1 不貞行為|当事者|例・呼称の整理
2 不貞行為×婚外者の責任|見解・説のバラエティ
3 不貞行為×婚外者の責任|肯定説
4 不貞行為×婚外者の責任|制限説|基本的事項
5 不貞行為×婚外者の責任|制限説|理由
6 不貞行為×婚外者の責任|否定説・ノーマル|基本
7 不貞行為×婚外者の責任|否定説・ノーマル|注意点
8 不貞行為×婚外者の責任|否定説・オールフリー=不倫は文化説
9 不貞行為×婚外者の責任|全体|学説・実務の整理

1 不貞行為|当事者|例・呼称の整理

不倫(不貞行為)があった場合,通常,不倫相手には慰謝料を支払う法的責任が生じます。
詳しくはこちら|不倫相手の慰謝料の相場は200〜300万円(減額される事情もある)
本記事ではこの責任の解釈について,複数の見解・説を説明します。
このテーマは登場する当事者が紛らわしいです。
最初に呼称を整理しておきます。

<不貞行為|当事者|例・呼称の整理>

妻A=被害者
夫B=不貞配偶者
不倫相手C=婚外者・婚外女性
事案=BとCが性行為に及んだ

2 不貞行為×婚外者の責任|見解・説のバラエティ

不倫に関して不倫相手Cが負う責任について,いくつかの見解があります。
まずは種類だけをまとめます。

<不貞行為×婚外者の責任|見解・説のバラエティ>

あ 対象となる責任

不倫相手Cが妻Aに対して負う責任

い 見解・説のバラエティ

ア 肯定説
イ 制限説
ウ 否定説・ノーマル
エ 否定説・オールフリー

それぞれの内容については順に説明します。

3 不貞行為×婚外者の責任|肯定説

不倫相手Cの責任について『肯定説』をまとめます。

<不貞行為×婚外者の責任|肯定説>

あ 原則

責任を認める

い 例外

離婚・別居に至っていない場合
→責任を否定する

う 理由

『婚姻共同生活の平和の維持』が保護法益である
『貞操』『正妻の地位』の保護を強調する

え 判例

判例の中では主流である
※最高裁平成8年3月26日

お 見解|参考情報

※辻朗ほか『家事事件の現況と課題』判例タイムズ社p13
※大村敦志『家族法 第3版』有斐閣p55
※内田貴『民法4 補訂版』東京大学出版会p26

4 不貞行為×婚外者の責任|制限説|基本的事項

不倫相手Cの責任に関する『制限説』をまとめます。

<不貞行為×婚外者の責任|制限説|基本的事項>

あ 自由意思→責任否定

夫Bの自由意思である場合
→不倫相手Cの責任を否定する

い 婚外者が強度に違法→責任肯定

不倫相手Cが強度に違法な手段を用いた場合
→不倫相手Cの責任を認める

う 責任肯定|具体例

ア 意図的
不倫相手Cが不貞行為を利用して妻Aを害する意図であった
イ 強制的
不倫相手Cが違法手段によって夫Bに不貞行為を実行させた
強制的or半強制的であった
違法手段の例=暴力・詐欺・脅迫

『強度の違法』がある場合にだけ責任を認める見解です。

5 不貞行為×婚外者の責任|制限説|理由

上記の制限説の理由・根拠についてまとめます。

<不貞行為×婚外者の責任|制限説|理由>

あ 理由

貞操義務の性質を重視する
貞操義務の性質=夫婦間の契約に基づく
契約の正接=当事者のみを拘束する

い 同様の解釈論

『債権侵害』と同様の法的構成である
『故意・過失+強度の違法手段』が要件となる

う 主要な見解

ア 因果関係を否定する
※奥田昌道ほか『民法学7』有斐閣p91〜92
イ 自由意思に取り込まれる→不法行為にならない
※島津一郎『不貞行為と損害賠償』判例タイムズ385号p123

