1 家事審判に対する即時抗告
2 即時抗告の対象となる裁判
3 即時抗告の申立と期限
4 抗告理由書の提出と期間
5 附帯抗告の可否(否定)
6 原裁判所の再度の考案による更正
7 即時抗告の効果(確定遮断・移審)
8 即時抗告審の審理
9 不利益変更禁止原則の適用除外(理論)
10 不利な結果を招くリスクの比較(即時抗告・控訴)
11 即時抗告審の裁判(結論の分類)
12 即時抗告の結果に対する特別抗告・許可抗告(参考)

1 家事審判に対する即時抗告

相続や夫婦に関する多くの問題を家庭裁判所が扱います。通常,最初は家事調停から始まり,その後,家事審判に移行します。家事審判では最終的に,家庭裁判所が判断を示します。この判断を審判といいます。判決と似ているものですが,理論的には違いがあります。
実際には,審判が出たけれど納得できないということもあります。その場合には即時抗告を行います。2回目の審理を求めるという意味では判決に対する控訴と同じですが,違いもあります。
本記事では,(家事審判に対する)即時抗告の基本的なことを説明します。

2 即時抗告の対象となる裁判

家事事件手続法では,即時抗告をすることができる裁判(審判)が列挙されています。大雑把にいえば,家庭裁判所の審判を利用する手続のほとんどの種類のものが対象となっています。
たとえば,相続に関しては遺産分割,夫婦の問題に関しては財産分与・養育費・婚姻費用・子供の監護者・子供の引渡の審判です。

即時抗告の対象となる裁判

あ 規定の構造

即時抗告の対象となる裁判は,家事事件手続法の各則の中に定められている

い 典型的な規定
対象となる裁判 家事事件手続法の条文
後見開始の審判 123条
保佐開始の審判 132条
補助開始の審判 141条
失踪宣告 148条5項
婚姻費用分担の審判 156条3号
養育費(子の監護に関する処分)の審判 156条4号
監護者の指定・変更の(子の監護に関する処分)審判 156条4号
子の引渡(子の監護に関する処分)の審判 156条4号
子との面会交流の(子の監護に関する処分)審判 156条4号
財産分与の審判 156条5号
養子縁組許可の申立却下 161条4項
親権喪失の審判 172条
扶養義務設定の審判 186条
遺産分割の審判 198条

3 即時抗告の申立と期限

審判に不服があったので即時抗告をしよう,と思った場合は,期限をしっかり理解しておきましょう。
まず,審判の告知を受けた時がカウントスタートです。要するに審判書を受領した時です。一般的な訴訟の判決であれば受領することを送達といいますが,審判については,受領することを告知というのです。
なお,判決は公開された法廷で読み上げられることになっているので,秘密になっていないです。そこで,(当事者代理人の)弁護士が裁判所(書記官)に電話して判決内容(結論)を聞くことができます。そこで,判決書送達より前に内容を知ることができます。
家庭裁判所の審判については,内容を法廷で読み上げる手続はありません。審判結果は非公開なのです。そこで,(誰であっても)電話での問い合わせに対して審判結果を回答するという扱いはありません。
審判書が届いて初めて結論を知ることができるのです。審判内容に対して不服申立(即時抗告)をするかどうかを考える期間は純粋に2週間だけしかないのです。

即時抗告の申立と期限

あ 抗告状の提出

即時抗告は,抗告状を原裁判を下した家庭裁判所に提出して行う
※家事事件手続法87条1項

い 期限(期間)

審判に対する即時抗告期間は2週間である
※家事事件手続法86条1項

う 起算点

(即時抗告をする者が審判の告知を受ける者である場合)
告知を受けた日が起算日となる
※家事事件手続法86条2項

4 抗告理由書の提出と期間

即時抗告をすることに決めた場合,審判書が届いてから2週間が経過する前に,控訴状を提出します。時間が短いので通常,最低限の形式的なことだけしか記載しません。どんな不服があるのか原審判の妥当ではないところは,控訴状とは別の書面として後日提出します。これを抗告理由書といいます。
抗告理由書の提出期限は,抗告状の提出から14日と定められています。1日でも遅れたら却下となる,ということはありませんが,裁判所に十分に判断してもらうためには規定どおりに提出することが好ましいです。

