福岡高宮崎支判平成22年12月22日|債務整理の説明義務違反と委任事務処理義務違反の否定

1 福岡高宮崎支判平成22年12月22日|債務整理の説明義務違反と委任事務処理義務違反の否定

債務整理を弁護士に依頼した人が、弁護士は必要な説明をしなかったと主張して損害賠償を求めることがあります。どこまで説明すれば足りるのかは、事案の事情によって変わります。

福岡高等裁判所宮崎支部は、平成22年12月22日、公設事務所の所長であった弁護士について、説明義務違反も委任事務処理義務違反も認められないとして、第一審が認容した176万円の請求を棄却しました。第一審が説明義務違反を認めていた部分を取り消した判決です。

本記事では、この判決が何を判断したのかを、事案、第一審の判断、説明義務についての4つの判断、委任事務処理義務についての判断、結論の順に見ていきます。

債務整理で何をどこまで説明すべきかが何によって規律されているのかは、別の記事で説明しています。

債務整理における利益相反|弁護士職務基本規程28条4号・説明義務と受任の規律

2 結論——説明義務違反・委任事務処理義務違反とも否定→原判決中の敗訴部分を取消し

この判決で争われたことと、裁判所の答えを先にまとめます。

争われたことと、裁判所の答え

争われたこと 裁判所の答え
法律扶助制度を説明しなかったことは説明義務違反か 費用を立て替えて事件処理を進め、回収した過払金で報酬と費用を支払うことができた以上、権利の保障に欠けるとまではいえない
過払金返還訴訟の和解金額について、個別に依頼者の了解を得なかったことは説明義務違反か いかなる基準で和解を成立させるかには弁護士にある程度の裁量が認められ、著しく低額で和解するなど裁量を逸脱したとは認められない
債権者に支払をしないまま事実上終了させるリスクを説明しなかったことはどうか 免責不許可事由に該当する事情があって破産を選択する余地がほとんどなく、過払金と債務の額も未確定だったから、説明すべき義務があったとまではいえない
委任事務を完了させなかったことは債務不履行か 依頼者が行方不明となり連絡待ちの状況で進められなかったのだから、弁護士の責めに帰することができない
結論はどうなったか 原判決中の控訴人敗訴部分を取り消して請求を棄却し、附帯控訴も棄却した

3 事案——7社から過払金521万円余を回収・債務の残る債権者への和解提案には至らず

依頼者(判決では「被控訴人」。弁護士が「控訴人」です。以下の引用もこの呼び方によります)は、経営していた会社が手形不渡りを出して営業を廃止したのち、平成18年9月27日、弁護士と債務整理を目的とする委任契約を結びました。このとき委任契約書は作成されず、法律扶助制度の説明もありませんでした。

弁護士は、日本弁護士連合会の基金の支援を受けた公設事務所の初代所長でした。

貸金業者7社から合計521万2908円の過払金を回収

イ 控訴人は、被控訴人との間で金銭消費貸借取引を行っていた貸金業者7社から、平成18年11月15日から平成20年4月16日までにかけて、合計521万2908円の過払金を回収した(なお、うち1社を除き、いずれも訴訟提起後に回収したものである。)。

※福岡高等裁判所宮崎支部 2010-12-22 判例時報2100号50頁/LLI/DB 判例秘書登載

債務の残る債権者には和解の提案をするに至らなかった

ウ 控訴人は、債務の残る被控訴人の債権者については、債務の返済に関する和解の提案をするに至らなかった。

※福岡高等裁判所宮崎支部 2010-12-22 判例時報2100号50頁/LLI/DB 判例秘書登載

4 下級審——時効待ちの不利益と和解内容の説明義務違反を認めて176万円を認容

依頼者は、過払金の額その他の事件処理の状況について説明義務を怠ったまま委任事務を放置され、ホームレスの生活を余儀なくされたとして、損害賠償550万円と不当利得177万円余の支払を求めました。第一審はこのうち一部を認容しました。

5項目のうち2項目に説明義務違反→慰謝料160万円と弁護士費用16万円の限度で認容

原判決(平成22年3月23日言渡し)は、争点(1)について、①時効待ち(控訴人による和解の提案に債権者が応じない場合はそのまま放置して消滅時効の完成まで待つ)の方法によって予測される不利益並びに②和解の内容及び返還を受けた過払金の額に関しては説明義務違反が認められるが、③弁護士報酬及び費用、④事件の見通し及び処理の方法並びに⑤法律扶助制度に関しては説明義務違反は認められない旨の、争点(2)について、委任事務処理義務違反は認められない旨の、争点(3)について、控訴人が、被控訴人に対し、和解の内容及び返還を受けた過払金の額につき一切説明しなかったことから、被控訴人は、過払金を居住費用等に充てる機会を失い、路頭に迷ってホームレスの生活を送るなどの精神的苦痛を被ったものであり、これによる被控訴人の損害は慰謝料160万円及び弁護士費用16万円の合計176万円の限度で認められる旨の、争点(4)について、控訴人が過払金を不当に利得したとは認められない旨の各判断をして、被控訴人の請求を、176万円及びこれに対する平成20年12月30日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容し、その余を棄却した。

