1 『占有』概念の基本
2 占有権の基本的な規定(民法180条)
3 物の『所持』の意味(占有権の本質)
4 『占有』の判断の基本
5 『占有(移転)』が関係する規定や状況
6 民法180条と他の占有に関する規定の関係
7 占有判断のバリエーション(『占有』の多義性・概要)
8 対象物による占有の認定のバラエティ

1 『占有』概念の基本

民事・刑事のどちらでも,多くの場面で『占有』の有無が問題となります。
本記事では,『占有』の有無を判断する基準や『占有』の具体例といった,『占有』の基本的事項を説明します。

2 占有権の基本的な規定(民法180条)

民法180条は占有権の取得を規定しています。これは『占有』に関する基本的な規定です。まずは条文を押さえます。

<占有権の基本的な規定(民法180条)>

(占有権の取得)
第百八十条 占有権は、自己のためにする意思をもって物を所持することによって取得する。
※民法180条

3 物の『所持』の意味(占有権の本質)

民法180条が示す占有の取得の要件として『所持』という概念(用語)が規定されています。
この『所持』の意味は,事実上の支配であると解釈されています。

<物の『所持』の意味(占有権の本質)>

所持とは,人が物について事実上の支配をしていることが社会通念上認められるような人と物との事実的関係をいう
※大判昭和15年10月24日

4 『占有』の判断の基本

占有の意味の本質は事実上の支配です(前記)。占有があるといえるかどうかは,事実上の支配が及んでいるといえるかどうかで判断するのです。
支配とはいっても,認識している必要はありません。
このように,支配というのはとても抽象的な概念です。

<『占有』の判断の基本>

あ 基本的概念

物がある者の事実的支配内にあると社会通念上認められる客観的関係があればよい
動産であってもこれを手で把持している必要はない
※舟橋諄一『物権法 法律学全集(18)物権法』有斐閣p279
※末川博『物権法』日本評論新社p188

い 認識の要否(不要)

具体的な物について認識している必要はない
→例=郵便受けに配達された郵便物でも『占有』あり
※川島武宣ほか編『新版 注釈民法(7)物権(2)』有斐閣2007年p115

5 『占有(移転)』が関係する規定や状況

ここまでで,民法180条を出発点として,占有の意味や判断基準を説明しました。
ところで『占有』や,占有の移転(引渡)は,いろいろな場面で登場します。
占有が関係する民事・刑事の規定(制度)や状況を整理します。

<『占有(移転)』が関係する規定や状況>

あ 民事的な規定
占有権の取得(占有訴権) 民法180条
強制執行(仮処分)の第三者異議の基礎にある占有権の成立要件 民事執行法38条
物権的返還請求権の被告適格
占有物の果実の帰属 民法189条,190条
占有者による損害賠償 民法191条
占有者による費用償還請求 民法196条
動産物権変動の対抗要件 民法178条
即時取得 民法192条
取得時効 民法162条
無主物先占 民法239条
留置権 民法295条
質権の効力 民法342条
贈与の撤回 民法550条
消費貸借の成立 民法587条
土地工作物責任 民法717条
い 民事的な問題となる状況

ア 建物の退去(の判定)
いろいろな法的な扱いに影響する
例=損害金発生・立ち入りの可否など
イ 隔地者間の意思表示
相手の支配領域内への到達により意思表示が完結する
占有概念と関連する

う 刑法上の規定
窃盗罪(窃取) 刑法235条
不動産侵奪罪(侵奪) 刑法235条の2

6 民法180条と他の占有に関する規定の関係

前述のように,民法180条は,占有に関する基本的な規定です。実際に,民法180条の規定や解釈は,他の規定(の解釈)に大きく影響します。しかし,民法180条とそれ以外の規定で出てくる『占有』が同じ意味かというと,そうではありません。用語は同じでも判断基準は違うのです。

<民法180条と他の占有に関する規定の関係>

あ 原則論

民法180条の解釈においては,占有訴権の前提としての占有権の成立要件を決定することが中心となる
民法180条は,他の占有に関する規定に関わりを持つ
※川島武宣ほか編『新版 注釈民法(7)物権(2)』有斐閣2007年p11

い 占有に関する各規定の違い

占有に関するそれぞれの規定すべてに共通する占有権の概念を立ててその成立要件を明らかにすることは不可能である
占有訴権以外の規定(制度)については,それぞれの制度目的から民法180条が準用され,または民法180条の解釈が参照されるのである
民法180条との遠近の程度は,各々の制度について判断されるべきであろう
※川島武宣ほか編『新版 注釈民法(7)物権(2)』有斐閣2007年p11

なお,ごく一般論として,占有の移転のことを『引渡』といいます。そこで,『引渡』(といえる占有の移転)についても,状況によっては意味(判断基準)が異なります。一例として宅建業法40条の『引渡し』の解釈があります。
詳しくはこちら|売買の瑕疵担保責任の期間制限についての宅建業法の規定(『引渡し』の意味)

7 占有判断のバリエーション(『占有』の多義性・概要)

同じ『占有』であっても,規定(制度)によって判断基準が違います(前述)。典型的な違いを説明します。
占有訴権や物権的請求権の要件の1つとしての占有の判断は,低め(緩め)の基準を用います。取得時効の要件の1つとしての占有の判断は,高め(厳しめ)の基準を用います。

<占有判断のバリエーション(『占有』の多義性・概要)>

あ 低めの基準

占有訴権の成否・物権的請求権の被告適格に関しては
物の利用の明認性および恒常性はそれ自体不可欠の要素ではない
排他性および必要性(非代替性)を補充する要素にとどまる
※川島武宣ほか編『新版 注釈民法(7)物権(2)』有斐閣2007年p16
詳しくはこちら|土地の占有(占有訴権・物権的請求権)の判断(判断基準と具体例)

い 高めの基準

取得時効の要件としての占有については
明認性・排他性・恒常性重要な要素である
※川島武宣ほか編『新版 注釈民法(7)物権(2)』有斐閣2007年p16
詳しくはこちら|土地の占有(取得時効)の判断(判断基準と具体例)

8 対象物による占有の認定のバラエティ

いろいろな物について占有が成立します。
物の種類によって『占有』の認定(判断)には特徴があります。

<対象物による占有の認定のバラエティ>

あ 土地の一部も占有

1筆の土地の一部についても占有が成立する
※大連判大正13年10月7日

い 建物の占有

細かい判断基準・要素がある
詳しくはこちら|建物明渡×実力行使|基本・違法性判断|自力救済or自救行為

う 壁面の占有

建物の壁面を広告用に利用している
→壁面を占有しているとはいえない
※最判昭和59年1月27日

え 動物の占有(概要)

動物の獲得・捕獲が占有となることがある
特有の判断基準がある
詳しくはこちら|動物の占有・捕獲|判断基準|ハンター/ヒモタイプ

お 自動車の駐車による土地占有(概要)

自動車の駐車が土地の占有に該当することもある
特有の判断基準がある
詳しくはこちら|自動車の駐車による賃貸駐車場の占有の判断(判断の枠組みと具体例)
※『判例民法2 物権』第一法規出版p101〜
※能見善久ほか編『論点体系 判例民法2 物権 第3版』第一法規2019年p116,117参照

本記事では,『占有』という概念の基本的な内容を説明しました。
実際には,個別的な事情や主張・立証のやり方次第で結論が違ってきます。
実際に,『占有』に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。