1 相手方への財産分与の給付を求める附帯処分の申立の可否
2 相手方への財産分与の給付を求める申立の具体的状況(前提)
3 相手方への財産分与の給付の申立についての考え方
4 相手方への財産分与の給付の申立の可否(見解の分布)
5 相手方への財産分与の給付の決定の可否
6 即時抗告審における不利益変更(参考)

1 相手方への財産分与の給付を求める附帯処分の申立の可否

離婚後に,財産分与(だけ)の調停・審判を申し立てることができます。離婚前であれば,離婚訴訟の附帯処分として財産分与を申し立てることになります。この場合,財産分与の請求非訟事項であるにも関わらず,便宜的に訴訟手続の中で審理(判断)されることになります。そこで手続上の扱いが複雑になります。
詳しくはこちら|離婚訴訟の附帯処分等(子の監護・財産分与・親権者)の申立と審理の理論
審判でも訴訟でも,手続上の扱いの問題の1つに相手方への財産分与の給付を求めるような申立をできるか,また,裁判所がそのような決定できるか,というものがあります。
本記事ではこれについての理論と見解を説明します。

2 相手方への財産分与の給付を求める申立の具体的状況(前提)

相手方への財産分与の給付を求めるという状況は常識的に普通の状況ではありません。
実際には,有責配偶者の離婚請求において,有責配偶者側が,請求が認められるために相手方への給付を自ら希望する状況が典型例です。
詳しくはこちら|有責配偶者の離婚請求の3要件のうち特段の事情(苛酷条項)の判断

相手方への財産分与の給付を求める申立の具体的状況(前提)

あ 原告A

離婚訴訟において
Aは財産分与の請求(附帯処分の申立)をしている
内容=相手方(被告)Bに財産を分与(給付)する

い 被告B

Bは財産分与の請求(附帯処分の申立)をしていない

3 相手方への財産分与の給付の申立についての考え方

前記のような状況で,原告Aが「被告Bへの財産分与の給付」を申し立てることを認める見解と認めない見解があります。これらの見解の元になる考え方の枠組みは要するに,裁判所の後見的機能(裁量)私的自治のどちらを重視するかどうことになります。

相手方への財産分与の給付の申立についての考え方

あ 家裁の後見的機能→肯定方向

財産分与は審判事項である
原則として当事者の主張は家裁を拘束しない
=家裁の裁量が大きい
詳しくはこちら|家事審判の対審構造の特徴(処分権主義・弁論主義・既判力なし)

い 私的自治・処分権主義→否定方向

私的な権利は請求する/しないという個人の判断が尊重される
詳しくはこちら|『法律行為』の意味・基礎(私的自治の原則との関係)・根拠

う 見解の対立(全体)

Bへの財産分与について
裁判所が判断(決定・判決)できるか否か
→複数の見解がある(後記※1

4 相手方への財産分与の給付の申立の可否(見解の分布)

前記の2つの考え方を元にすると,相手方への財産分与の給付の申立を認める結論と認めない結論が導かれます。
最高裁判例の補足意見としては認める見解が示されています。しかし,学説としては認めない見解が強いです。

相手方への財産分与の給付の申立の可否(見解の分布)(※1)

あ 肯定説

離婚請求の原告が,財産分与の義務者となるべき者として自己が相手方に財産分与すべき義務の内容を定めることを求める申立について
→認める
※最高裁昭和62年9月2日(補足意見)
※神戸地裁平成元年6月23日
※東京高裁平成3年7月16日
※横浜地裁横須賀支部平成5年12月21日
※大津千明『離婚給付に関する実証的研究』日本評論社p330
※中川淳『判例評釈』/『判例タイムズ645号』判例タイムズ社p61

い 否定説

ア 裁判例 附帯処分の申立をしない相手方への分与を認めない
※大阪高判平4年5月26日
※東京高判平6年10月13日
※東京高裁昭和63年8月23日
イ 学説 学説は否定説が強い
※鍛冶良堅『破綻主義と最高裁大法廷判決』/『判例タイムズ652号』判例タイムズ社p65
※木村要『有責配偶者からの離婚請求』/『戸籍時報551号』p16
※野田愛子『判例評論』/『判例時報1370号付録』判例時報社p204
※松川正毅ほか編『新基本法コンメンタール 人事訴訟法・家事事件手続法』日本評論社2013年p83参照