※福岡高等裁判所宮崎支部 2010-12-22 判例時報2100号50頁/LLI/DB 判例秘書登載

5 判示——説明義務違反は認められない(4つの事項をいずれも否定)

控訴審は、説明義務が問題になる事項を4つに分け、いずれについても義務違反を認めませんでした。第一審が説明義務違反を認めていた部分も含めて結論が変わっています。

以下、4つを順に見ていきます。

4つをまとめて、控訴審は次のように結論づけています。

委任契約上の説明義務に違反した債務不履行があるとはいえない

以上のとおり、控訴人に委任契約上の説明義務に違反した債務不履行があるとはいえない。

※福岡高等裁判所宮崎支部 2010-12-22 判例時報2100号50頁/LLI/DB 判例秘書登載

(1)事件の見通しと処理の方法——初回相談時と打合せの際に説明したと認められる

1つ目は、事件の見通しと処理の方法です。

初回相談時と平成19年11月16日に説明→説明義務違反とはいえない

上記1の認定事実によれば、控訴人は、被控訴人に対し、初回相談時及び平成19年11月16日に、その時点における事件の見通しや事件処理の方法について説明をしたものと認められるから、控訴人が委任契約上の説明義務に違反したとはいえない。これに反する被控訴人の主張は理由がない。

※福岡高等裁判所宮崎支部 2010-12-22 判例時報2100号50頁/LLI/DB 判例秘書登載

(2)法律扶助——回収した過払金で報酬と費用を支払えた→権利の保障に欠けない

2つ目は法律扶助制度です。弁護士がこの制度を説明していなかったことは、当事者間に争いがありませんでした。それでも義務違反にならないとされています。

説明しなかったこと自体は認めたうえで、結果として依頼者の権利の保障に欠けたとはいえない、という組み立てです。

費用を立て替えて処理を進め、回収した過払金で報酬と費用を支払えた→権利の保障に欠けない

控訴人が債務整理事件を受任するに当たって法律扶助制度を被控訴人に説明していない事実は、当事者間に争いがない。
しかしながら、上記1の認定事実によれば、控訴人は、費用を立て替えて、過払金の回収その他の事件処理を進めていた上、被控訴人は、回収した過払金によって弁護士報酬及び費用を支払うことができたものであるから、被控訴人が法律扶助制度につき説明を受けなかったとしても、その権利の保障に欠けるとまではいえない。
したがって、この点について控訴人に委任契約上の説明義務違反があったということはできない。これに反する被控訴人の主張は理由がない。

※福岡高等裁判所宮崎支部 2010-12-22 判例時報2100号50頁/LLI/DB 判例秘書登載

(3)弁護士報酬と費用——金額を提示し、依頼者が承諾したと認められる

3つ目は弁護士報酬と費用です。

任意整理報酬と過払金報酬を説明し、依頼者が承諾→説明義務違反とはいえない

上記1の認定事実によれば、控訴人は、被控訴人に対し、平成19年11月16日の打合せの際、任意整理報酬と過払金報酬につき説明し、被控訴人は、これに同意したものであり、被控訴人が逮捕・起訴された後は、控訴人は、被控訴人に対し、文書を送付して、過払金報酬の内容を改めて確認するとともに、任意整理報酬を21万円とする旨の申込みをした上、平成20年7月9日の面会の際にも、任意整理報酬を21万円、過払金報酬を156万3872円とする申込みをして、被控訴人はこれを承諾したものと認められる。
以上によれば、弁護士費用及び報酬に関しても、説明義務違反があったとはいえない。これに反する被控訴人の主張は理由がない。

※福岡高等裁判所宮崎支部 2010-12-22 判例時報2100号50頁/LLI/DB 判例秘書登載

(4)過払金の額——和解金額の個別の了解なし→裁量の逸脱がなければ義務違反でない

4つ目は、回収した過払金の額その他の事件処理の状況です。この弁護士は、過払金を回収するにあたって、和解の金額について個別に依頼者の了解を求めていませんでした。あらかじめ包括的な委任を受けているという理解です。

判決はこれを説明義務違反とはしませんでした。境目は、裁量を逸脱したかどうかに置かれています。

さらに、債権者に支払をしないまま事実上終了させることのリスクについても述べています。説明しなかったこと自体は認めたうえで、この事案の事情では説明すべき義務までは生じないとしました。

事前の包括的な委任→和解金額の個別の了解を求めていない

なお、控訴人は、過払金の回収等の事件処理の方針については依頼者から事前に包括的な委任を受けているとして、過払金を回収するに際し、和解金額について個別に被控訴人の了解を求めたことはない(乙11〔7頁〕、原審における控訴人本人〔397、403〕)。

※福岡高等裁判所宮崎支部 2010-12-22 判例時報2100号50頁/LLI/DB 判例秘書登載

和解の基準には弁護士の裁量→著しく低額での和解等の逸脱は認められない

しかしながら、過払金の返還を求める訴訟において、いかなる基準で和解を成立させるかについては、弁護士にある程度の裁量が認められているというべきであるところ、この点について、控訴人が著しく低額での和解を成立させるなど、弁護士としての裁量を逸脱したとは認められず、かえって、控訴人は、訴え提起から相当期間内に、過払金元金及び過払利息の全額の支払を受けるとの内容の和解を成立させている(乙16ないし21〔枝番を含む。〕)のであるから、控訴人が事前に被控訴人から和解金額についての了解を得なかったからといって、その権利の保障に欠けるとまではいえず、この点についての説明義務違反があるということもできない。

