【法規制の目的|情報の非対称性=レモンの市場→サービスクオリティ確保】
1 時代の流れ|伝統的マーケット→近代化=大衆消費社会
2 大衆消費社会→クオリティ下がる|『レモンの市場』現象
3 クオリティ低下の抑止方法|チェーン・FC・ブランド・法規制
4 チェーン店・FCによる『情報の非対称性解消』|具体例・マック
5 業法・法規制の目的・存在意義|本来の目的+変容した目的
6 業法・法規制の目的|最初から『既存業者保護』が入っていることも
7 IT化普及→『法規制』の存在意義喪失|情報の非対称性解消
8 IT化→『情報の非対称性』解消|具体例=シェアリングサービス
9 IT化→情報の非対称性解消|AICJコメント
10 規制する法律の存在意義なし→違憲の主張|かばわれてしまう
1 時代の流れ|伝統的マーケット→近代化=大衆消費社会
本記事では,業法・法規制のオリジン・存在意義・目的にについて説明します。
現在のシェアリング・マッチングサービスの必要性や法規制の解釈に関係するテーマです。
なぜ『事業に関する法規制』が登場したのか,歴史的な背景からまとめます。
<時代の流れ|伝統的マーケット→近代化=大衆消費社会>
あ 伝統的マーケット→情報の対称性
伝統的な社会では生活圏が狭かった
=知っている人どうしでしか取引が行われない
→サービス・商品のクオリティは『評判』として十分な情報が得られた
い 都市化の進展+交通手段の発達→大衆消費社会
都市化が進展した+交通手段が発達した
→事業者と消費者の関係が希薄となった
=大衆消費社会
2 大衆消費社会→クオリティ下がる|『レモンの市場』現象
大衆消費社会になると『サービス・消費のクオリティが下がる』という現象があります。
<大衆消費社会→クオリティ下がる|『レモンの市場』現象>
あ 『レモンの市場』現象
消費者の間で『評判』が行き届かない
→事業者がクオリティを上げるインセンティブがなくなる
→サービス・商品のクオリティが下がる
い 根本的要因
事業者vs消費者の間の『情報の非対称性』
う 『レモンの市場』理論;ネーミング
レモンは購入した後でないとクオリティが分からない
この特徴から論文中で『レモンの市場』が使われた
転じて『欠陥品』『ビッチ(女性)』を指す語法もある
※ジョージアカロフ;ノーベル経済学賞受賞者;『レモンの市場』
3 クオリティ低下の抑止方法|チェーン・FC・ブランド・法規制
サービス・商品のクオリティの低下が抑止される手法がいろいろあります。
<サービスのクオリティ低下の抑止方法>
あ 根本的な要因の修正
『情報の非対称性の解消』
=『消費者がサービス・商品の情報を把握する』こと
→『サービスのクオリティの確保(回復)』
い 情報の非対称性の解消の方法・種類
ア チェーン店イ フランチャイズ方式(FC)ウ 『ブランド』の構築・維持エ 公的規制
許認可・免許・資格制などの参入規制
=政府による人為的な『クオリティ』チェック
これらの方法により,消費者が『サービスのクオリティ』が予測・把握できるのです。
その具体例を次に説明します。
4 チェーン店・FCによる『情報の非対称性解消』|具体例・マック
『情報の非対称性の解消』と言うと難しいですが,具体的シーンは単純です。
<チェーン店・FCによる『情報の非対称性解消』|具体例>
異国の地・見知らぬ土地で地元のレストランに入るのは不安がある
ゴールデンアーチを見たら『提供される食品の内容・クオリティ』が理解できる
→利用(購入)しやすい
※ゴールデンアーチ=マクドナルドのこと
5 業法・法規制の目的・存在意義|本来の目的+変容した目的
以上のように『事業に関する法規制』は『クオリティ確保』が目的・存在意義なのです。
ただ,目的は派生的にもう1つあります。
<業法・法規制の目的>
あ 本来の目的(存在意義)
サービス・商品の『クオリティ』の確保
→安全性など
い 変容した目的(存在意義)
既得権益の保護(※1)
関連コンテンツ|マーケットの既得権者が全体最適妨害|元祖ラッダイト→ネオ・ラッダイト
6 業法・法規制の目的|最初から『既存業者保護』が入っていることも
業法・法規制の派生的目的として『既得業者保護』があります。
『派生的』というのは原則的な場合です。
法律によっては当初からの『本来の目的』であることもあります。
<『本来の目的』に既存業者保護が含まれる法律>
あ 事業者保護を目的とする規制の存在
最初から既存業者の保護が目的に含まれる法律(規制)もある
例;薬事法・森林法・小売市場法(既に改正されたものを含む)
詳しくはこちら|ネオ・ラッダイト討伐|3権・テクノロジー・グレーゾーン=ベンチャーの聖域
い 目的二分論(参考)
目的二分論とは、経済的自由権に対する規制を、その規制目的により危険の除去・安全の保護と言った消極目的を主眼とする規制(消極目的規制)と、社会政策的に弱者・少数者等を保護するなどの積極目的を主眼とする規制(積極目的規制)とに二分する理論である。消極目的規制には、比較的厳しい審査基準が妥当する。
