で結論が違ってくることもあります。
実際に離婚訴訟の附帯処分等(子の親権者や監護や財産分与)の問題に直面されている方はみずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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