1 通知弁護士制度に関する裁判例
2 弁護士法と税理士法の規定の衝突
3 国税局の交渉への弁護士同席拒否事件(事案)
4 国賠を提訴した弁護士の主張
5 原審裁判所の判断
6 弁護士法と税理士法の立法経緯
7 控訴審裁判所の判断
8 後法優先の一般的ルール(参考)
9 税務相談まで通知弁護士の通知が必要かという問題

1 通知弁護士制度に関する裁判例

弁護士法では,弁護士は税理士の業務を行うことができるとシンプルに規定されています。
一方,税理士法では,通知弁護士の通知が必要であると規定されています。
詳しくはこちら|税理士法による規制(税理士登録制度と有資格者)
一見矛盾しているように思えます。
これについては,高裁判例が,税理士法が優先するという判断を示しています。
本記事では,この裁判例の解釈について説明します。

2 弁護士法と税理士法の規定の衝突

まず,弁護士が行う税理士業務について,弁護士法と税理士法の衝突している規定を特定しておきます。

<弁護士法と税理士法の規定の衝突>

あ 弁護士法の規定

弁護士は,当然,弁理士及び税理士の事務を行うことができる。
※弁護士法3条2項

い 税理士法の規定(通知弁護士)

弁護士は,所属弁護士会を経て,国税局長に通知することにより,その国税局の管轄区域内において,随時,税理士業務を行うことができる。
※税理士法51条1項

3 国税局の交渉への弁護士同席拒否事件(事案)

前記の衝突する2つの法律の優劣関係について裁判例が判断することになります。
その前提となった事案の内容を紹介します。

<国税局の交渉への弁護士同席拒否事件(事案)>

あ 相続の発生

Cが亡くなった
A・Bが相続人であった

い 弁護士への依頼

Aが弁護士Xに遺留分減殺請求訴訟を依頼した

う 国税局との交渉

Bは相続税を滞納していた
Aは,この税金について連帯納付責任を負っていた
Xは大阪国税局の担当者に滞納税の減免について陳情した
Xは納付計画に関する書面を国税局に提出した
Xは納付方法について国税局担当者と交渉を重ねた

え 通知弁護士の通知未了問題の指摘

国税局の担当者がDに変わった
DはXに対して通知弁護士の制度を説明した
通知弁護士の通知の提出を求めた
Xは通知弁護士の通知の提出を拒否した

お 国税局による弁護士の同席拒否

Dは,大阪国税局とAの交渉・納付協議の場にXが同席することを拒否した

か 同席拒否の理由

通知弁護士の通知が提出されていない
税務代理権限証書(委任状)が提出されていない
※税理士法51条,30条

4 国賠を提訴した弁護士の主張

前記の国税局の同席拒否について,弁護士Xは違法であると主張します。

<国賠を提訴した弁護士の主張>

あ 弁護士Xの提訴

国に対して国家賠償を請求した
請求内容=慰謝料200万円+遅延損害金
※国家賠償法1条1項

い 弁護士Xの主張

税理士法51条1項よりも弁護士法3条2項が優先される
→国税局との交渉への同席を拒否した措置は違法である

5 原審裁判所の判断

第1審の大阪地裁は,弁護士Xの主張に沿う判断をしました。
つまり,弁護士法3条2項が優先されるという解釈です。

<原審裁判所の判断>

あ 通知弁護士制度の解釈

弁護士は,受任した法律事務に付随して税理士の事務を行う場合
→通知弁護士の通知は不要である

い 国賠法上の違法性

税務署の措置は違法である
※大阪地裁平成23年4月22日

国は控訴し,次に控訴審が判断をすることになりました。

6 弁護士法と税理士法の立法経緯

控訴審は,弁護士法と税理士法の規定が作られた順序を元に解釈しています。
そこで,弁護士法と税理士法の立法の経緯についてまとめておきます。

<弁護士法と税理士法の立法経緯(※1)>

あ 弁護士法の全面改正

昭和24年に弁護士法の改正が行われた
この際,3条2項の規定が置かれた

い 税理士法制定の当初の案

昭和26年の税理士法制定の経緯において
当初の案=弁護士も税理士登録が必要
弁護士会は反対意見を出した

う 弁護士会の反対意見(弁護士自治)