え 見解・判例|その他

※前田達郎『愛と家庭と―不貞行為に基づく損害賠償請求』成文堂p302〜303
※東京高裁昭和60年11月20日;後記

要するに『不貞』は『夫婦間の問題』である,という考え方です。

6 不貞行為×婚外者の責任|否定説・ノーマル|基本

不倫相手Cの責任を否定する見解もあります。
否定説も大きく2種類に分けられます。
まずは,否定説の中でもより通常のものを紹介します。

<不貞行為×婚外者の責任|否定説・ノーマル|基本>

あ 『被害者』への責任|結論

不倫相手Cの責任を否定する
『強度の違法手段』があっても責任を否定する

い 理由

ア 基本的人権
性的な行為の相手の選択権は1つの基本的人権である
=個人的・パーソナルな性格が非常に強い権利である
性的自己決定権を尊重する
イ 不可侵
配偶者に対し,自分以外の者との性的インターコースを禁止する権利はない
インターコース=『性交・交際』などの隠語的表現
当事者以外の第三者は介入すべきではない

う 見解|参考情報

※小野幸二『講座・現代家族法第1巻』日本評論社p91
※水野紀子『判批』法協98巻2号p309

7 不貞行為×婚外者の責任|否定説・ノーマル|注意点

不倫相手Cの責任の『否定説』では誤解が生じやすいです。
注意点をまとめておきます。

<不貞行為×婚外者の責任|否定説・ノーマル|注意点>

あ 注意点|基本的事項

責任が否定されるのは不倫相手Cと妻Aの関係だけである

い 不倫相手Cと夫Bの関係

不倫相手Cが違法手段によって性行為を強要した場合
→『強要相手=夫Bへの不法行為』は当然成立する
→強姦罪などの刑事責任も生じる

う 夫婦間の関係

夫婦間では貞操義務違反に該当する
→慰謝料責任が生じる

8 不貞行為×婚外者の責任|否定説・オールフリー=不倫は文化説

不倫相手Cの責任を否定する見解のうち特に強度のものがあります。
恋愛再優先・最強の保護をする,というものです。
『不倫は文化』という有名なセリフを本気で主張する学説と言えます。

<不貞行為×婚外者の責任|否定説・オールフリー>

あ 見解

『貞操義務違反』の『法的責任』自体を全面的に否定する
夫婦間の責任も否定する

い 理由|権利・義務の性質×愛情

『貞操義務』『貞操を求める権利』は法的な強制・法的責任になじまない
『愛情』の問題であり,法律が介入できない領域である

う 理由|経済面は考慮不要

夫婦間の経済的清算は『財産分与・婚姻費用分担金』という直接的な制度がある
これらによってカバーされる

え 見解|参考情報

※松本克美『判批』判例時報1518号p201
※二宮周平ほか『貞操観念と不貞の相手方の不法行為責任』ジェンダーと法10号p99

9 不貞行為×婚外者の責任|全体|学説・実務の整理

以上のように不倫相手の責任については見解にバリエーションがあります。
実務での傾向についてまとめます。

<不貞行為×婚外者の責任|全体|学説・実務の整理>

あ 判例

責任を肯定する方向性が主流である
ただし最近では『否定方向』の見解の採用例も増えつつある

い 学説

責任を制限・否定する見解が主流=通説的である
※二宮周平『家族法 第4版』新世社p54〜

う 実務的処理|基本

単純に『見解』だけで具体的結論が決まるわけではない
例=『制限説』の趣旨により『慰謝料額を減額』する

え 制限説を取り入れた裁判例(概要)

原審での慰謝料認容額=500万円
控訴審は制限説の考え方を採用した
慰謝料額を200万円まで減少させた
※東京高裁昭和60年11月20日
詳しくはこちら|不倫(不貞)の慰謝料として50〜500万円を認めた裁判例

不倫の慰謝料を算定した多くの裁判例については別の記事で紹介しています。
詳しくはこちら|不倫(不貞)の慰謝料として50〜500万円を認めた裁判例
不倫の慰謝料(責任)の解釈は婚姻による性的な行為の拘束力の価値観によります。
なお,これと似ているものに,婚姻する約束(婚約)の拘束力に関するものもあります。
詳しくはこちら|婚約(婚姻予約)の基礎的な理論と解釈の歴史(法的責任の種類・内容)

本記事では,不倫の慰謝料に関する4種類の理論について説明しました。
実際の裁判では,裁判官によって見解が違います。
そこで,主張の構成や立証のやり方次第で判断(結論)が大きく違ってくるということもあります。
みずほ中央法律事務所では,本記事の理論は当然として,他の細かい理論や裁判例も含めて最適な主張や立証を採用しています。
実際の不倫の慰謝料の問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士の法律相談をご利用くださることをお勧めします。