債務整理における利益相反|弁護士職務基本規程28条4号・説明義務と受任の規律
1 債務整理における利益相反|弁護士職務基本規程28条4号・説明義務と受任の規律
借金の整理を弁護士や司法書士に依頼するとき、相手方になるのは貸金業者です。もっとも、貸金業者がどちら側に立つかは場面によって変わります。返しきれない債務を整理する場面では、貸金業者は債権者です。払い過ぎた利息を取り戻す過払金返還請求の場面では、貸金業者は債務者になります。
どちらの向きでも、依頼者と利害が対立するのは貸金業者であって、受任した側は依頼者につきます。この構図だけを見ていると、利益相反が問題になる余地はないように思えます。
けれども、債務整理には、依頼者と利害がずれる相手がもう一つあります。受任した事務所自身です。どの手続を選ぶか、どの内容で和解するか、いつ終わらせるかによって、依頼者の手元に残る額と、事務所が受け取る報酬の両方が動きます。両者が同じ方向を向くとは限りません。
弁護士職務基本規程28条4号は、依頼者の利益と自己の経済的利益が相反する事件について、その職務を行ってはならないと定めています。ところが債務整理の実務では、この条文に当たるかどうかという形で論じられることはほとんどありません。規律は、説明義務、受任してよい範囲、報酬の上限という別の形で置かれています。
本記事では、その規律がどこにどう置かれているのかを、条文と、最高裁判所をはじめとする裁判例、日本弁護士連合会の債務整理事件処理の規律を定める規程(以下「債務整理規程」といいます)、日本司法書士会連合会の債務整理事件の処理に関する指針(以下「司法書士の指針」といいます)にそくして説明します。
なお、同じ貸金業者から複数の依頼者が過払金を回収する場面では、依頼者どうしの利害が反対になることがあります。依頼者相互間の利益相反については、別の記事で説明しています。
依頼者相互間の利益相反|弁護士職務基本規程28条3号・受任の可否と辞任
2 結論——相反は処理の仕方に出る・説明義務と受任の規律・報酬規制で縛る
債務整理で利益相反が問題になる場面と、それぞれの扱いを先にまとめます。
債務整理で利益相反が問題になる場面と扱い
| 問い | 答え |
|---|---|
| 依頼者の利益と事務所自身の経済的利益が相反する事件を受任してよいか | その職務を行ってはならない。例外は、その依頼者が同意した場合だけ |
| 債務整理では、その相反はどこに出るか | 受任してよいかよりも、どの手続を選ぶか、どの内容で和解するか、何を説明するかに出る |
| 事務所が一律の方針を採ってよいか | 方針そのものは禁じられていない。ただし依頼者ごとに、その方針に伴う不利益とリスク、ほかに採りうる選択肢を説明する義務を負う |
| 過払金の回収だけを引き受けてよいか | 他に債務があることを知りながら回収だけを受けることは禁じられている。例外は、債務整理をしない場合の不利益を説明したうえで、依頼者がなお望み、その理由が不当な目的によるものでないと認められるとき |
| 報酬はどこまで受け取れるか | 経済的利益、事案の難易、時間、労力に照らして適正かつ妥当な額に限られる。過払金を回収したときの報酬には上限が定められている |
| 事件を回した第三者がいるときは | 処理の状況と結果は、その者にではなく依頼者に直接報告する義務を負う |
3 弁護士職務基本規程28条4号=依頼者の利益と自己の経済的利益が相反する事件
弁護士が職務を行えない事件は、弁護士法25条と、これを受けた弁護士職務基本規程27条・28条が定めています。このうち、依頼者と弁護士自身との間の利害を正面から扱っているのが、弁護士職務基本規程28条4号です。
組み立ては、まず禁止があり、そこに例外が付く、という順です。28条は本文で、掲げられた事件については職務を行ってはならないと定め、ただし書が同意による例外を置いています。4号については、その依頼者が同意した場合が例外です。
もっとも、債務整理でこの条文が持ち出されることはほとんどありません。理由は、相反が受任の時点では見えないところにあります。依頼を受ける瞬間には、依頼者と事務所の利害は同じ方向を向いています。ずれが出るのは、どの手続を選ぶか、どの内容で和解するか、いつ終わらせるかを決める段になってからです。
