1 少額の賃料滞納の繰り返し・継続による解除の有効性(土地・建物)
2 信頼関係破壊理論による解除の制限(概要)
3 借家・滞納の常習性+2か月の滞納→解除有効
4 借地・2か月滞納が5年継続→解除有効
5 借地・数か月の滞納の多数繰り返し後に完納→解除無効
6 少額の賃料滞納による解除のまとめ

1 少額の賃料滞納の繰り返し・継続による解除の有効性(土地・建物)

土地や建物の賃貸借契約において,賃料の滞納(不払い)があっても,滞納額少ない場合,解除は認められません。しかし,滞納額が少なくても,それが長期間続いたケースでは,解除が認められることもあります。
本記事では,このようなケースにおける解除の有効性について説明します。

2 信頼関係破壊理論による解除の制限(概要)

賃料の滞納は債務不履行にあたるので,原則論としては,賃貸人は催告をして,それでも支払われない場合,解除することができるはずです。しかし,賃借人を保護するために信頼関係が破壊されていない場合には解除は認められません。
詳しくはこちら|信頼関係破壊理論と背信行為論の基本(同質性・主な3つの効果)
具体的には,滞納額が賃料の1〜2か月分程度である場合には解除は認められない傾向があります。

3 借家・滞納の常習性+2か月の滞納→解除有効

前述のように,賃料の滞納の規模が小さいと解除は無効となるのが原則ですが,(小規模な滞納でも)それが長期間継続している場合には,解除が認められることもあります。
建物の賃貸借において,賃借人が常習的に2か月程度の賃料を滞納し続けたというケースがあります。賃貸人は繰り返し催告や警告をしていました。
裁判所は,解除を認めました。

<借家・滞納の常習性+2か月の滞納→解除有効>

あ 裁判例の要点

建物の賃貸借(借家)
解除を認めた
全体として8年間のうち数回,数か月の滞納と完納が繰り返されていた
今回(最後)は2か月の滞納があったので催告の上,解除した
催告の中で過去の滞納歴の指摘があり,強い口調での催告や警告があった(にも関わらず滞納した)ことが,信頼関係破壊を認める要素となっている

い 滞納・催告・支払の繰り返し

賃借人は,それ以前にも,
平成8年4月分から同年7月分までの賃料の支払を怠ったため,賃貸人から・・・書面でその支払を催促され,同書面到達後1週間以内に支払がないときは本件賃貸借契約を解除する旨通告され,同書面において,賃借人が同年1月分から同年3月分の賃料を遅滞し,同年5月16日になってこれを支払っていること(過去の滞納歴)が指摘されているほか,
②平成12年にも,同年7月分の一部と,同年8月分及び同年9月分の賃料の支払を怠り,賃貸人から・・・書面で,賃借人がこれまでにも何度か賃料の支払を遅滞したことがあり,上記①の催促を受けていることは遺憾である旨の指摘を受けた上,同書面到達後1週間以内の支払を催促され,今後このようなことが続くと次回は内容証明郵便による催告と明け渡しの要求をすることになるなどと警告をされ,以後賃料の支払を遅滞することなく約束を厳守するよう強い口調で申し入れを受けていることが認められるだけでなく,
今回の遅滞についても,賃借人は,平成14年11月分の賃料を遅滞した時点で原告から内容証明郵便により,同書面到達後7日以内の支払をきつく催促され,賃料の未払が2か月になったときは,本件賃貸借契約を解除する旨の予告までされていたのに,平成14年11月分の賃料を支払わず,続けて同年12月分の支払もしなかったことが認められるのである。

う 直近の滞納の信頼関係破壊レベル(前提)

本件解除の理由とされた賃料の遅滞は,平成14年11月分と同年12月分の2か月分であり,前記のとおり,賃借人は,賃貸人に対し,平成14年11月分から平成15年2月分までの賃料と遅延損害金を平成15年2月20日に提供しており,原告の受領拒絶を受けて同年3月5日にこれを供託しているから,これらの事実だけを取り出すなら,賃借人の上記遅滞をもって賃貸人との信頼関係を破壊するほどに重大な債務の不履行であると評価することはできないと考えられる。

え トータルでの信頼関係破壊レベル(規範)

賃借人は,賃貸人から再三にわたって書面の送付を受け,賃料の支払を催告されるとともに,背信性を指摘され,本件賃貸借契約の解除があり得ることまで警告されていたにもかかわらず,賃料の支払をせず,
それゆえ賃貸人から本件解除の意思表示をされるに至っていることを考えれば,たとえ今回の賃料の遅滞が2か月分にすぎないとしても,原告との信頼関係を破壊するに足りる背信的なものであると評価せざるを得ない。
※東京地判平成16年2月23日

