過払金の包括和解|貸金業者と法律事務所が結んだ協定と依頼者間の分配

1 過払金の包括和解|貸金業者と法律事務所が結んだ協定と依頼者間の分配

過払金の返還請求は、同じ貸金業者を相手に、多数の債務者が同じ時期に行うことがあります。請求を代行するのは、その種の事件を多数扱う法律事務所です。

この構図のもとで、業者と事務所が協定を結び、依頼者ごとに和解の内容を決めるのではなく、まとめて処理していたと報じられたことがあります。2013年の朝日新聞の報道です。

本記事では、その報道が伝えた協定の内容と、当事者の説明、そして職務倫理上どう評価されたのかを説明します。協定の存在は、業者の側が否定しています。

依頼者どうしの利害が反対になる場面そのものについては、別の記事で説明しています。

依頼者相互間の利益相反にあたる場面|資金の食い合いと主張の食い違い

2 依頼者を二分して一方の返還額を削る協定——業者は存在を否定

報道が伝えた内容を先にまとめます。

依頼者を二分して一方の返還額を削る協定——業者は存在を否定

あ 協定の相手と呼称(誰と誰が何を結んだか)

全国展開する消費者金融業者と、過払金の返還請求を主に扱う大都市圏の弁護士・法律事務所など。業者の内部資料では「包括和解」と呼ばれ、相手先の名が20ほど並んでいたと報じられた

い 依頼者の二分(誰が得て誰が失うか)

まだ借金が残る人には金利免除や分割での返済を認める一方、借金を完済して過払金を取り戻せる人には本来の返還額の9〜5割をカットし、両者についてまとめて一括で和解する

う 依頼者の関与(依頼者は知っているか)

知らないまま返還額を減らされている。今後その事務所に依頼する債務者にも適用される

え 当事者の説明(協定の存在は認められているか)

業者は否定。ただし「減額をお願いする中で、具体的な割合や数字を『目安』として示すことはある」とは認めている。元幹部ら複数の関係者は存在を認めたと報じられた

お 相反の構造(何が食い合っているか・筆者見解)

業者が出す譲歩の総量は協定で決まり、事務所がそれを依頼者群の間で配分する形になる。一方の取り分を削った分が、他方の利益に充てられる

3 協定の構造|依頼者の二分と、一方の返還額の9〜5割カット

報道の根拠は、全国展開する消費者金融業者の内部資料です。協定はその資料のなかで「包括和解」と呼ばれ、相手先として過払金の返還請求を主に扱う弁護士・法律事務所などの名前が20ほど並んでいたと報じられています。

法律事務所は多数の債務者から相談を受けます。返済した合計額から、利息制限法の上限で計算し直した借金を引くと、依頼者は2つに分かれます。まだ借金が残る人と、完済していて過払金を取り戻せる人です。

協定が扱うのは、この2つをまとめた処理です。前者には金利の免除や分割での返済を認め、後者には本来の返還額の9〜5割をカットして、両者について一括で和解する——という内容だと報じられています。

内部資料に記された協定=「包括和解」・相手先20ほど・依頼者は2つに分かれる

朝日新聞は、全国展開する消費者金融業者の内部資料を入手した。
それによると、協定は「包括和解」などと呼ばれ、相手先には、過払い金の返還請求を主に扱う大都市圏の弁護士や法律事務所などの名前が20ほど並んでいる。

法律事務所などは多数の債務者から相談を受けるが、返済した合計額から正しい金利で計算した借金を引いた結果、(1)まだ借金が残る人(2)借金は完済し、業者から過払い金を取り戻せる人——に二分される。

※高田英稿『過払い返還、密約で減額 債務者が知らぬ間に 消費者金融と法律事務所』/『朝日新聞2013年3月24日朝刊』朝日新聞社p39

(1)には金利免除や分割、(2)には本来の返還額の9〜5割をカットして一括で和解

協定は、(1)には借金の金利免除や分割での返済を認める一方、(2)には本来の返還額の9~5割をカットし、(1)(2)についてこの業者と一括で和解する。
法律事務所などに今後依頼する債務者にも適用される。

