【株主総会決議不存在・無効確認の訴え(会社法830条)の趣旨・性質・手続】

1 株主総会決議不存在・無効確認の訴え(会社法830条)の趣旨・性質・手続

株主総会(やこれに類する)決議について、会社法830条は、決議の不存在無効確認する訴えができる、と規定しています。これについては、いろいろな解釈の問題があります。本記事では会社法830条に関する基本的事項や解釈の問題を説明します。

2 会社法830条の条文

最初に解釈法830条の条文自体を確認しておきます。条文自体は特に難しいものではありません。

会社法830条の条文

(株主総会等の決議の不存在又は無効の確認の訴え)
第八百三十条 株主総会若しくは種類株主総会又は創立総会若しくは種類創立総会(以下この節及び第九百三十七条第一項第一号トにおいて「株主総会等」という。)の決議については、決議が存在しないことの確認を、訴えをもって請求することができる。
2 株主総会等の決議については、決議の内容法令に違反することを理由として、決議が無効であることの確認を、訴えをもって請求することができる。
※会社法830条

3 会社法830条の要点→対世効

会社法830条の根幹部分は、不存在や無効について、確認の訴え(確認訴訟)ができる、とわざわざ明確に規定していることです。このことから、条文には明記していないですが、不存在や無効を認める判決には対世効がある、つまり訴訟の当事者以外にも効力が及ぶ、という解釈が導かれます。

会社法830条の要点→対世効

あ 訴えの類型の明示

株主総会、種類株主総会、創立総会、種類創立総会の決議が不存在あるいは無効の場合に、不存在・無効の確認の訴えをなし得ることを明定している

い 対世効

会社法830条に基づく判決には対世効が付与される

4 決議無効確認

(1)決議無効確認の訴えの対象決議と無効事由

決議無効確認の訴えについて、条文上はっきりしていることとして、まず、対象となる決議は、(種類)株主総会と(種類)創立総会の決議であるということ、また、無効となる事情(無効事由)は「法令違反」であるということです。

決議無効確認の訴えの対象決議と無効事由

あ 対象決議→株主総会等の決議

決議無効確認の訴えの対象は株主総会、種類株主総会、創立総会、種類創立総会の決議である

い 無効事由→法令違反

ア 規定 株主総会等の決議が無効となるのは決議内容が法令に違反する場合である
イ 無効となる具体例(ア)株主の追加出資義務を定める決議(イ)株主平等の原則に反する決議

(2)決議無効確認の訴えの性質→確認の訴え

解釈上の問題の大きなものは、訴えの性質、具体的には確認の訴えなのか形成の訴えなのか、というものです。仮に形成の訴えであるとした場合は、判決が出るまでは無効ではない(有効である)という特殊なルールが適用されます。
詳しくはこちら|形成の訴えの基本事項(定義、特徴、訴えの利益)
これについて一般的な見解は確認の訴えに分類しています。つまり、形成の訴えの場合の特殊ルールは適用されません。ただし、別の見解(形成の訴えに分類する)もあります。

決議無効確認の訴えの性質→確認の訴え

あ 基本原則

(ア)決議内容が法令に違反する場合、当該決議は無効である(イ)決議無効の主張は訴えの提起を要せず、何人から何人に対してもいつでもいかなる方法でも主張できる

い 訴えの性質→確認の訴え

決議無効確認の訴えは確認の訴えであり、いつでも、また決議無効確認の利益を有する限り何人でもこの訴えを提起し得る

う 会社法830条の趣旨→対世効

法律関係の画一的処理のために無効を対世的に確定する必要があることから会社法830条の無効確認の訴えが認められている

え 異なる見解→形成の訴え

決議無効確認の訴えは形成訴訟である(決議の無効はこの訴えをもってのみ主張できる)という学説、過去の裁判例もある
※東京高判昭和28年10月20日

(3)決議無効確認の訴えの当事者

決議無効確認の訴えの原告については制限はありません。ただし、確認訴訟の一般ルールとして、確認の利益がある人に限られます。実際には株主と役員が原告となることがほとんどです。
被告は会社です。会社を代表する者は代表取締役ですが、事情によって例外的な扱いとなることもあります。