※福岡高等裁判所宮崎支部 2010-12-22 判例時報2100号50頁/LLI/DB 判例秘書登載

免責不許可事由があり破産の余地がほとんどない→リスクの説明義務までは生じない

もっとも、上記1(4)ウの認定事実によれば、控訴人は、債権者に支払をしないまま委任事務を事実上終了させてしまうことによって今後債権者から訴訟を提起されるリスクその他の被控訴人が被る不利益を説明しなかったことが認められる。しかし、被控訴人については、手形割引名下に多額の金員を騙し取ったという免責不許可事由に該当する事情があったため、破産を選択する余地はほとんどなく、また、平成19年11月16日の時点においては、最終的な過払金の額と債務の額は未だ明らかになっていなかったものである。

※福岡高等裁判所宮崎支部 2010-12-22 判例時報2100号50頁/LLI/DB 判例秘書登載

6 判示——委任事務処理義務違反も否定・依頼者が行方不明で連絡待ちの状況だった

もう一つの争点は、弁護士が委任事務を完了させなかったことが債務不履行になるかでした。約2割の債権者について、過払金と債務の額を確定させることすらできていませんでした。

依頼者が行方不明で連絡待ち→委任事務処理を怠った債務不履行とはいえない

上記1の認定事実によれば、被控訴人は、平成19年11月16日の打合せの後には連絡すると約束しながら行方不明となっていたため、控訴人は、約2割の債権者(過払いの状態となっている可能性がある者を含む。)については、被控訴人に事情を確認するなどして過払金及び債務の額を確定させることすらできずに、結局、各債権者に対し、いずれも和解の提案をするまでに至らなかったものである。
そうすると、控訴人が委任事務を完了させることができなかったのは、控訴人が連絡待ちの状況により債務整理を進めることができなかったことによるものであり、これは控訴人の責めに帰することができない事由によるものであるから、控訴人に委任事務処理を怠った債務不履行があるとはいえない。

※福岡高等裁判所宮崎支部 2010-12-22 判例時報2100号50頁/LLI/DB 判例秘書登載

7 結論——原判決中の控訴人敗訴部分を取消し・請求棄却・附帯控訴も棄却

説明義務違反も委任事務処理義務違反も認められない以上、請求は理由がないことになります。

請求は理由なし→原判決中の敗訴部分を取消し・附帯控訴を棄却

よって、被控訴人の請求は理由がないから棄却すべきところ、これを一部認容した原判決は失当であり、本件控訴は理由があるから、原判決中控訴人敗訴部分を取り消した上、上記の部分につき被控訴人の請求を棄却することとし、また、本件附帯控訴は理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。

※福岡高等裁判所宮崎支部 2010-12-22 判例時報2100号50頁/LLI/DB 判例秘書登載

主文

1 控訴人の本件控訴に基づき、原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
2 上記の部分につき、被控訴人の請求を棄却する。
3 被控訴人の本件附帯控訴を棄却する。
4 訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。

※福岡高等裁判所宮崎支部 2010-12-22 判例時報2100号50頁/LLI/DB 判例秘書登載

8 決めていないこと——損害の額と、時効待ちという方法そのものの当否

請求が棄却されたので、損害の額(第一審で争点とされた3つ目の点)は判断されていません。第一審が認めた慰謝料160万円という評価も、控訴審は取り上げていません。

また、この判決は、債権者に支払をしないまま事実上終了させるという方法そのものが許されると述べたわけではありません。リスクを説明しなかったこと自体は認めたうえで、免責不許可事由に該当する事情があって破産を選択する余地がほとんどなく、過払金と債務の額も未確定であったという、この事案の事情の下では説明すべき義務までは生じない、という判断です。事情が違えば結論も変わりうることになります。

利益相反についても判断されていません。参照条文として挙げられているのは民法415条と644条だけです。

9 おわりに

この判決は、債務整理で何をどこまで説明すべきかが、依頼者の資力や破産を選べるかどうかといった事案の事情によって動くことを示しています。説明しなかったという事実だけでは義務違反にならない一方、事情が違えば同じ不作為が義務違反になりうるという形です。

債務整理の進め方や弁護士費用についてご不明な点がありましたら、当事務所へご相談ください。

債務整理における利益相反の全体像は、別の記事で説明しています。

債務整理における利益相反|弁護士職務基本規程28条4号・説明義務と受任の規律

本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

本記事の引用は、書籍・判例などの原文から範囲を選んで載せたものです。改行の位置は読みやすさのために当方で整えており、原文の改行と同じとは限りません。また、記号や外字の扱いにより、文字の一部が原文と異なって表示されることがあります。

本記事の表示では、読点を「、」に統一しています(引用の原文が「,」の場合を含みます)。

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