1 不倫(不貞相手)の責任に関するいろいろな見解
2 不貞行為の事案の整理(当事者の呼称・前提)
3 不貞相手の責任の見解の種類(全体)
4 不貞行為の責任を認める見解(肯定説)
5 肯定説の中で離婚・別居を必要とする見解
6 不貞行為の責任を制限する見解(制限説)
7 不貞相手の責任を否定する見解・ノーマル(否定説)
8 性的行為に関する責任を全面的に否定する見解
9 不貞相手の責任についての実務の傾向
10 不貞相手の離婚慰謝料(参考)

1 不倫(不貞相手)の責任に関するいろいろな見解

不倫(不貞行為)があった場合、通常、不貞相手には慰謝料を支払う法的責任が生じます。これは社会の常識であり、難しい話しではないと思えます。
詳しくはこちら|不貞慰謝料の金額に影響する事情(算定要素)
しかし、法律解釈としては単純ではありません。いくつかの見解があるのです。
本記事では、不貞の責任ついての複数の見解を説明します。

2 不貞行為の事案の整理(当事者の呼称・前提)

不貞行為の責任の説明に入る前に、登場人物を整理しておきます。夫Bと(妻以外の)女性Cが性行為をした、つまり妻Aが被害者である、ということを前提とします。
なお、当然ですが、男女(夫と妻)が逆のケースでも同じことになります。

<不貞行為の事案の整理(当事者の呼称・前提)>

妻A=被害者
夫B=不貞配偶者
不貞相手C=婚外者・婚外女性
事案=BとCが性行為に及んだ

3 不貞相手の責任の見解の種類(全体)

不貞相手であるCが負う責任についてのいろいろな見解は、大きく分類すると3つになります。
責任を認めるという、実際の運用で採用されている肯定説、不貞の内容によって責任を認めるか否定するかが決まる、という制限説、最後に、どのような状況であっても責任を否定する(完全)否定説、というみっつです。
なお、ここで前提としているのは不貞相手の責任であり、夫Bの責任は別です。夫婦間には貞操義務があるので、夫Bの責任は否定されないはずです。しかし、(不貞相手の責任だけでなく)夫Bの責任までも否定してしまう見解もあります。

<不貞相手の責任の見解の種類(全体)>

あ 肯定説

不貞相手の責任を認める
判例(実務)はこの見解を採用している(後記※1

い 制限説

不貞相手の責任を一定の範囲で認める(責任を認める範囲を制限する)(後記※2

う 否定説

ア ノーマル 不貞相手の責任を否定する(後記※3
イ オールフリー(参考) 不貞相手の責任を否定することに加えて、配偶者の責任も否定する(後記※4

それぞれの見解の内容については順に説明します。

4 不貞行為の責任を認める見解(肯定説)

不貞相手Cの責任を認めるという肯定説は、判例が一貫して採用しています。裁判でも交渉でも、この見解が前提となるので、実際に不貞をした人は慰謝料を支払うことになっています。そのため、これが社会の常識となっているのです。
簡単にいえば、夫婦の仲を外部の者(第三者)が傷つけるのは非難すべき、という考え方です。

不貞行為の責任を認める見解(肯定説)(※1)

あ 原則

不貞相手Cの責任(慰謝料)を認める
離婚・別居に至っていない場合でも責任を認める
ただし、離婚・別居のいずれにも至っていない場合には責任を否定する説もある(後記※6

い 責任を認める理論(判例・概要)

婚姻共同生活の平和の維持が保護法益である
不貞によりこれを破壊することになる
貞操・正妻の地位の保護を強調する
※最判平成8年3月26日
詳しくはこちら|夫婦の一方との性交渉が不法行為になる理論と破綻後の責任否定(平成8年判例)

5 肯定説の中で離婚・別居を必要とする見解

前述の肯定説の中でも、不貞相手Cの責任を認めるには、別居か離婚に至ったことが必須、という見解もあります。結果的に別居にも離婚にも至っていない場合は、(被害者(妻A)の心はダメージを受けたかもしれないけれど)婚姻共同生活自体は侵害されていない、という考え方です。実務でストレートにこの見解が採用されることは通常ありません。

肯定説の中で離婚・別居を必要とする見解(※6)

不貞によって配偶者の精神的平和が乱されたり、家庭内別居になったことがあっても、外形的な別居までには至らず、婚姻関係が修復され、何らかの夫婦の共同生活を伴って維持されている限り、「婚姻共同生活の平和の維持」という保護法益は侵害されていない
別居・離婚に至っていない場合には、不法行為責任を否定する
※辻朗『不貞慰謝料請求事件をめぐる裁判例の軌跡』/右近健男ほか編『家事事件の現況と課題』判例タイムズ社2006年p13
※大村敦志『家族法 第3版』有斐閣2010年p55
※内田貴著『民法Ⅳ 補訂版』東京大学出版会2004年p25、26

