【取締役の競業取引・利益相反取引の制限(会社の承認・全体像)】

1 取締役の競業取引・利益相反取引の制限
2 競業取引・利益相反取引の意味
3 第三者のための取引の意味
4 利益相反取引(直接取引)の具体例(概要)
5 会社の承認を要しない利益相反取引(概要)
6 競業取引・利益相反取引の承認(概要)
7 競業取引・利益相反取引の報告
8 競業取引・利益相反取引による損害の賠償責任(概要)
9 会社の承認を欠く競業取引・利益相反取引の効力(概要)

1 取締役の競業取引・利益相反取引の制限

取締役が会社と競合する事業(協業取引)をすることと,会社との間で利害が対立する取引をするためには会社の承認が必要とされています。
本記事では,このような取締役の競業取引と利益相反取引の制限の基本的な内容を全体的に説明します。

2 競業取引・利益相反取引の意味

取締役による競業取引利益相反取引に当たるかどうかがハッキリしないケースも多いです。最初に,会社法の条文上の,これらの取引を定義する規定をまとめておきます。
要するに,競業取引は,会社の事業とライバルになる事業のことです。
また,利益相反取引は大きく,直接取引と間接取引に分けられます。直接取引は文字どおり,取引の当事者が会社と取締役(代理人や代表として,というものを含む)というものです。間接取引は,取締役が取引の当事者ではないけれど,実質的に利益を受けるという取引のことです。

<競業取引・利益相反取引の意味(※1)

あ 競業取引の意味

取締役が自己or第三者のために会社の事業の部類に属する取引をすること

い 利益相反取引の意味

ア 直接取引 取締役が自己or第三者のために株式会社と取引をすること
イ 間接取引 株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をすること
※会社法356条1項1〜3号

3 第三者のための取引の意味

競業取引・利益相反取引の定義(前記)の中に第三者のためにという用語が登場します。具体的には,第三者の代理人または代表者として,という意味です。典型例は,別の会社の代表取締役としてというものです。

<第三者のための取引の意味>

取締役が第三者の代理人or代表者として取引すること
※江頭憲治郎著『株式会社法 第7版』有斐閣2017年p443,444

4 利益相反取引(直接取引)の具体例(概要)

利益相反取引のうち直接取引とは,取締役と会社との取引のことです(前記)。
代表的なものは,売買,賃貸や金銭の貸借です。それ以外のマイナーな取引でも利益相反取引に該当することがあります。具体例については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|取締役の利益相反取引のうち直接取引の具体例

5 会社の承認を要しない利益相反取引(概要)

会社と取締役の間の取引は利益相反取引(直接取引)として,原則的に会社の承認が必要です(前記)。
しかし,例外も比較的多くあります。
例えば会社への無償での譲渡(贈与)や無利息での金銭の貸与など,会社に損害が生じるおそれがないというタイプの取引です。また,全株主が同意している場合にも,実質的に損害を受ける者が了解しているという理由から会社の承認は不要となります。
詳しくはこちら|取締役の利益相反取引のうち会社の承認が不要な取引

6 競業取引・利益相反取引の承認(概要)

取締役が競業取引と利益相反取引を行うためには,会社の承認が必要です。
具体的に承認する機関としては2とおりがあります。
取締役会設置会社では株主総会の普通決議です。
取締役会設置会社では取締役会の決議(過半数の賛成)です。

<競業取引・利益相反取引の承認(概要)>

あ 共通事項

競業取引・利益相反取引(前記※1)を行うためには
会社の承認(いorう)を受けなければならない

い 取締役会非設置会社

株主総会において,当該取引につき重要な事実を開示し,その承認を受けなければならない
※会社法356条1項

う 取締役会設置会社

取締役会において,当該取引につき重要な事実を開示し,その承認を受けなければならない
※会社法365条1項
詳しくはこちら|株主総会・取締役会による取締役の競業取引・利益相反取引の承認の手続

7 競業取引・利益相反取引の報告

会社の承認を得て,取締役が競業取引や利益相反取引を行った時の報告義務もあります。
取締役会設置会社の場合に,取締役会に取引に関する重要な事項を報告するというものです。
一方,取締役会設置会社の場合には,株主総会などへの報告義務は規定されていません。

<競業取引・利益相反取引の報告>

あ 取締役会非設置会社

競業取引・利益相反取引についての報告義務は規定されていない

い 取締役会設置会社

取締役会設置会社においては,競業取引・利益相反取引(前記※1)をした取締役は,当該取引後,遅滞なく,当該取引についての重要な事実を取締役会に報告しなければならない
※会社法365条2項

8 競業取引・利益相反取引による損害の賠償責任(概要)

取締役が競業取引や利益相反取引を行った結果,会社に損害が生じた場合,原則的にその取締役は任務懈怠があったことになり,会社に賠償する責任が生じます。取引の当事者である取締役以外の取締役も,実質的な関与の形態によっては賠償責任を負います。
このような取締役の責任は,事前に会社の承認を得たことで免除されるわけではありません。
詳しくはこちら|取締役の競業取引・利益相反取引による会社に対する損害の賠償責任

9 会社の承認を欠く競業取引・利益相反取引の効力(概要)

取締役が競業取引や利益相反取引を行うには,会社の承認が必要です(前記)。
この点,会社の承認を得ずにこれらの取引が行われてしまった場合には,取引の効力が問題となります。
理論的な原則としては,無効ということになります。しかし,特に取引に直接関与していない第三者との関係は単純ではありません。
基本的に,第三者が必要な承認を欠いていたことを知らなかった場合には有効(と同じ扱い)となります。詳しい法的扱いについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|会社の承認を欠く取締役の利益相反取引の効力と会社の承認の効果

本記事では,取締役の競業取引・利益相反取引の制限の基本的な内容を全体的に説明しました。
実際には,個別的な事情によって法的扱いは違ってきます。
実際に取締役の競業取引や利益相反取引に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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