決議無効確認の訴えの当事者

あ 原告→利益ある者

ア 基本 訴えの利益を有する者は誰でも決議無効確認の訴えを提起できる
イ 典型例(ア)株主は決議に拘束される法律上の関係にあるため、通常は訴えを提起する法律上の利益を有する(イ)取締役、監査役、執行役もその資格において訴えの提起資格を有するのが原則であるウ 第三者の提訴資格 第三者も正当な利益を有する限り提訴資格を有する
第三者に提訴資格はないという見解もある

い 被告→会社

ア 基本(ア)決議無効確認の訴えの被告は会社である(イ)被告会社を代表するのは代表取締役、執行役、清算人であるイ 特殊な場合の扱い(ア)取締役選任決議の無効確認の訴えにおいて会社を代表すべき者について学説上議論がある(イ)取締役が会社に対して提起した場合は会社・取締役間の訴訟についての規定により処理される(ウ)取締役を解任された者が当該決議の効力を争う場合には現在の会社代表者が会社を代表し得るとする見解もあるウ 職務代表者が代表するとした判例 職務代行者が会社を代表すべきである
※最判昭和59年9月28日

(4)決議無効確認の訴えの手続(管轄など)

決議無効確認の手続について、会社法にいくつか規定があります。

決議無効確認の訴えの手続(管轄など)

訴えの管轄、担保の提供、弁論および裁判の併合については会社法条明文規定がある
※会社法835条、836条、837条

(5)決議無効確認の訴えの判決

決議が無効であると確認する判決が出された場合に、対世効、つまり第三者に対してもその効力が及ぶ、という特殊な扱いがあります。
他方、裁判所が、決議は無効ではないと判断すれば請求を棄却しますし、訴え自体が濫用的である場合には却下とすることもあります。請求棄却の場合には原告は被告(会社)に無駄な対応をさせたことになるので、損害賠償責任が生じることがあります。

決議無効確認の訴えの判決

あ 「無効」の効果→対世効あり

ア 対世効 決議の無効確認の訴えに係る請求を認容する判決は第三者に対してもその効力(対世的効力)を有する
イ 裁量棄却→なし 決議無効確認の訴えについては決議取消の訴えのような裁量棄却に関する規定は置かれていない
ウ 権利濫用による却下・棄却 訴えが権利濫用のものである場合には訴権の濫用あるいは権利濫用理論に基づいて請求が却下ないし棄却され得る
※最判昭和53年7月10日

い 敗訴原告の責任

敗訴した原告に悪意または重過失があった場合には会社に対し損害賠償の責めに任ずる

5 決議不存在確認の訴え

(1)決議不存在確認の訴えの立法経緯

前記のとおり、会社法830条には、決議不存在と決議無効(の確認の訴え)の2つが規定されています。ここで、「決議不存在」については、昭和56年に条文に登場しました。それ以前も判例上認められていたところ、この改正で明文化した、という経緯です。

決議不存在確認の訴えの立法経緯

あ 昭和56年改正前の状況

昭和56年改正前は株主総会決議不存在確認の訴えの規定はなかった(無効確認の訴えのみ規定が置かれていた)
判例は株主総会決議不存在確認の訴えを認めていた

い 昭和56年改正前の判例

決議が不存在でもその内容が登記されているときはその無効を対世的に確定する必要があるから、決議不存在確認の訴えはなし得る
※最判昭和38年8月8日
※最判昭和45年7月9日