抗告理由書の提出と期間

あ 抗告理由書の提出

(抗告状に抗告理由(原審判の取消し・変更を求める事由)の具体的な記載がない場合)
抗告人は,抗告理由書を原裁判所に提出しなければならない

い 期限

即時抗告の提起14日以内に提出する
※家事事件手続規則55条

う 期限経過の扱い

抗告理由書を期限内に提出しなかった場合の扱いについての規定はない
このことだけを理由として抗告の却下となるようなことはない

5 附帯抗告の可否(否定)

一般的な訴訟への控訴の場合は,相手方(控訴した者ではない当事者)は,附帯控訴をすることができます。
では,審判に対する即時抗告についても,相手方が附帯抗告をすることができるのではないか,という発想があります。しかし,附帯抗告という制度はありません。一般的な訴訟と家事審判のふたつの手続は基本設計に違いがあるので,ルールにも違いが出てくるのです。

附帯抗告の可否(否定)

あ 可否

審判手続では附帯抗告は認められていない
※家事事件手続法93条3項(民事訴訟法293条の準用がない)

い 趣旨

家事審判手続では,移審したすべての範囲を上訴審で審理判断する(後記※1
そこで,附帯控訴制度を準用する必要性(附帯抗告制度を設ける必要性)がなかった
※梶村太市編著『家事事件手続法 第3版』有斐閣2016年p262

6 原裁判所の再度の考案による更正

審判に対する即時抗告では,通常,上級審(高等裁判所)が原審判の妥当性を判定します。しかし,特殊な例外があります。それは,原裁判所(原審の判断をした裁判所)自身が,審判内容を変更することができるのです。要するに,判断をした人自身が,(おかしいと言われて)改めて考えたら確かに妥当ではなかったと思い直した,というような状況です。原裁判所の再度の考案(による更正)といいます。
ただ,再度の考案ができるのは,対立構造のない種類の審判だけです。たとえば後見人の選任がそうです。
一方,遺産分割や財産分与など,相続人同士や(元)夫婦が対立する構造の審判では,再度の考案はできません。相手方(即時抗告をしていない当事者)にとって不意打ちになる(手続保障を損なう)ためです。

原裁判所の再度の考案による更正

あ 第1表事件

第1類審判に対して即時抗告が提起された場合に,原裁判所がその即時抗告に理由があると認めたときには,原裁判所審判を更正しなければならない
※家事事件手続法90条本文

い 第2表事件

第2類審判については,再度の考案による更正は認められない
※家事事件手続法90条ただし書

7 即時抗告の効果(確定遮断・移審)

即時抗告の申立をすると,原審判が確定することはなくなります。また,審理は上級審に移ります。

即時抗告の効果(確定遮断・移審)(※1)

あ 効果

即時抗告がなされた場合,事件(全体)が抗告審に移審確定が遮断される
※梶村太市編著『家事事件手続法 第3版』有斐閣2016年p256

い 移審の事務的手続(事件送付)

抗告状が原裁判所に出された場合,原裁判所は抗告却下の審判をしたときを除き,事件を抗告裁判所に送付する
※家事事件手続規則56条

8 即時抗告審の審理

即時抗告の審理は,原審の続きという構造になっています。原審の当事者の行為がそのまま生きているということです。
当事者が主張や証拠提出を追加することができます。裁判所が職権で調査することもできます。つまり,原審と同じ扱いなのです。

即時抗告審の審理

あ 続審制

原審においてした審判行為は,抗告審においても効力を有する
※家事事件手続法93条3項,民事訴訟法298条1項

い 攻撃防御方法の提出

第1審において提出されていない攻撃防御方法を抗告審で提出することが可能である

う 職権探知

裁判所は,職権探知を行うことが可能である
※梶村太市編著『家事事件手続法 第3版』有斐閣2016年p255

9 不利益変更禁止原則の適用除外(理論)

(審判への)即時抗告と,一般的な訴訟の控訴とで大きく違うことの1つとに,不利益変更禁止のルールがあります。
一般的な訴訟では,私的自治が重視されているので,不服申立の範囲内でしか裁判所は判断できません。簡単にいえば当事者の両方が望んでいない内容を裁判所が決めることはできないのです。
しかし,家事審判では当事者の両方が望んでいない内容を裁判所が決めることも許されます。即時抗告に関しては,即時抗告の申立の中の主張とは反対の方向に,原審を変更する,ということも可能なのです。しかしこれはあくまでも理論的なことであって,実際には,不意打ちにならないように,裁判所は審理の途中で当事者に状況に応じて必要な主張をするよう促すなどの工夫をしています。

不利益変更禁止原則の適用除外(理論)

