【形成の訴えの分類(実体法上の形成の訴え・訴訟法上の形成の訴え・形式的形成訴訟)】
1 形成の訴えの分類(実体法上の形成の訴え・訴訟法上の形成の訴え・形式的形成訴訟)
訴訟の中に、「形成の訴え」という類型があります。「形成の訴え」はさらに3つの分類できます。それぞれによって特徴、法的扱いが異なります。本記事では、形成の訴えの分類とそれぞれの特徴、法的扱いを説明します。
2 形成の訴えの意味・特徴(概要)
形成の訴えとは判決によって権利関係が形成(創設・変更・消滅)するものです。たとえば、無効確認の訴えが形成の訴えである場合、「無効」判決が出て(確定して)初めて対象行為の効果が消滅します。無効判決がなされるまでは「無効」ではありません。訴訟上の抗弁として「無効である」と主張をしても認められないことになります。
詳しくはこちら|形成の訴えの基本事項(定義、特徴、訴えの利益)
3 形成の訴えの分類(3類型)
形成の訴えはさらに、実体法上の形成の訴え、訴訟法上の形成の訴え、形式的形成訴訟の3つに分類できます。
形成の訴えの分類(3類型)
あ 実体法上の形成の訴え→実体法上の権利関係の変動
実体法上の権利や法律関係を直接的に変動させることを目的とする訴え
判決によって、新たな権利関係が創設されたり、既存の権利関係が変更・消滅したりする
い 訴訟法上の形成の訴え→訴訟法上の法律関係の変動
訴訟法上の法律関係や訴訟状態を変動させることを目的とする訴え
判決によって、訴訟手続や執行手続に関する法律関係が変更される
う 形式的形成訴訟→形成要件の法定なし
法律上、形成の要件が明確に規定されていない訴訟類型
裁判所が事案の真実に基づいて適切な解決を図るために、広い裁量を持って判断を行う
3類型のそれぞれについて、以下、順に説明します。
4 実体法上の形成の訴え
(1)実体法上の形成の訴えに属する訴訟
まず、実体法上の形成の訴えには、多くの訴訟が分類されます。婚姻など、身分関係(人事法律関係)、会社などの団体関係、行政処分の取消など、多くの訴訟が含まれます。
実体法上の形成の訴えに属する訴訟
あ 人事法律関係(身分関係)
ア 婚姻の無効または取消しの訴え
※民法742条、743条、人事訴訟法2条1号
イ 離婚または離縁の訴え
※民法770条、814条、人事訴訟法2条1号・3号
ウ 嫡出否認の訴え
※民法775条、人事訴訟法2条2号
エ 認知の訴え
※民法787条、人事訴訟法2条2号
オ 養子縁組の無効または取消しの訴え
※民法802条、803条、人事訴訟法2条3号
い 団体法律関係
ア 合併無効の訴え
※会社法828条1項7号、8号
イ 会社の設立無効の訴え
※会社法828条1項1号
ウ 株主総会決議取消しの訴え
※会社法831条1項
エ 一般社団法人等の組織に関する同種の訴え
※一般社団法人及び一般財団法人に関する法律264条1項、265条、266条1項
オ 法人の決議の無効や不存在確認の訴え
ただし、決議の種類によっては、その不存在、無効確認の訴えは確認の訴えとなることもある(後記※1)
う 行政処分関係(特別手続)
ア 行政処分の取消しの訴え
※行政事件訴訟法8条
え その他
ア 詐害行為取消の訴え(民法424条) 形成の訴えと給付訴訟が組み合わさったものである(後記※2)
(2)確認の訴えであるという見解もある(争いがある)類型
一部の訴訟類型については、形成の訴えか確認の訴えかで見解が分かれています。たとえば「無効である」という判決がなくても(実体上)「無効である」という見解、つまり形成の訴えではなく確認の訴えである、という見解がある類型のことです。
確認の訴えであるという見解もある(争いがある)類型(※1)
あ 詐害行為取消の訴え
形成の訴えと給付訴訟が組み合わさったものであるが別の見解もある(後記※2)
い 婚姻無効
う 法人の設立無効
一般社団法人等や会社の設立無効
※一般社団法人及び一般財団法人に関する法律264条1項
※会社法828条1項1号
え 会社の決議不存在・無効確認(概要)
