最判平成28年6月27日|認定司法書士が裁判外の和解を代理できる範囲と個別の債権の価額
1 最判平成28年6月27日|認定司法書士が裁判外の和解を代理できる範囲と個別の債権の価額
債務整理は弁護士だけの仕事ではありません。司法書士のうち法務大臣の認定を受けた者(認定司法書士)も、一定の範囲で代理をすることができます。その範囲には、司法書士法3条1項7号による金額の限りがあります。
複数の債権をまとめて整理する場合に、この金額を何によって測るのかが争われました。最高裁判所第一小法廷は、平成28年6月27日、個別の債権ごとの価額を基準とすると判断しました。
本記事では、この判決が何を判断したのかを、事案、双方の上告理由、判示、あてはめ、結論の順に見ていきます。
債務整理をまとめて処理することにどのような制約が掛かるのかは、別の記事で説明しています。
債務整理における利益相反|弁護士職務基本規程28条4号・説明義務と受任の規律
2 結論——代理できる範囲は個別の債権ごとの価額で決まる→双方の上告を棄却
この判決で争われたことと、裁判所の答えを先にまとめます。
争われたことと、裁判所の答え
| 争われたこと | 裁判所の答え |
|---|---|
| 複数の債権を対象とする債務整理で、認定司法書士が代理できる範囲は何によって決まるか | 個別の債権ごとの価額を基準として定められる |
| 弁済計画の変更によって債務者が受ける経済的利益の額で測ってよいか | よくない。和解が成立した時点で初めて判明する額だから |
| 債務整理の対象とされた債権の総額で測ってよいか | よくない。債権者が必ずしも容易には認識できない額だから |
| なぜ客観的で明確な基準でなければならないのか | 委任者や認定司法書士との関係だけでなく、和解の交渉の相手方など第三者との関係でも、業務を行う時点で決まっている必要があるから |
| 範囲を超えて和解を代理した場合はどうなるか | 違法に代理して報酬を受領したことになり、不法行為による損害賠償として報酬相当額の支払義務を負う |
3 事案——元本517万円余の債権を含む複数の債権について裁判外の和解を代理した
依頼者(判決では「被上告人ら」と亡A。認定司法書士が「上告人」です。以下の引用もこの呼び方によります)は、複数の貸金業者との取引について、平成19年10月19日、認定司法書士と債務整理を目的とする委任契約を結びました。
引き直し計算をすると、貸付金元本の総額は1210万円余り、過払金の総額は1900万円余りで、このうち元本または過払金の額が140万円を超える個別の取引が複数ありました。
複数の貸金業者との取引について債務整理を受任し、和解や交渉をして報酬を受領
(1) 被上告人ら及び亡A(以下、両者を併せて「本件債務者ら」という。)は、それぞれ複数の貸金業者との間で、継続的な金銭消費貸借取引(以下「本件各取引」という。)を行っていたところ、平成19年10月19日、上告人との間で、その債務整理を目的とする委任契約(以下「本件委任契約」という。)を締結した。
(2) 上告人は、本件委任契約に基づき、各貸金業者に対し、本件各取引について取引履歴の開示を求め、裁判外の和解やその交渉をするなどの債務整理に関する業務を行って、本件債務者らからこれに対する報酬の支払を受けた。
(3) 本件各取引を利息制限法所定の制限利率に引き直して計算すると、平成19年10月19日当時、貸付金元本の総額は1210万円余りであり、過払金の総額は1900万円余りであった。また、本件各取引の中には、貸付金元本の額が517万円余りの債権や、過払金の額が615万円余りの債権など、貸付金元本の額又は過払金の額が法3条1項7号に規定する額である140万円を超える個別の取引が複数存在していた(以下、これらの個別の取引に係る各債権を「本件各債権」という。)。
※最高裁判所 2016-06-27 最高裁判所民事判例集70巻5号1306頁/裁判所時報1654号169頁/判例タイムズ1428号25頁/金融・商事判例1499号8頁/金融・商事判例1498号10頁/判例時報2311号16頁/金融法務事情2055号74頁/LLI/DB 判例秘書登載/登記情報658号91頁
