【宅建業法の『事務所』の概念(定義・解釈)】

1 宅建業法の『事務所』の概念(定義・解釈)
2 宅建業法の『事務所』の意味に関する条文
3 施行令の『事務所』を定義する条文
4 強力な公式見解としての通達(解釈・運用の考え方)
5 1号事務所の解釈
6 2号事務所の継続的業務可能の解釈と具体例
7 2号事務所の契約締結権限者の解釈と具体例
8 『事務所』以外への専任宅建主任士設置義務(概要)

1 宅建業法の『事務所』の概念(定義・解釈)

宅建業法では『事務所』という概念(用語)があります。
ある施設が『事務所』に該当すると,その場所(施設)には,専任宅地建物取引士を設置する義務が生じるなど,多くの規制を受けることになります。
詳しくはこちら|専任宅地建物取引士|基本|設置義務・登録・違反への措置
これだけを見ると当たり前のように思えます。
しかし,現在,テクノロジーが進化して,仲介サービスは大きく多様化しつつあります。
新しいサービスが出てくる中で,古い『事務所』の概念との抵触が問題となることも実際によくあります。
詳しくはこちら|不動産仲介業における内見・重要事項説明へのIT活用に関する法律問題
そこで,本記事では,解釈自体は古くて面白くないのですが,『事務所』の定義や概念の解釈について説明します。

2 宅建業法の『事務所』の意味に関する条文

『事務所』の解釈のスタートは宅建業法の条文です。
定義そのものではないのですが,実質的に『事務所』の定義が書かれています。

<宅建業法の『事務所』の意味に関する条文(※1)

『宅地建物取引業を営もうとする者は・・・事務所(本店,支店その他の政令で定めるものをいう。以下同じ。)を設置して・・・』
※宅建業法3条1項

3 施行令の『事務所』を定義する条文

宅建業法3条1項には,『事務所』の内容を政令で定めると規定されています(前記)。
この政令の具体的内容は宅建業法施行令です。
宅建業法3条1項の記載に沿って,『事務所』の内容(内訳)を,本店・支店(1号事務所)その他(2号事務所)に分類しています。

<施行令の『事務所』を定義する条文>

あ 『事務所』の定義の本体

宅建業法3条1項の『事務所』(前記※1)は,『い・う』とする

い 1号事務所(※2)

本店or支店のことである
商人以外の者については主たる事務所or従たる事務所

う 2号事務所

『ア〜ウ』のすべてに該当する施設である
ア 1号事務所(い)に該当しないイ 継続的に業務を行なうことができる施設(※3)を有する場所であるウ 宅地建物取引業に係る契約を締結する権限を有する使用人(※4)を置く ※宅建業法施行令1条の2

4 強力な公式見解としての通達(解釈・運用の考え方)

施行令の1号事務所の規定はあまり内容がないあっさりしたものです。
2号事務所の規定はちょっと単純に判断できない内容(基準)が書かれています。
これらについては,国交省の通達に解釈が示されています。
『解釈・運用の考え方』という通達です。まるで法令のように扱われています。
詳しくはこちら|『宅地建物取引業』判断|国土交通省|解釈・運用の考え方
民主主義とか三権分立の統治システムからは問題がありますが,本記事ではこれには触れません。
詳しくはこちら|行政の肥大化・官僚統治|コスト・ブロック現象|小規模事業・大企業

5 1号事務所の解釈

『解釈・運用の考え方』という通達では,1号事務所の解釈が示されています。

<1号事務所の解釈>

あ 基本的な解釈

1号事務所(前記※2)とは『ア・イ』の両方に該当する施設である
ア 登記上の本店・支店 商業登記簿などに登載されている
イ 継続的な営業拠点 継続的に宅地建物取引業者の営業の拠点となる施設としての実体を有する

い 宅建業との関係性

宅地建物取引業を営まない支店は該当しない

う 個人事業主の1号事務所

登記していない個人の場合
→事業者の営業の本拠が本店に該当する
※『解釈・運用の考え方』第3条第1項関係・p2

簡単にいうと,会社の登記(商業登記)の本店や支店が該当するというものです。

6 2号事務所の継続的業務可能の解釈と具体例

2号事務所の主要な要件は2つあります(前記)。この片方だけでも該当しないならば,2号事務所には該当しないことになります。
2つの要件について,解釈・運用の考え方には解釈が示されています。
また,具体例として文献による見解を紹介します。
まず,主要な要件の1つである継続的な業務が可能という要件についてまとめます。

<2号事務所の継続的業務可能の解釈と具体例>

あ 解釈

『継続的に業務を行なうことができる施設』(前記※3)とは
→『ア・イ』の両方に該当する施設のことである
ア 継続的な営業使用の権原 宅地建物取引業者の営業活動の場所として,継続的に使用することができる
イ 事務所といえる形態 社会通念上事務所として認識される程度の形態を備えている
※『解釈・運用の考え方』第3条第1項関係・p2

い 該当しない具体例

分譲販売の現地に設置した『ア〜ウ』の施設は
→『継続的な業務を行なうことができる施設』とはいえない
→『事務所』には該当しない
ア 臨時的な施設 例=テント張り・プレハブ造
イ 仮設店舗,販売事務所ウ モデルルーム ※岡本正治ほか著『全訂版 詳解不動産仲介契約』大成出版社2012年p49

7 2号事務所の契約締結権限者の解釈と具体例

2号事務所の主要な要件のもう1つは,契約締結権限のある者が設定されているというものです。
契約締結権限のある者という意味について,解釈と具体例を紹介します。

<2号事務所の契約締結権限者の解釈と具体例>

あ 解釈

ア 原則 『契約を締結する権限を有する使用人』(前記※4)とは
原則として,継続的に業務を行なうことができる施設(前記※3)の代表者などが該当する
イ 拡張 取引の相手方に対して契約締結権限を行使する者も該当する
自らの名において契約を締結するか否かを問わない
※『解釈・運用の考え方』第3条第1項関係・p2

い 該当しない具体例

ビルの1室で販売活動をしている
その場所に宅建業者として宅地建物の売買,仲介などの契約を締結することができる権限を有する者が置かれていない
権限者の例=営業所長,店長などの従業員
→『宅地建物取引業に係る契約を締結する権限を有する使用人』がいない
→『事務所』には該当しない
※岡本正治ほか著『全訂版 詳解不動産仲介契約』大成出版社2012年p49

8 『事務所』以外への専任宅建主任士設置義務(概要)

『事務所』の概念(基準)は以上のようになっています。
これを前提にすると,例えば,登記上の本店・支店ではない無人の施設は1号事務所にも2号事務所にも該当しません。
ATMのスペースのような施設でオンラインで会話できるリモート拠点が,宅建主任士なしで設置できるように思えます。
しかし,落とし穴もあります。
宅建業法では,『事務所』に該当しない施設でも,専任の宅建主任士の設置が必要なこともあるのです。
詳しくはこちら|専任宅地建物取引士|設置場所|事務所以外
もちろん,設定次第では,事務所以外の場所への宅建主任士設置義務を回避するということもあり得ます。

なお,資格・許認可の規制がある業種では拠点の設置について似たようなルールがあります。
業種(業法)によって規定や解釈に違いがあります。
しかし,共通するところもあり,相互に解釈の参考として役立ちます。
詳しくはこちら|弁護士法の『法律事務所』の意味と複数事務所設置禁止の解釈

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