社員総会等や株主総会の決議不存在・無効確認の訴え
※一般社団法人及び一般財団法人に関する法律265条
※会社法830条
詳しくはこちら|株主総会決議不存在・無効確認の訴え(会社法830条)の趣旨・性質・手続
(3)詐害行為取消訴訟の性質→判例は形成の訴え(+給付訴訟)
詐害行為取消訴訟は特殊な性質があります。判例、通説は、形成の訴えと給付の訴えが合体したものであるという解釈です。この解釈は現在の民法の条文に反映されています。学説としては別の見解もあります。
詐害行為取消訴訟の性質→判例は形成の訴え(+給付訴訟)(※2)
あ 判例
詐害行為取消訴訟は、形成訴訟または形成訴訟と給付訴訟が合体したものである(判例・通説)
抗弁の方法による取消権の行使は認められない
※大判明治44年3月24日
※大判大正5年11月24日
※最判昭和39年6月12日
※最判昭和50年12月1日
い 民法改正による立法化
平成30年改正の民法424条の6第1項前段により、この考え方を明文化された
「受益者に対する詐害行為取消請求において、債務者がした行為の取消しとともに、その行為によって受益者に移転した財産の返還を請求することができる」
う 訴訟の構造
一つの訴えの中で形成宣言を求める請求と財産の返還請求との単純併合を認める
訴訟物は、形成宣言(取消)を求める請求と返還請求との2つである
え 返還請求の性質
返還請求の部分は、形成判決の確定を条件とする将来給付請求の一種である
立法者が当然に訴えの利益を認めたことを意味する
価額償還請求についても同様である
お 別の見解
形成訴訟ではない(確認の訴えまたは給付の訴えである)という見解もある
その場合、債権者は、取消の意思表示がなされたことを請求原因として、給付あるいは確認訴訟を提起することになる
抗弁によって取消権を行使できる可能性もある
(4)団体の決議無効確認のうち確認の訴えに分類される類型(概要)
消費生活協同組合、学校法人、取締役会の決議無効確認などについて、最高裁は、形成の訴えではなく、確認の訴えに分類しています。
詳しくはこちら|各種決議の無効確認・不存在確認訴訟(形成か確認か・確認の利益)
5 訴訟法上の形成の訴え
訴訟法上の形成の訴えは、実体法上の権利関係とは関係なく、訴訟法レベル、つまり、訴訟手続や執行手続に関する法律関係を変動させることを目的とします。
訴訟法上の形成の訴え
あ 確定判決の変更を求める訴え
※民事訴訟法117条
い 再審の訴え
※民事訴訟法338条
う 請求異議の訴え・第三者異議の訴え
※民事執行法35、38条
ア 通説
訴訟法上の異議権を訴訟物とする形成の訴えである
イ 別の見解
確認の訴えないしは請求権の不行使を求める消極的給付の訴えとする見解、命令訴訟ともいうべき特別の訴訟類型とする見解もある
お 配当異議の訴え
執行裁判所による配当内容の定めの変更または取消を求めるものとすれば形成の訴えに分類される
※民事執行法90条
6 形式的形成訴訟
(1)形式的形成訴訟の本質的な特徴
3つ目の類型である形式的形成訴訟は、形成要件が法律上明確に規定されていないところに特徴があります。裁判所が広い裁量を持って判断を行うことになります。原理的には、常に何らかの解決を与える形成判決が必要で、請求棄却の判決はできません。
形式的形成訴訟の本質的な特徴
あ 形成要件の法定なし
(法律関係の変動を目的とする点では他の類型と同じだが)
形成要件が法律上明定されていない
い 裁判所の裁量による判断
裁判所が自ら真実であると認めるところに従って定めることができる
う 請求棄却なし
常に何らかの解決を与える形成判決をしなければならず、請求棄却の判決ができない
え 実質と形式の齟齬
訴訟の形式はとっているが、実質は非訟事件である
(2)形式的形成訴訟に属する訴訟
形式的形成訴訟としては、共有物分割の訴え、土地境界確定の訴え、父を定める訴えの3つが有名です。マイナーなものとして、法定地上権の地代確定訴訟や、借地にあたらない地上権の期間を確定する訴訟があります。