6 不貞行為の責任を制限する見解(制限説)

不貞相手Cの責任を一定の範囲に限って認める、というのが制限説です。
もともと貞操とは、夫婦(AB)の間の約束であって、夫婦以外の者(不貞相手C)はAと何らかの約束をしたわけではありません。性的関係をやめる(断る)べきだったのは夫Bである、という考え方です。不貞相手Cが誘った(または誘いに応じた)ということはよくないかもしれないけれど、間接的にすぎない、という捉え方です。
逆に、Cが強制的な手段でBと性的関係をもった場合、つまりBが拒否することができなかったというケースでは、Cだけが非難されるべきです。このような特殊事情がある場合にはCの責任を認めます。
最高裁判例でこの理論をストレートに示したものは見当たりませんが、下級審裁判例では採用するものもあります。

不貞行為の責任を制限する見解(制限説)(※2)

あ 責任を認める範囲(判断基準)

ア 自由意思→責任否定 夫Bの自由意思である場合
→不貞相手Cの責任を否定する
イ 婚外者が強度に違法→責任肯定 不貞相手Cが強度に違法な手段を用いた場合
→不貞相手Cの責任を認める
※前田達郎『愛と家庭と―不貞行為に基づく損害賠償請求』成文堂p302〜303
※上野雅和『夫婦間の不法行為』/奥田昌道ほか編『民法学7』有斐閣1976年p91、92
※東京高裁昭和60年11月20日(後記※5

い 責任を認める事情の具体例

ア 意図的 不貞相手Cが不貞行為を利用して妻Aを害する意図であった
イ 強制的 不貞相手Cが違法手段によって夫Bに不貞行為を実行させた
強制的または半強制的であった
違法手段の例=暴力・詐欺・脅迫

う 見解の理由

ア 要点 貞操義務の性質を重視する
貞操義務の性質=夫婦間の契約に基づく
契約の正接=当事者のみを拘束する
イ 同様の解釈論 『債権侵害』と同様の法的構成である
『故意・過失+強度の違法手段』が要件となる
ウ 責任を否定する根拠ア 因果関係を否定する ※奥田昌道ほか『民法学7』有斐閣p91〜92
イ 自由意思に取り込まれる→不法行為にならない ※島津一郎『不貞行為と損害賠償』判例タイムズ385号p123

7 不貞相手の責任を否定する見解・ノーマル(否定説)

不貞相手Cがどのような手段で性的関係をもったとしても、一律にCの責任を否定する見解もあります。
貞操義務はあくまでも夫婦間だけの問題であり、夫婦の範囲外に持ち出さない、という考え方です。
逆にいえば、夫婦の間では貞操を守るということを約束しているので、夫Bの責任を否定するわけではありません。

不貞相手の責任を否定する見解・ノーマル(否定説)(※3)

あ 被害者への責任(否定)

不貞相手Cの責任を否定する
強度の違法手段があっても責任を否定する

い 理由

ア 基本的人権 性的な行為の相手の選択権は1つの基本的人権である
=個人的・パーソナルな性格が非常に強い権利である
性的自己決定権を尊重する
イ 不可侵 配偶者に対し、自分以外の者との性的インターコースを禁止する権利はない
インターコース=『性交・交際』などの隠語的表現
当事者以外の第三者は介入すべきではない
※小野幸二『講座・現代家族法第1巻』日本評論社p91
※水野紀子『判批』法協98巻2号p309
※二宮周平ほか著『離婚判例ガイド 第3版』有斐閣2015年p170、171
※伊藤昌司稿『男女関係の「市場原理」』/『判例タイムズ499号』1983年p139〜
※家原尚秀稿/『法曹時報73巻12号』法曹会2021年p199(有力であると指摘)

う 注意点

ア 否定される内容 責任が否定されるのは不貞相手Cと妻Aの関係だけである
イ 性行為の当事者間 不貞相手Cが違法手段によって性行為を強要した場合
→『強要相手=夫Bへの不法行為』は当然成立する
→強姦罪などの刑事責任も生じる
ウ 夫婦間 夫婦間では貞操義務違反に該当する
→慰謝料の責任が生じる

8 性的行為に関する責任を全面的に否定する見解

前述の否定説よりも強く、不貞の責任を否定するものもあります。
夫婦であろうとも、相手の性的判断には介入してはならない、という考え方を貫き、不貞相手Cだけでなく夫Bの責任をも否定する、という見解です。夫婦間の貞操は、裁判所が金銭的なペナルティを与えることで抑止するようなことではない、というような考え方です。夫婦の同居義務についてはこの考え方(裁判所が強制できない)が一般的になっています。
詳しくはこちら|夫婦の同居義務(強制執行不可・同居義務違反と離婚原因・有責性)
不貞の責任を全面的に否定するこの見解は、恋愛を最大限優先する、最強の保護をする見解であり、「不倫は文化」という有名なセリフを本気で主張する学説と言えます。

