1 取締役の利益相反取引のうち会社の承認が不要な取引
2 損害が生じないために承認を不要とする扱い
3 会社に負担のない譲渡・貸借の承諾不要
4 義務の履行と相殺の承諾不要
5 競売に関する手続の承諾不要
6 定型的な取引の承諾不要
7 株主全員の同意による承諾不要
8 100%株主会社との取引の承諾不要
9 複数の代表と利益相反取引としての承認の要否

1 取締役の利益相反取引のうち会社の承認が不要な取引

会社と取締役の間の利益相反取引を行うには原則として会社の承認が必要です。
詳しくはこちら|取締役の競業取引・利益相反取引の制限(会社の承認・全体像)
形式的に利益相反取引に該当しても,例外的に会社の承認が不要というものもあります。
本記事では,例外的に会社の承認が不要となる利益相反取引を説明します。

2 損害が生じないために承認を不要とする扱い

利益相反取引を行うために会社の承認を必要とする実質的な理由(趣旨)は,会社に損害が生じることを予防するというものです。そこで,具体的事情から会社に損害が生じることがはないといえる場合には,例外的に会社の承認は不要となります。

<損害が生じないために承認を不要とする扱い>

直接取引(利益相反取引)に該当するとしても
抽象的に見て会社に損害が生じ得ない取引である場合
→承認は不要である
※江頭憲治郎著『株式会社法 第7版』有斐閣2017年p444

3 会社に負担のない譲渡・貸借の承諾不要

形式的には利益相反取引に当たったとしても,会社に損害が生じることはない場合には会社の承認は不要です(前記)。その具体例を以下説明します。
まず,譲渡や貸借であっても,会社に負担がないというものです。具体的には,贈与無利息・無担保での会社への金銭の貸付です。

<会社に負担のない譲渡・貸借の承諾不要>

あ 贈与

取締役から会社に対する負担のない贈与
→会社の承認は不要である
※大判大正13年9月28日

い 貸付

取締役が会社に無利息・無担保で金銭を貸し付けること
→会社の承認は不要である
※最高裁昭和38年12月6日
※最高裁昭和39年1月28日

4 義務の履行と相殺の承諾不要

会社の義務の履行については,もともと会社が負っているものです。そこで,義務の履行の相手方が取締役であっても会社の承認は不要です。
同様に,会社と取締役の間の債権・債務の相殺についても会社の承認は不要です。

<義務の履行と相殺の承諾不要>

あ 義務の履行

取締役あるいは会社による債務の弁済(の履行)
→会社の承認は不要である
※大判大正9年2月20日

い 相殺

会社と取締役の間でなされる相殺
→会社の承認は不要である
※大判昭和12年6月17日

5 競売に関する手続の承諾不要

裁判所による競売の手続に関するアクションは,会社と取締役の関係があったとしても会社の承認は不要です。取締役が,会社の所有物を目的とする競売手続の申立やその手続において入札・落札することが具体例です。

<競売に関する手続の承諾不要>

あ 申立

競売手続の申立
→会社の承認は不要である
※東京地裁昭和5年7月18日

い 入札

会社の所有物についての競売手続において取締役が入札や落札をすること
→会社の承認は不要である
※東京高裁昭和31年3月5日(仮定した前提での判断として)

6 定型的な取引の承諾不要

定型的な取引については,会社と取締役の間の取引であっても会社の承認は不要です。

<定型的な取引の承諾不要>

あ 裁判例

普通取引約款に基づく定型的な取引を行うこと
→会社の承認は不要である
※東京地裁昭和57年2月24日

い 具体例

運送契約,預金契約
※奥島孝康ほか編『新基本法コンメンタール 会社法2 第2版』日本評論社2016年p165

7 株主全員の同意による承諾不要

ところで,会社は実質的に株主が所有しています。つまり,会社の利害は最終的に株主に帰属するのです。
そこで,形式的に利益相反取引であっても,株主が了承していれば,会社の利益の保護としての会社の承認を省略することが認められています。
具体的には,利益相反取引について株主全員が同意しているというケースです。なお一応,この場合でも会社の承認が必要であると考える見解もあります。

<株主全員の同意による承諾不要>

あ 判例

株主全員の同意がある場合
→承認は不要である
※最高裁昭和49年9月26日
※東京地裁平成18年5月29日(同趣旨)

い 反対説

会社債権者保護の必要を理由に『あ』に反対する見解もある
→会社に対する干渉となるので疑問である
※江頭憲治郎著『株式会社法 第7版』有斐閣2017年p445,446参照

8 100%株主会社との取引の承諾不要

会社の全株式を1人の株主が有する状況で,この株主自身が取締役となっているケースもよくあります。いわゆる1人会社です。
この株主かつ取締役が,会社と取引を行う場合には,全株主の同意があるといえます。そこで,会社の承認は不要となります。

<100%株主会社との取引の承諾不要>

会社と全株式を有する株主である取締役との取引について
→会社の営業が実質上取締役の個人経営である
→会社の承認は不要である
※最高裁昭和45年8月20日

9 複数の代表と利益相反取引としての承認の要否

会社を代表する者(代表取締役)が複数人存在することもあります。この場合には,利益相反取引の判断が少し複雑になります。
例えば代表取締役がBとDであれば,ある取引について会社を代表する者はBだけ,Dだけ,B・Dの2人,という3パターンがあります。
そして,利益相反取引として会社の承認が必要かどうかの判断は,対象となる取引について,代表する者を基準にして判断します。A社とC社を代表するDが取引をするケースで,A社の取締役にDが入っていなければ利益相反取引としては扱われません(A社の承認は不要となります)。

<複数の代表と利益相反取引としての承認の要否>

あ 会社と取締役の状況
A社 取締役B
C社 代表取締役B・D
い 代表する取締役と利益相反取引該当性

『ア』と『イ』がが取引をする場合
→A社において承認は不要である(通説)
ア A社
イ C社の代表取締役D
※江頭憲治郎著『株式会社法 第7版』有斐閣2017年p444

本記事では,形式的には会社と取締役の利益相反取引であっても例外的に会社の承認が不要となるケースを説明しました。
実際には,個別的な事情によって利益相反取引に該当するかどうかの判断が違ってきます。
実際に会社と取締役の間の取引に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。