【『法律行為』の意味・基礎(私的自治の原則との関係)・根拠】

1 『法律行為』の意味・基礎(私的自治の原則との関係)・根拠

民法(民事法)の非常に基本的な概念として法律行為というもの(専門用語)があります。
広範な経済活動取引の法律的な扱いのベースとなるものです。
実務では、いろいろな問題を解決する際に、法律行為の理論を活用することがあります。例えば、ストレートに適用される法令・判例が少ない仮想通貨の法的扱いを考える時が典型例の1つです。
本記事では、法律行為の意味や解釈について説明します。

2 『法律行為』の意味

法律上、法律行為の意味が定義されているわけではありません。
敢えて一般的な意味を言うとすれば、権利義務の発生を目的とした伝達行為(意思表示)であって、その実現を法律が保護しているというようなことになります。

『法律行為』の意味

あ 基本的な意味(定義)

ア 川島武宜氏・法律行為 権利義務の発生を目的とした伝達行為から生じた社会的期待が、法律によって保障されている場合に、その伝達行為法律行為と呼ぶ
※川島武宜稿『法律行為』/『法学セミナー 9号』日本評論新社1956年12月p11
イ コンメンタール民法 「法律行為」は、ドイツ民法のRechtsgeschäftと同一の概念であって、売買・貸借などのように、行為者が一定の法律効果を生じさせようとして行為をし、その欲した通りの効果を生じる行為である。
※我妻榮ほか著『我妻・有泉コンメンタール民法 第8版』日本評論社2022年p182

い 法律との関係

法律行為という言葉は、ある法律効果の発生を欲する旨の表示(伝達行為)があり、その欲せられた旨の表示にもとづいて生じる社会的期待が、法律で保障される場合に対してだけ用いられるのである
※川島武宜稿『法律行為』/『法学セミナー 9号』日本評論新社1956年12月p12

3 法律行為と私的自治の原則の関係

法律行為と似ている概念(専門用語)として、私的自治の原則があります。
大雑把に言えば、私的自治を実現するためのツールが法律行為であるといえるでしょう。

法律行為と私的自治の原則の関係

あ 法律行為の意義(個人の意思の尊重)

私たちの社会生活が原則として私たち個人の意思で形成されるものであって、私たちの意思を超えた別の定めで決められるのが原則になっていない
法律行為とは、このことを意味している

い 私的自治の原則

『あ』のことを法律家は私的自治の原則と呼んでいる

う 法律行為と私的自治の原則の関係

法律行為という制度は、私的自治の原則法律的技術である
※川島武宜稿『法律行為』/『法学セミナー 9号』日本評論新社1956年12月p12

4 法律行為制度の基礎

法律行為は要するに、個人の意思がベースとなって権利義務は発生するというものです(前記)。
なぜこのようなルールが成り立つのでしょうか。それは私有財産制度という、社会として採用している構造に基いているのです。

法律行為制度の基礎

あ 法律制度の基礎(前提)

現代の法律制度の終局の基礎は私的財産制度(or私有財産制度)である
※憲法29条

い 法律行為制度の基礎

法律行為制度法律制度(あ)に基いている
法律行為制度の基礎は、終局的には、私有財産制度(あ)である

う 私有財産制度の内容

すべての財産権は、所有権と同様の、高度に私的な権利である
→すべての財産権は、原則としてその権利者の意思の支配にのみ服する
(私的)所有権はその原型であり典型である

え 法律関係の基礎(意思の支配)

法律関係はすべてその主体者(権利者・義務者)の個人的な意思の支配に服する
すべての権利は、原則として個人の『意思の力』として観念される
※川島武宜稿『法律行為』/『法学セミナー 9号』日本評論新社1956年12月p12
※川島武宜ほか編『新版 注釈民法(3)総則(3)』有斐閣2003年p14

5 法律行為制度の根拠

法律行為(制度)の根本的な基礎は私有財産制にあります(前記)。
しかしあくまでも究極的なベースをたどっていくと私有財産制につながるという意味です。
私有財産制だからといって必ず法律行為制度が成り立つとは言えません。
当事者の意思で権利義務が生じる(法律行為制度)の根拠を敢えて言えば、私有財産制度の成立・発展の歴史(社会的合意)ということになります。
なお、民法上の典型契約(売買など)のように、法律上当事者の意思によって権利義務が生じるという規定は多く存在します。しかし、すべての種類の権利義務の発生について法律の規定があるわけではありません。歴史を根拠とした法律行為(を元にした具体的な請求)を主張することも実務では日常的に行われています(いちいち根拠を示さないので意識しないですが)。

法律行為制度の根拠

以上のような考え方は、歴史上も、近代の私有財産の成立・発展に対応して、成立・発展してきたものである
※川島武宜稿『法律行為』/『法学セミナー 9号』日本評論新社1956年12月p12
※川島武宜ほか編『新版 注釈民法(3)総則(3)』有斐閣2003年p14

6 契約(合意)の拘束力と合意解除(概要)

以上のように、当事者の意思(合意)によって権利や義務が生じた後は、これらの権利・義務は当事者を拘束します。
一方、拘束力のある合意も、改めて当事者の全員の合意で解消や変更をすることができます。合意解除(解除契約)と呼びます。
合意の拘束力や、合意解除については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|契約(合意)の拘束力と合意解除の自由と効力が及ぶ範囲

本記事では法律行為の意味や解釈について説明しました。
この理論は、単独で使うわけではなく、具体的な問題解決のためのツールとして使う理論です。
具体的な問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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