【有責配偶者の離婚請求の3要件のうち特段の事情(苛酷条項)の判断】

1 有責配偶者の離婚請求の3要件のうち特段の事情(苛酷条項)の判断
2 判例上の特段の事情の不存在の要件(苛酷条項)
3 『苛酷』の辞書的な意味
4 特段の事情として考慮する事情
5 特段の事情の判断の枠組み
6 経済的負担の給付義務者からの申立(参考)

1 有責配偶者の離婚請求の3要件のうち特段の事情(苛酷条項)の判断

有責配偶者からの離婚請求については,判例で3つの要件による判断基準が示されています。
詳しくはこちら|有責配偶者からの離婚請求を認める判断基準(3つの要件)
本記事では,この3要件(要素)のうち,3つ目の特段の事情がないという要件について説明します。なおこれは苛酷条項とも呼ばれています。

2 判例上の特段の事情の不存在の要件(苛酷条項)

判例では,離婚を認めた場合に,著しく社会正義に反するような特段の事情がない,という基準が示されています。また特段の事情の例として,精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状況に置かれるということも示されています。

<判例上の特段の事情の不存在の要件(苛酷条項)>

あ 特段の事情の不存在の要件

離婚の実現が著しく社会正義に反するといえるような特段の事情がない

い 特段の事情の例

配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状況に置かれる
※最高裁昭和62年9月2日

3 『苛酷』の辞書的な意味

特段の事情については,判例上の記述自体が評価を多く含むものです。法的な解釈を説明する前に,辞書的な意味を確認しておきます。

<『苛酷』の辞書的な意味>

あ 『苛酷』『過酷』で共通する意味合い

きびしくてむごい

い 『苛酷』だけに含まれるニュアンス

『無慈悲であるさま』の意味が加わる
※北原保雄『明鏡国語辞典』大修館書店

判例の基準では『苛酷』という漢字の用語が使われています。『過酷』と間違えやすいですが異なります。ただ,本質的な違いはないでしょう。

4 特段の事情として考慮する事情

前記の特段の事情の要件の内容(解釈)をより詳しく説明します。まず,判例上の例としての記述の中に苛酷な状況というものがあります。苛酷かどうかを判断する事情を整理します。
まず,有責配偶者の方による経済的な負担です。過去と将来の2つに分けられます。
次に,離婚請求の相手方の側の事情です。客観的な状況と主観的な状況に分けられます。

<特段の事情として考慮する事情(※1)

あ 過去の経済的負担(※2)

有責配偶者が,相応の生活費を負担してきたか

い 将来の経済的負担(※3)

有責配偶者が,評価できる内容の離婚給付の申出をしているか

う 相手方の客観的状況

離婚を拒否している配偶者の生活,収入状況

え 相手方の主観的状況

離婚の拒否が,報復,憎悪などにすぎないものか
離婚を拒否している配偶者が関係修復のために真摯かつ具体的な努力をしているか
※二宮周平ほか著『離婚判例ガイド 第3版』有斐閣2015年p70

5 特段の事情の判断の枠組み

特段の事情があるかどうかを判断する材料は,前記のような事情です。判断の枠組みとしては,経済的事情を重視する傾向があります。ただし,それ以外の事情が軽視されるとは限りません。精神的なつらさが重視されることもあります。典型例は離婚請求の相手方に障害を持つ子が残されるような状況です。

<特段の事情の判断の枠組み>

あ 経済的事情のウェイト

考慮する事情(前記※1)のうち,経済的事情(前記※2,※3)のウェイトが高い

い 経済的事情の判断の実質

経済的な問題は,財産分与や慰謝料として解決する傾向がある
離婚請求者の経済的生活状況と相手方配偶者の生活状況との不公平をどう調整するかという意味での,経済的な側面における利益衡量である
=離婚給付(財産分与・慰謝料)の判断と重複する
※最高裁昭和62年9月2日
※東京高裁平成元年11月22日
※二宮周平ほか著『離婚判例ガイド 第3版』有斐閣2015年p70,72

う 精神的状況のウェイト

実務(裁判例)では,精神的に苛酷な状況に陥る可能性を指摘(考慮)する傾向がある
=精神的な状況もウェイトが高いこともある

え 精神的状況を重視する例

子が障害を持つ・後見的配慮が必要である
※東京高裁平成19年2月27日
※東京高裁平成20年5月14日
※高松高裁平成22年11月26日
※二宮周平ほか著『離婚判例ガイド 第3版』有斐閣2015年p72

6 経済的負担の給付義務者からの申立(参考)

前記のように,有責配偶者は離婚請求が認められるために,自身が経済的負担をすることを自主的に宣言することがあります。
理論としては扶養的財産分与や清算的財産分与です。
手続としては,離婚訴訟の附帯処分の申出となります。この点,給付する者が自ら附帯処分の申立をすることについては肯定する見解と否定する見解があります。
詳しくはこちら|相手方への財産分与の給付を求める附帯処分の申立の可否(裁判例や学説)
実際に主張を組み立てる上では配慮が必要です。

本記事では,有責配偶者からの離婚請求を認める要件の1つである特段の事情(苛酷条項)について説明しました。
実際には,個別的な細かい事情や,主張と立証のやり方次第で結論が違ってきます。
実際に有責配偶者の離婚請求に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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【有責配偶者の離婚請求の3要件のうち未成熟子の不存在の要件の判断】
【有責配偶者の離婚請求を認めなかった事例(裁判例)の集約】

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