元本517万円余の債権→493万円余を120回に分割して支払う和解が成立
(4) 本件各債権の一つであるB社の亡Aに対する貸付金元本の額が517万円余りの債権については、上告人が代理して、亡Aがそのうち493万円余りに年6パーセントの将来利息を付して月額5万5000円ずつ120回に分割して支払う内容の裁判外の和解が成立した。なお、亡Aがこの弁済計画の変更により受ける経済的利益の額は、140万円を超えないものであった。
※最高裁判所 2016-06-27 最高裁判所民事判例集70巻5号1306頁/裁判所時報1654号169頁/判例タイムズ1428号25頁/金融・商事判例1499号8頁/金融・商事判例1498号10頁/判例時報2311号16頁/金融法務事情2055号74頁/LLI/DB 判例秘書登載/登記情報658号91頁
4 上告理由——双方が正反対の基準を主張(経済的利益の額/債権の総額)
第一審と原審の判断に対し、認定司法書士の側と依頼者の側の双方が上告受理を申し立てました。主張された基準は正反対でした。
認定司法書士は経済的利益の額を、依頼者らは債権の総額を基準とすべきと主張
3 上告人の論旨は、認定司法書士が法3条1項7号により債務整理の対象となる債権に係る裁判外の和解について代理することができるのは、当該債権につき債務者が弁済計画の変更により受ける経済的利益の額が140万円を超えない場合であるところ、前記2(4)の債権に係る上記の額は140万円を超えないから、上告人は同債権に係る裁判外の和解を代理することができるというものである。また、被上告人らの論旨は、認定司法書士が裁判外の和解について代理することができるのは、債務整理の対象とされた全ての債権の総額又は債務者ごとにみた債権の総額が140万円を超えない場合であるところ、本件各取引に係る債権についての上記の各総額はいずれも140万円を超えるから、上告人は本件各取引に係る全ての債権について裁判外の和解を代理することができないというものである。
※最高裁判所 2016-06-27 最高裁判所民事判例集70巻5号1306頁/裁判所時報1654号169頁/判例タイムズ1428号25頁/金融・商事判例1499号8頁/金融・商事判例1498号10頁/判例時報2311号16頁/金融法務事情2055号74頁/LLI/DB 判例秘書登載/登記情報658号91頁
5 判示——代理できる範囲は個別の債権ごとの価額を基準として定められる
最高裁は、双方の主張をいずれも採らず、個別の債権ごとの価額を基準とする、と判断しました。この結論は3つの段で導かれています。7号が置かれた趣旨、基準が備えるべき性質、そこから出る規範の3つです。以下で順に見ていきます。
以上から、規範が導かれます。
個別の債権の価額が7号の額を超える場合→その債権の裁判外の和解を代理できない
以上によれば、債務整理を依頼された認定司法書士は、当該債務整理の対象となる個別の債権の価額が法3条1項7号に規定する額を超える場合には、その債権に係る裁判外の和解について代理することができないと解するのが相当である。
※最高裁判所 2016-06-27 最高裁判所民事判例集70巻5号1306頁/裁判所時報1654号169頁/判例タイムズ1428号25頁/金融・商事判例1499号8頁/金融・商事判例1498号10頁/判例時報2311号16頁/金融法務事情2055号74頁/LLI/DB 判例秘書登載/登記情報658号91頁
(1)趣旨——簡裁民事訴訟手続の代理に付随→代理できる紛争も同一の範囲内
まず、認定司法書士が裁判外の和解を代理できるとされた理由です。簡易裁判所の訴訟手続を代理できることに付随して認められたものだ、という位置づけが示されます。
7号は6号イに付随→代理できる紛争も簡裁民事訴訟手続と同一の範囲内