あ 民事訴訟の不利益変更禁止(比較)

民事訴訟の控訴では,第1審判決の取消・変更は,不服申立の範囲内に限られる
※民事訴訟法304条

い 即時抗告の不利益変更禁止(否定)

家事審判手続においては不利益変更禁止されていない
※家事事件手続法93条3項参照(民事訴訟法304条の準用がない)

う 不利益変更が可能である理由

・・・その理由は,
第一に,家事審判手続においては,裁判所が公益的・後見的見地から適切な裁量権を行使し,法律関係を形成することが求められていること,
第二に,第一類事件はもちろんのこと,第二類事件についても,当事者にとっての有利・不利が必ずしも明らかではないことに求められる
※梶村太市編著『家事事件手続法 第3版』有斐閣2016年p262

10 不利な結果を招くリスクの比較(即時抗告・控訴)

前述のように,審判の内容に不服があるから即時抗告をした結果,抗告審ではもっと不利な方向に変更されるというリスクがあるのです。このことは,訴訟の(判決に対する)控訴との違いであると,一応いえます。
ただ,審判と訴訟で比べて,現実的な違いはないともいえます。
訴訟で,両方の当事者(A・B)が控訴できる状況を想定します。つまり,一部認容判決です。Aが控訴したら,Aに不利に変更されることはないといえるのでしょうか。仮にそうだったら,少しでも変更される可能性があるなら試しに控訴してみたほうがよい,ということになります。しかし現実にはそんなことはありません。
Aが控訴した場合は,Bも控訴(または附帯控訴)をしてきます。というのは,Bは何もしないと原審維持か自分に不利に変更されるだけなので,これを避けようと思うのが通常なのです。Bが(附帯)控訴をしてこないとしたら,そのような判断はミスといってもおかしくないです。
結局,Aとしては,控訴したら,結果的に自身に不利な結果を招くリスクが有るということができます。
家事審判に対する即時抗告と同じことになっているのです。
以上のようなことから,家事審判に対する即時抗告については相手方に,附帯抗告という対抗策を与える必要がないという構造がよくわかると思います。

11 即時抗告審の裁判(結論の分類)

即時抗告の説明に戻ります。最終的に,裁判所は判断をします。即時抗告をした当事者にとっては,原審判がおかしいと思っているので,求める結果は,原審判の取消をした上で,裁判所がより適切な結果を出す(自判する)というものになります。
逆に,抗告審の裁判所が,原審が妥当だと判断した場合は抗告の棄却となります。
これら以外にも,形式的な違反があったために,抗告を却下する,というような結論もあります。

即時抗告審の裁判(結論の分類)

あ 共通事項

審判に対して即時抗告がなされた場合,抗告裁判所は,決定で裁判をする
※家事事件手続法91条1項

い 決定内容の分類

ア 抗告の却下 即時抗告が不適法であるときは,抗告を却下する
イ 抗告の棄却(原審判全面維持) 抗告審が原審判を相当だと判断する場合には抗告を棄却する
※家事事件手続法93条3項,民事訴訟法302条1項
ウ 抗告の棄却(別理由による原審判維持) 原審判が抗告理由によれば不当であるが,他の理由により結論は正当であるときは,抗告を棄却する
※家事事件手続法93条3項,民事訴訟法302条2項
エ 原審判取消(単純取消) 原審判の手続が法律に違反したときは,抗告裁判所は原審判を取り消さなければならない
※家事事件手続法93条3項,民事訴訟法306条
オ 原審判取消(破棄+自判) 抗告裁判所が原審判が不当であると認める場合には,原審判を取り消さなければならない
※家事事件手続法93条3項,民事訴訟法305条
原則として,原審判を破棄し,自判をする
※家事事件手続法91条2項

12 即時抗告の結果に対する特別抗告・許可抗告(参考)

以上で説明した即時抗告によって行われる審理は,裁判所による2番目の審理(判断)です。第2審です。
即時抗告審の結果(決定)に対する不服申立の手続もあります。特別抗告許可抗告です。いわば第3審”です。この2,3(番目の手続)は大きく違っています。特別抗告と許可抗告については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|家事審判に関する特別抗告と許可抗告(第3審)

本記事では,家庭裁判所の審判に対する即時抗告の基本的なことを説明しました。
実際には,個別的な事情によって,法的判断や最適な対応方法が違ってきます。
実際に家庭裁判所の手続(調停や審判)を検討している方,既に行っていて進め方にお悩みの方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。