弁護士は裁判所や法務省の監督を受けない
所属弁護士会の監督を受けるにとどまっている
税理士法により国税庁長官の監督を受けるのは不当である

え 税理士法の法案の修正

衆議院大蔵委員会で議員修正がなされた
税理士登録は不要とした
代わりに通知弁護士制度を設けた
※日本税理士会連合会編『新版 実践税理士法』中央経済社2015年p417,424

7 控訴審裁判所の判断

前記の立法経緯を前提にして,控訴審は後法優先のルールを適用しました。
つまり税理士法が優先されるということになります。
そこで,国の対応は違法ではなかったという結果になりました。

<控訴審裁判所の判断>

あ 法律の前後関係

弁護士法・税理士法の立法経緯(前記※1)より
税理士法51条,52条は,現行弁護士法制定の2年後に制定された
弁護士法3条2項の規定が存在することを前提に制定された

い 後法優先

後法優先のルール(後記※2)が適用される
税理士法51条,52条の規定が弁護士法3条2項の特別規定という関係に立つ
→税理士法51条,52条が優先となる
=弁護士法3条2項の規定は税理士法による制約を受ける

う 規定の優劣の結果

弁護士が現実に税理士業務を行うについては
税理士法の手続規定に従い
税理士法18条の税理士の登録を受けるか同法51条1項による通知を要する

え 実質的な妥当性

税理士業務について主務官庁の監督を及ぼす必要があるとの立法判断が不当であるといえない
通知弁護士に対する業務停止等の懲戒がされる実例がある
→通知弁護士制度自体が形骸化しているということはできない

お 国賠法上の違法性

Xの行為は税理士業務(税務代理)に該当する
→通知弁護士の通知が必要である
→国税局の措置は違法ではない
※大阪高裁平成24年3月8日

8 後法優先の一般的ルール(参考)

後法優先のルールは,法解釈全般で使われる一般的なものです。
法律を作る時は,既にある法律を意識しているという一般論があります。
これを前提とすると,後の法律は前の法律を修正した(意図である)ということになるのです。

<後法優先の一般的ルール(参考・※2)>

あ 形式的効力の優劣

2つの規定(法律)の関係について
形式的効力の衝突を避ける基準がいくつかある
その1つに『後法優先』(い)がある

い 後法優先

形式的効力が等しい成文法同士では
時間的に先に制定されたもの(前法)よりも
後から制定されたもの(後法)が優先する
『後法は前法を破る』ということわざにもなっている
※米倉明著『法学入門』東京大学出版会1988年p222

9 税務相談まで通知弁護士の通知が必要かという問題

本記事で紹介した裁判例の判断の対象は税務代理に該当するサービスでした。
この点,理論的には税務相談税理士業務の1つなので,同じ扱いとなるはずです。
詳しくはこちら|『税理士業務』の定義(税務代理・税務署類の作成・税務相談)
そうだとすると,弁護士が租税に関する相談(アドバイス)を提供するためには弁護士通知(or税理士登録)が必要となりそうです。
これだと一般的な民事の事案を扱う弁護士は全員が弁護士通知をすることになってしまいます。
この点,税務相談の対象は,租税の課税標準の計算に関する事項についてという制限があります。
実際のアドバイスではその一部に課税標準の計算が含まれることもあり得ます。
ごく一般的な考え方として付随的なサービスであれば規制対象外というものがあります。
この点,前記裁判例の事案は,遺留分減殺請求に関する相続人間のトラブル解決がであり,税金の扱いについてはサブ(付随)という関係がありました。
しかし付随的だから規制対象外とはなりませんでした。
このように,どこまでが付随的にすぎないといえるのかのはっきりした基準はなく,判断にはブレが出てきてしまいます。
前記の裁判例ではこのように,税務相談の適用が拡がりすぎる可能性がある問題には触れていません。
今後に残された問題といえるでしょう。