4 法は、認定司法書士の業務として、簡易裁判所における民訴法の規定による訴訟手続(以下「簡裁民事訴訟手続」という。)であって、訴訟の目的の価額が裁判所法33条1項1号に定める額を超えないものについて代理すること(法3条1項6号イ)、民事に関する紛争であって簡裁民事訴訟手続の対象となるもののうち、紛争の目的の価額が上記の額を超えないものについて、裁判外の和解について代理すること(同項7号)を規定する。法3条1項6号イが上記のとおり規定するのは、訴訟の目的の価額が上記の額を超えない比較的少額のものについては、当事者において簡裁民事訴訟手続の代理を弁護士に依頼することが困難な場合が少なくないことから、認定司法書士の専門性を活用して手続の適正かつ円滑な実施を図り、紛争の解決に資するためであると解される。そして、一般に、民事に関する紛争においては、訴訟の提起前などに裁判外の和解が行われる場合が少なくないことから、法3条1項7号は、同項6号イの上記趣旨に鑑み、簡裁民事訴訟手続の代理を認定司法書士に認めたことに付随するものとして、裁判外の和解についても認定司法書士が代理することを認めたものといえ、その趣旨からすると、代理することができる民事に関する紛争も、簡裁民事訴訟手続におけるのと同一の範囲内のものと解すべきである。
※最高裁判所 2016-06-27 最高裁判所民事判例集70巻5号1306頁/裁判所時報1654号169頁/判例タイムズ1428号25頁/金融・商事判例1499号8頁/金融・商事判例1498号10頁/判例時報2311号16頁/金融法務事情2055号74頁/LLI/DB 判例秘書登載/登記情報658号91頁
(2)基準——債権ごとに争いの内容や解決の方法が異なる→個別の債権ごとの価額
次に、複数の債権をまとめて扱う債務整理の場合です。
債権ごとに争いの内容と解決の方法が異なる→個別の債権ごとの価額を基準とする
また、複数の債権を対象とする債務整理の場合であっても、通常、債権ごとに争いの内容や解決の方法が異なるし、最終的には個別の債権の給付を求める訴訟手続が想定されるといえることなどに照らせば、裁判外の和解について認定司法書士が代理することができる範囲は、個別の債権ごとの価額を基準として定められるべきものといえる。
※最高裁判所 2016-06-27 最高裁判所民事判例集70巻5号1306頁/裁判所時報1654号169頁/判例タイムズ1428号25頁/金融・商事判例1499号8頁/金融・商事判例1498号10頁/判例時報2311号16頁/金融法務事情2055号74頁/LLI/DB 判例秘書登載/登記情報658号91頁
(3)基準の性質——業務を行う時点で、第三者との関係でも客観的かつ明確に決まること
最高裁は、なぜこの基準でなければならないのかを、基準が備えるべき性質から説明しています。ここで双方の主張がいずれも退けられます。
経済的利益の額は和解が成立して初めて判明し、債権の総額は交渉の相手方が容易には知りえません。どちらも、業務を行う時点では決まっていないことになります。
和解成立時に初めて判明する額・相手方が認識できない総額→基準にできない
このように、認定司法書士が裁判外の和解について代理することができる範囲は、認定司法書士が業務を行う時点において、委任者や、受任者である認定司法書士との関係だけでなく、和解の交渉の相手方など第三者との関係でも、客観的かつ明確な基準によって決められるべきであり、認定司法書士が債務整理を依頼された場合においても、裁判外の和解が成立した時点で初めて判明するような、債務者が弁済計画の変更によって受ける経済的利益の額や、債権者が必ずしも容易には認識できない、債務整理の対象となる債権総額等の基準によって決められるべきではない。
※最高裁判所 2016-06-27 最高裁判所民事判例集70巻5号1306頁/裁判所時報1654号169頁/判例タイムズ1428号25頁/金融・商事判例1499号8頁/金融・商事判例1498号10頁/判例時報2311号16頁/金融法務事情2055号74頁/LLI/DB 判例秘書登載/登記情報658号91頁
6 あてはめ——140万円を超える債権の和解は違法→報酬相当額の賠償義務
この事案では、問題になった債権の価額がいずれも140万円を超えていました。一方、それ以外の債権については140万円を超えていません。最高裁は両者を分けています。
140万円超の債権→報酬相当額の賠償義務/それ以外→賠償義務を負わない