※高田英稿『過払い返還、密約で減額 債務者が知らぬ間に 消費者金融と法律事務所』/『朝日新聞2013年3月24日朝刊』朝日新聞社p39

4 双方の利得と、請求できる側だけが負う不利益

和解は、それぞれの債務者の事情や要望に応じて個別に判断するのが本来のあり方です。協定でまとめて処理すれば、事務所は1件あたりの手間が減り、短期間に大量の依頼を処理して手数料を稼げます。業者も返還の支出を減らせます。

不利益を負うのは一方だけです。過払金の返還を請求できる人には、返還額を削られること以外に得るものがありません。しかも、協定を知らないまま削られていると報じられています。

業者の元幹部ら複数の関係者は、協定の存在を認めたうえで、その目的を語ったと報じられています。

個別に判断するのが本来のあり方→協定で事務所は手数料、業者は支出減、(2)には不利益しかない

和解は、それぞれの債務者の事情や要望に応じて個別に判断するのが本来のあり方だ。
協定により、法律事務所は1件あたりの手間が減り、短期間に大量の依頼を処理できるため手数料を稼げる。
業者も返還の支出を減らせ、双方にメリットがある。
だが、(2)の返還請求ができる人には不利益しかなく、協定を知らないまま返還額を減らされているのが実態だ。

※高田英稿『過払い返還、密約で減額 債務者が知らぬ間に 消費者金融と法律事務所』/『朝日新聞2013年3月24日朝刊』朝日新聞社p39

元幹部らの証言——返還の支払いを減らすことが目的

この業者の元幹部ら複数の関係者は取材に対し、内部資料に記された協定の存在を認めたうえで、「返還の支払いを減らすことが目的だ。『交渉の結果、取り戻せるのはこれだけ』と法律事務所に言わせれば、債務者はあきらめて和解する」と打ち明ける。
各地の法律事務所などに協定を働きかけるのは日常だという。

※高田英稿『過払い返還、密約で減額 債務者が知らぬ間に 消費者金融と法律事務所』/『朝日新聞2013年3月24日朝刊』朝日新聞社p39

5 事務所への申し入れ|割合の提示、ほかも結んでいるという説得、断ったあとの嫌がらせ

協定を持ちかけられた側の証言も報じられています。減額の割合と、その代わりに何をするかを並べた申し入れだったとされています。

断った事務所には、業者が依頼者へ直接連絡を取る動きがあったと報じられています。

東海の司法書士事務所——5割減なら半年後・8割減なら2カ月後/断ると依頼者へ直接電話

「5割減で和解なら半年後、8割減なら2カ月後に一括で返還金を払う。代わりに、うちへの返済が続く人には対応を検討します」——。
東海地方の司法書士事務所は昨年、大手業者の担当者からこんな申し入れを受けた。
「債務者の意向を無視することになる」と断ると、業者は債務者に直接電話をかけ、「司法書士の報酬は高すぎないか」などと嫌がらせをしてきたという。

※高田英稿『過払い返還、密約で減額 債務者が知らぬ間に 消費者金融と法律事務所』/『朝日新聞2013年3月24日朝刊』朝日新聞社p39

関西の事務所——「ほかの事務所は結んでいる」という説得

関西地方の司法書士事務所にもここ数年、複数の大手業者から協定の申し入れが相次いだ。
担当者はしきりに「ほかの事務所は結んでいる」と説得してきた。
「5割しか戻らない」と別の法律事務所で言われ、頼ってきた債務者もいた。

※高田英稿『過払い返還、密約で減額 債務者が知らぬ間に 消費者金融と法律事務所』/『朝日新聞2013年3月24日朝刊』朝日新聞社p39

6 当事者の説明|協定は否定・目安の提示は肯定

協定の存在について、業者の側は否定しています。資料に名前のあった事務所も、取材に応じていません。

ただし、割合や数字を示すこと自体は認められています。「目安」としてであって、和解の内容を拘束するものではない、という説明です。

業者「和解は個別に行っている。ご指摘のような協定はない」・事務所十数カ所は取材拒否

この業者は取材に「和解は個別に行っている。ご指摘のような協定はない」と回答。
資料に名前のあった法律事務所などのうち十数カ所にも取材を申し込んだが、いずれも「お答えすることはない」などと拒否した。
(高田英)

