1 婚姻の無効や取消
2 婚姻無効・取消の理由は明確なものだけである
3 年齢サバ読みの詐欺の事案と結論
4 20代ではないと気づいた可能性の指摘
5 サバ読みの幅が大きいため婚姻取消を認める
6 年齢サバ読みによる慰謝料を50万円と算定した

1 婚姻の無効や取消

婚姻(結婚)を解消するのは通常,離婚です。
しかし,事情によっては,婚姻の無効取消が認められることもあります。
理論的に,最初から婚姻が成立していなかったことになります。
離婚と違って,俗に言うバツイチという扱いではないことになります。
本記事では,婚姻の無効や取消の基本的な説明をします。
具体例として,女性が年齢のサバを読んだことが,婚姻届の提出後に発覚し,詐欺として婚姻の取消を認めたという珍しい裁判例も紹介します。

2 婚姻無効・取消の理由は明確なものだけである

婚姻届を記入した後に気が変わった場合は,理論的には婚姻は無効といえます。
詳しくはこちら|婚姻の実質的意思が婚姻届提出の時まで維持していないと無効になる
しかし実際に婚姻の無効や取消が認められるにはある程度高いハードルがあります。
例えば裁判で『気が変わった』と説明するだけでは無効であるとは認められません。
気が変わった背景の説明や立証が必要となります。
現実に婚姻の無効や取消が認められる典型例は,人物を書き間違えたとか,重婚・再婚禁止期間などの形式的な事情によるものです。
つまり,誰でも判断できるような分かりやすいものです。
ところで婚姻取消の理由の中には詐欺による婚姻というものもあります。
例えば『ウソの年収や職業を言われていた』というケースがありますが,これくらいでは『詐欺による婚姻』として取消は認められません。
このような結婚を決意した要因は,結婚するという決意のうちの一部に過ぎないからです。
現実はともかく裁判所の判断としては,年収が◯◯円だからこそ結婚したという理解をしないのです。
なお,このような個々の事情が違ったということは離婚原因として認められる可能性があります。
詳しくはこちら|3大離婚原因の全体と『性格の不一致』の誤解
いずれにしても,以上のように,詐欺による婚姻だから取消を認めるというのは非常に珍しいケースなのです。

3 年齢サバ読みの詐欺の事案と結論

詐欺による婚姻取消が,判例上認められたケースを紹介します。
女性が年齢を52歳→24歳,と大幅にサバを読んだという珍しいケースです。
まずは事案の内容と裁判所の判決の結論をまとめます。

<年齢サバ読みの詐欺の事案と結論>

あ 当事者
男性A 昭和46年生まれ 韓国人男性
女性B 昭和27年(1952年)生まれ 日本人女性
い 事案概要

インターネッツ上で知り合い,交際9か月で結婚(婚姻届提出)
Bは52歳なのに『24歳』とサバを読んでいた
発覚後もBは『結婚の解消』に応じなかった
Aが『婚姻取消』を求めて提訴

う 裁判所の判断

婚姻取消を認める
慰謝料50万円を認める
※民法747条1項
※東京高判平成18年11月21日(その後上告受理申立がなされている)
※『月報司法書士2008年1月』日本司法書士会連合会p46〜

ここで重要なのは『結論』自体ではなく,その途中の『理由』部分です。
いくつかの争点について検討・判断がなされています。

4 20代ではないと気づいた可能性の指摘

詐欺といえるためには誤解している(錯誤)ことが必要です。
このケースでは,裁判所は,女性が20代ではないと気づけた可能性があるという趣旨の指摘をしています。
つまり,詐欺を認めない方向の指摘です。

<20代ではないと気づいた可能性の指摘>

あ ポイント(まとめ)

肌を接した時に20代ではないと見抜けたはず

い 若く見える事情

ア 写真のBの服装・容貌は一見して50代には見えない
イ Bの送信したメール内容は『(⌒0⌒)』などの顔文字多用→50代女性のものとは思えない

う 見抜ける事情

ア 遠めならともかく,婚姻届までに約9か月の交際期間があった
イ 何度も肌を接している+Aには過去の女性経験が数人ある
→仮に50代には見えないとしても20代であることに疑いを持つ機会があった

このように裁判所は『見抜けた可能性』を指摘しました。
一方で,『Bが年齢を24歳と偽ったこと』自体はハッキリしていました。
そこで,『サバ読み』の中身について検討が進みます。

5 サバ読みの幅が大きいため婚姻取消を認める

裁判所は次に,サバを読んだ幅を検討します。
要するに20代という年齢はウソであると見抜けた可能性はあるが,28歳もずれているとまでは見抜けなかったという判断です。
結局,大きな誤解があった,つまり詐欺が認められました。

<サバ読みの幅が大きいため婚姻取消を認める>

あ 女性の心理学→多少のサバ読みは許容範囲!

女性の心理として多少なりとも若く見せたいことは十分理解できる
多少真実の年齢と差があってもそれだけでは婚姻取消を認めるわけではない(※1)

い サバ読み幅28歳は許容範囲を超える

52と24では『婚姻後の生活設計も土台から異なってくるような違い』である
→『サバ読み幅』が許容範囲を超えている(Aの予想外)
→婚姻取消を認める

裁判所の判断の中で『サバ読みOK』とさりげなくコメントされています(上記※1)。
『サバ読み幅の許容範囲』については『28歳はNG』と判断しましたが,何歳までOKか,は示されていません。
『婚姻後の生活設計』への影響,が考慮されています。
『何歳の差』ということではなく『出産可能性』や,子供の就学期間をカバーする『稼働可能期間』が重要な要素なのかもしれません。
いずれにしても『多少のサバ読みはOK』という判断と読めます。
婚活マーケットのプレイヤー(参加者)が負うリスクが1つ増えたのです。
プレイヤーの行動に影響を与えることが予想されます。

6 年齢サバ読みによる慰謝料を50万円と算定した

『サバ読みで間違えて結婚させた』ことについて,裁判所が認めた慰謝料は『50万円』でした。
一般的・平均的な『離婚の慰謝料』は200〜300万円程度です。
詳しくはこちら|離婚の慰謝料相場は200〜500万円,事情によってはもっと高額化
これと比べると低めの算定といえます。
この算定で考慮された事情をまとめます。

<年齢サバ読みの慰謝料50万円の考慮事情>

事情・評価 慰謝料への影響
『サバ読み幅』が20歳以上と大きい→違法性が高い プラス
交際期間が長い→『純粋な愛情』も大きい マイナス
『サバ読みを見抜ける事情』もあった マイナス
結婚後の同居期間が短い マイナス

少しテーマは異なりますが,女性の年齢に関する法的評価に正面から取り組んだ裁判例はほかにもあります。
関連コンテンツ|『女性の美貌』の経済的価値|判例における逸失利益の算定

本記事では,婚姻の無効や取消の制度や,実際に婚姻取消を認めた裁判例を説明しました。
実際に家庭裁判所に婚姻の無効や取消を認めさせるには立証のハードルがあります。
当然,主張の組み立て方や証拠の選択と提出の方法によって裁判所の判断は変わってきます。
実際に婚姻が有効ではないと考えられる状況に直面されている方は,弁護士の法律相談をご利用くださることをお勧めします。