4 借地・2か月滞納が5年継続→解除有効

土地の賃貸借(借地)において,2か月程度の地代を滞納している状態が継続していたケースで,解除が認められています。

<借地・2か月滞納が5年継続→解除有効>

あ 裁判例の要点

土地の賃貸借(借地)
解除を認めた
賃貸期間 67年間
最後の5年間は2か月分程度の賃料の滞納が継続していた(解消されなかった)
解除の意思表示の時点での滞納は1か月分の賃料にとどまっていた
滞納期間中,賃貸人は賃借人に,たびたび督促していた

い 解除後の滞納相当額の支払の影響

賃借人が平成18年9月に10か月分の賃料に相当する金員を支払い,賃貸人がこれを受領したことにより,賃料の滞納が一応解消されたということができるとしても,賃借人が支払をしたのは原告が本件訴訟を提起した後であって,これにより賃貸人と賃借人の間の信頼関係が回復されたとみることは困難である

う 解除の有効性(信頼関係破壊)の判断

賃料の支払は賃借人の基本的な義務であるところ,賃借人,2か月分程度とはいえ,約5年もの間にわたり,賃料の遅滞を継続しており,しかも,賃貸人が度々催促したにもかかわらず,これが解消されなかったことからすると本件における債務不履行が軽微なものであるとはいい難い。
・・・
以上によれば,賃借人に本件賃貸借契約上の賃料支払義務の不履行があると認められ,かつ,賃貸人と賃借人の間の信頼関係が破壊されていないと解すべき特段の事情があるということはできないから,本件賃貸借契約は,本件催告書による契約解除の意思表示により,・・・解除されたと判断するのが相当である。
※東京地判平成19年3月8日

5 借地・数か月の滞納の多数繰り返し後に完納→解除無効

土地の賃貸借(借地)において,数か月分の地代の滞納と完納が繰り返されていたケースで,解除が認められなかった判例もあります。
結果に影響を与えた主要な事情は,最終的には滞納がない状態が続いていたことと,借地上の建物は住居と呉服店として使用されていたということです。要するに,建物を収去することを回避したくなる(賃借人を救済したくなる)要素があったということです。

<借地・数か月の滞納の多数繰り返し後に完納→解除無効>

あ 裁判例の要点

土地の賃貸借(借地)
解除を認めなかった
約3年間に,1,2月分の賃料滞納が多く繰り返されたが,最後は完納に至り,それが1年近く続いている
借地上のは住居兼店舗である
賃貸期間は52年に達している

い 滞納の繰り返し

賃借人は,平成15年8月分から同年12月分(5か月分滞納)までの滞納額と平成16年1月分の賃料を平成15年12月25日に支払い,
また,平成16年4月23日,同年2月分から同年5月分までの4か月分の賃料を・・・支払い(3か月分滞納),
さらに,平成17年2月25日,平成16年5月分から平成17年2月分までの賃料を(10か月分滞納),
平成17年6月22日,同年3月分から同年6月分までの賃料を(4か月分滞納),
平成17年7月25日,同年7月分の賃料を(1か月分滞納)それぞれ供託し・・・
平成17年10月7日,同年8月分,同年9月分の賃料を(2か月分滞納)振込送金し,
平成17年10月12日,同年10月分,同年1月分の賃料を(2か月分滞納)振込送金したものであって,
平成17年11月分以降の賃料については,期限を徒過することなく支払を継続しているものである。

う 建物収去を避けたい事情

賃借人の父の代の昭和33年ころから本件土地を賃借し,その上に建物を建築して住居兼呉服店として使用してきたものであり,本件建物に建て替えられてからも既に40年以上が経過していること,賃借人は,現に本件建物を住居兼呉服店として使用するとともに着付け教室の開催もしているものである。

え 解除の有効性(信頼関係破壊)の判断

以上の諸事情に照らせば,確かに被告には,多数回にわたる賃料の支払遅滞等,本件賃貸借契約における信頼関係を損ねかねない事由があったことは否定できない。
しかし,その後の賃料支払の状況に照らせば,本件賃貸借契約における賃貸人と賃借人の信頼関係が完全に破壊されたものとして,原告による解除の意思表示を有効と認め,被告が住居兼呉服店として長年にわたり使用してきた本件建物を収去して本件土地を明け渡すべきものとまで認めることは相当でないというべきである。
※東京地判平成18年12月20日

6 少額の賃料滞納による解除のまとめ

一般的に,滞納賃料3か月が解除が認められる基準として語られていますし,家賃保証サービスにおける支給基準としても使われています。一方,賃借人としても,この基準を意識して,賃料を滞納しつつも3か月分未満に収まるようにコントロールする実例もあります。
しかし,この基準はそこまで確実なものではなく,異常な(悪質な)事情がある場合には,文字どおり信頼関係が破壊されたと判断されることも十分にありえます。
特に,賃貸人が強い口調で督促や警告をする,また,催告の中で過去の滞納履歴を指摘(記述)するということも,解除を有効にする方向に働きます。

本記事では,少額の賃料滞納が繰り返されている(継続している)ケースにおける解除の有効性について説明しました。
実際には,個別的事情により,法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に賃貸借における賃料滞納や解除に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。