性的行為に関する責任を全面的に否定する見解(※4)

あ 要点

『貞操義務違反』の『法的責任』自体を全面的に否定する
夫婦間の責任も否定する

い 理由

ア 権利・義務の性質・愛情の位置づけ 『貞操義務』『貞操を求める権利』は法的な強制・法的責任になじまない
『愛情』の問題であり、法律が介入できない領域である
イ 離婚給付制度との関係 夫婦間の経済的清算は財産分与・婚姻費用分担金という直接的な制度がある
これらによってカバーされる
※松本克美『判批』判例時報1518号p201
※二宮周平ほか『貞操観念と不貞の相手方の不法行為責任』ジェンダーと法10号p99
ウ 一般不法行為責任との関係 不貞相手Cの行為が私生活の侵害や一般的な人格権侵害に該当する場合には、通常の不法行為が成立する
※潮見佳男『不法行為Ⅰ 第2版』信山社2009年p229
※浦和地判昭和60年12月25日参照

9 不貞相手の責任についての実務の傾向

以上のように不貞相手の責任については見解にバリエーションがあります。ただし、前述のように、学説と実務ではくっきりと違いがあります。
実務では肯定説が採用される傾向が強いですが、制限説が採用されることも増えつつあります。

不貞相手の責任についての実務の傾向(※5)

あ 判例

責任を肯定する方向性が主流である
ただし最近では否定方向の見解の採用例も増えつつある

い 学説

責任を制限・否定する見解が主流=通説的である
※二宮周平『家族法 第4版』新世社p54〜
※吉田邦彦『不法行為等講義録』2008年p142

う 実務的処理

通常は肯定説が採用される
ただし、制限説の趣旨により慰謝料額を減額するということはある
まれに、否定説が採用されることもある

え 制限説を取り入れた裁判例

ア 判決文引用(制限説の部分) 合意による貞操侵害の類型においては、自己の地位や相手方の弱点を利用するなど悪質な手段を用いて相手方の意思決定を拘束したような場合でない限り、不貞あるいは婚姻破綻についての主たる責任は不貞を働いた配偶者にあり、不貞の相手方の責任は副次的なものとみるべきである。
けだし、婚姻関係の平穏は第一次的には配偶者相互間の守操義務、協力義務によつて維持されるべきものであり、この義務は配偶者以外の者の負う婚姻秩序尊重義務とでもいうべき一般的義務とは質的に異なるからである。
イ 慰謝料額の判断(概要) 原審は慰謝料として500万円を認容したが、控訴審(当該裁判例)は、200万円まで減少させた
※東京高判昭和60年11月20日
詳しくはこちら|不貞(不貞)の慰謝料として50〜500万円を認めた裁判例

お 否定説を採用した裁判例

夫婦それぞれは独立対等の人格主体であって、相互に身分的・人格的支配を有しないのであるから、夫婦の一方自らの意思決定に基づき不貞行為に関わった以上、加担した第三者に『配偶者としての地位』の侵害を理由として賠償責任を導くのは適切ではない
※神戸地判平成25年7月24日/二宮周平ほか著『離婚判例ガイド 第3版』有斐閣2015年p167

不貞の慰謝料を算定した多くの裁判例については別の記事で紹介しています。
詳しくはこちら|不貞(不貞)の慰謝料として50〜500万円を認めた裁判例
不貞の慰謝料(責任)の解釈は婚姻による性的な行為の拘束力の価値観によります。
なお、これと似ているものに、婚姻する約束(婚約)の拘束力に関するものもあります。
詳しくはこちら|婚約(婚姻予約)の基礎的な理論と解釈の歴史(法的責任の種類・内容)

10 不貞相手の離婚慰謝料(参考)

ところで、不貞が原因となって夫婦が離婚するに至った場合、不貞相手離婚によるダメージを賠償すべきか(離婚慰謝料)、という問題があります。これについては平成31年最判が、原則的に否定する判断を示しました。この考え方は、本記事で説明した不貞相手の不貞慰謝料を否定する方向の見解がベースになっているともいえます。
詳しくはこちら|不貞相手に対する「離婚慰謝料」の請求

本記事では、不貞の慰謝料に関する4種類の理論について説明しました。
実際の裁判では、裁判官によって見解が違います。
そこで、主張の構成や立証のやり方次第で判断(結論)が大きく違ってくるということもあります。
みずほ中央法律事務所では、本記事の理論は当然として、他の細かい理論や裁判例も含めて最適な主張や立証を採用しています。
実際の不貞の慰謝料の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士の法律相談をご利用くださることをお勧めします。