形式的形成訴訟に属する訴訟
あ 共有物分割の訴え(民法258条1項)
い 土地境界確定の訴え(筆界確定の訴え、不動産登記法132条1項6号・147条、148条)
う 父を定める訴え(民法773条)
え 法定地上権の地代確定訴訟(民法388条)
詳しくはこちら|法定地上権の地代確定訴訟(民法388条・形式的形成訴訟)
お 地上権の期間確定訴訟
(民法268条2項)
(3)筆界確定訴訟(形式的形成訴訟)の特徴
形式的形成訴訟に属する訴訟の代表的なもの(の1つ)が筆界確定訴訟です。これについては判例の蓄積が多く、議論が成熟しています。提訴する、ということ以外では当事者には処分権がない(裁判所の判断を制限できない)などの扱いが確立しています。
筆界確定訴訟(形式的形成訴訟)の特徴
あ 法律上の規定の欠如
かつては裁判所構成法14条に規定があったが廃止されている
その後(現在)は判例および実務慣行上認められている
平成17年の不動産登記法の改正によって再び実定法上の概念となった
不動産登記法147条、148条では「筆界確定の訴え」と呼ばれる
い 訴えの性質→所有権の帰属・範囲の確認ではない
土地の筆界(公法上の境界)を確定する訴えであって、所有権の帰属や範囲の確認を求める訴えではない
※最判昭和43年2月22日
う 境界線主張の要否→不要
原告において特定の境界線の存在を主張する必要はない
当事者相互の相接する土地の境界が不明であるか、またはこれに争いがあることの主張がなされれば足りる
※最判昭和41年5月20日
え 処分権主義→適用なし
原告が筆界の位置を主張していても裁判所はそれに拘束されない
※大判大正12年6月2日
お 不利益変更禁止の適用→否定
控訴審における不利益変更禁止の適用はない
※最判昭和38年10月15日
か 時効取得(所有権取得)との関係→時効取得部分も確定可
境界の一部に接続する部分の時効取得が認められても、その境界部分についても境界確定を求めることができる
※最判昭和58年10月18日
※最判平成7年3月7日
※最判平成11年2月26日
き 請求棄却の可否→否定(却下は可能)
ア 原始的隣接関係不存在ケース
請求棄却はなく、例えば隣接していないことが明らかとなったときは訴えを却下する
※最判昭和59年2月16日
イ 後発的隣接関係消滅ケース(時効取得)
土地の全部が時効取得され、隣接所有関係が消滅した場合も訴えを却下する
※最判平成7年7月18日
(4)共有物分割訴訟の特徴(概要)
かつては、筆界確定訴訟の特徴(前述)を、他の形式的形成訴訟(主に共有物分割訴訟)にも当てはまることを前提にした議論や法的扱いが主流でした。つまり形式的形成訴訟というカテゴリでひとくくりにした議論がなされていたのです。
しかし近年では、実は「形式的形成訴訟の特徴」としての既存の議論の大部分は筆界確定訴訟に関するものであり、これを共有物分割訴訟にも流用する、という枠組みには無理がある、という見解も優勢になってきています。
共有物分割訴訟に関する法的性質(特徴)については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|共有物分割訴訟の性質(形式的形成訴訟・処分権主義・弁論主義)
7 形成の訴えの類型の比較(まとめ)
以上のように、形成の訴えは、さらに3つに分類できて、それぞれによって違いがあります。最後に表にまとめておきます。
形成の訴えの類型の比較(まとめ)
8 参考情報
参考情報
※秋山幹男ほか著『コンメンタール民事訴訟法Ⅰ 第3版』日本評論社2021年p229
※伊藤眞著『民事訴訟法 第7版』有斐閣2020年p169〜173
本記事では、形成の訴えの分類について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に本記事で説明したような各種の訴訟に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。