う 昭和56年改正による明文化

昭和56年改正で、株主総会決議不存在確認の訴えが明文化した

(2)決議不存在確認・無効確認の訴えの類似性

決議不存在確認の訴えは、無効確認の訴えと共通していることが多いです。対象となる決議、判決の対世効は同じですし、手続も共通することが多いです。

決議不存在確認・無効確認の訴えの類似性

あ 対象決議→無効確認と同様

決議不存在確認の訴えの対象は、決議無効確認の訴えと同様に株主総会、種類株主総会、創立総会、種類創立総会の決議である

い 手続→無効確認の訴えと同じ

基本的に決議不存在確認の訴えの手続は、決議無効確認の訴えの手続と同じである

う 判決→対世効あり

決議の不存在を認める判決は対世効を有する

以下、無効確認の訴えとは異なるもの(不存在確認プロパーのもの)を中心に説明します。

(3)決議の不存在事由→事実不存在・著しい瑕疵

「不存在」の中身については、条文上何も書かれていません。決議という事実がまったくない場合は日本語として「不存在」そのものです。さらに、一応(形式的に)「決議」といえるものがあったとしても、瑕疵が著しいケースも「不存在」に含みます。突き詰めてゆくと、瑕疵が著しいかどうかの判定がはっきりしない領域、つまり「取消」原因にとどまるか「不存在」事由にあたるかの境界にはグレーゾーンがあります。

決議の不存在事由→事実不存在・著しい瑕疵

あ 不存在事由→事実不存在・著しい瑕疵

ア 決議の事実なし 株主総会等を開催して決議した事実が全くない(その決議があったかのように登記をされている)
イ 著しい瑕疵 決議の成立過程の瑕疵が著しく法律的にみて決議があったと認められない

う 著しい瑕疵の具体例(判例)

ア 取締役会の招集決議なし(昭和45年最判) 取締役会設置会社において取締役会の決議なしに代表取締役以外の取締役が招集した総会の決議は不存在である
※最判昭和45年8月20日
イ 招集の通知漏れ甚大(昭和33年最判) 招集の通知漏れが著しくて社会通念上招集の通知があったとは認められない場合は決議が不存在である
※最判昭和33年10月3日

え 決議「取消」との判別→限界はグレー

決議取消事由に相当する場合と不存在事由の限界は微妙である

(4)決議不存在確認の訴えの性質→確認の訴え

決議不存在確認についても、確認の訴えなのか、形成の訴えなのか、という問題があります。一般的見解は確認の訴えに分類します。無効確認の訴えについての議論と同じです。

決議不存在確認の訴えの性質→確認の訴え

あ 訴えの性質

決議不存在確認の訴えは確認の訴えである
いつでも、また決議不存在確認の利益を有する限り何人でもこの訴えを提起し得る
決議の不存在の主張は訴えの提起を要せず、何人から何人に対してもいつでもいかなる方法でも主張できる

い 会社法830条の位置付け→対世効

法律関係の画一的処理のために不存在を対世的に確定する必要があることから会社法第830条の不存在確認の訴えが認められている

う 別の見解

決議不存在確認の訴えを形成の訴えであるとする見解もある

(5)決議不存在確認の訴えの当事者

決議不存在確認の訴え原告については、条文上は何も制限がないですが、実際に確認の利益が認められるのは株主と役員がほとんどです。
被告は会社(だけ)です。

決議不存在確認の訴えの当事者

あ 原告

ア 理論 決議の不存在の主張は訴えの提起を要せず、何人から何人に対してもいつでもいかなる方法でも主張できる
イ 実務の傾向→株主・役員 実際上は株主、取締役、監査役、執行役等に限られる
ウ 債権者の原告適格を否定した判例 役員選任決議不存在確認の訴えにつき会社債権者の原告適格を否定した
※名古屋地判昭和61年10月27日
エ 準共有株主の原告適格を否定した判例 株式が共有されている場合、共有株主が準共有株主としての地位に基づいて株主総会の決議不存在確認の訴えを提起する場合には、権利行使者としての指定を受けてその旨を会社に通知していないときは、特段の事情がない限り原告適格を有しない
※最判平成2年12月4日

