【養育費を請求しない合意をした後の養育費請求の裁判例(事情変更の判断)】

1 養育費を請求しない合意の後の養育費請求の裁判例
2 教育費増加と収入や財産状況の変化(養育費肯定裁判例)
3 無職だった父の就職(養育費肯定裁判例)
4 教育費の変動を想定内とした(養育費否定裁判例)
5 離婚後1年で生活状況に変化なし(養育費否定裁判例)
6 将来の養育費の一括払い後の浪費(養育費否定裁判例)

1 養育費を請求しない合意の後の養育費請求の裁判例

いろいろな事情によって,離婚が成立した時に,将来養育費を請求しないという合意(約束)をすることがあります。
このような養育費の不請求の合意は,事情によって無効となることもあります。
詳しくはこちら|養育費を請求しない合意は無効となることもある(子供からの扶養請求との関係)
本記事では,養育費の不請求の合意の有効性を判断した裁判例を紹介します。

2 教育費増加と収入や財産状況の変化(養育費肯定裁判例)

養育費の不請求の合意の後に大きな状況の変化があったと認められ,その後の養育費請求が認められた事例です。
つまり,不請求の合意は無効として扱われたといえます。

<教育費増加と収入や財産状況の変化(養育費肯定裁判例)>

あ 事案

父母が養育費を請求しない合意をした
その後,子の教育費が増加した
親権者の収入状況・財産状態に変動(変更)が生じた
母は養育費を請求した

い 裁判所の判断

裁判所は事情の変更があったと判断した
→養育費の請求を認めた
※大阪高裁昭和56年2月16日

3 無職だった父の就職(養育費肯定裁判例)

養育費を支払うべき父が無職だったため,養育費を請求しない合意をしたケースです。
その後父が就職したため,事情の変化があったとして,養育費の請求が認められました。

<無職だった父の就職(養育費肯定裁判例)>

あ 事案

離婚の際,子を母が引き取った
当時,父は無職であった
父母は,養育費を請求しない合意をした
その後父は就職した
母は養育費を請求した

い 裁判所の判断

裁判所は事情の変更があったと判断した
→養育費の請求を認めた
※大阪家裁平成元年9月21日

4 教育費の変動を想定内とした(養育費否定裁判例)

次に,養育費の不請求の合意が有効であるとして,その後の養育費の請求が認められなかった裁判例を紹介します。
まず,特殊な事情としては子供の教育費が増加したというものだけだったケースです。
負担の増加は間違いなかったのですが,離婚の際から想定されたことと判断されました。
事情に変化がないので,不請求の合意は有効とされました。

<教育費の変動を想定内とした(養育費否定裁判例)>

あ 事案

父母が養育費を請求しない合意をした
その後,子の教育費が増加した
母が養育費を請求した

い 予測可能性についての判断

子が学齢期に達すれば,教育費などにより養育費用が多少増加する
このことは不請求の合意の時点で考慮されている

う 実情についての判断

母が普通程度以上の生活を送っている
子も不自由なく生活している

お 養育費の請求についての判断

事情変更があったとはいえない
→養育費の請求を認めなかった
※福島家裁昭和46年4月5日

5 離婚後1年で生活状況に変化なし(養育費否定裁判例)

離婚後1年しか経過しておらず,また,経済的状況に大きな変化がなかったケースです。
裁判所は,踏み込んで養育費請求の意図は慰謝料請求であるとまで示しました。
不請求の合意どおりに,養育費請求を認めませんでした。

<離婚後1年で生活状況に変化なし(養育費否定裁判例)>

あ 事案

父母が養育費を請求しない合意をした
その後,母が養育費を請求した

い 請求の背景についての判断

まだ離婚後1年も経過していない
生活状況が変化していない
請求の真の目的は慰謝料請求にある

う 養育費の請求についての判断

事情変更があったとはいえない
→養育費の請求を認めなかった
※札幌高裁昭和51年5月31日

6 将来の養育費の一括払い後の浪費(養育費否定裁判例)

養育費の不請求の合意をする背景にはいろいろな事情があります。
典型的な事情の1つは,将来の養育費を一括して払ったから,これ以上は払わないというものです。
実際に払うべきものを払っていないのとはまったく異なります。
一括払いした金銭を他の用途(事業)に使ってしまったケースで,その後の養育費請求を阻止できました。

<将来の養育費の一括払い後の浪費(養育費否定裁判例)>

あ 離婚成立

昭和60年11月に調停離婚が成立した
この時『い』の内容の合意をした
父は合意内容どおりに母に支払をした

い 離婚時の合意内容

扶養義務者が子が成年に達するまでの養育費として
父が1000万円を支払う
父が財産分与・慰謝料として3000万円を支払う
将来相互に何らの請求をしないこと

う 離婚時の子の状況

子供は私立高校に進学していた
卒業後は大学医学部入学を予定していた

え 想定外の資金の消費

平成7年8月の時点において
1000万円は,子供の私立中学までの授業料・学習塾の費用に費やした
3000万円は妻の父の事業につぎ込んで消費した
母は養育費を請求した

お 裁判所の判断

事情の変更があったとはいえない
→養育費の請求を認めなかった
※東京高裁平成10年4月6日

要するに,預かったお金を別のことに使ってなくしてしまったという背景です。
その後の養育費請求は否定されて当然とも思えます。
しかし,一般的に養育費の一括払いは,その後の追加の請求が認められることもあります。
詳しくはこちら|養育費の一括払いの後から追加(増額)請求されることがある(手続・予防策)
養育費の支払方法として,将来の一括払いはリスクがあるのです。

本記事では,養育費の不請求の合意の後に養育費が請求された事例の裁判例を紹介しました。
つまり,養育費不請求の合意の有効性の判断の具体例です。
お分かりと思いますが,個別的事情によって結論は大きく違ってきます。
主張や立証次第で結果に違いが出るテーマなのです。
実際に不請求の合意についての問題に直面されている方は,本記事の内容だけで判断せず,弁護士の法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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