【仮の地位を定める仮処分の担保基準(担保の金額の相場の表と実務の傾向)】

1 仮の地位を定める仮処分の担保基準
2 仮の地位を定める仮処分の担保基準(目的物価格方式)
3 仮の地位を定める仮処分の担保基準(その他の方式)
4 抵当権実行禁止の仮処分の担保の実情
5 その他の作為・不作為を求める仮処分の担保の実情

1 仮の地位を定める仮処分の担保基準

民事保全(仮差押・仮処分)では,発令の際,担保が要求されます。担保の金額の算定については,実務では,担保基準が目安(相場)として用いられています。
担保基準は,あくまでも目安であり,実際に決定される担保金額は個別的な事情で変動します。とはいっても,現実には担保基準に沿った担保金額が決定されるケースが多いです。
詳しくはこちら|民事保全の担保の基本(担保の機能・担保決定の選択肢・実務の傾向・不服申立)
本記事では,担保基準のうち,仮の地位を定める仮処分に関するものを説明します。

2 仮の地位を定める仮処分の担保基準(目的物価格方式)

仮の地位を定める仮処分の中にはとても多くの種類が含まれます。
まず,仮の地位を定める仮処分のうち,担保金額を目的物の価格を基礎として算定するものだけを表にしたものを示します。

<仮の地位を定める仮処分の担保基準(目的物価格方式)>

債権額 目的物価格 その他
交通事故による金銭仮払 0〜15
抵当権実行禁止(※1) 30〜80 30〜80
占有使用妨害禁止 5〜20
通行妨害禁止 5〜20
立入禁止(※2) 5〜20 賃料の12か月分
工作物撤去 5〜20
工作物建築禁止 5〜20 建築費の5〜20%

※1 抵当権実行禁止は,原則として債権額か目的物価額のいずれか低い額を基準とする。ただし,対象が建物の場合には土地の利用権価額を含める。対象が一団の複数の土地の一部の場合には,土地全体の価格を適宜考慮する(後記※4参照)
※2 立入禁止の対象が賃貸建物の場合には,原則として賃料相当額を基準とする

3 仮の地位を定める仮処分の担保基準(その他の方式)

仮の地位を定める仮処分のうち,目的物の価格を基礎にしないで担保金額を算定するものの担保基準をまとめます。

<仮の地位を定める仮処分の担保基準(その他の方式)>

建物建築禁止 建築費の20〜50%
建物建築妨害禁止 建築費の10〜30%
出版・放送禁止 0〜500万円
街頭宣伝活動禁止 0〜20万円(※3)
面談強要禁止 0〜30万円(※3)
競業禁止 禁止期間における逸失利益の70%〜
発信者情報の仮の開示・消去禁止 10〜30万円
インターネット上の記事の仮の削除 30〜50万円

※3 これらの申立で,債務者が既に同様の禁止を命じられているのに実質的にこれに反する行為をしている場合には,無担保も検討する。そのような場合以外は,原則として10万円程度を基準とする
※司法研修所編『民事弁護教材 改訂 民事保全 補正版』日本弁護士連合会2014年p32

4 抵当権実行禁止の仮処分の担保の実情

抵当権実行禁止の仮処分の担保基準は,債権額か目的物価格の30〜80%とされています(前記)。
この点,少し古い裁判所の運用実績では,目的物の価格の10〜30%となったケースが多いです。もともと担保基準自体が目安であり,個別的事情によってこの範囲を外れる担保金額の決定もあります。つまり,担保基準実際の運用実績にズレが生じること自体は異常なことではありません。

<抵当権実行禁止の仮処分の担保の実情(※4)

抵当権実行禁止の仮処分の担保について
裁判所が算定した担保金額は
目的物の価格の10〜30%が多い
※『最近における大阪地方裁判所保全部の事件処理の実情1』/『判例タイムズ341号』1977年2月p56

5 その他の作為・不作為を求める仮処分の担保の実情

実際の裁判所の担保決定の実情として,審尋を行うケースでは,相手(債務者)の反論や意見を聞いた上で裁判所が担保決定をします。そこで,保全処分や目的物などの類型(形式)以外の多くの個別的事情が担保の算定に影響する(考慮される)ことになります。
要するに,債務者の作為や不作為を直接的に求める内容の仮処分では,一応の担保基準はありますが(前記),個別的事情によって大きくブレることがあるということです。

<その他の作為・不作為を求める仮処分の担保の実情>

建築工事禁止,占有・通行妨害禁止・立入禁止,工作物撤去の仮処分の担保について
多くの場合審尋を経るので一定しない
※『最近における大阪地方裁判所保全部の事件処理の実情1』/『判例タイムズ341号』1977年2月p56

本記事では,仮の地位を定める仮処分の担保基準を説明しました。
実際には,個別的な事情や主張・立証のやり方次第で担保に関する判断は違ってきます。
実施に保全の担保に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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