い 被告

被告は会社である

(6)立証責任→「瑕疵」「不存在」で異なる

一般的な訴訟の原則ルールだと立証責任は原告にあります。著しい瑕疵があったという主張の場合、原則ルールがそのままあてはまります。ただ決議の事実がないという主張の場合は、「不存在の立証はできない」ので、「事実があった」側、つまり会社が(決議が行われたということの)立証責任を負うことになります。

立証責任→「瑕疵」「不存在」で異なる

あ 著しい瑕疵の立証責任→原告

招集手続または決議の方法の違法が著しくて法律上決議の存在が認められないことを理由としてこの訴えを提起する場合には、その違法の事実は決議不存在を主張する原告側において立証しなければならない

い 事実(決議)不存在の立証責任→被告

総会開催の事実が全くなく決議が事実上存在しないことを理由としてその不存在の確認を求める場合には原告側に立証の責任はなく、むしろ被告会社の側で決議の存在の証明を要するとする見解もある

(7)不存在の連鎖→原則肯定・特段の事情により切断

「形式には決議があったが裁判所が不存在と認めた」場合に、決議の効力がなかったことになるのは当然です。ここで、「決議があった前提でなされた別の決議」も連鎖して効力はなかったことになるのか、という問題があります。不存在の連鎖という問題です。単純に理論的に考えると連鎖する、ということになります。判例も原則として連鎖を肯定しています。
ただし判例は、特殊な事情(特段の事情)がある場合には例外(連鎖否定)となることも認めています。例外の典型例は株主全員が参加した決議です。
なお、判例とは異なる見解もあります。

不存在の連鎖→原則肯定・特段の事情により切断

あ 不存在の連鎖理論(判例)

取締役を選任する旨の株主総会の決議が存在するものとはいえない場合においては、当該取締役によって構成される取締役会は正当な取締役会とはいえず、かつその取締役会で選任された代表取締役も正当に選任されたものではなく、株主総会の招集権限を有しないから、このような取締役会の招集決定に基づきこのような代表取締役が招集した株主総会において新たに取締役を選任する旨の決議がされたとしても、その決議は、いわゆる全員出席総会においてされたなど特段の事情がない限り法律上存在しないものといわざるを得ない
※最判平成2年4月17日
※最判平成11年3月25日(同趣旨)
※最判平成13年7月10日(同趣旨)

い 特段の事情による切断(判例)

全員出席総会においてなされた決議の場合は特段の事情がある
※最判昭和60年12月20日

う 異なる見解

ア 「取消」原因に分類する見解 瑕疵があっても、その後現実に株主総会が開催され当該総会においてそれらの取締役が招集手続に関与した以外には瑕疵がない場合には決議取消原因として処理すべきであるとする見解(学説・裁判例)もある
※大阪高判昭和46年11月30日
イ 連鎖否定説 代表取締役の登記のある者が一応正規の手続をとって総会を招集した限り、その者の選任決議の無効・取消はその総会招集の効力に影響を及ぼさないと解する説もある

6 関連テーマ

(1)他の決議の無効確認・不存在確認訴訟

本記事では会社法830条が定める、株主総会(など)の無効や不存在確認の訴えについて説明しましたが、それ以外のいろいろな決議についての無効確認や不存在確認の訴えもあります。会社法830条のような条文がないとしてもこのような訴訟は可能です。条文がない場合には、形成の訴えという発想(見解)は出てきません。
詳しくはこちら|各種決議の無効確認・不存在確認訴訟(形成か確認か・確認の利益)

7 参考情報

参考情報

※小林量稿/『新基本法コンメンタール 会社法3 第2版』日本評論社2015年p376〜378

本記事では、株主総会の決議不存在や無効確認の訴えについて説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に株主総会の決議など、会社支配権に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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【各種決議の無効確認・不存在確認訴訟(形成か確認か・確認の利益)】
【分割払いの1回の遅滞における残額の消滅時効の起算点(最判昭和42年6月23日)】

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