5 相手方への財産分与の給付の決定の可否

次に,少し局面は変わって,申立人が自身への給付を求めているという通常のケースで,裁判所の判断で申立人から相手方への給付を決定することができるか,という問題もあります。
前述の,有責配偶者による離婚請求を認めた判例が出た時代に,この議論が始まり,当初は,認める方向性が提唱されました。その後,現在では,認めるという結論はほぼ統一的見解に至っています。

相手方への財産分与の給付の決定の可否

あ 有責配偶者の離婚請求を契機とした発想(参考)

有責配偶者からの離婚請求を認容する条件としては,慰謝料ないし財産分与の給付によって無責配偶者の蒙る不利益が補償されなければならないという指摘は,従来この問題を論じてきたあらゆる立場の学説の中に共通して認められる。
本稿はいわば,この主張を破綻主義の構造の面から裏づけたものであり,その具体的方策としては,とりあえず昭和六二年九月判決の補足意見の提案を一歩進めて,破綻離婚には当然に財産分与の判決が随伴するという判例法の創造を期している。
制度の現状に無理があるとするならば,それは前述のように,当事者の申立てない裁判がなされるという点に尽きるであろう。
訴訟法上の議論は措くとして,専ら離婚法の観点からみるならば,右の点が克服されることによって,協議離婚制度を含めた離婚手続のあり方において,裁判官がより適切に後見的役割を果す方向を確保できるのではないかと考えられる。
・・・
離婚給付の性質論は今後の大きな課題である。
・・・
いずれにしても,厳密な性格づけをする以前に,日本的で柔軟な裁量による処理をしてゆく余地はあるといえよう。
※滝沢聿代稿『有責配偶者の離婚と今後の課題』/『判例タイムズ680号』1989年1月p38,39

い 近年の見解

離婚に伴う清算的な財産分与は,夫婦各自の特有財産を除き,その形成に寄与した割合等に応じて夫婦の実質的共有財産の清算を行うものであるから,その名義いかんによっては財産分与を請求する側に分与等を命ずる必要が出てくるのであるが,これを可能と解すべきことに学説上異論を見ない
このことが端的に現われるのが,本件(注・東京高判平成10年2月26日)のような債務負担による分与の方法を採用する場合である。
・・・
しかしながら,離婚に伴う財産分与は実質的夫婦共有財産の清算であって,清算の方法として原告側に給付を命ずることが裁判所の裁量権の一行使方法として許されることは前述したとおりである。
それが裁判所の職権行使として行われるものである以上,具体的な分与方法についてまで申立てを要するものでないことはいうまでもなく,この点控訴審における本判決(注・東京高判平成10年2月26日)が当事者の申立てがないのにXにも物件分与による移転登記手続を命じたことに何ら問題はない。
※梶村太市ほか稿/『判例タイムズ1005号 臨時増刊 主要民事判例解説』p144〜

6 即時抗告審における不利益変更(参考)

以上の説明は申立をしていない当事者(相手方)が財産を取得する結果とすることができるか,という問題でした。では,相手方が審判に対して即時抗告(不服申立)をした場合はどうでしょうか。相手方は(財産分与審判の申立はしていないですが),即時抗告の申立はしています。そこで,相手方が財産を取得する結果とすることを許容しやすくなっています。このことは,第1審とは逆方向への財産の動きとなる場合であっても同じです。

即時抗告審における不利益変更(参考)

あ 不利益変更禁止原則の適用除外(前提・概要)

家事審判手続においては民事訴訟法304条が準用されていない
※家事事件手続法93条3項参照
家事審判に対する即時抗告については,不利益変更禁止原則は適用されない
詳しくはこちら|家事審判に対する即時抗告(不服申立・第2審)

い 抗告審における財産分与の逆転現象

AよりBに対して財産分与の申立てがなされ,第1審ではBからAへの給付を命ずる審判が出され,Bが即時抗告を行った結果,抗告審ではAからBへの給付を命ずることも可能である(財産分与の審判においては,あるべき分与のあり方が審理判断されるのであり,申立人から相手方に分与を命じることもあり得る)。
※梶村太市編著『家事事件手続法 第3版』有斐閣2016年p262,263

本記事では,相手方への財産分与の給付を求める附帯処分の可否について説明しました。
実際には,個別的な事情や主張・立証のやり方次第で結論が違ってくることもあります。
実際に離婚に伴う財産分与の主張(附帯申立)に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。