1 所有権の客体の適格性(要件)
2 民法の条文(物の定義・所有権の内容)
3 伝統的な所有権の適格性(要件)
4 所有権の客体の要件としての排他的支配可能性
5 情報の財産性
6 精神的創造物(発明・著作)の法的扱い

1 所有権の客体の適格性(要件)

所有権は非常にメジャーな権利であり,実務ではとても広い範囲でよく使われます。
ところが新しいものでは,所有権が認められるかどうかが問題となる場面も出てきています。
詳しくはこちら|ビットコイン所有権否定判決(平成27年東京地裁)の理論内容
本記事では,所有権として認められるための要件(客体の適格性)について説明します。

2 民法の条文(物の定義・所有権の内容)

最初に,民法の条文から押さえておきます。
まず,所有権内容については民法206条に規定があります。
これは権利の内容,つまり,所有者は何をすることができるのかが書いてあります。
一方,民法85条には,『物』についての定義が書かれています。『所有物』ではないですが,本記事の解釈の中で使います。

<民法の条文(物の定義・所有権の内容)>

あ 『物』の定義

(定義)
第85条 この法律において『物』とは、有体物をいう。

い 所有権の内容

(所有権の内容)
第206条 所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。

3 伝統的な所有権の適格性(要件)

所有権の客体の適格性とは,要するに,どのようなモノについて所有権を認めるべきかという解釈になります。
言い換えると,所有者が自由に使用・収益・処分できるのはどのようなモノか,ということです。
いろいろな細かい解釈論がありますが,結論として,伝統的に主に5つの要件に整理されています。

<伝統的な所有権の適格性(要件)>

あ 有体性

『物』の要件の1つ(有体物)である(民法85条)

い 支配可能性
う 非人格性
え 独立性・単一性・特定性

※河上正二著『民法総則講義』日本評論社2007年p204,206

なお,平成27年東京地裁のビットコイン所有権否定判決では,『え』を除外した3つの要件が示されました。ただし,これによって結論が変わるようなものではありませんでした。
詳しくはこちら|ビットコイン所有権否定判決(平成27年東京地裁)の理論内容

4 所有権の客体の要件としての排他的支配可能性

所有権の客体の要件のうち排他的支配可能性について説明します。
要するに,天体や海洋についての所有権を否定するという機能を持つ要件といえます。

<所有権の客体の要件としての排他的支配可能性>

あ 排他的支配管理の位置づけ

『物』は,人が排他的に支配管理(使用・収益・処分)できなければ
→法的には意味がない(所有権の内容を実現できない)
※民法206条

い 支配可能性

太陽・月・星のように誰にも支配できないものは有体物ではあっても『物』とはいえない

う 排他性

空気・海洋のように,誰にでも自由に利用できることが予定されているもの
→『物』とはいえない
※大判大正4年12月28日

え 海洋・海面下の土地の特殊な扱いの例

海洋や海面下の土地であっても
一定範囲を区画して排他的支配管理をなすことが可能な場合がある
漁業権や公有水面埋立権などの客体となることがある
※最高裁昭和52年12月12日
※最高裁昭和61年12月16日
※河上正二著『民法総則講義』日本評論社2007年p206

なお,平成27年東京地裁では,このような従来の枠組みとは違う形で排他的支配可能性を使っています。
詳しくはこちら|ビットコイン所有権否定判決(平成27年東京地裁)の理論内容

5 情報の財産性

所有権の客体として認められるかどうか,という問題が生じる典型例は情報です。
ITが普及する前までは,情報は何らかの物理的な媒体に収まっていました。
そこで,媒体の所有権を認めれば足りる(実質的な問題は生じない)状況でした。
しかし現在では,媒体と一体化していない情報(裸の情報)もたくさん存在しています。財産的価値はあっても,法的な枠組みをどうするかという問題が生じます(後記)。

<情報の財産性>

あ 経済的価値

情報・データは,一定の財産的価値が認められることが多い
例=新聞や書籍の真の価値は,そこに含まれた情報にある

い レガシーな法的扱い

情報は,民法上の権利や保護の対象となり得るものである
通常は,有体物である紙・磁気テープ・メモリーチップなどの記録媒体を『物』として観念すれば足りる

う 『物』と一体とならない情報の例

インターネット上でダウンロードされるプログラム・ソフト
→有体物と一体となっていない

え 情報を法的に財産として扱う必要性

現在では,データそのものを『物』に準じて扱うことが適当な状況が増えている
※河上正二著『民法総則講義』日本評論社2007年p205

6 精神的創造物(発明・著作)の法的扱い

情報ではあっても,人が創造したものであり,社会的(常識的)に経済的価値があるというものがあります。
しかし情報自体は有体性がないので,所有権を認めるということはできません。
そこで,法律を作ることによって権利を認めてきました。
特許権や著作権などのことです。

<精神的創造物(発明・著作)の法的扱い>

あ 発明・著作の性質

発明・著作は,一種の情報である
秘密にすることはできるが,いったん公表すれば誰にでも利用可能となる
このまま独占・管理することはできない

い 法的制度

特別な制度的枠組が用意されて法的保護の対象となっている

う 利益を独占する仕組み

発明者や創作者に独占権を与える法的仕組みとして
特許権や著作権(無体財産権・知的財産権)がある
※河上正二著『民法総則講義』日本評論社2007年p205,206