同意による例外も、この場面では働きにくいものです。同意は、何に同意するのかが分かって初めて意味を持ちます。受任の時点で、どの局面でどちらの利益が優先されるのかを示すことは困難です。
報酬の側からは、別の形で枠が掛かります。弁護士職務基本規程24条は、報酬の額そのものに枠をはめています。28条4号が受任してよいかを問うのに対し、24条は受け取ってよい額を問います。債務整理で実際に働いているのは、後者の型の規律です。
弁護士職務基本規程28条(職務を行い得ない事件)
弁護士は、前条に規定するもののほか、次の各号のいずれかに該当する事件については、その職務を行ってはならない。ただし、第一号及び第四号に掲げる事件についてその依頼者が同意した場合、第二号に掲げる事件についてその依頼者及び相手方が同意した場合並びに第三号に掲げる事件についてその依頼者及び他の依頼者のいずれもが同意した場合は、この限りでない。
※弁護士職務基本規程28条
依頼者の利益と自己の経済的利益が相反する事件
※弁護士職務基本規程28条4号
弁護士職務基本規程24条(弁護士報酬)
弁護士は、経済的利益、事案の難易、時間及び労力その他の事情に照らして、適正かつ妥当な弁護士報酬を提示しなければならない。
※弁護士職務基本規程24条
4 事務所の採算が手続の選択と和解の内容を動かす|司法書士の指針7条3項・4項
相反がどこに出るのかを正面から書いているのは、日本司法書士会連合会の定めです。司法書士の指針は、その解説の冒頭で、何が起きているのかを名指ししています。
この指針には「利益相反」という語が一度も出てきません。代わりに置かれているのが、第7条の禁止です。手続の選択と、和解の内容の2つを名指しで縛っています。どちらも、事務所の側の都合で動きやすいところです。
解説は、実際にどのような形で現れたのかを、各司法書士会に寄せられた苦情から列挙しています。過払金の回収だけを扱ってヤミ金の処理はしない、訴訟を起こさず任意交渉で和解したので返還額が低くなる、破産や民事再生によらなければ生活再建できないのに任意整理を選ぶ、といった形です。
多数の依頼者を抱える事務所では、和解の条件を依頼者ごとに決めるのではなく、あらかじめ包括的な委任を受けたものとして処理することがあります。こうした扱いは包括和解や包括協定などと呼ばれますが、いずれも定義のある語ではありません。債務整理規程にも司法書士の指針にも、「包括」「協定」という語は出てきません。名指しで規律されているのは、その結果として和解の内容が依頼者の利益を損なうこと、方針を依頼者に説明しないことのほうです。
解説の冒頭——債務整理事件を大量に受託し、自らの利益を追求することを主な目的とするような動き
本来、司法書士等は、債務整理事件の処理を通じて依頼者の生活再建を支援すべきところ、一部の司法書士等においては、債務整理事件を大量に受託し、自らの利益を追求することを主な目的とするような動きが見受けられる。
※日本司法書士会連合会編『債務整理事件の処理に関する指針の解説』日本司法書士会連合会2025-04-24p1
指針7条3項・4項——安易な任意整理の選択と、依頼者の経済的利益を損なう安易な和解の禁止
3 会員は、債務整理手続の選択にあたり、依頼者の経済的利益を最大限考慮し、破産手続・民事再生手続の申立てを選択することが適切であるにもかかわらず、安易に任意整理の手続を選択してはならない。
4 会員は、任意整理事件の処理にあたり、依頼者の経済的利益を損なうような安易な和解を行ってはならない。
※日本司法書士会連合会編『債務整理事件の処理に関する指針の解説』日本司法書士会連合会2025-04-24p6
苦情に現れた5つの形——事件の選別と偏った処理
各司法書士会に寄せられた苦情等によると、一部の会員が事件を選別して受任したり偏った事件処理をしたりしていたことが明らかとなっている。
具体的には、①依頼者の複数債務のうち任意整理事件や過払金返還請求事件のみを処理し、ヤミ金処理事件は処理しないというもの、②過払金返還請求事件を受任した場合に、訴訟提起を行わず任意交渉で和解したため返還される過払金額が低額になるというもの、③破産や民事再生手続によらなければ依頼者の生活再建が実現しないにもかかわらず、任意整理手続を選択されたというもの、④債権者との和解において、安易に将来利息や遅延損害金等の付与を承諾したもの、⑤元本弁済が不要なヤミ金処理事件にもかかわらず元本弁済をする旨の任意整理手続を選択されたというもの等である。