7 IT化普及→『法規制』の存在意義喪失|情報の非対称性解消
ところで現在ではITが爆発的に普及しています。
そうなると『情報の非対称性』という根本的な問題に大変革が生じています。
<IT化普及→『法規制』の存在意義喪失>
あ 『法規制』の存在意義
サービスのクオリティ確保
=情報の非対称性の解消
い 情報流通の爆発的普及・自由化
インターネッツ+スマホの爆発的普及
→『情報流通の自由化・民主化=IT化』が急激に進んでいる
→情報の非対称性が解消されつつある
『情報の非対称性の解消』と言うとちょっと分かりにくいです。
具体例を次に説明します。
8 IT化→『情報の非対称性』解消|具体例=シェアリングサービス
IT化による『情報の非対称性解消』は現在では身の回りに多いです。
典型的な具体例としてシェアリング・マッチングサービスについてまとめます。
<IT化→『情報の非対称性』の解消|具体例>
あ 『情報の非対称性』解消|サービスの評価
ア 『サービス・商品提供者』を『利用者』が評価するシステム
最近のシェアリング・マッチングシステムには組み込まれている
いわゆる『レビュー』である
イ 評価システム|例
・airbnb→ホストの評価
・UBER→ドライバーの評価
・COMEHOME→クリーナーの評価
詳しくはこちら|シェアリング/マッチング・サービス|具体例・法規制の概要
い 逆方向の評価=ユーザーの評価
『貸す側』も『借りる人』によるリスクを心配する
『ユーザーの評価』が記録・蓄積するシステムも普及している
う 『法規制』の存在意義
『本来の目的』(存在意義)を喪失しつつある
→法規制自体は社会全体としては不要の方向性
ただし『変容した目的』は残っている
変容した目的・存在意義=既得権者保護(上記※1)
9 IT化→情報の非対称性解消|AICJコメント
情報の非対称性の緩和により法規制の存在意義が薄れています。
別の角度から,分かりやすくコメントした方がいらっしゃいます。
これを紹介します。
<IT化→情報の非対称性解消|AICJコメント>
あ 発言者
アジアインターネット日本連盟=AICJ
杉原佳尭幹事長
い コメント|引用
安全性などに問題がある業者は規制で縛るのではなく,消費者の評価で自然淘汰させるべきだ
※平成28年5月29日日本経済新聞朝刊p1・電子版
外部サイト|日本経済新聞|平成28年5月29日
う 参考|AICJ
AICJは日本政府に意見書を提出している
団体の概要とこの意見書については別に説明している
詳しくはこちら|中間整理批判|AICJ意見書|全体・サマリー・ソース
え 参考|産業×『淘汰』
進化生物学と産業進化学は類似する
詳しくはこちら|ビジネスプレイヤーの新陳代謝×地球の歴史・生物種の進化|恐竜絶滅・全球凍結
10 規制する法律の存在意義なし→違憲の主張|かばわれてしまう
現在存在する法規制には,実質的に『既存業者保護』のためだけ,という傾向があります。
この点『不合理だから裁判所に解消してもらおう』という発想があります。
裁判所による『不合理な法律の効力』の判断についてまとめます。
<規制する法律を違憲として裁判所が廃止する作戦>
あ 主張
法規制の存在意義がない
新規事業者の『営業の自由・経済活動の自由』の侵害
利用者の『経済活動の自由』の侵害
※日本国憲法21条29条
い 裁判所の判断|判例基準
明白性の原則
→要するに違憲とはならない
詳しくはこちら|人権基本・違憲立法審査権|違憲審査基準|経済的自由権×目的2分論
このように,結果的に『既得権者・国会』を裁判所がかばう傾向が強いのです。
本来はマーケットの調整は国民の代表が国会を通して行うべき,という原則があります。
そのために,裁判所は1歩引いたスタンスを取ることが構造的に要求されているのです。
詳しくはこちら|ネオ・ラッダイト討伐|3権・テクノロジー・グレーゾーン=ベンチャーの聖域
なお,法規制の『存在意義がなくなった』を行き越して『悪影響を生じる』現象もあります。
これについては別記事で説明しています。
詳しくはこちら|業法・法規制の悪影響|『クオリティ確保』の逆効果|評価システム導入ハードル
<参考情報>
あ 週刊ダイヤモンド15年6月6日p100〜
早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問
野口悠紀雄氏
外部サイト|ダイヤモンドオンライン(会員登録要)
い The market for lemons
Akerlof, G. (1970).
The market for lemons: quality uncertainty and the market mechanism.
Quarterly Journal of Economics 84 (3), 488-500.