1 誤振込の後の回収(組み戻し・仮差押・振り込め詐欺救済法)
2 誤振込の組戻し(時期)
3 誤振込の引き出しの可否
4 仮差押による誤振込の回収
5 振り込め詐欺救済法による口座凍結と回収

1 誤振込の後の回収(組み戻し・仮差押・振り込め詐欺救済法)

銀行預金への振込(送金)を誤って行ってしまうということが比較的頻繁に生じています。その多くのケースで、受取人の協力があり、簡単に戻されています。しかし、受取人が協力しないといろいろな問題が出てきます。本記事では、誤振込(誤送金)の場合の回収について説明します。

2 誤振込の組戻し(時期)

誤振込の最も単純な回収(回復)方法は、組戻しという銀行の手続です。要するに振込の手続をキャンセルすることです。タイミングによって組戻しができるかどうかのハードルが違います。
まず、着金(受取人の口座の残高に反映される=入金記帳)であれば、受取人の関与なく、組戻しができます。
しかし、着金は、受取人の同意がないと組戻しはできなくなります。

誤振込の組戻し(時期)

あ 入金記帳前

被仕向銀行が受取人の口座への振込金を入金記帳する前
→受取人の同意なく組み戻しが可能

い 入金記帳後

受取人の同意がないと組み戻しができない
※岡山地裁平成5年8月27日

3 誤振込の引き出しの可否

前述のように、誤振込であっても、着金後は、受取人の同意がないと組戻しはできません。では、受取人が銀行から払い戻すことはできるのでしょうか。すでに着金した以上は、原則として払戻を請求できます。このように口座への入金を撤回しないこと(支払完了性=ファイナリティを与えること)で、安心して取引の決済ができることになるのです。たとえば、不動産売買では、代金が着金したら、入金がキャンセルされることはないということを信頼して、所有権移転登記や引渡を行う、という決済(同時履行)が行われています。
詳しくはこちら|いろいろな決済手段による金銭債務の消滅時期
このように、口座の残高は強く保護されるのですが、一切例外がないわけではありません。払戻請求が詐欺罪等の犯罪にあたる場合には、権利の濫用として払戻請求は否定されます。
この点、誤振込された預金を引き出す行為は、通常、窃盗罪・詐欺罪・電子計算機使用詐欺罪に該当します。結論として、誤振込であることを銀行が把握している場合は、受取人による払戻請求を拒否できるはずです。

誤振込の引き出しの可否

あ 銀行への払戻請求(原則可能)

ア 預金債権の有無(肯定) 振込依頼人から受取人として指定された者(以下「受取人」という。)の銀行の普通預金口座に振込みがあったときは、振込依頼人と受取人との間に振込みの原因となる法律関係が存在するか否かにかかわらず、受取人と銀行との間に振込金額相当の普通預金契約が成立し、受取人において銀行に対し上記金額相当の普通預金債権を取得するものと解するのが相当であり(最高裁平成4年(オ)第413号同8年4月26日第二小法廷判決・民集50巻5号1267頁参照)、
イ 法律関係を欠く場合(誤振込) 上記法律関係が存在しないために受取人が振込依頼人に対して不当利得返還義務を負う場合であっても、受取人が上記普通預金債権を有する以上、その行使が不当利得返還義務の履行手段としてのものなどに限定される理由はないというべきである。
そうすると、受取人の普通預金口座への振込みを依頼した振込依頼人と受取人との間に振込みの原因となる法律関係が存在しない場合において、受取人が当該振込みに係る預金の払戻しを請求することについては、払戻しを受けることが当該振込みに係る金員を不正に取得するための行為であって、詐欺罪等の犯行の一環を成す場合であるなど、これを認めることが著しく正義に反するような特段の事情があるときは、権利の濫用に当たるとしても、受取人が振込依頼人に対して不当利得返還義務を負担しているというだけでは、権利の濫用に当たるということはできないものというべきである。
※最判平成20年10月10日
※最判平成8年4月26日(同趣旨)

い 刑事責任(参考)

誤振込された預金(金銭)を引き出すなどの行為は犯罪(窃盗罪、詐欺罪、電子計算機使用詐欺罪)にあたることがある
詳しくはこちら|誤振込を受けた者の引出行為と窃盗・詐欺・電子計算機使用詐欺罪

4 仮差押による誤振込の回収

誤振込をしてしまった方としては、すぐに気付けば組戻しができますが、着金後には、受取人に連絡し、同意をもらわないと組戻しができません。すぐに受取人に連絡がとれるかどうかわからないですし、連絡が取れても、受取人が同意してくれず、逆に急いで引き出してしまうかもしれません。
そこで、仮差押の手続により、預金口座からの引き出しを強制的に止めるという方法があります。
裁判所で一定の審査(審理)が必要ですが、受取人の関与なく(知られないで)手続は進みます。
詳しくはこちら|民事保全(仮差押・仮処分)の基本|種類と要件|保全の必要性

5 振り込め詐欺救済法による口座凍結と回収

前述の仮差押は、裁判所の手続なので、実際には弁護士に依頼して、きちんとした資料を揃え、申立書を作成して提出するといった手間やコストがかかります。
この点、もっと簡単な別の方法もあります。この手続は、いわゆる振り込め詐欺のように、預金口座が犯罪による不正送金の受け皿として利用されている場合にだけ使えます。使える場面は限定されていますが、裁判所の関与なく、金融機関の判断だけで口座の凍結やその後の回収ができます。

振り込め詐欺救済法による口座凍結と回収

あ 「振込利用犯罪行為」の定義

次のいずれにも該当する行為
ア 人の財産を害する罪の犯罪行為があった 例=詐欺罪など
イ 預貯金口座への振込が利用された ※振り込め詐欺救済法2条3項

い 定義の類型化(ガイドライン)

次のいずれかに該当する場合は「振込利用犯罪行為」として扱う
ア 次の者・機関から通報があった場合 ・捜査機関・弁護士会・金融庁・消費生活センター
・弁護士・認定司法書士
イ 本人確認書類の偽造・変造が発覚した場合

う 口座凍結措置

犯罪利用預金口座である疑いがあると認める場合
→金融機関は、取引停止の措置を行う
※振り込め詐欺救済法3条1項

え 被害金の回収

次の手続が遂行され、回収につながる
ア 債権消滅手続イ 被害回復分配金支払手続

お 法律の正式名称

犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律
振り込め詐欺救済法と略される

本記事では、誤振込がされた場合の預金の回収について説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に誤振込に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。