※日本司法書士会連合会編『債務整理事件の処理に関する指針の解説』日本司法書士会連合会2025-04-24p6
5 一律の方針→その方針の不利益等と他の選択肢を依頼者ごとに説明する義務
事務所が一律の方針を採ること自体は、禁じられていません。同じ類型の事件を多数扱えば、処理の型ができるのは当然です。問われるのは、その型が依頼者ごとの事情に合っているか、合っていないときに依頼者がそれを知らされるかです。
この場面で働く規範は、利益相反の条文ではなく、委任契約に基づく善管注意義務です。特定の債権者について消滅時効の完成を待つ方針を採った事案で、最高裁判所は次のように述べました。
根拠が委任契約に置かれていることには意味があります。利益相反であれば、受任してよいか、同意で解けるかという形で問われます。善管注意義務であれば、依頼者が判断するのに必要なことを知らされたかという形で問われます。債務整理で実際に争われてきたのは後者です。
この判決の事案と判断の内容は、別の記事で説明しています。
最判平成25年4月16日|債務整理の時効待ち方針に伴う不利益等と他の選択肢の説明義務
委任契約に基づく善管注意義務の一環→方針の不利益・リスクと他の選択肢の説明義務
このような事情の下においては、債務整理に係る法律事務を受任した被上告人は、委任契約に基づく善管注意義務の一環として、時効待ち方針を採るのであれば、Aに対し、時効待ち方針に伴う上記の不利益やリスクを説明するとともに、回収した過払金をもってDに対する債務を弁済するという選択肢があることも説明すべき義務を負っていたというべきである。
※最高裁判所 2013-04-16 最高裁判所民事判例集67巻4号1049頁/裁判所時報1578号146頁/判例タイムズ1393号74頁/金融・商事判例1428号8頁/金融・商事判例1418号8頁/判例時報2199号17頁/金融法務事情1998号146頁/LLI/DB 判例秘書登載/登記情報626号82頁
6 説明義務の限界→和解の基準には裁量・逸脱がなければ義務違反にならない
では、どこまで説明すれば足りるのでしょうか。過払金を回収するにあたって和解の金額を依頼者に一つずつ確かめなかった、という事案で、福岡高等裁判所宮崎支部は説明義務違反を否定しました。
境目は、裁量を逸脱したかどうかに置かれています。著しく低額で和解していれば結論は変わることになります。一律に処理してよいという判断ではありません。
同じ判決は、法律扶助制度を説明しなかったことについても義務違反を否定しています。費用を立て替えて事件処理を進め、回収した過払金から報酬と費用を支払うことができた、という事実関係が効いています。扶助を使えば報酬は扶助の基準に従い、使わずに過払金から支払えばその枠は掛かりません。事務所の経済的利益がどこで絡むかが見えるところです。
この判決の事案と判断の内容は、別の記事で説明しています。
福岡高宮崎支判平成22年12月22日|債務整理の説明義務違反と委任事務処理義務違反の否定
和解の基準には弁護士の裁量→著しく低額での和解等の逸脱がなければ説明義務違反でない
しかしながら、過払金の返還を求める訴訟において、いかなる基準で和解を成立させるかについては、弁護士にある程度の裁量が認められているというべきであるところ、この点について、控訴人が著しく低額での和解を成立させるなど、弁護士としての裁量を逸脱したとは認められず、かえって、控訴人は、訴え提起から相当期間内に、過払金元金及び過払利息の全額の支払を受けるとの内容の和解を成立させている(乙16ないし21〔枝番を含む。〕)のであるから、控訴人が事前に被控訴人から和解金額についての了解を得なかったからといって、その権利の保障に欠けるとまではいえず、この点についての説明義務違反があるということもできない。
※福岡高等裁判所宮崎支部 2010-12-22 判例時報2100号50頁/LLI/DB 判例秘書登載
7 過払金だけの受任→禁止|債務整理規程8条2項・司法書士の指針7条2項
