1 境界線と建物の距離の制限(民法234条)
2 境界線付近の建築の制限の条文規定
3 境界と建物の距離の測り方
4 建築基準法の隣地境界線に接する外壁の規定
5 民法234条1項と建築基準法65条との関係
6 境界と建物の距離に関する慣習の具体例
7 境界線付近の建築制限の違反の責任(概要)

1 境界線と建物の距離の制限(民法234条)

隣地との土地の境界線付近への建物の建築を制限する民法の規定があります(民法234条)。
本記事では,民法234条の建築の制限の基本的な内容を説明します。
主に,どの範囲には建築ができないのか,ということです。

2 境界線付近の建築の制限の条文規定

まず,境界線付近の建築を制限する条文の内容をまとめておきます。

<境界線付近の建築の制限の条文規定>

あ 原則的な規定

建物を築造するには
境界線から50センチメートル以上の距離を保たなければならない
※民法234条1項

い 違反の効果

『あ』の規定に違反して建築しようとしている場合
隣地の所有者は,建築の中止or変更を請求できる
※民法234条2項

う 慣習の優先

『あ』と異なる慣習があるときは,その慣習に従う
※民法236条

3 境界と建物の距離の測り方

民法234条は,境界と建物の距離を規定しています(前記)。
この距離の測り方が問題となることがあります。
土台や建物本体が張り出している部分も含めて測ります。
屋根のひさしについては,通常含めません。ただしこれを含めるという見解もあります。

<境界と建物の距離の測り方>

あ 建物本体の突出部分

境界線からの距離について
『ア』と『イ』の間の最短距離を意味する
ア 土台敷or建物側壁の固定的突出部分
例=出窓
イ 境界線
※法曹会決議昭和2年2月24日
※川島武宣ほか編『新版 注釈民法(7)物権(2)』有斐閣2007年p367

い 屋根のひさし

ア 一般的な見解
屋根のひさしについて
→距離制限に該当しない
※東京高裁昭和58年2月7日
※東京地裁平成4年1月28日
イ 反対説
建物本体の突出部分(あ)と同様に扱う見解もある
※小磯武男『近隣訴訟の実務 補訂版』新日本法規出版2008年p233参照

4 建築基準法の隣地境界線に接する外壁の規定

ところで,民法以外にも境界と建物との距離に関する規定があります。
建築基準法における,防火地域・準防火地域内の建物に関する規定です。

<建築基準法の隣地境界線に接する外壁の規定>

防火地域又は準防火地域内にある建築物で,外壁が耐火構造のものについては,その外壁を隣地境界線に接して設けることができる。
※建築基準法65条

5 民法234条1項と建築基準法65条との関係

建築基準法65条(前記)と民法234条1項の規定は内容が重複しているように思えます。
この2つの規定の関係について,最高裁判例は建築基準法が優先すると判断しています。
ただし,民法の方が優先するという見解もあります。

<民法234条1項と建築基準法65条との関係>

あ 建築基準法優先説(判例)

建築基準法65条は民法234条の特則である
建築基準法に適合している建物について
民法234条1項の適用は排除される
※最高裁平成元年9月19日

い 民法優先説(反対説)

『あ』の判例には反対意見がある
民法は防火以外に採照,通風,通行などの利益を考慮したものである
建築基準法65条よりも民法234条が優先される
※柚木馨ほか著『担保物権法 第3版』有斐閣1982年p491

う 見解による実際の違い

防火地域の指定がある場所は
民法234条1項とは異なる慣習があることが多い(後記※1)
→『あ・い』の見解による現実的な差はあまりない
※川井健著『民法概論2物権 第2版』有斐閣2005年p158,159

6 境界と建物の距離に関する慣習の具体例

境界と建物の距離について,民法234条の規定とは異なる慣習があれば,慣習が優先となります(前記)。
実際には,慣習があるといえるかどうかで意見の対立が生じるケースがよくあります。
現実に周辺にある建物と,その敷地の境界との距離によって判断します。
大雑把にいうと,繁華街では実際に建物同士が非常に近い距離に位置していることが多いです。
建築基準法の(準)防火地域では通常,建物同士が近接しています。
この場合は慣習の存在があると認められることが多いです。

<境界と建物の距離に関する慣習の具体例(※1)>

あ 一般的な繁華街

繁華街において
50センチメートルの距離を置かない慣習がある
どのような場合にこの慣習があるかは慎重に認定すべきである
※川井健著『民法概論2物権 第2版』有斐閣2005年p158

い 東京銀座の繁華街

50センチメートルの距離を置かない慣習がある
※川島武宣ほか編『新版 注釈民法(7)物権(2)』有斐閣2007年p372

う 裁判例(東京京橋・長崎市)

ア 東京市京橋区
東京市京橋区(当時)に所在する建物について
相互に境界線に接して建物を建てる慣習の存在を認めた
※東京地裁大正13年10月14日
イ 長崎市
長崎市に所在する建物について
相互に境界線に接して建物を建てる慣習の存在を認めた
※長崎控判年月日不明;法律新聞760号p26

7 境界線付近の建築制限の違反の責任(概要)

境界線と建物の距離の制限に違反した建物建築も実際にあります。
このようなケースでは,当然,法的な責任が発生します。
具体的には,隣地所有者が建物の建築中止や設計の変更などを請求できます。
この請求については,期間の制限もあります。
このような違反に関する法的責任については,別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|境界と建物の距離制限違反の法的責任(建築中止・変更請求・損害賠償)

本記事では,境界線と建物の距離の制限について説明しました。
特に慣習の存在などは,判断(認定)が難しいことが多いです。
実際の建物の建築で,境界からの距離の問題に直面している方は,本記事の内容だけでは判断せず,弁護士の法律相談をご利用くださることをお勧めします。