1 民事保全の担保の基本
2 保全命令の担保の判断の選択肢
3 実務的な担保の判断の傾向
4 担保の機能(意義・性質)
5 担保についての債務者の優先扱い
6 保証から担保への用語の改正
7 担保決定に対する不服申立の手続

1 民事保全の担保の基本

民事保全(仮差押・仮処分)は,一般的な訴訟より精度の低い証拠で,非常に短期間に相手(債務者)の財産を拘束するという特徴があります。
詳しくはこちら|保全命令の審理手続(債務者審尋・保全執行)と特徴(迅速性・密航性)
そのため,申立人(債権者)は担保を提供することが求められます。
本記事では,民事保全の担保の基本的な内容,つまり,機能や担保提供の方法の種類や,担保決定に対する不服申立などを説明します。

2 保全命令の担保の判断の選択肢

裁判所が保全命令を発令する際に,担保に関する判断もします。形式的な選択肢としては,発令の条件・執行の条件・担保不要という3つがあります。

<保全命令の担保の判断の選択肢>

あ 裁判所による担保の判断

裁判所は,保全命令を発令するにあたり,担保について,3つのいずれか(い)を選択する

い 選択肢の内容

ア 発令の条件
担保を立てさせて保全命令を発する(※1)
イ 保全執行の条件
一定の期間内に担保を立てることを保全執行の実施の条件として保全命令を発する
ウ 立担保なし
担保を立てさせないで保全命令を発する
※民事保全法14条1項
※家事事件手続法115条(審判前の保全処分への準用)

3 実務的な担保の判断の傾向

保全命令の際の担保決定の内容は,形式的に3種類があります(前記)。実際には,ほとんどのケースで,担保を立てることを発令の条件とする決定がなされています。
担保の金額の判断(ゼロという判断も含めて)については,別の記事で説明しています。

<実務的な担保の判断の傾向>

あ 実務的な傾向

実務では,立担保を発令の条件とする(前記※1)のが原則的な発令方法である
他の2つの選択肢を採用することはほとんどない
※山本和彦ほか編『新基本法コンメンタール 民事保全法』日本評論社2014年p55

い 担保金額の基準

裁判所は,担保の金額に関する一定の基準を目安として判断(決定)している
立担保なしという判断をすることもある
詳しくはこちら|保全の担保金額算定の基本(担保基準の利用・担保なしの事例)

4 担保の機能(意義・性質)

以上のように,民事保全法の規定に沿って,保全の発令の際には担保決定がなされます。
ところで,担保が要求される実質的な意味(理由・性質)は2つあります。
仮に保全が違法であった場合に,被害を受けた債務者の損害賠償請求の引き当てとするということと,濫用的な申立の防止という2つの機能のことです。

<担保の機能(意義・性質)>

あ 損害の担保

違法・不当な保全命令によって債務者が損害を受けることがある
=債権者が賠償責任を負うことがある
詳しくはこちら|違法な保全の申立や執行による賠償責任の基本(違法性・過失の枠組み)
→債務者が被る可能性のある損害を担保する(後記※2)

い 濫用的申立の抑止

保全命令の濫用的申立を防止する
※山本和彦ほか編『新基本法コンメンタール 民事保全法』日本評論社2014年p54
※司法研修所編『民事弁護教材 改訂 民事保全 補正版』日本弁護士連合会2014年p25
※西山俊彦著『新版 保全処分概論』一粒社1985年p113

5 担保についての債務者の優先扱い

保全における担保には,違法な保全執行に対する債務者の損害賠償請求の引き当てという機能もあります(前記)。
具体的には,担保として供託された金銭を,債務者が優先的に受領(還付)できるのです。

<担保についての債務者の優先扱い(※2)>

あ 規定の内容

(保全の)債務者は供託物について他の債権者に先立ち弁済を受ける権利を有する
※民事保全法4条2項,民事訴訟法77条

い 優先扱いの趣旨

不当な民事保全に対する損害賠償請求権の実現につき優先的な保護を受ける

う 具体的な手続(還付請求)の内容

債務者は,供託所に供託物払渡請求書を提出する
債務名義(え)or担保提供者の同意書(お)を添付する

え 債務名義の例

損害賠償請求権(被担保債権)の存在を認める確定判決・和解調書

お 担保提供者の同意書の内容

『ア・イ』の両方についての同意が記載されている
ア 損害賠償請求権の発生,金額
イ 供託物の還付
※山本和彦ほか編『新基本法コンメンタール 民事保全法』日本評論社2014年p58

6 保証から担保への用語の改正

保全の担保については,以前の法改正で,法律上の用語が『保証』から『担保』に変わっています。
実質的な内容に違いはありません。ただ,古い時期の裁判例や学説(文献)では『保証(金)』という用語が使われています。本サイトでは,基本的に『担保』を用いますが,『保証』という用語を使うこともあります。

<保証から担保への用語の改正>

あ 旧法

旧法では『保証』であった

い 改正法

他の概念との混同を回避するために『担保』と改められた
※山本和彦ほか編『新基本法コンメンタール 民事保全法』日本評論社2014年p53

7 担保決定に対する不服申立の手続

裁判所による担保決定の内容に納得できないという状況もあります。
この場合の不服申立の手段(手続)については,いくつかの考え方があります。実務では,債権者からは即時抗告,債務者からは独立した不服申立はできない,として扱われています。

<担保決定に対する不服申立の手続>

あ 債権者

担保決定の内容について債権者が不服である場合
即時抗告によって不服を申し立てることができる
※民事保全法19条
※仙台高裁平成4年5月27日
※山本和彦ほか編『新基本法コンメンタール 民事保全法』日本評論社2014年p57

い 債務者

担保決定の内容について債務者が不服である場合
→担保決定自体に対して不服申立をすることはできない
保全異議を申し立てて,異議の事由の1つとして,担保決定の内容を主張することができる
実際には担保決定の内容を独立した主張とする実益は乏しい
※山本和彦ほか編『新基本法コンメンタール 民事保全法』日本評論社2014年p57,58

本記事では,保全の担保の基本的な内容を説明しました。
実際には,個別的な事情や主張・立証のやり方次第で担保に関する判断は違ってきます。
実施に保全の担保に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。