【物権の客体の適格性(要件)の中の「独立性」】

1 物権の客体の適格性(要件)の中の「独立性」
2 権利の客体の要件の「独立性」の基本
3 物の一部(構成部分)の法的扱い(原則と例外)
4 物の一部の占有(参考・概要)
5 例外的な物の一部の権利と一物一権主義の関係
6 合成物と所有権の変動との関係

1 物権の客体の適格性(要件)の中の「独立性」

所有権をはじめとする物権の客体として認められるためにはいくつかの要件を満たす必要があります。
詳しくはこちら|所有権の客体の適格性(要件)の基本的な内容
要件の1つに,「独立性」があります。本記事では,物権(権利)の客体として認められるための「独立性」について説明します。

2 権利の客体の要件の「独立性」の基本

権利の客体となるためには,解釈上,独立性が必要です。では独立性の有無をどのように判断するか,ということが問題なります。大まかにいえば,物理的な性状だけで判断するのではなく,取引観念を元に,独立性を判断する,ということになります。

<権利の客体の要件の「独立性」の基本>

あ 要件の位置付け

権利の客体である排他的支配に服するを要するから,原則として,独立的存在を有しなければならない。

い 独立性の判断基準

物の独立性は,有体的個別的に限界を画して存在しうるかどうかによって決せられるのであるが,これとて,物理学的にのみ考えられるべきではなく,社会生活上の取引観念にしたがって決定さるべきである。
※林良平ほか編『新版 注釈民法(2)総則(2)』有斐閣1991年p603

3 物の一部(構成部分)の法的扱い(原則と例外)

前述のように,独立性が認められない物は,権利の客体にはなりません。つまり,物の一部(独立した有体物の構成部分)は権利の対象とはならないということです。
ただしこれは原則論であって,規定による例外もあります。また,物理的には他の有体物と一体となっていても,独立して取引がなされるものは,有体物の一部であっても権利の対象となります。

<物の一部(構成部分)の法的扱い(原則と例外)>

あ 基本

物の一部は原則として独立の権利の客体とはならない
しかし,例外的に,独立の権利の客体となることもある(い・う)

い 特別の規定

特別の規定が設けられている場合は例外的に独立の権利の客体となる
ア 増築牆壁の単独所有 ※民法231条2項
イ 抵当不動産の付加一体物 ※民法370条ただし書

う 取引上の独立性を有するもの

地上に生立する樹木,蜜柑・桑葉・稲立毛などの未分離の果実などそれ自体取引上独立性を有する場合には独立の権利の客体となる

え 公示の必要性

牆壁の場合を除き第三者に対抗するためには相当の公示方法をそなえなければならない。
※林良平ほか編『新版 注釈民法(2)総則(2)』有斐閣1991年p603

4 物の一部の占有(参考・概要)

一般的な物権ではなく占有(権)については,事実的支配を意味します。このような特徴から,物(有体物)の一部を対象とした占有が認められやすい傾向があります。
詳しくはこちら|『占有』概念の基本(判断基準や対象物のバラエティ)

5 例外的な物の一部の権利と一物一権主義の関係

ところで,民法の基本的な考え方として,一物一権主義があります。前述のように,物の一部に1つの権利(物権)を認めることは,一物一権主義に反することになります。しかし,一物一権主義の趣旨に反しない範囲では,一物複数の権利を認めることは否定されません。

<例外的な物の一部の権利と一物一権主義の関係>

(物の一部を独立した権利の客体とした場合)
これらの場合,一物の一部の上に権利が成立することとなるが,一物一権主義は,排他的支配の必要から生ずる権利関係の混乱をさけようとするものであるから,権利関係を明示する方法があり,相互の権利関係が乱されないならば,一物の上に多数の権利が成立し,または物の一部が独立の権利の客体となることも妨げない。
※林良平ほか編『新版 注釈民法(2)総則(2)』有斐閣1991年p603

6 合成物と所有権の変動との関係

前述のように,独立性のある物(有体物)単位で権利の客体となります。そうすると,A所有の有体物とB所有の有体物が物理的に1つになった場合に,1つになった有体物の所有権はどうなるのか,という問題が出てきます。これについては,民法上のいくつかの条文で権利の帰属が定められています。

<合成物と所有権の変動との関係>

あ 結合による所有権の変動

多数の材料から組成されて単一の形態をなす物(=合成物)は単なる材料の集合ではなく,家屋,船舶,車両などのように,一体として一物であり,その際,別異の所有者に属する物が結合して1個の物となるとき,各自の所有権の存続を認めることはできず,所有権の変動を生ずる(民法242〜248条)。
※林良平ほか編『新版 注釈民法(2)総則(2)』有斐閣1991年p603

い 所有権の変動(添付の規定・概要)

物理的な結合により所有権の変動が生じることがある
詳しくはこちら|民法の添付(付合・混和・加工)の規定(民法242〜248条)

本記事では,権利(物権)の客体となる適格性の中の「独立性」について説明しました。
実際には,個別的事情により,法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に,不動産や動産の権利に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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