これを本件についてみると、上告人は、本件委任契約に基づき、本件各取引について裁判外の和解やその交渉をするなどの債務整理に関する業務を行って、これに対する報酬の支払を受けたものであるところ、本件各債権の価額はいずれも140万円を超えるものであったというのである。そうすると、上告人は、本件各債権に係る裁判外の和解について代理することができないにもかかわらず、違法にこれを行って報酬を受領したものであるから、不法行為による損害賠償として上記報酬相当額の支払義務を負うというべきである。他方、本件各債権以外の本件各取引に係る各債権については、その価額がいずれも140万円を超えないから、上告人は、当該各債権に係る裁判外の和解について代理することができ、これに対する報酬の支払を受けたとしても、不法行為による損害賠償義務を負わないというべきである。
※最高裁判所 2016-06-27 最高裁判所民事判例集70巻5号1306頁/裁判所時報1654号169頁/判例タイムズ1428号25頁/金融・商事判例1499号8頁/金融・商事判例1498号10頁/判例時報2311号16頁/金融法務事情2055号74頁/LLI/DB 判例秘書登載/登記情報658号91頁
7 結論——原審の判断を是認し、双方の上告を棄却
原審は最高裁と同じ基準を採っていたので、そのまま是認されました。
原審の判断は正当→論旨はいずれも採用できない
5 以上によれば、これと同旨をいう原審の判断は、正当として是認することができる。論旨はいずれも採用することができない。
なお、被上告人らのその余の上告については、上告受理申立て理由が上告受理の決定において排除されたので、棄却することとする。
※最高裁判所 2016-06-27 最高裁判所民事判例集70巻5号1306頁/裁判所時報1654号169頁/判例タイムズ1428号25頁/金融・商事判例1499号8頁/金融・商事判例1498号10頁/判例時報2311号16頁/金融法務事情2055号74頁/LLI/DB 判例秘書登載/登記情報658号91頁
主文
本件各上告を棄却する。
平成26年(受)第1813号事件に関する上告費用は、同事件上告人の負担とし、平成26年(受)第1814号事件に関する上告費用は、同事件上告人らの負担とする。
※最高裁判所 2016-06-27 最高裁判所民事判例集70巻5号1306頁/裁判所時報1654号169頁/判例タイムズ1428号25頁/金融・商事判例1499号8頁/金融・商事判例1498号10頁/判例時報2311号16頁/金融法務事情2055号74頁/LLI/DB 判例秘書登載/登記情報658号91頁
8 決めていないこと——成立した和解そのものの効力と、排除された上告受理申立て理由
この判決が判断したのは、代理できない範囲の和解を行って報酬を受領したことが不法行為になるかどうかです。代理権の範囲を超えて成立した和解そのものが有効か無効かは述べていません。
また、依頼者の側が申し立てた上告受理申立て理由のうち、上告受理の決定において排除されたものについては審理に乗っていません。その部分は原審の判断がそのまま残っています。
利益相反についても判断されていません。参照条文として挙げられているのは司法書士法3条1項だけです。この判決は代理権の範囲を定めたものであって、依頼者と受任者の利益が相反するかどうかを扱ったものではありません。
9 おわりに
この判決は、まとめて処理される債務整理に対して、代理権の側から個別の債権ごとに見るという制約を掛けたものです。基準を業務を行う時点で確定させる必要があるという理由づけは、交渉の相手方を含めた第三者の側から見た明確さを重く見たものといえます。
債務整理をどの専門職に依頼するかについてご不明な点がありましたら、当事務所へご相談ください。
債務整理における利益相反の全体像は、別の記事で説明しています。
債務整理における利益相反|弁護士職務基本規程28条4号・説明義務と受任の規律
本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
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