※高田英稿『過払い返還、密約で減額 債務者が知らぬ間に 消費者金融と法律事務所』/『朝日新聞2013年3月24日朝刊』朝日新聞社p39

複数の大手業者「具体的な割合や数字を『目安』として示すことはある」が協定は否定

これらの事例について各業者に取材したところ、複数の大手業者は、法律事務所との交渉に際し「減額をお願いする中で、具体的な割合や数字を『目安』として示すことはある」と回答。
しかし「提案は和解内容を拘束するものでなく、交渉は個別にしている」「和解交渉は個別の事情、意向に応じて行う」として、協定の存在を否定している。

※高田英稿『過払い返還、密約で減額 債務者が知らぬ間に 消費者金融と法律事務所』/『朝日新聞2013年3月24日朝刊』朝日新聞社p39

7 職務倫理上の評価|事務所の利益のために請求権が損なわれているという指摘

報道は、消費者金融に関する相談を多く手がける弁護士の評価を載せています。損なわれているのは、過払金を請求できる人の権利だという指摘です。

弁護士職務基本規程に触れるおそれにも触れられています。ただし、どの条に当たるかは述べられていません。懲戒の議決例や裁判例は、本記事では扱っていません。

三上理弁護士——事務所の利益のために請求権が損なわれている・職務倫理上の問題がある

消費者金融に関する相談を数多く手がける三上理(おさむ)弁護士(東京弁護士会)は「手早く和解するという法律事務所の利益のために、過払い金を請求できる人の権利が損なわれている。協定を結んだ弁護士や司法書士には、職務倫理上の問題がある」と指摘。
弁護士職務基本規程などに触れるおそれもあるという。

※高田英稿『過払い返還、密約で減額 債務者が知らぬ間に 消費者金融と法律事務所』/『朝日新聞2013年3月24日朝刊』朝日新聞社p39

8 何が食い合っているのか|一方の取り分を削った分が他方の利益へ(筆者見解)

報道された内容を構造として読むと、食い合っているものが見えます。業者が出す譲歩の総量は、協定を結んだ時点で決まっています。事務所がするのは、その総量を依頼者群の間で配分することです。

配分の中身は、過払金を取り戻せる人の返還額を9〜5割削り、その分で、まだ借金が残る人の金利免除や分割を得る、というものです。一方の取り分を削った分が、他方の利益に充てられています。

合計が決まっているものを分け合う関係になれば、依頼者どうしの利害は反対を向きます。これは依頼者相互間の利益相反の形そのものです。協定という形をとっているために、どちらの依頼者からも同意を取らずに配分が決まる、という点が加わります。

この構造が条文のどこに当たるのかは、別の記事で説明しています。

依頼者相互間の利益相反にあたる場面|資金の食い合いと主張の食い違い

9 おわりに

報道が伝えたのは、業者と事務所が協定を結び、依頼者を2つに分けて、一方の返還額を削った分を他方の利益に充てていたという内容です。依頼者はそれを知らされていませんでした。

業者はこの協定の存在を否定しています。認めているのは、割合や数字を「目安」として示すことまでです。一方で、元幹部ら複数の関係者が存在を認めたと報じられ、持ちかけられた側の事務所の証言も複数あります。

協定という形は、依頼者相互間の利益相反を、依頼者の同意を経ずに成立させます。受任してよいか、受けたあとどうするのかという規律は、別の記事で説明しています。

相反する依頼者の受任と辞任|顕在化の前後・不利益事項の説明と適切な措置

債務整理で受任した側の処理そのものに掛かる規律——手続の選択、和解の内容、報酬の上限——も、別の記事で説明しています。

弁護士・司法書士が受任した債務整理の規律|手続の選択・和解の内容・報酬の上限

本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

本記事の引用は、書籍・判例などの原文から範囲を選んで載せたものです。改行の位置は読みやすさのために当方で整えており、原文の改行と同じとは限りません。また、記号や外字の扱いにより、文字の一部が原文と異なって表示されることがあります。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINE
東京高判昭和50年1月30日|やむを得ない事情で地域外に執務→20条違反でも登録換の進達拒絶事由に当たらない
弁護士法20条2項|法律事務所は所属弁護士会の地域内——自宅執務が主でも違反

無料相談予約 受付中

0120-96-1040

受付時間 平日9:00 - 20:00