相反が処理の仕方に出るという同じ見方は、受任してよい範囲の定めにも現れています。債務整理規程は、他に債務があることを知りながら過払金の回収だけを引き受けることを、原則として禁じています。
ここでも禁止が先にあり、例外が後に付きます。例外に当たるのは、債務整理をしない場合の不利益を説明したうえで、依頼者がなお過払金の回収だけを望み、その理由が不当な目的によるものでないと認められるときに限られます。依頼者の意思だけでは足りず、説明と、理由の当否の両方が要る形です。
同じ規程は、報酬の額そのものにも上限を置いています。過払金を回収したときの報酬は、回収額の25パーセント以下の範囲で規則が定める割合が上限です。事務所の取り分が依頼者の取り分を圧迫しないように、外側から枠をはめる形です。
司法書士の指針も、同じ趣旨の禁止を置いています。
債務整理事件処理の規律を定める規程8条2項・15条(受任の範囲と報酬の上限)
弁護士は、債務者が負担している他の債務があることを知りながら、当該他の債務についての債務整理事件の依頼を受けずに過払金返還請求事件のみの依頼を受けてはならない。ただし、弁護士が当該他の債務について債務整理を行わない場合に生じる可能性のある不利益について説明し、その説明を受けても当該債務者が当該他の債務についての債務整理事件を依頼することを希望せず、かつ、その理由が不当な目的に基づくものではないと認められるときは、この限りでない。
※債務整理事件処理の規律を定める規程8条2項
弁護士は、非事業者等任意整理事件について過払金報酬金を請求し、又は受領するときは、その金額を、回収した過払金の金額を経済的利益として、当該経済的利益に、二十五パーセント以下の範囲内で規則で定める割合を乗じた金額を超える金額としてはならない。
※債務整理事件処理の規律を定める規程15条
司法書士の指針7条2項——他の債務を知りながら過払金返還請求事件のみの受任は禁止
2 会員は、合理的な理由がないにもかかわらず、依頼者の他の債務の有無を聴取せず、又は依頼者に他の債務があることを知りながら、過払金返還請求事件のみを受任又は受託してはならない。
※日本司法書士会連合会編『債務整理事件の処理に関する指針の解説』日本司法書士会連合会2025-04-24p6
8 認定司法書士の代理の範囲=個別の債権ごとの価額|まとめて処理することへの制約
制約は、受任の可否や処理の仕方だけでなく、代理できる範囲そのものからも掛かります。債務整理は司法書士も扱いますが、認定司法書士が裁判外の和解を代理できるのは、司法書士法3条1項7号に定める額を超えない紛争に限られます。
複数の債権をまとめて整理する場合に、この額を何で測るのかが争われ、最高裁判所は個別の債権ごとの価額で測るとしました。債務整理の対象とされた債権の総額でも、和解によって依頼者が受ける経済的利益の額でもありません。
この判断は利益相反を扱ったものではありません。共通しているのは、まとめて処理することへの制約という点です。債務整理は依頼者ごと、債権ごとに事情が違うのに、扱う側の都合では一つの塊になりやすい、という構図が代理権の側からも現れています。
この判決の事案と判断の内容は、別の記事で説明しています。
最判平成28年6月27日|認定司法書士が裁判外の和解を代理できる範囲と個別の債権の価額
債権ごとに争いの内容と解決の方法が異なる→個別の債権ごとの価額を基準とする
また、複数の債権を対象とする債務整理の場合であっても、通常、債権ごとに争いの内容や解決の方法が異なるし、最終的には個別の債権の給付を求める訴訟手続が想定されるといえることなどに照らせば、裁判外の和解について認定司法書士が代理することができる範囲は、個別の債権ごとの価額を基準として定められるべきものといえる。
※最高裁判所 2016-06-27 最高裁判所民事判例集70巻5号1306頁/裁判所時報1654号169頁/判例タイムズ1428号25頁/金融・商事判例1499号8頁/金融・商事判例1498号10頁/判例時報2311号16頁/金融法務事情2055号74頁/LLI/DB 判例秘書登載/登記情報658号91頁
9 事件を回した第三者に報告し、依頼者に報告しなかった→報告義務違反
