1 高額所得者の婚姻費用の計算方法の中の基礎収入割合修正方式
2 基礎収入割合の意味と上限年収(概要)
3 基礎収入割合修正方式の基本
4 個別的事情の考慮
5 年収6172万円→基礎収入割合27%
6 年収3817万円→基礎収入割合32%

1 高額所得者の婚姻費用の計算方法の中の基礎収入割合修正方式

婚姻費用の義務者(支払う側)が高額所得者である場合には,標準的算定方式をそのまま使って金額を計算することはできません。
高額所得者の婚姻費用の金額を計算する方法(算定方式)は4つに分けられます。
詳しくはこちら|高額所得者の婚姻費用の金額計算の全体像(4つの算定方式と選択基準)
本記事では,高額所得者の婚姻費用の計算方法の1つである上限頭打ち方式について説明します。

2 基礎収入割合の意味と上限年収(概要)

基礎収入割合修正方式は,標準的算定方式の計算の枠組みを使います。つまり,標準的算定方式の枠組みは維持した上で,その中で使う基礎収入割合だけ修正する,という計算方法なのです。
標準的算定方式の枠組みとは,総収入のうち自由に使える金額(基礎収入)を元にして婚姻費用(や養育費)の金額を計算するものです。そして基礎収入の計算を簡略化しています。総収入に,統計を元にした一定割合(基礎収入割合)を掛けるという方法を使うのです。
そして,標準的算定方式(を元にした簡易算定表)では,(給与所得者であれば)年収2000万円以下を想定しています。つまりこれが上限年収となっているのです。

<基礎収入割合の意味と上限年収(概要)>

あ 基礎収入割合による基礎収入の算定

基礎収入とは,収入の中の処分可能な部分(金額)である
詳しくはこちら|総収入の認定と基礎収入の意味や計算方法(公租公課・職業費・特別費の控除)
標準的算定方式では,総収入基礎収入割合を掛けて基礎収入を算出する

い 基礎収入割合の内容

基礎収入割合とは
→標準的な公租公課・職業費・特別経費の割合を控除した割合である

う 標準的算定方式の基礎収入割合の上限
義務者 基礎収入割合の上限 上限となる総収入
給与所得者 34% 2000万円
自営業者 47% 1400万円

詳しくはこちら|標準的算定方式による養育費・婚姻費用の算定(計算式・基礎収入割合・生活費指数)

3 基礎収入割合修正方式の基本

基礎収入割合は収入が増えるほど低下します。そこで基礎収入割合を修正すれば,標準的算定方式が使る,というのが基礎収入割合修正方式の考え方です。

<基礎収入割合修正方式の基本>

あ 前提事情

収入が標準的算定方式の上限(前記)を超える

い 収入と職業費・特別経費の相関

収入が高額になると低下する

う 収入と公租公課の相関

収入が高額になると増加する
累進課税の方式そのものである

え 職業費・特別経費・公租公課の影響のバランス

所得税の累進性は過激である
→職業費・特別経費(い)よりも公租公課(う)の影響の方が大きい
→収入が高額になると基礎収入からの控除額が増加する
=基礎収入割合は低下する

お 貯蓄の影響

貯蓄・資産形成に回る部分が生じる
=消費に充てられない部分が存在する
基礎収入(=消費に充てる部分)の割合が低下する

か 基礎収入割合の修正

義務者が高額所得者である場合
→『え・お』のような影響がある
→基礎収入割合を標準的算定方式の上限年収の割合よりも若干下げる方向に修正する
※松本哲泓著『婚姻費用・養育費の算定−裁判官の視点にみる算定の実務−』新日本法規出版2018年p139
※松本哲泓稿『婚姻費用分担事件の審理−手続と裁判例の検討』/『家庭裁判月報 平成22年11月=62巻11号』最高裁判所事務総局p80

4 個別的事情の考慮

基礎収入割合修正方式は,標準的算定方式の枠組みをそのまま使っています(前記)。そこで,標準的な生活状況がベースになっています。
ところが,高額所得者を含む家族(夫婦)では,生活実態・生活水準には強く個性が現れていて,標準的な状況とは大きく離れていることもあります。そこで,単に標準的算定方式の中の係数をわずかに修正するだけでは生活の現実的な状況に合わなくなることもあります。生活の実態も含めて考慮する必要があります。

<個別的事情の考慮>

あ 個別的事情の考慮の必要性

基礎収入割合修正方式を採用する場合でも
個別的事情(い)も併せて考慮する

い 考慮すべき事情の例

ア 同居中の生活レベル・生活費の支出状況
イ 現在の生活費支出状況
※松本哲泓著『婚姻費用・養育費の算定−裁判官の視点にみる算定の実務−』新日本法規出版2018年p146
※松本哲泓稿『婚姻費用分担事件の審理−手続と裁判例の検討』/『家庭裁判月報 平成22年11月=62巻11号』最高裁判所事務総局p86

5 年収6172万円→基礎収入割合27%

基礎収入割合修正方式を採用するとして,どのように基礎収入割合を修正するのか,ということについて統一的な計算式があるわけではありません。
そこで,どのように基礎収入割合を修正するかを判断した実例(裁判例)が参考になります。
最初に,基礎収入割合を(標準的算定方式の上限である34%から)27%に下げた裁判例を紹介します。年収が上限である2000万円から4000万円以上も超過していたため,修正は7%の減少ということになりました。

<年収6172万円→基礎収入割合27%>

あ 収入の状況

義務者の総収入=約6172万円
給与所得と雑所得を含むものであった

い 基礎収入割合の修正

基礎収入割合を27%とした
※福岡高裁平成26年6月30日

6 年収3817万円→基礎収入割合32%

年収が上限である2000万円から約1800万円超過していたケースです。
基礎収入割合は,(標準的算定方式の上限である34%から)32%に下げることになりました。

<年収3817万円→基礎収入割合32%>

あ 収入の状況

義務者の総収入=3817万円

い 基礎収入割合の修正

基礎収入割合を32%とした
※大阪高裁平成18年1月18日

本記事では,高額所得者の婚姻費用の金額の計算方法のうち基礎収入割合修正方式について説明しました。
実際には,個別的な事情や主張・立証のやり方次第で結論は違ってきます。
実際に高額所得者が関わる夫婦の問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。