相反は、依頼者と事務所自身のあいだだけに起きるものではありません。事件を回した第三者がいるとき、その者の利益が処理に入り込むことがあります。
升田純『なぜ弁護士は訴えられるのか』は、多重債務者が債務整理業者と契約し、その業者の紹介で弁護士に債務整理を委任した事案を紹介しています。弁護士は貸金業者らと和解し、その結果を業者に報告しました。依頼者本人には報告していません。
この事案で裁判所が判断したのは、報告義務違反の有無です。利益相反ではありません。弁護士が業者の手足であったという主張は退けられ、訴訟を提起せずに和解したことも不相当な事件処理とはされませんでした。認められたのは、和解の結果を依頼者に報告しなかったことだけです。
報告の相手が依頼者ではなく業者になっていたことが、この事案の出発点です。弁護士職務基本規程36条は、事件の経過と帰趨に影響を及ぼす事項を依頼者に報告し、依頼者と協議しながら処理を進めることを求めています。報告の相手は依頼者であって、事件を回した者ではありません。
弁護士職務基本規程36条(事件処理の報告及び協議)
弁護士は、必要に応じ、依頼者に対して、事件の経過及び事件の帰趨に影響を及ぼす事項を報告し、依頼者と協議しながら事件の処理を進めなければならない。
※弁護士職務基本規程36条
事案の特徴——業者が債務を引き受け、その紹介で弁護士が受任し、貸金業者と和解した
この事案の特徴は、
①多重債務者が債務整理業者との間で業者が債務を引き受け、債務者の名義で借入債務を支払う旨の契約を締結したこと
②多重債務者が業者の紹介により、弁護士との間で債務整理を委任する契約を締結したこと
③弁護士が貸金業者らと交渉し、和解契約を締結したこと
※升田純著『なぜ弁護士は訴えられるのか』民事法研究会2016年 11月p252
判決の特徴——手足の主張は排斥・業者に報告し依頼者に報告しなかった点に報告義務違反
この判決の特徴は、
①弁護士が債務整理業者の手足であった旨の主張を排斥したこと
②弁護士が訴訟を提起しないで和解契約を締結したことが不相当な事件処理とはいえないとしたこと
③弁護士が和解契約の締結後、債務整理業者に報告し、依頼者である債務者に報告をしなかったことは、受任者としての委任事務処理状況の報告義務、顛末報告義務を怠った債務不履行があるとしたこと(弁護士の善管注意義務違反を認めた)
※升田純著『なぜ弁護士は訴えられるのか』民事法研究会2016年 11月p252
10 同じ貸金業者から複数の依頼者が回収するとき(参考)
ここまで見てきたのは、依頼者と事務所とのあいだの相反です。債務整理には、もう一つ別の向きの相反があります。
同じ貸金業者に対して複数の依頼者が過払金の返還を求める場合、その業者に十分な資力がなければ、一方が回収した分だけ他方の取り分が減ります。合計が決まっているものを分け合う関係になり、依頼者どうしの利害が反対を向きます。これは依頼者相互間の利益相反で、別の記事で説明しています。
依頼者相互間の利益相反|弁護士職務基本規程28条3号・受任の可否と辞任
11 おわりに
債務整理における利益相反は、受任してよいかという形ではほとんど問われません。問われるのは、どの手続を選び、どの内容で和解し、何を説明したかです。弁護士職務基本規程28条4号は大原則として置かれていますが、実際に働いているのは、委任契約に基づく説明義務、過払金の回収だけを受けることの禁止、報酬の上限という3つの規律です。
3つはいずれも、依頼者が自分で判断するのに必要なことを知らされているか、という一点に帰ります。日本司法書士会連合会の指針が「利益相反」という語を使わずに、手続の選択と和解の内容を名指しで縛っているのも、同じところを見ているからだと考えられます。
弁護士が依頼者以外の者から利益を受け取ることの規律については、別の記事で説明しています。
弁護士は相手方から利益を受領できない(汚職行為禁止の全体像)
本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
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本記事の表示では、読点を「、」に統一しています(引用の原文が「,」の場合を含みます)。


